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 大都市アリストラスに建造物が追加された。


 白を基調とした壁と、青色の屋根。

 要塞のように堅固で巨大なそれは紋章ギルドのギルドホームである。


「市民NPCは練兵を最優先で!」


 フラメ指導のもと、NPC達がぞろぞろと〝訓練場〟に入ってゆく。


 この市民NPCとは、新しくできた紋章ギルドに与えられた100名の雑用NPCである。彼等は幹部クラスの者の指示を聞き、文字通りなんでもこなす。


 ギルドホーム設置のおまけのようなものだ。

 実の所、この存在は存外大きかった。


 侵攻の際に、兵士NPC達が簡単に倒されてしまったことを鑑みて、フラメはそのうち80名を傭兵として練兵する事に決めた。高いレベルのNPCは、それだけで非戦闘民プレイヤーへの抑止力ともなるからだ。


「忙しくなりますね」

「ああ。しかしこれでやっと一歩進むな」 


 慌しくなるギルドホーム内――

 ワタルとアルバが晴れやかな顔で眺めていた。


「……それとな、ワタル。先ほど調べてみたんだが、やはりキッドの名前は黒く(・・)なっていた」


「そうでしたか……返り討ちにあったか、行った先で複数人のPK達に囲まれたか――いずれにしても坑道内の脅威はまだ残っていると考えて良さそうですね」


 キッドはPKを追って死んだ。

 二人はそう考え、悔しさから唇を噛む。

 彼が裏切っていたことを知らないから。


 その会話を遠巻きに聞いていたミサキは、罪悪感を覚えながらも、頭を振って堪える。


 全ての真実を知るのはミサキだけだ。

 しかし、ミサキはこれを自分の胸に留めている。


 キッドの裏切りを証明するには、坑道内の脅威は去っていることを証明するには、キッド含めたPKを殺したセオドールの存在――つまり修太郎の存在を明かさねばならないから。


(二人とも、ごめんなさい。私からは何も言えない)


 俯くミサキ――

 その時、ギルドホームの扉が開かれた。

 ぞろぞろと非戦闘民達が入ってくる。


「何事だ……?」


 眉をひそめるアルバ。

 侵攻前に不愉快な思いをしたばかりだから。


 非戦闘民達はバツの悪そうな顔をしている者がほとんどで、その中の一人、ミサキの呼びかけを断ったあの男性が意を決したように前へと進み出た。


「都市の平和を命を掛けて守ってくれたこと、言葉にしてお礼を言いたかった。そして臆病に引き籠もっていたこと、謝罪したかった。本当にありがとう、そして本当に申し訳ない」


 男性が頭を下げると、他の皆も頭を下げた。

 その数はおよそ35万人には到底満たないが、数百人規模の非戦闘民達が一斉に頭を下げていたのだった。


 アルバの目配せに頷くワタル。


「我々は少しだけ皆さんより力を持っていて、少しだけ勇気があっただけです。残念ながら死者が一人出てしまいましたが、彼が居てくれたお陰で、侵攻を食い止める事ができました」


 非戦闘民達はワタルの言葉に聞き入っている。

 ギルドメンバーもまた、ワタルの言葉に耳を傾けていた。ギルド内の音が無くなってゆく。


「また、侵攻を止めた我々は、大きな物も得ることができました。今回、これは想像した以上の報酬ですが――今後、最低でも一週間、この都市は〝侵攻が発生しようとも安全である〟事をお約束します」


 彼等はワタル達から〝結果〟を聞きたいがため集まったわけでは無かったのだが、明日死ぬかもしれないという不安から解き放たれ、緊張の糸が解けたのだろう――ワタルの言葉に、非戦闘民達が湧き立つ。


 抱き合う人々、その場に泣き崩れる人。

 歓喜の雄叫びをあげる人、様々だ。


 男性は涙を流しながら口を開く。


「我々は、都市の平和を守ってくださった紋章の皆様に尽力したいと集まりました。戦闘や遠征も覚悟のうえです。一刻も早くこの世界から脱せるよう、協力を惜しみません」


 ワタルは微笑みを崩さぬまま、男性と握手を交わす。

 紋章ギルドに新たに1088名のメンバーが加わった。


「では戦闘職を選んだ方には訓練場へ……」

「生産職の方々、ちょうど人手が……」

「討伐系依頼を受ける場合は……」

「制服の作成が増えてハゲそうだ……」


 ギルド内が一気に慌ただしくなってきた。

 忙しく動きはじめたワタル達を見送って、そろりそろりと逃げるように外へと出たミサキ。


 澄み渡った空を見上げ、呟く。



「――ありがとう」



 彼女はこの平和をもたらしてくれた修太郎達(異形の恩人達)の事を思い浮かべていた。


 侵攻を食い止めたのはワタル達だが、キングやPKという大きな脅威を取り去ったのは、他でもない修太郎達のお陰だ。


 短剣の柄を撫でる――

 彼等から貰った大きな恩をいつか返せるように、晴れ渡る空の下、ミサキは前を向いて歩き続ける事を誓った。



 * * * *



 その頃修太郎は――


「なあなあ主様、次は俺がついて行きたい」

「順番交代なんて決まりはない。よって次も私が同行する」


 バートランドとバンピーが睨み合う。

 ああじゃないこうじゃないと王の間で騒ぐ魔王達の声を聞きながら、玉座に座る修太郎は足をぶらつかせる。


(ミサキさん、無事に帰れたかなぁ)


 別れた少女の事を思い浮かべながらプニ夫を撫でる。

 プニ夫は気持ちよさそうにぷるぷると上下に揺れていた。



 初期地点壊滅という最悪の事態を免れたプレイヤー達。死闘の末手にした恩恵により、安全を確保した紋章ギルドのワタル達は、前線進出を目指して準備をはじめた。


 決意を胸に秘めたミサキもまた、セオドールとの誓いを果たすため大きな決断をする。彼女もまたデスゲームという籠の中で足掻き、現実への帰路を探しはじめる。


 修太郎の配下達は敵なのか、味方なのか。


 mother AIのいう〝彼〟とは。


 ゲームクリアの条件とは。





 第一章  完結

 

あとがき



第一章完結です。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

一章で書きたいことは概ね書けたかなという印象です。


この後細々な点を修正予定です。エルロードの服の描写が統一されてない事や、やはり180万人は多すぎるのではという部分や、その他諸々。


第二章の執筆が終わりました。2020/3/30からまた、毎日12:00に毎日更新いたします。


ここまで読んで下さったかた、感想やブックマーク、下の★★★★★で評価などいただけると執筆の励みになります。よろしくお願いします。

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