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 修太郎が召喚士を探す理由。

 時間は一ヶ月前まで遡る――


 侵攻を無事に撃破した修太郎は、その数日後、魔王達を集め王の間に来ていた。六人の魔王とその主がそれぞれの玉座に腰掛ける。


「motherの思惑ですか……」


 執事服(エルロード)は考え込むように口元に手を当てる。


「うん。侵攻ってものはなんとか止められたんだけど、プレイヤー側(僕達)何を止めるべきなのか(・・・・・・・・・・)が分からなくて」


 侵攻から非戦闘民達を守り、侵攻の根源であるキング・ゴブリンを撃破するのが目的であるなら、今頃全員がログアウトできてもおかしくはない。しかし、ログアウトボタンは未だ黒いままである。


 修太郎は魔王達にそれぞれmotherから送られてきたメールを読んでもらい、意見を募る事にした。


 RPG的に考えるのであれば〝あ行〟から始まる数々のエリアの終着点〝わ行〟の最後に、目的とする存在が待っていると考えるのが普通。しかし、motherからのメールにそんな記述はどこにも無い。


 ゲーム内キャラクターである彼等ならば、何も知らないまま囚われたプレイヤー達よりも何か心当たりがあるのでは――修太郎はそう考えていた。


〝彼 を 破壊するまで戻れません〟


「つまり彼とは、少なくともキング・ゴブリンでは無かったということですね」


 白い少女(バンピー)が呟く。

 その声にはどこか寂寞が漂っていたが、それは誰にも気づかれる事なく、その感情は玉座の下の深淵に落ちていった。


「彼か。なるほど、とすると我々の誰か――という可能性もあるな」


「順当に考えて一位の旦那だろうなァ」 


「それは否定できませんね」


 楽観的に笑う巨人(ガララス)金髪の騎士(バートランド)にエルロードも同意する。

 修太郎は表情を曇らせ、プニ夫を抱く力を更に込めた。


「……他に心当たりはある?」


 明らかに不機嫌な声色で呟く修太郎。


 魔王達からしてみれば、自身の〝死〟はさして大きな悲劇ではないと考えている。それは数百年ものあいだ虚無の時間を過ごしていた結果とも言えるが、修太郎からしてみたら皆が死ぬ事はとても悲しい事だった。


 修太郎とてその可能性(・・・・・)を考えなかったわけではないが、口に出されるとやるせなくなる。簡単に切って捨てるなど、修太郎にはできるはずもないのだから。


「――まぁ我々の誰か、という可能性はこの際置いておきましょう。あらゆる手段を尽くしても〝彼〟とやらが見つからなければ、その時はじめてその可能性(・・・・・)を考えればいいと思います」


「そうだな、二度と言わないようにしよう」


 修太郎の雰囲気の変化をいち早く感じとったエルロードと銀髪の美女(シルヴィア)が、素早くフォローを入れる。前者は鋭い洞察力、後者は野生の勘が働いていた。


「私は一人、心当たりがある」


 バンピーが手を挙げると、修太郎が「本当!?」と声量を上げ聞き返した。


「闇の神を名乗ってるアレの事ではないかと」

「あぁ、アレか」


 バンピーの言葉に、ガララスも納得した様子で頷く。


「アレって?」


「この世界を創ったとされる〝光の神〟の兄弟で、この世に混沌をもたらそうと考える無粋な神ですよ。確か名前は――闇の神ヴォロデリア」


 修太郎はその〝ヴォロデリア〟という名前に聞き覚えはなく、愛読していた攻略サイト〝βテスター・ヨリツラが行く!〟にも、そんな記述は無かったと認識していた。


 この世界の中だけの常識、あるいはデスゲーム化に伴って生えた設定か。


「ヴォロデリアを〝彼〟と想定するのであれば、事は簡単ですね。主様、私を外界へ連れて行ってはもらえないでしょうか」


「いいけど、どうするの?」


「ヴォロデリアが居るとされる場所に心当たりがあります。空から向かえば、闇の神の姿を拝めるかもしれませんし」


 エルロードの言葉に、修太郎は頷く。

 もしかしたら皆を早く解放してあげられるかもしれない――その期待感から、胸が張り裂けそうなほど脈動していた。


「戦闘の可能性があれば、一度戻って我々全員で出なければならないな」


「そうですね。仮にも神であるヴォロデリアに私一人では勝算5割が関の山でしょう」


「自分を過信しすぎ」


 黒髪の騎士(セオドール)の言葉に、あっけらかんとした様子で答えるエルロード。それを聞いたバンピーが不機嫌そうにそう呟く。


「なんにせよ、私も外界には興味があります。主様、それでよろしいでしょうか?」 


「もちろん! それじゃあエルロードを対象にして……と」


 他の魔王が何か言う暇もなく、その言葉を最後に二人とプニ夫(一匹)の姿が消え、五人の魔王だけが残された。


「ヴォロデリアが目的とするならば、奴等(・・)が相当邪魔をするだろうな」


「となれば空からも陸からも無理ね」


 難しそうに腕を組むガララス。

 バンピーも何か知っている口ぶりで呟きながら、自分の世界へと消えた。


「セオドール。久々に決闘でもどうだ?」


「随分鈍っているからな、いいだろう」


「お。それなら俺も参加しよっかな」


 三人の騎士は熱い視線を交差させた後、バンピーと同じようにしてその場から消えたのだった。

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