INTERMISSION21 禁呪保有者の訓練
「むむ~ん」
朝の教室。
HRよりちょっと早く来て、わたくしはど真ん中最後尾のいつもの自席にてうんうん唸っていた。
「どうしたんだい?」
「それが朝から、届いてた手紙を見てあの調子で……」
すぐ傍で爽やか貴公子と黒髪主人公が心配そうに見てくる。
別に見せても問題ない、のかなあ。
「いえ、第三王子から手紙が届いておりまして」
「手紙……?」
手元で眺めていた手紙を二人に見せる。
顔を見合わせてから、ロイとユイさんはわたくしの両サイドに回って文面を読んだ。
『ミリオンアーク家との婚約関係を破棄する予定がもしあれば、第三王子妃となることをご一考下さい』
突然とんでもねえこと言ってきたな、と思った。
要するには求婚だ。流石は王子様、よく分かんねえことをする。
「婚約関係を破棄するなら……って、特に破棄する予定などありませんけどねえ?」
隣の婚約者に問う。
ロイは殺人鬼の顔をしていた。
ヒエッ。
「ま、まあ王子殿下も随分と物好きというか、暇なんでしょうかねえ?」
反対側の次期聖女に問う。
ユイさんはウェカピポの妹の夫みたいな顔をしていた。
ヒエッ……
「……どうするんだい?」
「……そうですね。返事はしないといけませんよ」
もう声が怖い。拷問でも受けてる気分になってきた。
「そりゃまあ、返事はしたためます。当然断りますわよ」
わたくしの返事を聞いて、なーんだなら良かったガハハと二人がいつもの顔に戻る。
死ぬかと思った。今の会話、選択肢ミスってたら即死してたという予感がある。
〇宇宙の起源 即死選択肢に対する危機察知能力、本当に惚れ惚れするな
〇日本代表 生存本能ヴァルキュリアじゃん
〇みろっく 何それ、同人誌のタイトルか?
〇日本代表 ……まあそんな感じ
違うだろぉ!?
ちゃんと説明してやれよ。マジで同人誌のタイトルっぽいから本当に信じちゃうだろ。
「はいそれじゃあHRを始めますよ~」
その時、合法ロリ先生が教室に入ってきたのを見て、わたくしたちは自分の席へと戻っていった。
……どうでもいいけど、この人は流石に悪魔じゃないよな? もしそうだったらアーサーの治世ガバガバ過ぎってことになるんだけど。
放課後。
わたくしは知り合いたちと共に、学校の訓練用アリーナを訪れていた。
「えっ!? 今日は禁呪十三節詠唱してもいいのか!?」
ユートの驚きの声に、わたくしは微笑む。
彼だけではない。連れてきたユイさんやロイ、リンディ、ジークフリートさんも疑り深い眼差しを向けてきていた。
「ええ。国王陛下がこのアリーナに特殊な結界を張って下さっていますから、ご安心を」
ほえーと一同感心する。
まさか禁呪に禁呪で対抗してるとは夢にも思わないだろう。
「し、しかし……流石に十三節は……」
信じられないといった表情を浮かべるユート。
禁呪保有者はどうしても全力の十三節詠唱をできる機会が限られるからな。気持ちは分かる。
「どうか遠慮なさらず……今までの分まで詠唱して下さい」
「…………」
「おかわりもいいですわよ」
「何が?」
ロイが半眼になって問うてきたが、まあ感覚的にはおかわりがあるんだよ。
わたくしとユートはみんなから距離を取ると、久方ぶりの十三節詠唱をスタートさせる。
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「
「
互いに起動するは、禁呪の出力を身に纏う形の現出。
外部装甲とするユートに対し、体内で流星を循環させるわたくしは、似ているようで異なる代物だ。
「ヨッシャァッ! 久しぶりの全力だ!」
「いいですね、ユート君! お手合わせ願います!」
「おお、いいぜユイ! かかってきな!」
目を輝かせてユイさんがユートの対面に飛び出す。
こと技巧においては、彼女に並ぶ者はそういない。だがユートは禁呪の鎧を纏った状態だ。
如何に対抗するのかと見守っていると。
「
「は?」
ユイさんが全身に二重の加護を発生させ、流石にわたくしも面食らった。
「えーと……あれ? あの人何してますの?」
ガンゴンドガドガ! と殴り合い始めた二人を指さし、震え声で問う。
隣にやって来たリンディが半笑いで口を開いた。
「反動でズタボロになっちゃうのは……その。力の扱い方の問題なんですって。ユイのやつ、ここ最近でかなり上手い使い方を分かってきたって言ってたわよ」
「…………そうですか」
〇red moon 覚醒のバーゲンセールやめろ
〇101日目のワニ パワーバランスこわれりゅ
ちょっとドン引きしたが、まあ彼女が強くなるのは喜ばしいことだ。
いつかわたくしを打倒する存在として、高みへと上っていくのを歓迎しない理由はない。
「じゃあ僕たちも始めようか」
「そうだな」
「私は水とか取ってくるわね」
ロイやジークフリートさんも稽古を始める。
中央を灼焔使いと次期聖女が陣取っているので、端っこで型稽古をする流れか。
「ではわたくしも」
ツッパリフォームを制御限界の15%に引き上げ、目を閉じて息を吐く。
架空の敵を想定する。今までは主にわたくしにとってのある種の強さの極点であるルーガーさんや父親だったが、今回はルシファーを想定。
目を開けば、わたくしの眼前には、白い体躯と黒い翼を持ったルシファーが佇んでいた。
『ほう。おれを選ぶとは……期待には応えよう』
喋るんだこの仮想敵。
「よろしくお願いしますわ」
『全力で来い。おれも最初からフルスロットルでいくぞ──宇宙拳法、秘伝の神業!』
「なんて?」
ルシファーがよく分からない構えを取った。シャドーとして一気に意味がなくなり始めたな。
呼吸を整えてから、左・右とリズムよく拳を突き出す。
「シッッ」
『当たらないな。今のお前は、音の出るオモチャみたいだ』
回避された挙げ句煽られた。
「はあああああああああああああああああああああああ!?」
ブチギレて、ワンツーを始動としたコンビネーションに移行する。
周囲の声が消え失せる。無心……極限の集中状態。至るは無念無想の境地である。このクソムカつく大悪魔のイケメンフェイスをぶち壊してえ!
「とぅぁっ!(掴み→下投げ) とぅぁっ!(空上) とぅあああああっ!(空前)」
『もっとコンボ練した方が良いぞ。空中で膝を当てられない奴は何をやってもだめだからな』
全部すかされた!
この仮想敵クッソうぜえんだけどぉ!
〇ミート便器 これ多分、周りには見えてないけど半実体では?
〇無敵 因子が活性化してますね……
〇つっきー くぁwせdrftgyふじk
しばしルシファーを追いかけ回していたが、結局一発も当たらなかった。
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