PART9 雄父豪娘ウォーゲーム
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【父の試練】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA PART3【娘の呼応】
『748,769 柱が視聴中』
【配信中です。】
〇苦行むり お父様ってこんな感じだっけ……
〇みろっく え、原作だと出てこないの?
〇鷲アンチ なんていうか、発狂した姿しか出てこないんだよね
〇トンボハンター 隠しクエで闇落ちしたピースラウンド当主と妻を討伐するのがあるだけ
〇適切な蟻地獄 他の走者の時とも違うよな
〇red moon 他の時はここまで禁呪知らないよなこの人……
〇みろっく へー、なんかレギュの影響受けてんのかな
〇外から来ました ははは、ちょっとそれは勘弁
〇日本代表 存在が確認できん
〇火星 は?
〇日本代表 本当にそこにいるんだよな?存在隠蔽されて、位置情報の照会が通らない
〇101日目のワニ お嬢の知覚を通してだけど、いるよ
〇無敵 ……つまり、お父様、これ上限取っ払われて、神域対抗権能に到達してるってこと?
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昼休みの時間は残り僅かだというのに。
アリーナにはほとんど満杯になるような観客が押し寄せていた。
「観客が随分と増えたな。問題ないか?」
「ええ、問題ありませんわ。まあ……ピースラウンド親子の模擬戦ですもの。見たいと思うのは仕方ないでしょう」
客席にはユイさん、リンディ、ユートの姿も見受けられる。
どこかにロイだっているだろう。
さてさて。
相手がお父様とはいえ、無様に負けるわけにはいかない。
【というわけでここに来る途中、ちょっとお手洗いに立って、個室の中で十三節詠唱してツッパリフォームを発動させておきましたわ】
〇red moon セコすぎんか?
〇宇宙の起源 魔 弾 魔 弾 魔 弾 戦 記
【じゃかあしいですわッ!
笑えるぐらい格上なので、これはあくまで対策です!
ていうか、正直こんなんやっても全然不安でしてよ!】
脳内言語直接出力モードで絶叫する。
そんなわたくしの向かいに佇み、お父様は普段とまったく変わらぬ、冷たい表情のまま尋ねた。
「マリアンヌ、用意はできたか」
「
〇鷲アンチ 草
〇太郎 悪行に悪行を重ねていく
五節詠唱装填完了。
これで累計、十八節分のアドバンテージを得たことになる。
相手はお父様だ。こんな小手先が通用するとも思わない。
だから、開始と同時にコレを放つのではなく、これに上乗せする形で生かしていく。
「よろしい。ならば始めるぞ」
お父様は足下の小石を蹴り上げてキャッチすると、それを指で弾いた。
コイン代わりというわけだ。軽い金属音。
くるくると小石が回転しながら宙を舞う。ざわめいていたアリーナからスッと音が消える。
極限の集中。開幕でイニシアチブを握る。というか、向こうの攻撃ターンとかに回った場合、まず勝てなくなる。
──初動で弾幕を張って、弾幕を追いかけるように加速。回避なり防御なりに気を逸らしたところに右ストレートを打ち込む。
──というのは恐らく読まれているか。ならば、飛び込んだと見せかけて急制動、カウンターに引き撃ちを合わせる。
──ダメだな。引き撃ちだと向こうにテンポを握られかねない。なら攻撃を打ち込む方向で駆け引きをするしかないか。
小石がゆっくりと落ちていく。
地面の接触まであと僅か。
──成果を見せろといった。単純な最大火力を見せればいいというわけではないのだ。確かな成長を見せる必要がある。
──今まで学んできたこと。
──積み重ね、築き上げてきたもの。
──それを吐き出せ。今ここで、全部!
世界がスローモーションになる。
観客が息を呑む音が明瞭に聞こえた。
小石が、地面に、落ち
「4番、『
アリーナを剣が埋め尽くした。
「…………ッッッ!?!?」
動こうとしていた身体に慌てて停止命令を送る。
地面という地面に、剣が突き立てられ、敷き詰められていた。
これは──知って、いる!
「チィィッ!」
装填済みの詠唱はそのままに、ツッパリフォームの出力のうち3%を足場演算用に割く。
両足で『流星』の足場を蹴り上げて上空へと逃れた。
数瞬後、わたくしのいた地点に剣が殺到。上に逃れていなければハリネズミだった。
あれは魔力によって構成され、実体を持った剣だ。
「え……? い、今、マリアンヌさんのお父様……」
「詠唱してねえ……! いや、詠唱聞こえなかっただけか!? しかし開始とほぼ同時だ、単節詠唱でもねえ!」
客席でユイさんとユートが狼狽している。
そうか。二人はお父様の戦いを見るのは初めてか。
地面から次々と剣が射出される。多方向からでなければ、対処は容易い。順に拳で砕き、蹴り砕き、腕を振り回して砕く。
「詠唱破棄よ」
「──は?」
リンディが、上空で防戦一方となっているわたくしを見ながら二人に説明していた。
「
『……ッ!?』
〇つっきー 出たわね
〇ミート便器 マジで初見殺しなんだよな
足場を作っては飛び跳ね、狙いを絞らせない。
数秒でも留まれば、複数方向から剣が飛んでくる。
というかわたくしが剣を次々に破壊してる間、お父様は腕を組んで眺めているだけだ。完全にナメられている。
「ほう。三次元戦闘ができるようにはなっていたか」
「できなければ、最初で終わりだったでしょうに……!」
「ああ、安心したよ」
今の問答で理解した。
順番にお父様が仕掛ける、それだけのスピードに、もうついていけない。開幕始動のスピードが違いすぎた。あんなに全速力で来るとは思わなかった。
この人、ハナからわたくしにイニシアチブを握らせるつもりがねえ!
