055 s
目標を達成した第21部隊一行。
誠のマップでいえば、この先少し進めばボス部屋があり、中には適正レベル12のボスが待ち構えている。
パーティの平均レベルで見れば安全圏より更に余裕を持った構成である。突入すればまず負けないだろう。
「うし、帰るぞ」
「ええーー! 倒そうよボス!」
「焦らず行くって決めただろ? ボスを倒すなら最初からそのつもりで備えて行く必要があるんだよ」
「私まだレベルも上がってないのに!」
誠の発言に、ショウキチとケットルが不満を漏らす。
しかし誠は首を縦に振るつもりは無いらしい。
「ボス挑戦はお前達が20になってからだ」
「ちぇー……」
二人もいつまでもグズることはない。
この年齢にして、聞き分けは良い方であった。
* * * *
「エリアから出る前になんとか19になれた!」
「良かったね、ショウキチ君!」
「俺もリーダーとして鼻が高いってもんよ」
「ミサキさんも30おめでとう!」
帰り道のゴブリン討伐によってショウキチとミサキのレベルが一つ上がった。
無邪気に喜ぶショウキチを、ミサキと誠は微笑ましく思いながら眺めていた。
強くなる事は死亡率が下がるという事。
内心では
(私ももうレベル30か……)
ミサキは自分のプレイヤー情報を眺めながら、感慨に耽る。
一ヶ月前までは、何もできないレベル1の引き篭もりだった自分。しかし良き出会いに恵まれ、そして恩人に出会って生き抜く力を貰い、ここまでやって来れた。
30といえば二次職と呼ばれる上級職に昇級できるレベルだ。二次職になれば、戦闘中の選択肢もさらに増える――つまり強くなれる。
(夜にでも職業案内所に寄っておこう……)
そう考えながら、ミサキは画面を閉じた。
一行がアリストラスの門を越えたあたりで、ケットルが一点を見つめ指をさした。
「ねえ、なんか様子が変だよ」
見れば、紋章ギルド前に人だかりができていた。
ここ最近は平和そのものだっただけに、ミサキは背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
何があったんだろう――
一行が民衆達に事情を聞こうとした時だ。
人だかりの中心にいる人物の声が響いた。
「僕とアルバは明日、最前線に向かいます!」
それは紛れもなく、ワタルの声だった。
侵攻以降――紋章のギルドホームを建設したワタル達は、非戦闘民や新規ギルドメンバーの生活基盤を素早く整えると、活動拠点をアリストラスからエマロの町へ移した。
現在はさらに進んだカロア城下町に移しており、アリストラスで見かけるのは極めて稀であった。
ワタルのよく通る声が続く――
民衆達は黙ってそれを聞いており、それはミサキ達第21部隊も同じだった。
「この一ヶ月、アリストラスをはじめカロア城下町までの《居住可能エリア》の開発が終わり、最初の頃に比べ生活は安定してきています。アリストラスの魔導結界に用いる《魔力》と《ゴールド》も、消費量を貯蓄量が上回りはじめました。今の体制を維持し続ければ、侵攻に脅かされる事もありません」
その言葉に、民衆達が歓喜の声を上げた。
魔導結界の効力は一週間で消える――つまり一週間後もここが安全かは、いままで確約されてなかったのだ。しかし今回、その心配も取り払われた。完全な安息の地が確立されたのだ。
湧き立つ民衆達の声を遮るように、ワタルの凛とした声が響く。
「当初目標としていたアリストラス、エマロ、カロアまでをプレイヤー達の居住区として整え、作業は終わりました。我々攻略組は明日の朝――最前線の拠点であるサンドラス甲鉄城へと旅立ちます!」
それに対し、民衆のうちの誰かが反発する。
「俺達を見捨てた最前線の連中が全部終わらせるまで待ってればいいだろ! わざわざ危険な場所に赴く理由があるのかよ!」
「あたしを見捨てた彼氏なんて野垂れ死ねばいいんだわ!」
かつてはフレンドだった者や、パーティを組んでいた者もいたのだろう。彼等の中には最前線組に〝見捨てられた〟と怨みを抱く者もおり、ぽつぽつと不満の声が上がり始める。
しかし、ワタルは動じない。
「このまま待っていても状況は変わりません。それに、最前線組が全滅したら誰が目的を達成するのでしょうか」
その言葉に、不満の声も止む。
「これはただ耐え忍べばいつかは過ぎ去る災害とは違い、手を打たねば拡がり続ける疫病のようなもの! motherからのメールにもあった〝期限〟とも取れる文言が真実ならば、この平和も有限です。元の世界へ戻るため――我々は最前線へと合流します!」
ワタルは揺るぎない意志でそう言い放つと、民衆達はワタルの勇気に拍手を送った。
民衆達の、あくまでも他人任せな姿勢に引っかかるものはあったが、ミサキもワタル達の勇気と決意に胸を打たれていた。
最後に――と、ワタルの言葉が続く。
「最前線攻略勢に加わりたい方は、明日の朝8:00、紋章ギルド前に集まってください! 職は不問ですが、安全のためレベル30以上のプレイヤーを対象とします。今回は第一陣として扱いますが、ひと月毎に三箇所の居住区で募集をかけます。もちろん最大の危険が伴いますから、決意の固い方だけ参加してください!」
ミサキは脈が早まるのを感じていた。
自分も参加の条件を満たしていたからだ。
かつて宿屋で待つしかできず、苦い想いをしたミサキ――今度こそ