PART3 意気投合マジックガールズ
専門書店で整理券を片手に並ぶ。
隣には黒いドレスを着込んだ銀髪の美少女、カサンドラさんがいた。
初対面だがなんとなく冷たくできない。こちらから進んで仲良くなりたいと思うのは、いつ以来だろうか。なんかこっちの世界に来てから、相手にグイグイ来られることばっかだったから、すげえ新鮮に感じる。
ただし。
まあ普通に、さっき初めて会ったので。
会話が弾むはずもなく。
「ではその、カサンドラさんは、ご旅行でこちらの国に?」
「そうね……旅行先でこういった書店に来るの、変かしら……?」
「い、いえ。分かりますわよ。最近は論文を読む時間があまり取れていないのが不満ですが、元々好きだったので……」
「え、ええ。
何この、何?
これさあ、オタク同士が顔合わせて『好きなアニメとかありますか……?』って探り入れ合うやつじゃん。ジャブを差し合うやつじゃん。
知識量に開きがありすぎたら話セーブしないといけないから、お互いの力量を測ってる奴じゃん。やめろよ。転生してるのにオタク仕草させるなよ。
もにょもにょするような会話をしているうちに書店が開く。
整理券持ちの列が粛々と目当てのブツを買う中、わたしくたちも論文集を颯爽と購入。
極上の成果物を抱えて、わたくしとカサンドラさんは二人で店を出た。
「比較的すぐに買えたわね、マリアンヌ」
「ええ」
頷きながら、論文集の表紙に目を通す。
刹那、わたくしは思わず目を見開いた。
「これは……『レーベルバイト家が十節詠唱の新たな燃料運転用魔法の開発に取り組み始めた』と?」
「面白そうな話ね」
カサンドラさんの両眼にも光が宿っている。
顔を見合わせて頷くと、二人ですぐ傍の喫茶店に突入。窓際の席に腰を下ろした。
「いらっしゃいませ。ご注文は──」
「か、カサンドラさん。これしれっと凄いことを書いているのではなくて?」
「体内を循環するプロセスを魔法内部で再現し、魔法によって魔法を起動させる……!?」
「確かに成功すれば、燃料運転用として革新的でしょう。ですがそれ以上に!」
「──エネルギー炸裂魔法として新たなスタンダードになり得るわ……!」
「ご慧眼ですわね!」
「ええ、ええ。マリアンヌも一瞬でここにたどり着くなんて……流石ね」
「あの、お客様。ご注文は……」
『アイスコーヒー!』
二人で異口同音に注文を叫べば、店員さんは引きつった笑みでお辞儀をした。
「で、話を戻しますわよ。他の属性魔法では魔法をトリガーに別の魔法を起動させるのは、タイミングをズラした多重詠唱で擬似的に再現することが可能です。むしろテクニックの一つとして有名なぐらいですわ」
「ええそうね。ただしそれは魔法使い同士の戦いで有効だという話。本当に魔法から魔法を連鎖させることができるなら、例えば時限式の炸裂を戦場にあらかじめ配置したり……威力の増幅にも役立つわ」
「ご注文のアイスコーヒーです……」
「有名なのは国家間対抗試合でゼール皇国の騎士が二重フェイントをしかけた例でしょうか」
「二つの詠唱を分解し、それらをバラバラに詠唱することでどちらが来るのか分からなくさせたアレね。
「分かります。最高ですわよね。詠唱フェイント」
「詠唱フェイント、良いわよね……」
「あの、すみません、コーヒー……」
『すみません今どけます!』
二人で異口同音に謝罪を叫べば、店員さんは引きつった笑みでコーヒーをテーブルに置いてくれた。
さっきから店内の視線を集めている感じがする。まあわたくしもカサンドラさんも超絶美少女だし仕方ないか。
「あそこの二人やべえな」
「すげえ美少女が二人で入ってきたと思ったらガチガチの魔法オタクとは……」
「あれは百合」
「は? 安易なラベリングすんなカス、恋愛と明言しがたいが確かに自分の中に存在する言語化し得ない相手への矢印が一番尊いんだろうが。相手のことを考えて、想像して、悩み、実際に会えばまいっかって息一つ吐いて悩みを後回しにできるのが最高なのであって適当にレズセさせときゃいいだろみたいな考えが一番ムカつくんだよ。救いがあるからこそ絶望が映えるのであって性癖性癖つって絶望展開しかやらないカスぐらいムカつく」
「お前、女女の関係性の話になるとマジで気持ち悪くなるよな」
「他の性癖まで巻き込んで全方位に爆撃すんのやめろ」
仕方ないと言うには少々アクの強めなやつがいたが、わたくしは賢いので無視した。
「実戦を想定するならやはりベストは二節詠唱ですわ」
「あら、マリアンヌにしては古典的な考え方ね。
「だとしても一節分の時間的アドバンテージは捨てがたいですわ。詠唱の撃ち合いになれば、1秒間が値千金でしょう」
「そこには同意させてもらうわね。ただ、二節と三節では変化させられる範囲の差が桁違いよ」
絶えず言葉を交わし合い、知らずのうちに頬が綻んでいく。
底知れない……!
わたくしもまだまだ引き出しがあるとはいえ、同年代でここまで話ができる奴なんていなかった。
やべえな。テンション上がってきた。
「語り足りませんわね……カサンドラさん、この国にはどれほど滞在する予定で?」
「しばらくはいるつもりよ。連絡先を教えておくわね」
「話が早くて助かりますわ」
どうやら向こうもその気になってくれていたようだ。
カサンドラさんは涼やかな笑みで、連絡先を記したメモを渡してくれるのだった。
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