<< 前へ次へ >>  更新
78/159

078

 


 一頻り談笑した後、話題は戦利品と防衛報酬の分配へとシフトしていた。


「防衛報酬に関しては十中八九貰えると思うわ」


 そう言いながら、茶髪の女性(バーバラ)は食後のプリンを掬った。

 そして口に運びながら、修太郎へと視線を向ける。


「私としては報酬は全部修太郎君に渡すべきだと思ってる」


 バーバラの言葉に、短髪の女性(キョウコ)だけでなく活発な少年(ショウキチ)眼鏡の少女(ケットル)まで全員が頷いた。


「譲るとかそういうレベルの話じゃなく、侵攻を止めたのは修太郎君とシルヴィアだからね。私達はたまたま居合わせて、さらには守ってもらった側の人間。当然、受け取れないわ」


 そう言って、仮想空間(インベントリ)を開く動作をするバーバラを、修太郎が止める。


「え? でも戦利品は均等にって言ってたよね?」


「あれはその……通常通りだったらそうよ? 今回は例外だもの」


「それを言ってしまうとバーバラさん達がいなければ僕は森に行けなかったし、そしたらシルヴィアとも会えてないよ」


 あっけらかんとそう語る修太郎。

 シルヴィアの部分は事実と異なるのだが、修太郎は修太郎で、彼等に戦利品を分配したい理由があった。それはプレイヤー達の生存率を高めるという、根本的な理由である。


 修太郎は、自分一人でアイテムを独占するよりも、強い武器や良い素材がバーバラ達に行き渡れば、少なくともこのパーティの生存率が上がるだろうと踏んでいたのだ。


「依頼中に教えてくれたでしょ? 〝必要な人に必要な物を〟って。僕は独り占めするより、この先皆の助けになれる方が嬉しい。パーティを抜けるんだから尚更だよ」


 だから全部均等に分配がいい――そうはっきりと伝える修太郎に、流石のバーバラも困った表情で他のメンバーを見た。


「そっかそっか! なら仲良く山分けだ!」


 喜びを爆発させるショウキチ。

 はるか格上が落とした未知の素材は、それだけ色んな可能性に溢れている。売れば大金となり、加工すれば力となる。


「あんたねぇ、ほんと図々しいんだから」


「修太郎が良いって言ってるんだから良いじゃんか。ならケットルは返せばいいだろ?」


「うっ……それはそれだもん……」


 年少組のやり取りを見て、バーバラとキョウコは申し訳なく思いながらも「何から何までありがとう」と力なく感謝する。


 彼女達とて、これがどれほどの物なのか分からないわけではない。


 いずれ、何かの拍子で今回のような予想外の事態(イレギュラー)に巻き込まれた際、今回の戦利品が有るのと無いのでは生存率も変わってくるだろう――貰えるのなら、これほど助かることは無いと自分を無理やり納得させた。


 全員がインベントリを開き、各々が手に入れたアイテムを報告していく。


 基本的に、○○の牙や○○の毛などのmobにちなんだ部位アイテムは、討伐に携わったプレイヤー全員に均等分配される。例外として《宝石》や《魂》といった高レアリティアイテムが手に入るかは時の運となるが、主に交換(トレード)の対象となるのは〝装備品〟である。


「僕は黒狼の大杖っていうアイテムが出たよ! 聖職者専用ってある!」


「私は黒狼の剣っていうアイテム出ました。こっちは片手剣ですね」


「私のは黒狼の外套。誰が装備しても相当ステータスが伸びるみたいだけど、かなりAGI《敏捷値》に寄ってるかな。それと装備品じゃないけど、黒狼の魂も出たわ」


 装備品が出たのは修太郎とキョウコとバーバラで、必要な人に必要な物をの考えでいけば、大杖はバーバラ行きに確定している。


 バーバラは修太郎に視線を向け、言いにくそうにして口を開く。


「……本当に総取りじゃなくていいの? 対象レベル37の装備品ならちょうど最前線組の適正だし、売ればかなりの額になるわよ?」


 その言葉に、修太郎は首を振る。


「将来的に皆が使えるなら皆に使ってもらった方がいい!」


 それは、紛れもなく修太郎の本心だった。


 未だ会った事もない最前線組に売るよりも、良くしてくれた彼等に使ってもらいたいと思うのは、幼い修太郎からしたら当然の心境である。


 そういう理由もあり、まず大杖がバーバラの物となった。バーバラはアイテム欄に追加されたその大杖の性能を見て目を丸くしている――それだけ、ボスドロップの品というのは性能が破格なのである。


 続いて黒狼の剣だが――


「僕は今の剣があるから別に大丈夫! どちらかといえばその〝黒狼の魂〟っていうアイテムが欲しいかな」


 と、修太郎が辞退する。


 片手剣の適性があるのは修太郎、ショウキチ、キョウコの三人で、ショウキチはこれは修太郎が持っていく物だと思っていただけに、すかさず突っ込みを入れる。


「お、おい武器が要らないって嘘だろ? いくら気に入った武器があったとしても、今装備してるやつよりこっちのほうが強いに決まってるじゃん!」


 ショウキチの言い分は最もである。

 しかし修太郎は表情を変えない。


「それに僕にはシルヴィアが居るから、滅多に戦うこと無いと思う」


 修太郎はシルヴィアに戦闘を全て任せる気はさらさら無いのだが、実の所、掲示されたその片手剣の性能よりも黒髪の騎士(セオドール)の鍛えた〝牙の剣〟のほうが性能が高かったのが断るに至った大きな理由だった。


 戦闘面を召喚獣に一任する召喚士は決して珍しくないため、ショウキチもキョウコもそれ以上は何も言わなかった。


「ならショウキチ君が使って」


「え? でもキョウコねえちゃんは?」


「私は――貰ったものがあるもん」


 そう言って、キョウコはかつて誠から貰ったスキル付きの短剣を見せた。


 もちろん性能は黒狼の剣の方が断然高いのだが、キョウコはそれ以上に誠から貰った品であることと、将来的に二本の剣が必要になるショウキチへ渡そうと思ったのだ。


 黒狼の剣を受け取ったショウキチ。

 鼻の穴を膨らませ、目を輝かせる。


「それなら黒狼の外套と魂は修太郎君が取っておいて。流石に第21部隊(私達)が貰いすぎてるし……」


 そう言うと、修太郎の返事を待たずしてバーバラはアイテムを送ってきた。


 外套もレベル37から装備できるアイテムで、見た目は狼の毛皮でできたマントのようなもの。


 そして魂の方だが、これは消費アイテムだ。

 中身は基本的に《スキル》である。


「いいの? ケットルとキョウコさんは何も貰ってないのに……」


「ううん、経験値だけでも十分だもん。それに貰った素材を使って装備を作ってもらう事もできるし、防衛報酬も貰えるかもだし!」


 修太郎の言葉に、ケットルは笑顔で答える。


 実際、第21部隊にとっては経験値だけでも大きな報酬である。仮に修太郎がアイテムを総取りという話になっても、誰一人不満を漏らす者は居なかっただろう。


「あ、受付嬢(ルミアさん)からメール来たわ。防衛報酬が用意できたからエントランスまで来て、だって」


 その後、残りの料理を平らげた面々は防衛報酬を受け取るため、紋章ギルドの受付に向かったのだった。

<< 前へ次へ >>目次  更新