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 一行は通り道であるウル水門へと差し掛かった。


 先頭を行くのは召喚獣(アイアン)


 その後ろを弓使いの青年(キイチ)紫髪の召喚士(リヴィル)が歩き、馬車を挟んだ後ろに並ぶ形で聖職者の女性(ヨシノ)と修太郎が続き、最後尾に中年の男性兵士(種子田)がついてくる。


 道中の雑魚敵は全てキイチの弓で処理され戦闘らしい戦闘は今のところ一度もない。パーティ平均レベルが適性を大きく上回っているためか、多少気が抜けていても問題は無いようだ。


「やっぱり雑魚処理担当は弓使いに限るわね」


「あはは……」


 馬鹿にしたようにそう言い放つリヴィル。

 キイチは乾いた笑いを溢すことしかできなかった。


 遠距離から攻撃できる上に、呪文を選び詠唱時間(キャストタイム)を必要とする魔法職(キャスター)よりも素早く攻撃できるため、雑魚を処理する係は弓使い(アーチャー)が最適である。


 キイチもそれは職業の宿命だと割り切っていた。


 修太郎はキイチに労いの言葉を掛ける。


「キイチさん、百発百中ですね!」


「ありがとう。でも《弓術》がかなりアシスト(手助け)してくれてるからね、僕が上手いってわけじゃないんだ」


 全く知識や経験の無い者からしたら、弓を引いて()てるだけでも至難の技ではある。しかし、アシストがあればスキル同様に武器も扱いやすくなるのだ。


 誰にでもできる芸当だと笑うキイチだったが、褒められたことに嫌な気はしなかった。


 無邪気な笑みを浮かべる修太郎を横目に見ていたヨシノは内心、修太郎の存在に癒されながら声をかける。


「修太郎君。全然出番がなくて退屈だよね」


「ううん! 見てるだけでも楽しいよ!」


「ふふふ、そっかそっか。でも水門付近では流石に戦ってもらうことになるかもね」


「任せてよ! こう見えて強いんだから!」


「期待してるわ」


 ヨシノと修太郎が楽しくしている所に、最後尾にいた種子田が混ざる。種子田はリヴィルの方へ何度も目線を動かしながら、声を潜めて謝った。


「ごめんねさっきは。リヴィル(あの人)、ここ最近の振る舞いが特に横暴で」


 それを聞いたヨシノは、同じようにリヴィルを警戒しつつ、声を潜めて答える。


「種子田さんはどうしてあんな人とずっとパーティを組んでいるんです? 種子田さんのレベルがあれば、他の所からも引く手数多でしょう?」


 苦笑を浮かべる種子田。


「あの人とは古い仲でね。今はあんな感じだけど、昔は楽しく一緒にゲームしてたんだ。だからなんというか、見捨てられなくてね」


 種子田とリヴィルは別のゲームからの親しいフレンドで、一時期はゲーム内の恋人でもあった。


 リヴィルだけがeternityの第二陣テスターに選ばれた際も、一緒にやりたいからと本体購入を即決したほどの仲であった。


 デスゲーム開始前にもパーティを組んでおり、お互いを励まし合いながら立ち直った過去もある。レアな盾役(タンク)適正を持った召喚獣(アイアン)をランダム召喚で引いたときは、互いに手を取り合って喜んだほどだ。


「レベル上げが軌道に乗ってからは、彼女が色んな部隊に引っ張りだこになっていってね。僕との格差も広がって、気付けば彼女は別人のようになっていたんだよ」


 降って湧いた幸運(アイアン)によって、この世界で最も需要のある召喚士へと、リヴィルは成り上がったのだ。


 諦めたようにリヴィルを見る種子田。

 キイチになにか小言を言って、声高らかに笑っている彼女の姿が見える。


「彼女の立ち振る舞い、言動の影響で僕らの部隊は人の入れ替わりが激しくてね。任務の途中脱退も頻繁に起こったよ。それにアイアンの事も便利な道具みたいに扱って――」


 知られざる二人の過去。

 ヨシノは何も言えず、口をつぐんで俯いた。


 そんなこんなで雑談もぽつぽつと交わしつつ、やる事のない修太郎はパーティ一覧をもう一度確認する。



 種子田(L)兵士  Lv.23

 キイチ   弓使い Lv.25

 ヨシノ   聖職者  Lv.25

 修太郎   剣士  Lv.31

 リヴィル  召喚士 Lv.28

 +AcM  アイアン



「この、AcM(えーしーえむ)ってなんですか?」


 アイアンの横に妙な表記がある事に気付き、それとなく尋ねる修太郎。


 それはリヴィルの耳にも届いたようで、聞こえるように大きく溜息を吐き「なんにも知らないのね」と首を振っていた。


 その後ろ姿をジィと数秒観察した後、ヨシノが呆れ気味に溜息を吐く。


「召喚士サマ(・・)が答えないみたいだから答えるけど、これはAccompany(追随する) Mob(モンスター)の略称よ。つまりはあの人に追随したmob――味方のモンスターですよっていう意味かな」


 修太郎は納得したように頷いた。


従魔使い(テイマー)のモンスターも同じ表示になるんですか?」


「うん。何度かパーティを組んだけど、召喚士や従魔使い(そういうの)は等しく同じ表記だったわ」


 修太郎にとってこれは大きな収穫である。

 この状態が表示できるようになれば、魔王達とも一緒に行動できるからだ。


 召喚獣や従魔は元を正せばmobである。

 それを特殊な契約をもって従属関係を結ぶことで、共に戦う相棒となるが、mobの表記はそのままなのだ。


 修太郎はそのままアイアンに視線を移す。

 どしんどしんと大きな音を立てて進む鉄の塊の頭の上に《AcM:アイアン》と表記されているのも確認する。


「修太郎君はどうして召喚士のいるパーティを希望したの?」


 種子田がそう尋ねると、修太郎は全く隠す様子もなくそれに答えた。


「召喚士になりたいんです!」


「え。でも今剣士でレベル31だよ……?」


「? でもなりたいです」


「レベルとかスキル熟練度とか初期化されちゃうのに?!」


「それは……また上げなおせばいいです!」


 あっけらかんと言い放つ修太郎。

 種子田は「いいのか? いや、危険だよな、でもこの子の意見を尊重……」などと独り言を呟きだした。


 修太郎にとっての第一優先は、プニ夫や魔王達と共に行動する事。修太郎は自分の強化を優先するよりも、彼等と共にあった方が互いに安心で安全であると理解していた。


 武器術系のスキル熟練度は引き継げる事も知っていたし、なによりバードランドから学んだ経験は修太郎の中で血となり肉となっている。


 そもそも不相応に上がったレベルであるし、レベルの初期化にもそれほど未練は無かった。


魔王達(みんな)を連れて歩くには、AcMの名前が付いてないと怪しまれちゃうのか……パーティの一覧にもこのAcMって表記も必要、と)


 今後の課題が見えてきた修太郎。

 そうこう言っている内に、廃れた街――ウル水門が見えてきた。

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