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 第21部隊を呼び止める戦闘指南役(キャンディー)

 その中に修太郎がいる事に気付き、嬉しそうに声のトーンを上げた。


「あら、修太郎ちゃんじゃない。調子はどう?」


「あ、キャンディーさん!」


 かたや長身のオネエ。

 かたやあどけない少年。


 親そうに話すミスマッチな二人。

 眼鏡の少女(ケットル)は「修太郎が戦闘指南役に食べられるのでは?」と内心ハラハラしながら、その光景を眺めている。


「あなた召喚士になったんですってね。折角あれだけのレベルと才能があって――って、脱線脱線」


 そう言いながら、キャンディーは後ろに控えていた二人組を前に出るように促しながら、第21部隊に向け二人の紹介を行う。


「皆さんに紹介するわね。こっちの長身の子がラオ、こっちの可愛い子が令蘭(レイラン)。二人共ついこの間まで最前線で活動してた腕利きよ」


 キャンディーの紹介に応え、二人は頭を下げた。修太郎達もお辞儀で返す。


 ラオは赤い髪をサイドテールにした長身の女性で、令蘭(レイラン)は色素の薄い茶髪の色白女性。ラオは背中に大きな斧を背負っており、令蘭は十字架を模した細長い大剣を装備していた。


 全員が自己紹介を済ませた後、バーバラは用件を知りたそうにキャンディーを見つめ、それを察した赤髪の女性(ラオ)が本題に移った。


「私達、レベルが近くて〝当面、カロア城下町を拠点に活動できる〟部隊を探しているんだ。もしそういう部隊が居るなら是非紋章ギルドに所属したいんだけど――でもよくよく見たらパーティ埋まってるな……」


 第21部隊は現在上限の6人(フルパーティ)

 そのやり取りを聞いていた修太郎は口を開く。


「僕は紋章ギルドにも入ってないお試し入隊だし、この子と一緒に抜けるよ!」


 それを聞いて動揺したのはショウキチだ。

 てっきり修太郎はこのまま入ってくれるものだと思っていただけに、露骨に驚いたような声を出す。


「なんで?! せっかく仲良くなったのに!」


 バーバラは何かを言い淀んだ後、改めて口を開く。その言葉はショウキチではなく、ラオ達に向けられていた。


「……すみません、一度時間を置いてご返答でもよろしいでしょうか? まだ戦利品の分配なども終わってませんし」


 ラオと令蘭は冷静に頷いた。


「私達もすぐ見つかるなんて思ってないさ。それに、入るからには正式入隊って形になるから、余程の事がない限りずっと一緒だからな。寧ろよく考えて回答してほしい」


 ラオと令蘭は「私達は施設巡りしてきます」と言い残し、全員にお辞儀した後、武具屋の方へと向かっていった。


 キャンディーは申し訳なさそうに頭を掻く。


「ごめんね、事情も知らず声をかけてしまって……あれじゃあ修太郎ちゃんに〝抜けてくれ〟って言ってるようなものよね」


「いえ、元々そのつもりだったので」


 修太郎から免罪符を貰ったものの、キャンディーは最後まで申し訳なさそうにしながらその場を去った。残ったのは、第21部隊と修太郎。


 俯くショウキチ――

 それを見て修太郎も悲しい顔になっていた。


「と、り、あ、え、ず! ご飯でも食べに行きましょ! なんたって侵攻を食い止めたんだから、祝宴よ祝宴!」


 大きな声でそう盛り上げながら、バーバラは皆を引きずるようにして近くのレストランへと向かった。



 * * * *



 個室へと通されや否や、バーバラは真剣な表情へと変わり、その場にいる全員に視線を向けた。


「今回の一件は〝私達の固有スキルでどうにかした〟って事になっているから、それ以上の詮索はされないと思うわ。場合によってアルバさん(サブマスター)かフラメさん辺りが探りを入れてくるかもしれないけど、どうしてもの時は私の固有スキルって事にしてくれていいからね」


 ショウキチやケットルはよく分かっていないような表情(かお)をしているが、何かに気付いたキョウコが口を開く。


「だからエントランスで分かりやすく宣伝(・・)してたんですね」


「うん。どうせ広まるし、そしたら他のメンバーから根掘り葉掘り聞かれる可能性もあるからね」


 キョウコは合点がいったように頷く。

 レストランに向かう前、バーバラがエントランスで〝侵攻を食い止めた〟と、ギャラリーに聞こえるよう立ち回っていた行動の真意が分かったからだ。


「その時にスキル詳細を聞かれたら〝私が死にかけた時に発動する防御力無視の弱体化(デバフ)〟で倒したって答えてくれていいわ。実際、私の固有スキルはそうだから」


 その言葉に、修太郎はハッとなる。

 彼女が修太郎とシルヴィア(自分達)のやった事を肩代わりするつもりだと気が付いたからだ。


「……どうしてシルヴィアを庇ってくれるの?」


「だって、格上のボスを一撃で倒す召喚獣だなんて、絶対にいいように使われちゃうだけじゃない。そしたら修太郎君も他人の無茶に付き合わされるし、そんなの私嫌よ」


 正直な所、バーバラはシルヴィアの戦闘力を目の当たりにし、反射的に「この悪夢を終わらせてくれるかも」という大きな期待を抱いた。


 しかしそれ以上に、この事が公になってシルヴィア目当てで最前線の過激派グループが絡んできた場合、全てのボスを修太郎に一任させる――なんて事を言い出すやもしれないと危惧していた。


