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 ダンジョンに戻ってきた修太郎は、魔王達にあった事全てを話した。


 第7部隊と一緒になったこと。

 友人ができたこと。

 侵攻に遭遇したこと。

 シルヴィアが倒したこと。

 それを秘密にする話になったこと。


 誇らしげに頷いていた銀髪の美女(シルヴィア)に、魔王達から罵詈雑言が飛び交う。


「し、しかし他の者まで全員救うとなると……」


 そう言いながら狼狽えるシルヴィア。


「もはや呆れる他ありませんね……貴女の役割は主様をお守りするのもそうですが、主様が怪しまれないよう立ち回るのが最も重要と考えていました。それを一度の同行で……」


 執事服(エルロード)は青色のオーラを纏いながら、シルヴィアを睨み付ける――他の魔王達も同様に、怒りの感情に任せオーラを発している。


「ううん――最善かどうかはわからないけど、シルヴィアは他の被害も抑えてくれたし、僕は咎めないでほしいと思ってるよ」


 意気消沈するシルヴィアを庇う修太郎。

 巨人(ガララス)が困ったように髭を撫でる。


「しかし主様。これで他の者達に紛れて情報を得るという当初の予定は破綻したと考えるのが妥当では? 目立つことはなるべく避けるのが基本だったはず」


「でも目立たないように立ち回っていたら……シルヴィアが力を出し惜しんでいたら、周囲に侵攻のモンスターが湧いて他に被害が出ていたかもしれない。パーティ内でも負傷者が出ていたかもしれない」


 実際の所、全員がボスを認識していた状況の中〝目立たないように立ち回る〟という条件を達成できる魔王はエルロードのみだったが、それも彼が第7部隊に魔法を使える(干渉できる)〝パーティ外〟にいなければ不可能であった。


 目撃者多数のあの状況――

 ボスを倒すだけでは誤魔化しが効かない。


 たとえばバンピーの固有スキルで即座に死亡させたとしても、一度現れたボスが消え、経験値と戦利品が入れば誰もが不信感を抱くだろう。


 唯一の部外者(異物)である修太郎に疑惑の目が向くことも容易に想像がつく。


 どんな形で処理したとしても、第7部隊から修太郎に何らかの注目が向くのは必至であった。


 目立たずボスも処理できる方法が無いわけではないのだが――


「主様の命に関わるのであれば、その状況でも〝丸く収まる〟方法はあるだろう?」


「それは主様の主義に反する行為よ」


 目を細めシルヴィアを見るガララス。

 それをバンピーは真っ向から否定する。


 ガララスは〝全てを見た第7部隊を消せば主の秘密は守られるだろう〟という意味でそう述べているのだが、修太郎は気付いていないようでプニ夫を抱いて立ち上がる。


「シルヴィアに関してはもう責めないであげてね。僕はレジウリアでやる事があるから、ちょっと行ってくる」


 そう言って、王の間から修太郎が消える。


 残された六人の魔王。

 当然、全員の視線は再びシルヴィアに向く。


「お優しい主様ですからあなたを咎めないのでしょうが、二度と短絡的な行動をしないよう肝に銘じてください。主様の命にも関わりますからね」


「面目ない……」


 ため息まじりにそう言うエルロードに、シルヴィアは狼の耳を畳むように垂れ下げ答えた。


 腕組みをして沈黙していた黒髪の騎士(セオドール)が口を開く。


「この後、次の召喚で私も護衛に就ける。心配もなくなるだろう」


 修太郎の状況説明の際に話題として上がっていたが、一連のイレギュラーによって修太郎のレベルが20を超えたため、次の召喚が可能となっている。


 次は戦闘能力的に見てセオドールが召喚される予定となっていた。


「(セオドールの旦那も脳味噌筋肉だから、寧ろ心配が増えたような気がするなァ)」


 金髪の騎士(バートランド)は、心の中でそう呟きながら額を掻いた。


「それと皆に伝えておく事が一つある」


 深刻そうにそう語り出すシルヴィア。

 魔王達はその言葉に耳を傾ける。


「友人ができたと仰っていたが、その際、主様は大粒の涙を流されていた。私には嬉しい感情ではなく〝寂しさから解放された〟ように見えた――我々では埋められなかった〝何か〟が、彼らとの出会いであったんだと思う」


「!」


 魔王達に動揺が走った。

 修太郎は魔王達の前で涙を見せたことがなかったから。


 バンピーは下唇を強く噛み、切れた口元から一筋の血が流れる――修太郎は自分達の崇高な主である以前に、まだ年端もいかない少年なのだと再認識したからだった。


 修太郎は魔王達に〝友人関係〟を求めていたのに、魔王達はあくまでも〝従属関係〟を貫いていた。


 無礼がないように――

 全員がその認識で距離を保っていた。


 魔王達全員が〝王〟という身分であるため、自分の世界に居るその他全員は〝配下〟という扱いとなる。つまり魔王達もその〝友〟という概念を理解していない。


 それが修太郎との壁を作った。


 結果、修太郎はずっと求めていた〝本当の友人〟を見つけ、そこまで我慢してきたものが全て崩れて感情を爆発させたのだ。


 自分達がその役割も担えたのに――

 魔王達全員は大きな罪悪感を抱く。


 知らず知らずに主様を追い詰めていたのは、他でもない自分達だと気付いたから。


「友人、友人かァ――」


 バートランドは虚空を見つめ呟いた。


 知らない土地ですぐに友人を見つけ駆け出していった、自分の妹を想いながら。


「そういえばあの子(・・・)は今どんな状態なの?」


 思い出したかのようにバンピーがそう尋ねると、ガララスが得意げに語り出す。


「我とセオとバートが直々に手を貸したんだ、見違えるほど逞しくなっている――しかし未だに不安は残るがな。なんせ親殺し(・・・)の召喚獣だ」


 その言葉に黙り込む一同。

 バートランドが弁解するように口を開く。


「アイツは大丈夫さ。鍛えた俺には分かる」


 その言葉を最後に、王の間は沈黙に包まれる。


 バンピーは坑道内で修太郎に言われた言葉を思い出しながら、複雑な表情を浮かべ虚空を見つめていたのだった。

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