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 太陽の役目を担う宝石が都市を照らす。


 美しい湖と豊かな自然はそのままに、その部屋は日々更なる発展を遂げていく。


 主の(めい)を守り続けた市民達は皆強く、賢い。

 異種族間の諍いや差別が完全に無くなって久しい。


 ダンジョン・コアのあった部屋。

 修太郎が改造し、加速によって栄えた都市。


 楽園都市レジウリア。

 それが今の都市の名前である――


 修太郎とバートランドの二人は、活気あふれる商店街を抜け新しくできた道へ進んでいき、美しい湖の前までやって来る。


 まるで海と見まごう程の広い広い湖の前で、修太郎は再びダンジョンメニューを開いた。


「今は〝加速〟も切ってあるから、僕が寝てもエルフ族の皆がたくさん歳を取ることもないから安心して!」


「? はい」


 慌てて言う修太郎に、バートランドは首を傾げながらも頷く。


 少し前――信じられないほどに発展していたダンジョン・コアの都市を見て、慌てた修太郎が〝睡眠時に加速〟の効果に気付き、OFFにした事で世界の時間の流れは正常に戻った。


 しかし、修太郎がこの都市を作ってから合計して800年分もの時間が流れてしまっており、時間は戻せないため後の祭りである。


 ちなみに修太郎がその事に気付いたのは、前日に仲良くなった市民が、次の日に行くとひ孫のさらに先(雲孫)の代になっていた……という辛い経験を味わったお陰である。


「ここでいいかな。街からは少し離れているし、いいと思うんだけど」


「主様がそう仰るなら、俺にとってそれ以上の場所はありません」


 笑顔を向けるバートランドに修太郎も満足そうに頷くと、メニュー画面から〝収納した建物を設置〟を選択し、細々と微調整を行いながら〝完了〟を押した――その時だ、


 轟音と共に湖が円形に割れたかと思えば、その穴に落ちる湖がまるで滝のように変化、そして湖の底から迫り上がって来るのはエルフ族の国。森に囲まれたその国は、湖に囲まれ生まれ変わった。


「おお……!」


 それは奇跡という他ない――

 バートランドが歓喜の声を上げる。


 国へと続く白い道は健在で、道の奥からはヴィヴィアンが嬉しそうに駆けてきていた。


「にいさま! すごい、まちがこんなに! 民がたくさん!」


「あ、ああ」


 呆気にとられるバートランドを他所に、周りをくるくる走るヴィヴィアン。


 すると、修太郎達の近くには獣人族と思しき子供と人間の子供が不思議そうな顔で立っていた。都市の子供が、何事だと見に来ていたのだ。ヴィヴィアンは途端に怯えたようにバートランドの後ろへ逃げた。


 恐る恐る子供達を眺めるヴィヴィアン。

 二人の子供は顔を見合わせた後、笑みを浮かべ手を差し伸べた。


「遊ぼ! 俺はジュラン」


「僕はリーア!」


 屈託のない子供達の笑顔。

 ヴィヴィアンは不安げにバートランドを見上げると、バートランド()は優しく頷いた。


 ヴィヴィアンがおずおずと出てくる。

 そして子供達の前へとやって来た。


「わた、わたし、ゔぃゔぃあん……」


 ヴィヴィアンが差し出された手を恐る恐るつまむと、二人はその手を優しく包む。不安げな表情だったヴィヴィアンの顔は徐々に和らいでゆき、最後には笑顔を咲かせた。


「行こ?」


「面白え場所知ってるんだ!」


 無邪気にそう誘う、二人の子供。


 ヴィヴィアンはもう一度バートランドの方へ振り返り、その後修太郎を見た――そして修太郎が笑顔で頷くと、ヴィヴィアンは嬉しそうに子供達へ向き直った。


「うんっ!」


 楽しそうに駆け出す妹を見送りながら、バートランドは長年の悲願であった〝楽園〟を見つけた喜びに……そして妹の楽しそうな顔を見た喜びに、涙ぐんでいた。


「主様。この御恩、一生忘れません」


 修太郎もまた、嬉しそうなバートランドを見て、満足そうに笑みを浮かべた。


 かくして――エルフ族の悲願は達成され、修太郎が作りし争いのない都市、レジウリアに新しい仲間が加わった。


 その後、エルフ族達はゆっくりと時間をかけてレジウリアに……レジウリアに住む民達と、交流してゆくのだった。

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