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 カロア城下町――


 切り崩したような岩肌の見える山上に建つ巨大なカロア城。それをぐるりと囲うように広がる石造りの家々と、強固な城壁。


 アリストラスをひと回り小さくした規模。

 しかし、守りも万全な立派な要塞である。


 カロア城のすぐ下にある町は侍町とも呼ばれる家臣達が住う建物が並んでおり、身分の高い者が住う建物らしく一際装飾の凝った造りとなっている。その下にあるのが町民の住む町であり、客寄せの声やNPCの数は決してアリストラスに引けを取っていない。


 山上の巨大な城。


 城主NPCの出現はまだ確認されておらず、城主が絡むクエストは膨大な報酬が用意されているのでは――というのが、プレイヤー達の間でひそかに期待されている。


 紋章ギルドがアリストラスの次に苦労し、プレイヤー達の生活環境を整えた場所でもあるためか、プレイヤーの数も相当数いる。


 ここには最前線には届かなくとも、十分な戦闘力を保持したプレイヤーの活動拠点となっていた。


「とりあえず、まずは紋章カロア支部に顔を出して諸々終わったら今日は自由時間ってことにしましょ。色々疲れてるだろうし」


 聖職者(バーバラ)はそう言いながら、斧使いの女性(ラオ)に視線を向ける。ラオは無言で頷きそれに応えた。


 一行は石造りの町並みを進む。

 そして、ある建物の前までやってきた。


〝紋章ギルド カロア城下町支部〟


 看板には分かりやすくそう書かれていた。


 周囲に溶け込むような控えめな外観の建物。一行が見上げている間にも、出入り口を多くのプレイヤーが行き交っていた。



 * * * * *



「こんにちは」


「こんにちは。あ、話は聞いてるよ。第7部隊の皆様、ようこそカロア支部へ」


 受付で対応したのは精悍な青年である。


 争いごとには縁がなさそうな、人懐っこい柔らかな笑みを浮かべた好青年。


 その風貌とはミスマッチなほど身に纏う防具は歴戦の戦士然としており、腰には立派な剣を携えていた。


「第7部隊隊長のバーバラです。こっちは一緒に行動してもらってる召喚士の修太郎君」


「カロア支部受付の(ケイ)です。修太郎君の事も戦闘指南役(キャンディー)さんから聞いてるよ。あの人がベタ惚れした逸材って聞いて会うのを楽しみにしてたんだー!」


 そう言って、全員と握手を交わすK。

 特に修太郎への握手には、特別熱が入っている。


「ここへはしばらく滞在する予定なので、これからよろしくお願いします」


 バーバラが丁寧に挨拶すると、Kは嬉しそうに頷いた。


「こちらこそよろしくね! あ、そうだガルボさーーん! お、気付いた気付いた。ごめんごめん……ちょうどこの町の最大戦力部隊が居るんだ。紋章ギルド第6部隊」


 バーバラ達よりも一つ格上の第6部隊。

 それを聞いてバーバラ達に少し緊張が走る。


 見れば奥の方から6人の屈強そうな男性プレイヤーがやって来て、中でも一際大きな体の大剣使いが前に出る。


 立派な顎髭を蓄えた人の良さそうな男性。

 盾役のような堅固な鎧に身を包んでおり、背中の大剣はまるで持ち手の長い薄刃包丁のよう。


 パーティメンバー達の装備も見るからに上等な物で、単なるプレイヤーとは格の違う風格を纏っているのが分かる。


「やーどうもどうも、第6部隊隊長のガルボです」


「第7部隊隊長のバーバラです」


 同じように各々が握手を交わした後、ガルボは感心したように顎髭を撫でた。


「噂で聞いてたよ、一気に番号7まで飛び級昇格したパーティがいるって。確か侵攻をパーティ単位で撃破したんだっけ?」


 実際は修太郎――もといシルヴィア単体での討伐だったため、特にショウキチとケットルの視線が露骨に泳いでいたが、ガルボ達がその変化に気付いた様子は無い。


「それに〝元、黄昏の冒険者〟のエース二人が新規加入していたなんてな。こりゃあ伸び代はうちよりあるんじゃないか?」


 ガルボの視線の先には、ラオと怜蘭がいる。


 黄昏の冒険者は、最前線を攻略している四つの大型ギルドのうちの一つ。そしてなにより、以前修太郎と共にパーティを組んだキイチとヨシノが所属していたギルドである。


「隊長〜。そろそろ訓練行っときませんか?」


「おお、そうだな。ここで活動するならしばらく一緒になるはずだから、持ちつ持たれつでよろしく頼む!」


 そう言って、第6部隊は建物の奥へと消えた。

 Kはそれを見送りながら修太郎達の方へ向き直る。


第6部隊(あの人達)が向かったのが、アリストラスにもあった訓練場。一応この建物には食堂から宿から装備屋から訓練場まで、小さいけど一通り揃ってるから遠慮なく利用してね」


「はい。宿なんかは今日からお世話になろうと思ってます。タダですもんね?」


 ニコッと笑顔を向けるバーバラ。

 タダの部分をやけに強調している。

 Kは額を掻きながら頷いた。


「すぐ宿に入る?」


 尋ねるKに、バーバラは一度メンバーを見たのち、それに答える。


「いえ、今日は自由行動しつつ町の散策をしようと思ってます」


「そかそか。もしも行きたい場所があるのに分からなければ、ここに来てくれれば案内できるからね」


 一行は受付のKに別れの挨拶をした後、予定通り自由時間となる。


「修太郎! 武器屋見に行こうぜ武器屋!」


「うん! 行こう行こう!」


「修太郎君、嫌なら嫌って言ってもいいんだよ」


 強引なショウキチに呆れたように呟くケットル。そしてそのまま、武器屋を目指して少年少女が歩き出した。


「ねえ怜蘭(レイラン)さん。悪いけどあの子達のお守りを頼めるかしら?」


 年相応にはしゃぐ二人の少年の背中を見送るバーバラは、隣の怜蘭(レイラン)に視線を向ける。怜蘭(レイラン)は一瞬だけ「私が?」という顔をしてみせたが、諦めたようにコクリと頷いた。


「おお、行ってこい行ってこい! 子供に懐かれないコンプレックスを解消してこい!」


「うるさいわね。これでも十歳下の従姉妹には懐かれてたんだから」


 冷やかすような口調のラオを睨む怜蘭(レイラン)は、ため息を一つ吐いた後、修太郎達の方へゆっくりと歩いていった。

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