最後の剣を真正面から右ストレートで粉砕した、直後。
「だがまだだ。まだいけるだろうマリアンヌ──」
それは口ずさむように。
それは風にフレーズが載るほど軽やかに。
「
奏でられたのは詠唱短縮の極地。
身体が全力で回避機動を取る。そこに論理なんてない、完全なる防衛本能の作動。
子供でもちょっと考えれば分かる──八節までの詠唱破棄を可能としているお父様が三節詠唱した、という行為の意味。
「12番、『
マクラーレン・ピースラウンドの代名詞。
それは最大八節までの詠唱破棄による、たった数節の詠唱による超高威力魔法の発動──!
「チィィ────!」
流星の足場を蹴り砕きながら、両足で横っ飛びに転がる。過負荷に魔法陣の砕ける甲高い音と同時、生み出された破片が空間にまき散らされ鮮やかに輝く。その光景に見とれている暇はない。
直後、わたくしが数瞬前までいた空間を、どす黒いレーザービームが抉り取った。
一切の物体が消失し、空間ごと刮いでいると言われても信じられるような破壊力。
「出た! 本人が火属性と雷撃属性の混合魔法と言い張っている謎の魔法だ!」
「ピースラウンド家の訳のわからんオリジナル魔法だーッ!」
観客がワッと沸き立った。
これは御前試合でもよく使ってた、お父様の代名詞に近い魔法だったか。
殺し合いでもないのに使うなよ!
「やはり甘いな。私ごときに数秒もかけるな。お前は世界の頂点に立つのだろう?」
「むちゃくちゃを……!」
つーか改めて、偉そうにモノ言われると、父親相手でもやっぱムカつくなあ!
【何を今更、教え導く立場のような顔をして!
ネグレクトしてた生き恥太郎の分際で……ッ!】
〇適切な蟻地獄 じゃあお前は生き恥花子じゃん
〇無敵 生き恥市の書類記入例みたいだな
勝手に人の名前を最悪な見本にするな。
「
次なる詠唱がスタートし、ほとんど間を置かずに終わる。当然八節分の詠唱破棄は前提だろう。
クソが! 詠唱破棄されると魔法の読み合いが成立しねえんだよ! まあ読めても防御間に合う威力じゃねえんだけどな!
「7番、『
……ッ! ここだぁぁぁぁあああああっ!!
足場を展開し蹴り上げ、真正面から飛びかかる。
「
装填済みだった五節分に起動コマンドを送った。
わたくしの周囲に、流星を模した魔力砲撃が展開される。
「ほう──」
「砕け散りなさい──!」
お父様の左手から放たれた蒼い槍を、四門の魔力砲撃で迎え撃つ姿勢。
重い音を立てて正面に着地し、砂煙が巻き上がる。
ぴくと眉を動かしてから、お父様は──即座に左手を、自分の真左へと突き出した。
「射出」
槍の穂先には、砂煙を煙幕に即座にポジショニングを移した、完全に虚を突いたはずのわたくしがいる。
どうやって察知してんだよマジで。
互いの攻撃が同時だった。だが速度の差は歴然だった。向こうが早すぎる。
放たれた焔の槍と魔力砲撃が、わたくしの眼前で激突し────
────なかった。
「な……!?」
思わずユートが身を乗り出して絶句する。
わたくしが展開していた砲撃は四門。それらは互いに間を置いている。密だよ密。social distanceなんだよね。
だから射出された槍は真っ直ぐ、砲撃と砲撃の隙間を縫うようにして、わたくしの腹部めがけて直進し。
「両手限定上限瞬息解放! 30%悪役令嬢ガァァア────ドッッッ!!」
原理は、ユートと模擬戦をしているユイさんから学び取れていた。
場所の集中と秒数の限定を重ねることで、負担なく最大出力を出すテクニック。
突進してきた槍を両手で掴み取り、身体を捻って射出の勢いのまま一回転。
「未開封でお返ししますわ!」
そのまま思いっきり、お父様に向かって投げつけた。
魔力砲撃とほとんど同時に、焔の槍が着弾する。
爆炎が巻き起こり、観客が思わず顔を庇う。
「ぜぇっ、はぁっ」
肩で息をしながら、頬を伝う汗を手で拭った。
何か一手間違えたら即死していた。マジで死んでた。いつものことだがお父様は、わたくしが対応できるギリギリ上限を見極めて、その限界一歩先ぐらいをぶつけてくる。本当にやめてくれ。これやってたらいつか死ぬと思うんよ。
〇火星 親子でやることじゃないな
〇苦行むり ちょっと家庭環境と死が隣り合わせすぎませんかね?
いや流石に、確殺とかはないんだよね。死んだらわたくしが悪いって感じの場面が無数にあるだけ。
でもキツいもんはキツいから、マジで頼むからこれで終わってくれ~~~~~~。
「……2番、『
ダメでした。
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