 ただでさえ高いレベルのプレイヤーは妬みの対象となり、戦いを強制される世界となっているのだから。


 バーバラはその危険性と自分の固有スキルを明るみに出すことを天秤にかけ、迷わず後者を選んだのだった。


 バーバラの固有スキル《窮鼠の一撃》は説明通り〝彼女のLPが1割を下回った時に、対象へ防御力無視の呪いを付与する〟といった効果を持つ。


 しかしこのスキル、ことデスゲーム化した現在では〝発動させようとする事〟自体がとても危険である。そのためバーバラはそのスキルの詳細がバレたとて、自分が酷使されることは無いだろうと踏んでいたのだった。


「私達は修太郎君とシルヴィアに助けられた……その事実は揺るぎないわ。なら私達は二人が不幸にならないよう立ち回る。それが最低限の恩返しというものでしょう?」


 そう言いながら、ニカッと笑うバーバラ。


「よし! それじゃあ改めて祝宴といきますか! 皆、頼め頼めー!」


 バーバラの言葉に、何事も無かったかのように振る舞う残りのメンバー達。


 俯く修太郎はシルヴィアを強く抱いた。

 シルヴィアは不思議そうに首を傾げたのだった。



 * * * *



「あのお二人、カロア城下町を拠点にして活動したいって言ってましたね」


 注文した料理を待ちながらキョウコが喋り出す。


「最前線に居たって言ってましたし、かなり凄腕のプレイヤーなのかも」


「カロア城下町なら問題無いと思う。攻略意欲の高いプレイヤーは皆そうしてるし。私達、多分この辺じゃもうほとんどレベル上がらないよ」


 ケットルが肯定的な様子でそれに反応すると、バーバラは元気のないショウキチに視線を向けながら答える。


元盾役()も〝レベル20になったらカロア城下町を拠点にしてもいいな〟とか言ってたもんね。だからウル水門突破の条件がレベル20だったわけだし」


 パーティはネグルス討伐の経験値でレベル20を軽々超えている。そしてケットルが言うように、向上心がある者ならばレベル20と言わず15程度で次の町へと進む場合が多く、逆にレベル20以上となれば、アリストラス付近でレベルを上げるのは困難である。


 後はメンバーの気持ち次第――

 バーバラはそう考えながら頬杖をつく。


 全員の料理が運ばれてくる頃、ショウキチが俯きがちに口を開いた。


「修太郎……俺達の部隊は嫌なのか?」


 彼からしてみたら、この世界に来てはじめての同い年の同性で親しくなれた存在。戦力としてではなく、純粋に〝友人〟として近くにいて欲しい――そう考えていた。


 修太郎は少し答えづらそうにした後、はっきりとした口調でそれに答える。


「ううん、嫌じゃないよ。でも僕の目標とショウキチ君達の目標は多分違うから。歩く速さは同じ人同士の方がいい」


 修太郎は第21部隊に居心地の良さを感じてはいたが、将来的に最前線を突き進んでヴォロデリアを討つ目的に付き合わせるのは難しいと考えていた。


 それは修太郎からしたら全てのプレイヤーに言えること。修太郎の理想は、他プレイヤーと交流しつつ召喚獣で上限の6人(フルパーティ)を組んでの攻略だったから。


 でも……と、ごねるショウキチ。

 キョウコが諭すように言う。


「困らせちゃダメよ。それに……うちには盾役(タンク)が居ないもの」


 タンクはパーティの要。


 どれだけ優秀なメンバーが揃っていようとも、タンク無しではボスとの戦闘は特に厳しいものだ。それに、紋章ギルドは適正レベルを大きく上回ってでもいない限り、タンク無しパーティを許可していない。


「じゃあ俺がタンクになる!」


「へー。双剣士諦めるんだ?」


「うっ……双剣士にも、なる!」


 冷やかすように言うケットルに、頑固にそう張り合うショウキチ。

 見かねたバーバラが困ったように肩を竦めた。


「そうやって、誠の時みたいに駄々こねて困らせたらダメでしょう? 友達ならフレンド登録でもなんでもして、会いやすいようにしたらいいじゃない」


「あ、そっか! 修太郎! フレンド登録しようぜ!」


 ショウキチは子供特有の切り替えの速さを見せつけ修太郎にフレンド申請を送る――そして修太郎は初めてのフレンド依頼を見て、泣き笑いを浮かべた。


「修太郎君、私もいい?」


「あっ、私も私も!」


「私もいいかしら?」


 そんなこんなで全員とフレンドとなった修太郎。メニュー画面のフレンド一覧を開くと、そこには第21部隊の名前が〝オンライン〟と表示されていた。


「よっしゃー! 元気出たから食うぞ!」


「こら! いただきますしなさいっ!」


 そう言って、ラーメンを啜るショウキチの頭をケットルが小突くと、その場に笑いが生まれたのだった。

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