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 難なくウル水門のボス部屋までたどり着いた一行。


 開けた空間をぐるりと囲うように立てられた棒の上、陥没した頭蓋骨が並んでいた。


 そこかしこから聞こえる蝦蟇(ガマガエル)に似た声。


 広場の中央には木と蔦で作られた玉座に座る大きなゴブリン――ゴブリン・リーダーと、その付近にたむろする十数匹のゴブリンの群れが確認できる。


 基本的に次のエリアに向かうには、それに面したエリアのボスを撃破することで先への道が開かれる。


「さっさと終わらせて依頼完了させましょ。ほら、囮になってきなさい」


 紫髪の召喚獣(リヴィル)の言葉を合図に、先頭を行く召喚獣(アイアン)がボス部屋に侵入していく。


 他の面々も特に気にすることなくそれに続くが、唯一修太郎だけが異変に気付いていた。


「――アイアンの目の色、赤かったっけ?」


 すでに戦闘が始まろうとしていたためか、修太郎の呟きに誰も気付くことはなかった。ゴブリン達が立ち上がり、ボス戦が始まる。



《boss mob:ゴブリン・リーダー Lv.10》



 薄紅色の一際大きなゴブリンが唸る。

 周囲のゴブリン達が武器を掲げた。


「なにモタモタしてんのよ。アイアン、行きなさい」


 重い足取りで進むアイアンの後頭部を杖で殴るリヴィル――そして、ソレ(・・)は起こったのだ。


「ッ!?」


 アイアンの赤い瞳が激しく光る――

 その体をぐりんと回し、錆びた腕を伸ばしてリヴィル()の頭を鷲掴みにし持ち上げる


「〜〜〜ン〜〜!!!!?!」


 リヴィルの叫び声


 猛烈な勢いで減少するLP


 他の面々は動けない


 修太郎がエルロードに念話を飛ばしたその刹那――何かが潰れる嫌な音が、周囲に響き渡った


 弾けるように鮮血が飛び散った


「いやあああああ!!!!」


 ヨシノの絶叫がこだまする。


 アイアンの右手からは赤色の液体が滴り落ち、頭部を失った女性の体が力なく崩れ落ちた。


 召喚獣や従魔は元を正せばmobである。


 契約は信頼関係――システム的にはNPCとは別の《カルマ値》によって保たれている。


 カルマ値がマイナスになるとどうなるか。


 NPCの場合、町で見かけただけで会話を拒否したり襲ってきたりする。これは〝自分達に害を成す存在〟だと認識しているからこその防衛本能であり、そしてmobの場合も同様のことが言えるのである。


 パーティ欄の〝リヴィル〟の文字が黒化

 それが意味するのは、死――


「なん、え、どうして……?」


「出ましょう!! いや、ここはボス部屋だから出られない、皆固まって!!」


 口をパクパクさせる兵士(種子田)

 弓使い(キイチ)の怒号が飛ぶ。


 目の前で突然起こった〝人の死〟


 デスゲーム開始直後と違い、平和になるにつれ死から離れつつあったプレイヤー達は、いざ死を目前にするとなにもできなくなる。


 血を見て興奮するゴブリン達。

 歓喜の声と威嚇する声が入り混じり、ヨシノの絶叫をかき消す程の大合唱が響いた。



《mob:アイアン Lv.33》



 召喚士()を失ったアイアンは単なるmobに戻っていた。


 召喚獣が主を殺した場合、召喚獣は自分を縛る契約から解き放たれ〝野生〟を取り戻す。個体が優秀だったのだろう。アイアンのレベルは主のレベルを大きく上回った33である。


 アイアンは主だった塊が光の粒子に変わり、それが溶けて消えるまで何も言わずに見届けていた――それが終わると、赤色の目を光らせプレイヤー達を見据えた。


 凄惨な光景による動揺は収まらず、泣き喚くヨシノとへたり込む種子田。部屋に張られた結界を悔しそうに叩き続けるキイチ。


 そして修太郎はというと――


『主様。ご気分はいかがですか?』

『ありがとう。落ち着いた……』


 エルロードによる《聴覚保護》《視覚保護》《精神安定》《状態の回復》という状態異常保護アンチバッドステータスの支援を受け、冷静さを取り戻す。


 はじめて見た人の死――

 しかし今は、その死に嘆くよりも、この状況をどう打破すべきか……それだけに修太郎の頭は働いていた。

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