067
日々の業務をこなしながら、紋章ギルド受付嬢のルミアは、とあるプレイヤーの事を考えていた。
(修太郎君、結局あの後来なかったなぁ)
思い詰めた様子で依頼失敗の報告に来た
良くも悪くもリヴィルは有名だった。
珍しい人型召喚獣の
死因は召喚獣の暴走――
他のギルドメンバー達の召喚獣への態度も見直さねばならない。
ルミアは最前線に向かうメンバー全員にメールを送りながら、大きく溜息を吐いた。
(当然ながら第38部隊は解散。種子田さんはゲームクリアまで宿に篭るって言っていたし、Iターンの二人も都市内の巡回と安全な任務に切り替えて実質引退……)
これまでクリアを目指してひたむきに頑張っているプレイヤー達の苦労を知るだけに、ドロップアウトした彼等を責めることはできなかった。
あのあどけない少年はどうしているだろうか――と、受付で頬杖をつくルミア。
凄惨な現場を目の当たりにして、種子田以上の精神的ダメージを負っているとも限らない――ルミアは修太郎に向け、本日5通目となるご機嫌伺いメールを送るかどうか、指先で机を叩きながら考えていた。
「あの」
「わっ!」
「えっ!?」
突然かけられた声に驚くルミア。
少年も驚いた後、胸に手を当てた。
変わらぬ姿で立つ少年を見て、感極まったルミアは受付から乗り出して抱きしめた。
「修太郎君!! 大丈夫だった?! ごめん、ごめんね……怖い思いさせちゃったね」
ただでさえ不安要素のあった第38部隊に派遣した後ろめたさもあったからか――ルミアは安心すると同時に、その罪悪感から涙を流して懺悔した。
修太郎は頭をぽんぽんと撫でながら、彼女が泣き止むのを静かに待っていた。
そして数分後――
「ごべんね……」
「落ち着きました?」
業務的な敬語も忘れるルミア。
顔をぐしゃぐしゃにしながら椅子へと腰掛けるルミアに、修太郎は笑顔でそう尋ねた。
「修太郎君、あんな事があったのにすごく落ち着いてるんだね。無理してない?」
「すごーく苦しくなりましたが、リヴィルさんの為にも進まなきゃって思ったので!」
あまりにも年不相応な信念を見たルミアは、胸の内で「あぁ……この子は太陽だ」と、心酔する想いで彼を見つめる。
「頑張りすぎなくていいのよ。休みたいときは休んでいいし、それを誰も咎めないわ」
「僕は大丈夫です! はやく最前線に合流したいですし」
ルミアは様々なプレイヤーを見てきたが、修太郎のように意志の強い瞳をした者は根本的に何かが違うのを知っている――
その瞳をしたプレイヤーは、そのほとんどが最前線へと旅立った。彼等は現状に悲観するでもなく、ただ前向きにゲームクリアを目指している。
修太郎にも同じ意志が感じられた。
ルミアは涙を拭き、笑顔を作る。
「なら私も全力でサポートするね!」
「よろしくお願いします!」
「それじゃあ改めて。今日は依頼かな?」
「はい! なるべく経験値がもらえるもので!」
元気よく答える修太郎。
ルミアはプレイヤー情報に目を落とし――修太郎の職業が召喚士になっており、レベルが1へとリセットされている事に気付いた。
「し、修太郎君!? 召喚士になっちゃったの?! だって、あれ、31だったのに、どうして?」
召喚獣によって怖い思いをしたばかりとは思えない。
目を白黒させ途切れ途切れに言うルミア。
修太郎はあっけらかんとそれに答える。
「召喚士になりたかったので! それに、レベルはまた上げなおせばいいんです」
その上げなおしが命懸けで大変なのでは――と考えながら、ルミアは
〝でもあの子、普通じゃないもの。常識に囚われたらいけない気がする〟
現在のレベルや安全や稼ぎを死守するのが一般的なプレイヤーの思考――しかし修太郎のように〝本気で攻略を志す〟プレイヤーの思考はまた別である。
「……そっかそっか。なら最前線に合流できる最低ラインの〝レベル30〟を目指さなきゃだね!」
「はい! 美味しい依頼、よろしくお願いします!」
修太郎の言葉に、ルミアも嬉しそうに頷いた。