001
最近見なくなったデスゲーム系小説の再熱を願って
《はじめに》
この小説には複数主人公が存在します。
s が付いた話しには別の主人公の話しが展開されます(一部分でも他の視点が入れば s を付けてます)。設定上、第一章は別視点がかなり多めになります。
二章以降も別視点はありますので、別視点を全く楽しめない方には苦痛かと思います。それを踏まえた上で読んでいただけると幸いです。
一人の少年が、キャラクタークリエイトを終わらせようとしていた。
設定画面には、少しだけ背の低い活発そうな少年の姿が浮かんでいる。
残すところランダムスキル取得のみ。
そして表示されたのは〝ダンジョン生成〟というスキルだった。
「んー、面白そうだからいいや!」
少年は数秒も悩まずして決定を押した。
ダンジョン生成というスキルが当たりか否か、この少年――修太郎には分からなかった。
そもそも攻略wikiにも載っていないスキルが多く、これもその一つだろうと勝手に納得したのだ。
情報が極端に少ないのには理由がある。
この《
暗転からの明転。
そして修太郎は石造りの街に降り立つ。
目の前に広がるのは、ファンタジーゲームの舞台に選ばれやすい中世ヨーロッパの街並みと、溢れんばかりの人、人、人。
「とりあえず戦闘! その後友達探し!」
青空の下、修太郎は走り出す。
永遠の名を持つゲームの世界へと――
eternityが本体価格20万円の新型VRMMOゲームとして、某有名メーカーから発売が発表されたのは記憶に新しい。
しかしながら、最新技術のVRとAIを内蔵し、最高峰の体感型ゲームとしての圧倒的完成度を加味してもなお、その強気な価格設定に批判が集まっていた。
とても修太郎のような中学生に買える代物ではないからだ。実のところ、批判の多くは現役の学生と主婦によるものだった。
メーカーは続いて発表する。
応募から抽選で100人に、これをβテスター枠として無料配布すると公表したのだ。
当然、倍率は天文学的数字となり、大半の人間は涙を飲むことになる。
βテスターによる攻略サイトや動画投稿サイトに投稿されたプレイ動画、またCMや広告による宣伝で興味を示す人間が日に日に増えてきた頃――メーカーはサービス開始日に合わせ、今度は10万人に無料配布すると公表したのだ。
倍率は依然高い。が、募集人数が多いおかげもあって
eternity稼働から1ヶ月後の今日、第二陣の応募組と購入組が合流し、この日、βテスター、応募枠、購入者合わせ約35万人もの人間がこの世界に生きていた――
簡単に戦闘を終えた修太郎は木陰に腰を下ろし、早くも休憩を取っていた。
「ただのネズミだ! 囲め囲め!」
「噛まれた! このー!」
「杖で殴るなよ! 魔法使え魔法!」
近くで三人組の少年少女が、雑魚mobのネズミ相手に死闘を繰り広げている。
《mob:デミ・ラット Lv.2》
相手はこの辺で最も弱いネズミ型mobだが――これは最新型VRゲーム。臨場感も緊張感も、かつてのゲーム群とは何もかもが違っている。
《
「ここで俺の必殺スキル発動だー!」
少年の剣が青く光り、地面を滑る斬撃がネズミを貫いた。
ネズミは空中で淡く光るとポリゴンを散らして爆散。仲間の二人が歓喜の声を上げた。
このゲームの魅力の一つに、固有スキルというものがある。
キャラクタークリエイトの最後に一人一つ、ランダムで固有スキルを得られるのだ。
これは職業スキルとはまた別の、mother AIの独断で付与されるオマケのようなもの。
先に得た職業や選んだ武器に沿った物が多いが、稀に関係ない物も手に入るという。
少年の格好いいスキルをぼーっと眺めながら、修太郎は自分のステータス画面を開き、固有スキルを開く。
《ダンジョン生成:使用した場所の地下にダンジョンを生成する。生成中、稀に、宝物を得ることがある》
年頃の男の子らしく職業は剣士を選び、得物も剣を選んだ修太郎だが、得たスキルは先ほどの少年とは違っている。
(使ってみよう。どんなスキルか分かるはず)
百聞は一見にしかず。
修太郎地面に手をついた――と、同時刻。
ゲーム開始時には青々としていた空が、不祥な紫色に染まりはじめていた。
視線が地面に向く修太郎は気付かない。
「ダンジョン生成!」
ゴゥ、という音と一瞬の眩い発光。
地面に吸い込まれるように消える修太郎。
時同じくして、新規プレイヤーが生み落とされる大都市アリストラス上空の雲が割れ、巨大な翼竜がeternityの主要都市上空に現れた。そして、全てのプレイヤーのメニュー画面が強制的に開かれる。
それは、三人の少年少女も例外ではない。
「なんだこの、邪魔だな」
運営からの無粋な横槍に不満の声を上げる少年に、近くで沸いたデミ・ラットが飛び掛かった。
「淳、ネズミ来てるよー」
少女が笑いながら注意喚起する。
こいつの攻撃力では大したダメージにならないことを、先ほど噛まれていた少年は理解していた。
発達した前歯が少年の肩に刺さる――
「い、いだいいい!!! なんああああ!!!」
たまらず剣を離し、倒れ込む少年。
その間もデミ・ラットは少年を齧り、少年の絶叫がその場に響く。
「淳!? なに、痛いって嘘でしょ?」
「おい、お前がふざけるからネズミ集まってきてるじゃんー」
それは当事者しかわからない〝
大都市アリストラス周辺mob図鑑から引用すると、雑食系mobデミ・ラットは匂いと音に敏感な生き物とされており、基本的に群れを成して行動する――その本能に従い次々に現れるデミ・ラットが、倒れた少年に群がるのを見て、残された二人は焦って武器を振るった。
何か違う、さっきまでと。
二人は本能でそう感じていた。
剣の手応え、緊迫感、どれも同じだが――
「あっ!」
背後の敵に気付かず、倒された少女。
激しい痛みが幼い体を貫いた。
「いぎ、ああああ!!!! いだいいだいいだいいだい!!!!!!!!?!」
そのあまりの形相に怯えた少年は武器を落とし、脇目も振らず街の方へと駆け出した。
後ろから聞こえていた二人の悲鳴がプツリと消え、パーティ一覧の名前が黒くなる。
涙目で駆ける少年は背中に流れる嫌な汗を感じながら、視界の端にあったメッセージへと視線を向けた。
差出人:mother
宛先:子供達へ
ログアウト が 不可になりました
痛覚設定 が 固定されました
蘇生 が 不可になりました
彼 を 破壊するまで戻れません
三度目の死刻 が 最後です
――VRMMORPG eternity
――デスゲーム開始。