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 サンドラス甲鉄城――

 荒野にひっそり佇む巨大都市。

 最前線プレイヤーの拠点である。


 失われた技術(ロストテクノロジー)である〝機械〟の力を使い発展を遂げたこの城は、かつて空を駆けた巨龍ソロモスを貫いた魔導砲が備わっているという。都市を守る魔導兵は高い戦闘能力を有し、周辺の魔物や植物は全て焼き尽くされ、その地には焼け爛れた荒野だけが広がっている。


 サンドラス付近の岩場に降り立った修太郎達は早速、鍵の在りかについてや赤の結界についての情報を集めるため城門をくぐった。

 すれ違い様、修太郎は門の両脇に佇む屈強そうな二体の魔導兵を見やる。


(門番NPCもレベル30だ……)


 最初の拠点から離れていくにつれmobの強さが上がっていくように、そこに住むNPC達も強くなってくる。NPCの強さを見れば、その付近のエリアに出るmobの大まかなレベルが把握できる。


 この辺りの適正は20〜30。

 つまり今の修太郎(レベル31)でも、無茶をしなければ適正レベルといったところ。


 他の最前線プレイヤーは平均すると38程度のレベルがあるが、未だにサンドラスが拠点となっているのには別の理由がある――


 修太郎は足早にどこかへ向かうプレイヤーを見つけ、緊張しながら声をかけた。思えば()と話すのはミサキ以来である。


「あの……」

「?」


 修太郎には気付いていたが、無視する形で立ち去るプレイヤー。


 修太郎(本人)は気付いていないが、プニ夫と一体化している修太郎の〝name tag〟は、PCとmobが合体するなど本来あり得ない状態だからか、文字化けした名前となっている。つまり他のプレイヤーから見れば、名前も分からない顔も見えない得体の知れない人物ということになる。


 そんな事情を知る由もない修太郎は、しばらく呆然と立ち尽くす。


「急いでいたのかな」


「……主様相手になんと無礼な」


 エルロードの纏う雰囲気で空気がビリビリと振動しているのだが、修太郎はそれに気付く様子もなく、めげずに新たなプレイヤーへ声をかけた。


「あの、この先のセルー地下迷宮について聞きたいことがあって……!」


「は? セルー、なに?」


「ええと、石で作った水っぽい入り口のある……」


「お前、シオラ大塔がまだ終わってないのに別のエリア進もうとしてんのか? どこのギルドだ? 足並み揃えろって散々言ったよな?!」


 男のあまりの剣幕に、修太郎はたまらず逃げ出した。男は離れていく修太郎を眺めていたが、追い掛けてどうこうする事はなかった。


「こ、こわかった……」


「あの男、始末しましょうか」


「だめ! 人を攻撃したらだめだよ」


 両手に青白い炎を纏わせるエルロードを止めた修太郎は、その後もセルー地下迷宮についての情報と赤の結界についての情報を聞いてまわった――


「だめだぁ」


 会話を試みたのが30回を超えた頃、心の折れてきた修太郎は都市のベンチに深く腰掛けた。側から見れば、禍々しい黒騎士がベンチに座って項垂れるシュールな光景に見えるだろう。


(怪しんで会話してくれないなぁ……)


 修太郎は思わぬ壁に直面していた。

 黒騎士の姿が奇抜すぎるのと、修太郎からは何も情報を与えられないのとが相乗し、プレイヤー達は大いに怪しんだ。


 挙げ句の果て、通報を聞きつけ傭兵NPCに追いかけられた修太郎。傍に立つエルロードもどうしたものかと頭を悩ませていた。


「この姿はかっこいいけど、協力して活動するには向いてないんだね」


「力だけでは解決しない問題もあるようですね」


「でもこの姿を取らないと、エルロードや皆を連れて歩けないもんね……」


 元の姿で魔王達を連れて歩けば、他のプレイヤー側からの見え方次第で修太郎の立ち位置が危ぶまれる。修太郎としてはそれでもいいとも考えていたが、魔王達が必死にそれを止めている。


 黒騎士の姿ならば、他人にどう思われようと修太郎を縛る事はできない。ただ今回のように必要な時プレイヤーの協力を得られないとなれば、絶対的に武力でどうにもならない場面に遭遇した際、急ブレーキとなる。


 孤高の道を取るか、

 共存の道を取るか、


「よし。決めた!」


 修太郎は立ち上がる。


「何か策がおありなんですね」


「うん! とりあえず一度みんなの所へ戻ろう。色々話したいことあるもんね」


「承知いたしました」


 エルロードは再び修太郎達を連れ飛び立った。

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