099
翌朝――楽園レジウリア
噴水広場のベンチに、修太郎とバートランドが並んで腰掛けた。バートランドは煙草を吸い、ふぅと深く息を吐いた。
「シルヴィアの姉御が付き添うなら、案外すんなり強くなってくるかもしれないですね」
球遊びをする子供達を眺めながら、バートランドが語り出す。
バートランドは自分でも気付いていた。
最初は主のために、アイアンを仕方なく鍛えた。無礼がないように、また親殺しなんて罪を意識すらさせないように、不穏な動きがあれば即座に処分するつもりだった。
気付けば〝主のため〟は建前となり、アイアンのために修行に付き合っていた自分がいたからだ。
「大丈夫、バートの弟子だもん」
プニ夫を撫でながら修太郎が言う。
修太郎の方へ顔を向けるバートランド。
「だって、バートに教わった剣術や体捌きで、僕まだ負けたことないから。アイアンだって闘技場でも無敗だったもんね」
ベンチから降りた修太郎。
視線を闘技場の方へと向けた。
「アイアンの修行相手にバートを選んで良かったと思ってる」
「え?」
「だって、僕はあんな過酷な場所にアイアンを送る事に不安しか感じなかったけど、バートだけは信じて後押ししてたじゃない?」
柔らかな笑みを浮かべる修太郎。
「信じて送り出してくれた師匠には、意地でも帰って頑張ったよって報告したいもんね。あの世界で重要なのが〝信念〟なら、きっと今のアイアンは誰よりも〝強い〟もん」
修太郎の言葉で呆気に取られるバートランドだったが、ごちん……と、拳に額を押し付けるように俯くと、こみ上げる何かを抑えて笑みを作った。
「鼓舞、できましたかね」
「うん。きっと」
以降、二人は会話を交わさなかった。
無邪気に遊ぶ子供の声と、噴水から出た水の音だけが響いていた。
*****
王の間に集まる修太郎と魔王達。
そこにはシルヴィアの姿もある。
「アイアンはどんな様子?」
前のめりにそう尋ねる修太郎。
「最初こそ一戦終わるごとに虫の息でしたが、今はそれも安定しています。玉座に座るためには何をすべきか、一年間それを教え続けました。後はアイアンの精神力次第です」
シルヴィアの回答に安堵する修太郎。
修太郎がバートランドの方へと視線を向けると、ホッと胸を撫で下ろす彼の姿があった。
「そっか、良かった。ありがとうシルヴィア」
(一晩しか経ってないのに、
前回使った際は一晩で何年もの月日が流れていたため、今回修太郎は大幅に調整を加えている。今は一晩で一年が経過するようだ。
修太郎は改めて世界加速機能の凄まじさを実感しながら、今度はセオドールに視線を移した。
「シルヴィアも戻ってることだし、そろそろ
「承知した」
セオドールは力強く頷くと、おもむろにバートランドの方へ歩いてゆき、何かを渡す仕草をする。
「旦那、これは?」
「制覇祝いだ。
それは銀色の鎧だった。
聖騎士を彷彿とさせる美しい彫刻と、金色で縁取った赤の腰マント。鷹を模した甲冑。いわゆる
しばらくそれを見つめるバートランド。
柔らかな笑みを浮かべ、力強く受け取った。
「必ず」
セオドールもまた、満足そうに頷いた。
残りの魔王達に視線を向ける修太郎。
傍にシルヴィアとセオドールを従えて。
「じゃあみんな、留守をよろしくね」
エルロード、バンピー、ガララス、バートランドは同時に膝をつき、頭を垂れた。
「いってらっしゃいませ――我が主様」
そして闇に溶けるように、修太郎達の姿が消えた。