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 薄暗い坑道内を二人の男女が進む。

 男の方が何かに気付き、顔を上げた。


「――終わったか」

「え?」


 しばらく黙っていたセオドールが呟く。

 聞き返すミサキに「スキルで確かめたらいい」と返すセオドール。


 言われるがまま〝生命感知〟をもう一度発動すると、ミサキの目が驚愕で見開かれた。


「あっ! 大きな点が消えてる!!」


 ミサキのミニマップに常に表示されていた無数の赤い点、大きな赤い点が消え失せていた。

 そして小道の方へ戻っていく赤の点と紫の点を見て、ミサキは「修太郎さん達が倒したんだ」と歓喜の声を上げた。


 後は自分たちが三人(・・)を救出すれば解決する。

 胸を締め付けていた呪縛のような何かが解かれたような、言えもしない安堵感と脱力感がミサキを襲う。


「本当に強かったんだ、バンピーさん。これでワタルさん達も助かる……」


 力が抜けたような声で呟くミサキ。


「……」


 セオドールは難しい表情をして立ち止まる。

 それに気付いたミサキも立ち止まった。


「バンピーの言っていた事だが、可能な範囲で他言無用を約束してもらいたい」


 急な提案だったが、ミサキは色々悟ったように晴れやかな表情で頷いた。


「何か事情があるんですね」


「ああ。我々の主様が〝力を誇示する者〟であるならその限りではないが、その力の使い方は主様に相応しいとは思えない。力と恐怖で束ねても憎しみや恨みを買うばかりだからな」


 そう言って、視線を逸らすセオドール。

 主を本当に慕っている気持ちが伝わってくる。


「それは私も同意します――ワタル(私が慕う人)さんも、力を誇示せず弱者に寄り添い、導いてくれましたから」


 ミサキは頷き、セオドールを見た。

 修太郎は自分の無茶なお願いを聞いてくれたうえに、ワタル達を、都市を守ってくれた――今度は私がそれに応える番だと、固くそう誓った。


「約束します。修太郎さん達の事は口外しません。恩を仇で返す真似はしたくありませんから」


「そうか、助かる」


 ミサキの瞳の奥に確固たる信念を見たセオドールは、満足した様子で仮想空間(インベントリ)を開き、幾つかのアイテムを掴み出した。


「礼というわけではないが、主様のために拵えた物が不要になってな――ミサキ殿の助けになるのなら、こいつらも本望だろう」


 そう言って、セオドールは戸惑い顔のミサキにアイテムを渡した。


 それは、驚くべき軽さながらも幾重にも重ね合わせた強靭な金属でできている銀色の弓、そして矢筒に納められた同色の矢だった。


 ミサキの持つ初心者の弓よりも軽い。


 木製であるはずの弓よりも軽い金属製の弓は、ミサキの手に非常に馴染んだ。


「これは……?」


「貴重な物でもない。私が打った物だからな」


 矢もそうだ――と、語るセオドール。

 ミサキは2、3度引く動作をして目を見開く。


「物凄く引きやすいです! それに、重くないのに弦がこう、力強いというか」


「私なりにそれぞれ適した鉱石を鍛えて作成しているからな。その木片よりは役に立つはずだ」


「これ本当にいただいてもいいんですか?」


「無論。それと――これは近距離戦闘で使うといい。両方で一流を目指すのなら、追加で格闘技術を伸ばしても無駄にならないだろう」


 そう言って、今度は短剣を渡すセオドール。

 その短剣は修太郎が持っていたのと同じデザインで、刃と柄しかない無骨な物だった。


 刃は驚くほど薄く、向こう側が透けて見えるほどで、こちらは持っているのを忘れるほど正に羽根のように軽い。


 剣士が片手剣を装備すると副武器として小盾から大盾を装備できるように、弓使いが弓を装備すると、副武器として盾や短剣を装備する事ができる。


 背中と腰にセオドールの装備――名前を〝銀弓〟〝銀の矢〟〝牙の短剣〟という――を纏ったミサキは、心なしか自分が何かに護られているかのような、気力が溢れるような気持ちになっていた。


「それと、こっちはまじない程度だが」


 セオドールが黒のオーラを纏い、ミサキの頭の上に手を乗せると、ミサキの体にも同様に黒のオーラが立ち込めた。


 自分の両手を見て不思議そうにするミサキに、腕組みをするセオドールが解説する。


「ミサキ殿に二つの強化魔法(バフ)を与えた。一つは私とLPを共有する《生命共有》。もう一つはステータスの増強を行う《竜王の庇護》――体から黒の〝闘気〟が出ているうちは効果が残る」


 ミサキは自分の体が明らかに強化されていることに、感覚的に〝確信〟していた。それはプレイヤーを形作る身体が0と1の集合体になった影響でもあった。


 できる事はやった。と、先に進もうとするセオドールに、困惑顔のミサキが尋ねた。


「なぜここまでしてくださるんですか?」


 セオドールはさも当然のように答える。


「主様には〝ミサキ殿を守ってやれ〟と命じられている。私は私ができる最大限でそれに応えたい」


 それに――と、セオドールは後ろを振り向かず、立ち止まる。


「奥に行けば〝それら〟が役立つだろうからな」


「それってどういう……?」


 そう言い残し、セオドールは再び歩き出す。

 脅威は取り除かれたはずなのに何故だろうと思いながらも、ミサキはセオドールに置いて行かれないように急ぎ足で着いて行った。

 

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