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INTERMISSION25 悪役令嬢の華麗なる悪行

 ユートは訳が分からなかった。

 確かに最後に見えた光景は、己のゴーレムが繰り出した豪腕を、真正面から粉砕・貫通した女の、歯をむき出しにした、それでいて怖いほどの美しい貌だった。

 だが今は、アリーナの天井しか見えていない。明らかに記憶が数秒欠落している。

 身体の浮遊感──横を見る。客席が遠く下にある。友人たちが、こちらを指さして叫んでいる。


(う、おぉっ!? 落ちてる!? 落ちてるのか!?)


 ユートは一瞬目を白黒させてから、状況を理解して内心で絶叫した。

 意識が一瞬飛んだせいか、溶岩の鎧は解けていた。

 禁呪保有者とはいえ、生身のまま地面に叩きつけられては無事では済まない。

 リンディが悲鳴を上げ、ジークフリートが踏み出そうとする。


(ちぃぃ! 間に合うか──!)


 ユートはマリアンヌほど禁呪の詠唱短縮には長けていない。

 そして絶戦の後という精神的に疲労もあり、練り上げようとした魔力が霧散してしまう。


(く、そ! おい、マジかよ、冗談じゃねえ……!)


 地面が迫り来る。

 瞬間、脳裏をいくつかの光景がよぎった。

 灰色の世界。

 透明になった自分。

 存在の不確かさが、自己の根拠の曖昧さが、常に彼を苛んでいた。

 しかし。



『わたくしを見ろと言っているのです、名無しのユート……ッ!』



 今はもう違う。

 世界は色彩を取り戻した。

 自分はここにいると、確証を得られた。

 その切っ掛けなんて、考えずとも分かる。


(これから、だってのに……!)


 恥も外聞もなく、ぎゅっと瞳を閉じた。

 ばさばさと制服がはためき、地面が近づいて。


 ぽす、と軽い音。


 止まった。

 違う。受け止められた。




「──あら、無事ですか?」




 目を開ければ、見知った少女の顔がでかでかと映り込んでいた。


「……ッ」

「ふふん。これにてわたくしの勝利ですわ! ですから──次はもっと強い新技を編み出しなさい。それすらも打倒して、わたくしは更なる高みへと至りましょう!」


 自分を抱きかかえる彼女の瞳に、流星の輝きが宿っている。

 夜空を切り裂き、果てしない宇宙の向こうからやって来る、可能性を秘めた光。


(……嗚呼。畜生、そういうことなのか?)


 心臓が高鳴る。彼女の両眼に吸い込まれそうになる。


「ああ、言い忘れていました、ユート」

「……何だよ?」

「アナタ、わたくしの友達(ダチ)になりませんか?」


 いつかの焼き直しみたいな光景。

 ユートは息を吸うと、彼女の両腕から降りて、振り向かずに言った。


「悪いな。言い出したのは俺だが……保留にさせてくれ」

「は??」


 まさかの保留に、マリアンヌが真っ白になって硬直する。


(俺はまだ、お前の隣に並べるほど強くねえ。もっと、もっと強くなって、お前と対等の関係になりてえ)


 己の拳を見つめて、ユートは強く、強く決意する。



(そして何よりも──友達(ダチ)じゃ、不足だ)



 ぎらりとした焔が、ユートの両眼に宿る。

 それを見て、走ってきていたロイとユイが、足を止めた。

 不自然に見つめ合う三人に首を傾げながらも、リンディとジークフリートはマリアンヌの元に駆け寄っていった。


「……ユート君も、ですか」

「おう。よろしくな」


 宣戦布告だった。

 言葉にせずとも、意思は伝わった。


「忘れたか? こっちから求婚をしてる話は、なくなってはないんだ。引き続き話を進めさせてもらう」

「──婚約者は僕だよ。天地がひっくり返ろうともそこは変わらない」

「何度フラれようとも、諦めねえよ。タフネスが売りなんだからな」


 空間が軋む。


「初めてだ。生まれて初めて──欲しい(・・・)と思った。譲れねえな」


 瞳に業火を宿す者。


「それはおめでとう。祝福するよ。ただ、結末まで応援してあげる義理はない。君の望みは、僕が潰す」


 全身から雷電を散らす者。


「むむ……私としては仲良い人が暫定的な婚約者なのは、むしろ変な虫が寄ってこなくて助かるのですが……ロイ君とユート君だと悩みますね……」


 しれっと漁夫ろうとしている者。


『…………ッ!!』


 三者三様。

 まさしく今──恋のバトルも、佳境を迎えていた。








「……あんたいつか背中刺されるわよ」


 わたくしの身体に回復魔法をかけながら、リンディは顔をビキバキに引きつらせながら言った。

 隣ではジークフリートさんも腕を組み嘆息している。


「凄い話だな。ミリオンアーク家の嫡男と婚約しながらも、第三王子と、隣国の王子にも求婚されるとは」

「つまり──三国志ってことでしょうか」

「ちょっと何言ってるか分かんないわね」


 確かに内二名は同じ国に所属してるから、どっちかっていうと内乱だな……

 というか聞こえてきた会話的に、ユートが欲しがってるのってわたくしのことか? わたくし、モノではないのだが。



〇鷲アンチ フロートユニット獲得したのマジ?

〇外から来ました 自由飛行ではないけど、この世界って空飛べるの基本的に上位存在の特権みたいなとこあるんですけど……



【成程。でしたら、実際大きな進捗だったようですわね】



〇日本代表 あ、ルシファーが言ってたことに関しては、こっちでも一応調べておく。まずはクソジジイを締め上げ直すところからだな……お前も何かヒントになりそうなことがあれば調べて教えて欲しい

〇苦行むり それより人間関係どうすんの?



【初めてコメント欄との協力プレーを持ちかけられましたわね。分かりました。

 人間関係は……考えたくないです(思考停止)】



 おかしい。おかしいだろ!

 追放予定(わたくし)がモテてどうすんだよ……ッ!



〇宇宙の起源 お前もうちょっとマジメに追放目指してくれや

〇第三の性別 逆だ。本人は真面目に追放目指してこれだから、いっそ追放の逆をいけ



【追放の逆?

 といいますと主人公として最強を目指す王道バトルストーリーにシフトチェンジでしょうか?

 ならばまず他の禁呪保有者を叩きのめし、ルシファーと決着をつけて差し上げましょう!】



〇火星 ……………………。



【……………………今までと何も変わらないのでは?】



〇日本代表 だめっぽいなこりゃ

〇外から来ました だめっぽいっすね……



 こいつら、匙投げやがった!

 何もかも上手くいかない。いやマジで、大筋では間違ってないはずなのに根底のズレで全部台無しになっている。

 はがゆさと苛立たしさに心乱れてこのままだと膝小僧を抱え込んでしまう!



〇無敵 もう一度この手にチャンスをって再走じゃなくてバトルシーンで言うだろお前



 うっせー!!!! その通りだよ!!!


 トホホ~~~~!


 RTAなんてもうこりごりですわ~~~~!!


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