036
アリストラス――上空。
既にダンジョン生成で空けた穴は爪楊枝の先よりも小さくなっており、空から一望するとアリストラスの地形がよく分かる。
「空飛ぶなんて初めて!」
「このままロス・マオラに向けて飛びます」
初めての大空に感動する修太郎。
エルロードは背中に生えた烏の羽を広げると、地図上でいうロス・マオラの方向へと加速した。
『ここからは念話で会話しましょう』
『舌噛む所だった! わかった!』
ィィインと風を切る音と共に、猛スピードで空を移動する修太郎達――しかし、快適な空の旅の終わりは突然訪れた。
『なにやら赤いモヤがたってますね』
見れば視界の先に、半透明の赤色のモヤが、まるで壁のように端から端まで続いていた。エルロードがその近くまで行くと、モヤに手をかざした。
『なるほど、精霊結界ですか』
エルロードの手はモヤに阻まれていた。
それはまるで色付きのガラスに触れたよう。
手を付きながらエルロードはそう呟いた。
『精霊結界?』
『闇の神に従う四体の精霊です。これは恐らく火の精霊によるもの……となれば、ヴォロデリアが居る場所まで、この精霊達の結界が邪魔していると考えられますね』
『破壊はできないの?』
『精霊といえど神の直系卑属に当たりますからね。一度下に降りましょう』
そう言って、エルロードはゆっくりと下降していった先――そこは剥き出しの宝石が剣山のように突き出したエリアである、ソーン鉱山であった。
ソーン鉱山――
魔道具の核となる〝ソーン鉱〟が採れる古代の産物。かつて大いに繁栄と破壊を繰り返した大国ムスキアの
ソーン鉱山入り口付近へと降り立った修太郎とエルロードだったが、どうやら鉱山から手前側までしか進むことができないようになっているらしい事がわかる。
鉱山を挟むように、地平線の彼方まで赤色の結界が伸びているからだ。
「なるほど、これは厄介ですね。本質的に〝破壊できないもの〟の可能性があります」
「難しそう?」
「一度試してみましょう」
そう言って、エルロードは修太郎とプニ夫を抱いて鉱山から離れた場所に置くと、修太郎達に向け「《時の番人》《至高の魔力》《魔法結界》《聴覚保護》《視覚保護》」と唱えた後、鉱山から伸びる赤の結界に視線を移した。
「《時の番人》《至高の魔力》《はじまりの印》」
掌の上に現れた小さな魔法陣。
そしてエルロードの周囲に黄金の懐中時計のエフェクトが弾けた刹那――巨大化した夥しい数の魔法陣が周囲に展開され、それらがそれぞれ回転、中央の〝印〟が光を放つと同時に、空気が、大地が震えるほどの魔法が完成する。
「《
修太郎の視界が漆黒に包まれる。
聴覚保護と視覚保護による恩恵で、現在どうなっているのかを知ることができた。
それぞれが巨大な砲台となった魔法陣から放たれた極大の黒い光線が赤の結界と激突する――周りの木々は荒いポリゴンの集合体と化し、まるで突風に煽られた細枝のように湾曲しながら自らのいるべき場所に必死に留まろうとしている。
オブジェクトにすら影響を及ぼす魔法。
エルロードが放ったのは第十二階位魔法。