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第二章 開始します


序章・一章修正点まとめ


プレイヤー数180万人を35万人へ(多すぎた)

修太郎の設定を高校一年から中学一年へ(幼すぎた)

エルロードの服を執事服へ統一(忘れてた)

バンピーのスキルの描写追加(綺麗に終えたかった)


 


 石畳を踏み締める複数の金属音。

 商店街を包む笑い声と客引きの声。

 元気に子供達が駆け回り、昼間から酒を飲む男達が騒いでいる。


 侵攻から約一ヶ月――

 大都市アリストラスは平和そのものであった。


 賑わうのはNPCだけではない。

 プレイヤー達も、まるで〝発売前に望んでいた世界〟を堪能するかのごとく、各々が生活基盤を見つけ、それなりに幸せに過ごしていた。


 都市内を歩く兵士NPC達も目に見えて増え、治安の高さも窺える。しかし、彼等が出動する事件はあの日以降一度としてない。


 城壁を囲うようにドーム状に張られた薄緑色の魔導結界。これがmob達の侵攻を許さないからである――


 冒険者ギルド前に、一人の少年がいた。


「緊張する……」


 亜麻色の髪の、幼さが残る顔立ち。

 保護欲を駆り立てられる小さな頭身。

 彼がフィールド()で一人でいるのを見かけたら、声を掛けずにはいられないだろう。


 とはいえ、よく目を凝らせばこの少年の異質さが分かる。


 やけに仕立ての良い革の防具と、腰の剣はどちらも一級品。そして少年からは最前線攻略勢が纏う〝格〟の様なものが感じられる。


『主様。何かありましたらすぐに連絡を』

『うん。ありがとう!』


 配下からの念話に答えながら少年――修太郎は、決意の表情と共に、冒険者ギルドの扉をくぐった。



 * * * *



 修太郎が最初に感じた感想は「最初の街の冒険者ギルドなのに人が少ないな」であった。

 受付には誰も並んでおらず、依頼が貼られる掲示板には数える程しか紙がない。


 受付に向かう修太郎。

 受付NPCは淀みないお辞儀と共に対応する。


「冒険者ギルドへようこそ」


「こんにちは! えーと、パーティ依頼を探しているんですけど、ありますか?」


 たどたどしい敬語を駆使し、そう尋ねる修太郎。


 修太郎が一人(・・)でアリストラスに来た理由――それは〝ある条件を満たしたパーティに参加する〟こと。


 受付NPCは少し困ったような顔を見せた。


「申し訳ございません。現在パーティでの依頼は〝紋章ギルド〟に流れるようになっておりまして」


「紋章ギルド!」


 その名前に、修太郎の声量が上がる。

 紋章ギルドといえば、β時代に最大最強を誇ったランカーの居るギルドとして有名であり、デスゲーム後は都市のため命懸けで侵攻を食い止めていた勇気あるギルドだ。


 坑道内で会った少女の事を思い出しながら、修太郎はつい一ヶ月前のことを懐かしんだ。


「紋章ギルドは北門付近にある青い屋根の建物です。冒険者ギルドでは主に、無所属の冒険者、個人で依頼を受ける冒険者に向けた討伐系以外の依頼を扱っております」


「そうだったんだ。ありがとう!」


 自分が周知していたシステムと変わってはいたが、修太郎は特に気にすることもなく受付NPCにお礼と別れを告げ、外に出る。


 ギルドの入り口でキョロキョロした後、それっぽい建物を見つけた修太郎は表情を明るくした。


「あ、ちょうど大勢出てきたあの建物かな?」


 目的地には大勢の人だかりがあった。

 鈍色の鎧を着た集団が城門から外へ向かうのが見える――エリアの攻略に向かうのか、単純に狩りに向かうのかは分からないが、彼等の纏うその特徴的な鎧はβ時代でもよく見た〝紋章〟の制服。


「プニ夫の鎧もかっこいいけど、やっぱ紋章ギルドの制服かっこいいなぁ……」


 そんな事を呟きながら、数にして30人ほどのその集団を見送りつつ、修太郎は入れ替わるようにして青色屋根の建物へと入っていったのだった。



 * * * *



 紋章ギルドのエントランス。

 天井から下りる巨大な旗、大理石の床。

 行き交う鎧を着た人々にも活気が感じられる。


 かつて引き籠りと不眠不休で見回りするプレイヤーで溢れていたアリストラスだが、魔導結界のお陰で連日のように賑わっていた。


 紋章ギルドの討伐部隊も、全40部隊にまで膨らんでいる。


 それは、かつての非戦闘民からもポテンシャル(ステータスや優秀な固有スキル)の高いプレイヤーが発掘され、戦闘訓練を経たことで戦力として認められた結果といえる。


 そんな中、大勢がごっそり消えた風景をぼーっと見つめる一人の女性がいた。


(ふぅ。最前線参加組(・・・・・・)合計32名無事出発、と。なんか寂しくなるなぁ)


