INTERMISSION24 VS『灼焔』(後編)
弾頭のように炸裂した拳が、一瞬で再生する。
マリアンヌがいた地点をどす黒い煙が覆うのを眺め。
「こ、これ……死んだんじゃ……」
安全地帯に避難していたユイは流石に頬を引きつらせながら指摘した。
見ればユートも『やっべえ……』みたいな顔をしている。
「ゆ、ユートッ! 君は加減というものを……!」
「す、すまねえ! だけどあいつ相手だと下手に手ェ抜いたら殺されそうだろ!?」
「それは! それは……あるが……!」
否定しきれずジークフリートは煩悶した。
「とにかく急いでゴーレムを消してくれ! 救護を──!」
ロイが超高速で、足下に雷電を走らせ。
黒煙の中に飛び込もうとした、その時。
「強くなりましたわね、ユート」
突き出した姿勢のままだった、ゴーレムの右腕が弾かれた。
ノックバックに巨体が数歩たたらを踏み、それだけでアリーナ全体が大きく震える。
「ええ。認めましょう。先ほどまでの戦術……良いでしょう。わたくしを一時的に、完全な劣勢に追い込んだと認めます」
ぞわりと、ユートの背筋を悪寒が走った。
煙が一気に吹き荒れ、円状に弾け飛ぶ。
「ですが、勝利を確信するには些か不足ですわね?」
そこに、いた。
全身から流星の輝きを放ち。
そして──両足の裏に、一際強く瞬く魔法陣を展開して。
「わたくしの心臓が動き続ける限り、
マリアンヌ・ピースラウンドが、腕を組んで空中に佇んでいた。
「……すげえな。流星は足場にもなるのか。とんでもねえ応用力だぜ」
「必要に迫られての工夫でしたが、なるほど。これはかなり使えますわね」
トントンと爪先で流星の足場を叩き、マリアンヌは嘆息する。
「体感として、出力の3%程度を割く必要があります。現状も15%を12%に引き下げて、余った3%を回していますわ」
「お前その辺、戦いながら計算してんの? マジで頭やべえな」
「褒め言葉として受け取っておきましょう。今わたくしが修練を重ねている方向性を考えると、悩ましいですが……飛行能力を持った敵への対抗手段、あるいは三次元戦闘の前提とするならば、大変に役立つ技巧ですわ」
マリアンヌが目指すべき極点は、遙か遠くに存在する。
即ち、常時100%のツッパリフォーム──
「……とはいっても、現状ではそもそも、ツッパリフォームは七割程度の出力で既にリソースを使い切ってしまいます。通常の十三節詠唱でも並列させられるのは六節程度。あらゆる方面において不足していると言っていいですわね」
「や、十三節詠唱と何かを並行させるって発想がそもそもおかしいんだけどな」
苦笑しながらもユートは心のどこかで確信していた。
先ほどまでの攻防で、仕留めきれなかった。
ならばこの戦い──天秤は逆に傾いただろう、と。
「ではお見せしましょう。流星を身体内部で循環させるのではなく、外部に固定することも可能だというのなら──宣言します!
「……ッ!」
親指を犬歯で切り、血を飛ばす。
同時、ツッパリフォームの出力を12%から10%に引き下げ。速度は落ちるが、支障はない。
そして10%なら並行して六節詠唱が可能だ。
「
右手を中心にして禁呪構築開始。
今まではただ拳に込めるだけだった威力を、腕全体を覆うようにして尖らせていく。
「
ただ鋭くするだけでは足りない。
必要なのは、破砕力。強固な壁を貫くのではなく、打ち砕くための螺旋!
「──
リザード戦ではツッパリフォームと詠唱は別個に操作していた。
だが今は違う。六節詠唱とツッパリフォームを噛み合わせる。相互に作用させ、一つの力へと昇華させる。
「何、を……ッ?」
「さあ刮目なさい! これがわたくしの新たなる力ッ!」
指を起点に飛び出した血流が腕に纏わりつく。
深紅の螺旋を描き、鮮血が明瞭に──ドリルを象っていく!
「なん、だそりゃァ……ッ!? 掘削用車両になったのかよ、マリアンヌ!?」
「ただでさえ最強の
「メテオメテオメテオ言い過ぎだろ!?」
慌ててゴーレムが右の拳を振りかぶる。
正面衝突を目前に。
マリアンヌはその双眸に焔を滾らせ叫んだ。
「必殺・悪役令嬢ロケットドリルパァ──────ンチッッ!!」
同時に突き出された右の拳が激突。だが拮抗は刹那にも満たない。
「ツァアアアアアアアア──────ッ!!」
ゴーレムの巨大な腕を、ドリルが片っ端から粉々に粉砕する。バラバラになった破片が巻き戻されるが、遅い。既に彼女はその先にいる。
己自身を弾丸に見立て、巨神を撃ち抜く。
まさしくそれは神話の如き光景。
「う、おおおおッ!?」
絶叫するユートの真下。
マリアンヌ(ドリル)は溶岩の巨兵の胸部へ到達し、勢いのまま向こう側への大穴を開け飛び出した。
ゴーレムの巨躯を貫通し、彼女はまさに流星の如く地面へ接触。
大地を削り砕きながらもブレーキをかけ、最後には白い煙を靴底から発しながらも静止。
颯爽と立ち上がり。
鮮血のドリルを解除して。
ビシイと天空を右手で指さし。
マリアンヌが雄々しく叫ぶ。
「
彼女の背後で、光が一瞬球状に溜め込まれ──『
「ぐわあああああああああああああああああああっ!?」
爆風によって天高く舞い上がるユートを背景に、マリアンヌは勝利の勝ち鬨を上げる。
「優れた禁呪とは? 強き禁呪とは? 答えは明瞭に示されましたわ! 最弱に非ず、最強! 始祖にして、頂点! あらゆる威光をかき消し、絶対の勝利を齎し、天をも切り裂く一筋の光! ならば大地如き恐るるに足らずッ! そう──このわたくし、マリアンヌ・ピースラウンドの『
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