072
依頼内容はデミ・ウルフ10匹の討伐。
なぜ10匹かといえば、場合によってデミ・ウルフが落とす最高ランクの
大都市アリストラス周辺mob図鑑から引用すると、肉食系mobデミ・ウルフは集団で狩りをするのが特徴的で、灰色の個体と黒の個体がいる。灰色が雌で、黒色が雄。夜間に灰色の彼等にばかり気を取られていると、背後から迫る黒色の個体に気が付かない。彼等は優れた森の狩人である。
森林を進む第21部隊。
先頭を歩くのは遠目が効く
その後ろに
「修太郎、お前も剣使うんだな!」
「うん。だって僕、前は剣士だったし」
「え? そうなの?」
「うん。剣士レベル31だよ!」
「まじで?? やばくね?」
腰の剣柄に手を置きながら進む二人。
前を行くケットルが「本当、何も聞いてなかったのね」と、ショウキチに対して悪態をついた。
「前方11時、2時!」
キョウコの言葉に素早く反応する面々。
先ほどまでお気楽に振る舞っていたショウキチやケットルまでもが、適正をはるかに下回る森林の中で警戒を最大まで高めた。
(前回のパーティとは何か違う……)
修太郎も剣を抜き、戦闘に備える。
キョウコが言った通りの場所、草むらをかき分けるようにして二頭のデミ・ウルフが現れた。
見た目は少し大きい犬のよう。
しかし剥き出しの牙は鋭く尖り、口元はなにかの血に塗れて赤く染まっているのが見える。
「ケットル。どうするんだっけ?」
「うん! 《炎の矢》」
敵を見据えながら言うバーバラの言葉に素早く反応するケットル。既に魔法を展開しており、燃え盛る二本の矢がゴウッと音を立てて飛んでいく。
二頭の悲痛な叫び声が響く――
ほどなくして森林に静寂が落ちた。
「はい、よく出来ました」
「ううん。一体はギリギリ足に当たってくれたけど、跳ばれてたら避けられてた」
「そこまで分かってるなら私達から言うことはないわ。後は訓練場での反復練習と熟練度上げをサボらなければ言うこと無しなのになー」
目を泳がせるケットルを横目で見ながら、バーバラはしばらく周囲に注意を向けた後、安全と判断して杖を下ろした。
「今は
得意げに語るショウキチ。
修太郎の目には、このパーティの洗練された動きがしっかり写っている。
適正を下回っていたからと無警戒に進んでいた前のパーティに比べ、こっちは隙がほとんど無い。
事実、第21部隊は良い盾役にさえ巡り合えば、最前線でも通用する連携を取れていた。
目を丸くする修太郎に、バーバラが話しかける。
「
「なんだよ! 俺はいつだって真面目だったぞ!」
「さあ、どうだったかしらね」
そのやり取りを見て、キョウコとケットルはクスクス笑ったのだった。
* * * *
十匹目のデミ・ウルフが粒子となって消え去ると、全員の前に依頼達成のポップが現れた。
「どう? 牙は手に入った?」
「二本もゲット! 素材は一つでいいみたいだから、これで召喚獣呼べるよ!」
「まじまじ? 早く呼ぼうぜ!」
無事に牙も手に入り、待てない
(これが〝祈り〟……)
木陰に正座するようにして両手を前に合わせる
人一人の祈りでこの程度の範囲。
四大精霊の祈りがいかに広範囲なのかが伺える。
(召喚の時は下から出てくるように、だったよね)
修太郎はデミ・ウルフの牙を握り締めながら、
影が波打つ――
修太郎は宣言する。
「おいで、僕の召喚獣」
影からヌウッと現れた銀色の小狼。
第21部隊から見たその姿は、毛艶から気品が溢れ、体躯こそ20センチに満たないが、倒してきたどのウルフよりも気高く雄々しく見えた。
『どうですか!?』
尻尾を忙しく振りながら、
『成功かな?』
演出としては召喚のエフェクトにかなり近い。
そしてパーティの一覧から見ても問題はなかった。
バーバラ(L)聖職者 Lv.18
ショウキチ 剣士 Lv.18
ケットル 魔道士 Lv.16
キョウコ 弓使い Lv.16
修太郎 召喚士 Lv.10
+AcM シルヴィア
〝どうぞ私を最初の召喚獣としてお側において下さい。私は索敵、機動力、殲滅力全てにおいてご期待に添えると思います〟
他の魔王達を押し除け最初の召喚獣の座を獲得したシルヴィアは、初めて見る外界に『色んな匂いが……はっ! こんな所にあんな物が!』などと興奮している。
魔王の中でも姿を変えられるのは
一度外界について行ったセオドールが譲った事でプニ夫とどっちが先がいいかという議論となり、レベルもMAXであり、どんな事態にも対応できると宣言したシルヴィアが最初の召喚獣として選ばれたのだった。
(プニ夫を抱けないのは寂しいけど、皆最初に選ぶのは獣型だって言われてたし、シルヴィアも喜んでるからいいよね)
足元で嬉しそうに跳ねるシルヴィアを見ながら、修太郎は満足そうに微笑んだ。
「か、か、かわいいーー!」
「え、なんでなにこれ可愛い!!」
「子犬? 子犬ちゃん?」
たまらずシルヴィアに群がる女性陣。
子犬と言われればそう見える風貌。
『主様……』
『ごめんね、我慢してね』
半ば諦めるように答える修太郎。
それから数分間、女性陣はシルヴィアを撫で回して堪能するのだった。