 冒険者達の窓口にあたる受付に抜擢された、かつては名の知れた会社の受付業務に携わっていた受付嬢――ルミアである。


 かわいいというより、美人系。

 丁寧な対応と親しみやすいそのキャラクターで、ルミアは紋章ギルドの名物受付嬢となっていた。


 仕事量の膨大な受付であるが、冒険者ギルドのようにNPCを起用しない理由に、NPCには真似できない〝気遣い〟がある。


 NPCは、ただ機械的に依頼を請け負い無責任に送り出すだけで、初心者の戦闘経験やパーティ構成などに配慮しない。そのため、適正レベル帯の依頼でも死亡率や負傷率は高い。


 その点、プレイヤーならば声掛けができて最適なパーティ構成で送り出すことができるため、死亡率や失敗率を下げるためにも受付は人力で行う必要があった。


(よし、一区切り……かな)


 グググッと、伸びをするルミア。


 元々、侵攻発生時こそあまりの恐怖に宿屋で布団を被っていた彼女だったが、凱旋するワタル達を見て勇気をもらい、脱・引籠りを決意した非戦闘民の中の一人だ。


 戦闘が不得意なのは相変わらずだが、彼女は彼女で自分の居場所やできる事を見つけ、日々ギルドの活動に尽力している。


 ンハァとだらしないため息と共に目を開けると、目の前には見慣れない男の子が不思議そうな顔で立っていた。


「うわっ!」

「わっ?!」


 ルミアの身体が跳ねる。

 机に足をぶつけた音で、今度は修太郎の身体が跳ねた。


「ご、ごめんなさい。気付かなくて……」


「こ、こちらこそ……」


 椅子に座り直して咳払いを一つ。

 改めて眺めても、やはり初めて見かける男の子だということが分かる。


(見たところミドル……いや、ローティーンくらい? もしかしたら今まで宿屋に篭っていた組かしら?)


 観察しながら、そんな事を考えるルミア。


 大人も子供も皆等しく〝レベル〟と〝ステータス〟によって価値が決定されるこの世界。子供達は特にその全能感に酔い、大人の静止も聞かず無謀な挑戦を繰り返し数をどんどん減らしている――そんな中で、未だ戦闘に意欲的で命のある15〜16(ミドルティーン)10〜14(ローティーン)の存在は貴重であった。


 ここまで宿屋で大人しくしてくれていただけでもかなり落ち着きのある方だし、状況を良く把握している賢い子だと分かる。


(篭っていた組も続々と外に出てきてる。紋章ギルド(私達)の負担が減るから良い傾向だけど、こんな小さい子を外に出すのはやっぱり気が引けるなぁ……)


 最前線で活躍する十代も大勢いる事をルミアは聞いている。

 人を見た目で判断はできないのだが、受付嬢のルミアはその子供達を毎回、断腸の想いで送り出すのだ。


 その子供のname tagには《修太郎》とあり、名前が白く表示されている事から紋章ギルド未所属であることがわかる。


「紋章ギルドへようこそ。最初に確認ですが、紋章ギルドの方ではありませんね?」


「はい、入っていません!」


 元気よく答える亜麻色の髪の少年。

 ルミアは微笑みながら頷き、人差し指を立てながら得意げに、お決まりの営業勧誘を始める。


「紋章ギルドに所属していただくと、税抜きで報酬が受け取れます。その他様々なサポートをお約束いたしますが、いかがいたしますか?」


「んー、まだ大丈夫です!」


「そうですか、失礼いたしました」


 ギルドへの加入はあくまでも任意。

 特にデメリットがない分ルミアは子供には特に強く勧めたいのだが、ここは一旦引き下がる。


「では今日はどのような要件でしょうか」


 すると修太郎はちょっと考えるように、壁際に設置された掲示板に視線を送りながら、それに答えた。


「パーティで挑む依頼を探しています!」


「はい、ございますよ。どんな依頼をお探しですか? 例えば〝捜索系〟〝討伐系〟〝お使い系〟〝護衛〟などがございますが」


「あ、依頼内容はなんでも良いんですが――」


 そう言って、

 修太郎は一呼吸置くと――


「〝召喚士〟がいるパーティに入りたいんです」


 と、伝えたのだった。

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