039
ダンジョンに戻った修太郎達。
そこで語られた修太郎の秘策を聞き、先ほどまで一緒にいたエルロード含めた魔王全員に衝撃が走った。
「一人で都市に……ですか?」
「流石に危険が過ぎます!」
エルロードと
修太郎の策とは、
一人でアリストラスに赴き、他のプレイヤー達とパーティを組み、交流を始めること。
である。
「まず今日見てきた事につきましては、私の方から説明させていただきます」
そう言って、修太郎から引き継ぐ形でエルロードは話し始める。精霊による結界についてや地下迷宮の鍵について、都市内で修太郎と会話をしてくれる人が皆無だったことについてを淡々と語っていく。
「やはり四箇所に邪魔が入っていたか。第一位の最高位魔法でも突破は難しいとなれば、恐らく
「恐らくそうでしょうね」
エルロードは難しい表情でそう答える。
修太郎は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「祈りって?」
「信仰する神に己の全てを捧げることで発生する〝信仰心〟が具現化したもので、信仰を捧げる姿形をとって〝祈り〟と呼んでいます。もたらされる効果として、その場所を基盤とした結界が発生し、神以外の往来を防ぎます。それが四大精霊ともなれば、あの規模もうなずけますね」
エルロードの補足説明に、半分も理解が及んでない修太郎。試しに胸の前で手を合わせるも、当然のようになにも起こらない。
本来、この世界における祈りというのは聖職者が神を想って行うことで発動する〝スキル〟の類いであり、効果でいえば、かつてワタルがキング・ゴブリンに対して展開した《聖域》よりも狭い範囲を守る結界のようなものが発生する。
たとえばフィールドで一度休憩を取りたくなった時や負傷の治療に安全な場所が欲しい時などに、これを用いることで簡易的な
その結界は、祈りの力に応じて硬度が変わる。
精霊という、神に近い四体の存在が闇の神ヴォロデリアを信仰する――その結界が及ぶ範囲、そして硬度はこれで説明がつく。
厄介そうに唸るガララス。
「つまりヴォロデリアの根城へ行くには四大精霊の祈りを解いてから……そういう事か?」
「その通りです」
セオドールの言葉に、エルロードが頷く。
セオドールは「それは骨が折れそうだな」と、面倒くさそうにひとりごちた。
「祈りを解くには直接会って止めるしか方法ないんだよなァ。そもそも精霊を見つけ出す所から始めないとだけど、そのアテあんの?」
「ええ、大方の予想はついてます。ただ、その場所にも奇怪な錠が施されており、同様に壊せる類のものではありませんでした」
「なるほど、面倒だなァ」
「そこで僕が一人で町に行く理由に繋がるんだ。その鍵の場所や精霊の場所――それらをいろんな人と話して聞き出すのにはもってこいだと思う!」
そこまで聞いて、エルロードはなるほどと沈黙する。状況が飲み込めていない
「失礼、主様。あの鎧姿ではなく、スライムの形状変化で何か別の――たとえば他の民の姿を借りて溶け込む方法では問題があるのでしょうか」
その疑問にセオドールが答える。
「体を覆っているものがスライムだと見抜くものが現れれば、どんな姿を形作っていても同じ事。それならば黒の鎧姿で我々を横に置いた方が賢明だ」
目を伏せながら冷静な口調で言うセオドール。
それに納得したのか、シルヴィアは沈黙する。
「なるほど。他の者達から情報を集められれば、その後、情報をもとに鎧姿で我々と対応できますからね」
「場所さえ分かれば主様が行かずとも我々が向かえば事足りるな」
そう呟くエルロードと、満足そうに頷くガララス。
しかし、ここまで口を噤んでいたバンピーが声を上げた。
「危険すぎます。それはつまり主様が、アビス・スライムの防御力も捨てた状態で行動するという事でしょう? 我々が近くに待機するのは当然としても……我々は、我々はどんな気持ちで主様を送り出せばよろしいのですか!」
王の間に静寂が落ちる。
修太郎はバンピーに笑顔を向けた。
「セオドールに貰った武器もあるし、危なくなった時は無理せず必ず皆を呼ぶよ! だから皆も僕を信じて送り出してほしいな」
魔王達はそれを黙って聞いていた。
修太郎はプニ夫を撫でながら続ける。
「それに、心配をかけるのはこの一度きりで済むかもしれないし」
「……そうなのですか?」
すがるような表情でバンピーが尋ねる。
修太郎は元気よく頷いた。
「うん! 僕が職業を〝召喚士〟に変えれば全部解決するかもしれないから!」
実のところ、修太郎の秘策はあくまでも可能性があるというだけの話だ。それを理解しているエルロードは、かなり気を遣いながら答える。
「恐れながら我が主様。
それに対しても、修太郎は笑顔を崩さない。
「召喚士として誤魔化せるのが一番だけど、ダメならダメで、そしたら僕は
修太郎の言葉に、魔王達の瞳が揺れた。
この人は……このお方はあくまでも〝魔王達〟と共にありたいという道を優先して選択している。それも危険を冒してまで――その事に気付いたから。
魔王達は感極まり言葉を失う。
なんと慈悲深きことか。
なんと大きく深い器だろうか、と。
衝動に突き動かされ、バートランドが立ち上がる。そして片膝を付き、こうべを垂れた。
「主様、俺に主様の稽古をつけさせてください。主様の信念、優しさ、俺はそれに応えたい。それはきっと外界で役に立つことでしょう」
すると時同じくしてセオドールも立ち上がり、手を玉座にかけながら背を向けた。
「私は主様をお守りする防具、そして召喚士となった暁に必要となる武具を鍛えてくる」
二人の言葉に、修太郎は笑顔を咲かせる。
「うん! よろしくね!」
修太郎の言葉に、二人は「仰せのままに」と同意し、セオドールは己の世界に消えていった。
「では主様、俺の世界にご案内しますよ」
「バートランドの世界は初めてだなぁ!」
「気軽にバートって呼んでくだせェ」
プニ夫を連れた修太郎とバートランドは楽しそうに王の間から退出し、四人の魔王が残された。
他の魔王達も各々思うことはあれど、こと〝稽古〟と〝装備製作〟においては、あの二人以上の適任者も居ないことを知っていたから、黙って見送ることとなった。
「我も自分の世界に用事ができた」
「私も同じく」
そう言いながら、自分の世界へと消えるガララスとバンピー。残されたのは、エルロードとシルヴィアの二人もまた、無言で自分の世界へと戻っていったのだった。