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INTERMISSION7 マリアンヌ・ピースラウンド、社会奉仕します!

「マリアンヌさん、大丈夫でしょうか……」


 審問会が終わるまで待機を命ぜられて、ユイたちは待機室にいた。

 落ち着かない様子でそわそわする一同を、ジークフリートは壁に背を預け見守っていた。


「オレも心配だが、マリアンヌ嬢だからな。最悪の事態にはならないだろうと思っている」

「それはそうなんだけど、今回ばかりは十割あいつが悪いじゃないの」


 リンディの言葉は実に正鵠を射ていた。

 不法侵入もさることながら、山頂に顕現していた神体を破壊したという。


「……あの霊山には教会からも何度か使者を送っていました。ですが山頂は危険すぎると言うことで……過去には犠牲者も出ていたんです。もしものことがあれば、教会は全面的にマリアンヌさんを支持します」

「タガハラ嬢。それは、最悪の場合には国が割れるぞ」

「構いません。国に何かを与えられたことはありません」


 迷いない断言だった。

 ジークフリートは息を吐いて、身震いを誤魔化す。


(やれやれ。シャレにならないな。タガハラ嬢は次期聖女としての地位もある……国王陛下たちが禁呪保有者を処分するとは考えにくい。しかし万が一があれば)


 本人に自覚はないだろうが。

 マリアンヌは巨大な組織それぞれの思惑の延長線上にいる。

 彼女の立ち振る舞い一つで王国が壊れかねないというのは否定できない事実だ。


(だからこそ、だ。オレのように……少しでも多くのことを知り、世界の不安定さを理解している人間が、彼女の傍で支え、導かねばならない)


 そして何よりも。


(かつて誓った。誰よりも強く在りたい。この世界で最強なのはオレだと高らかに叫びたい。そのための最後の障壁はマリアンヌ嬢になるだろうと、予感ではなく確信している)


 拳を固く握る。


(良い友人に恵まれたな、マリアンヌ嬢。だがオレは……守るべき、愛すべき友としてではなく。対等の立場として君の隣に並びたい)


 恐ろしい重圧だった。背負った大剣の何十倍にも感じる、気の滅入るような重荷。

 どこまでも続き、地平線すら貫通する道を、彼女は胸を張って真っ直ぐ進んでいく。

 追いすがらなくてはならない。血反吐を吐いてでも、ジークフリートはその背中に取り残されてはならない。いいや取り残されたくない。


(そういう意味では、ミリオンアーク君もライバルと言うことになるか)


 ちらと視線をやると、椅子に座ったまま、組んだ拳に視線を落とす男子が二名。


「……君たちが責任を感じる必要はない」


 うなだれるロイとユートに、ジークフリートは努めて優しい声をかけた。

 だが二人は首を横に振る。


「あの時、止められませんでした……」

「俺とロイがついていながらこのザマだ。責任を感じないわけねえよ」


 そうはいっても、調書を確認すれば『流星』を用いての大ジャンプだ。

 山頂まで文字通りのひとっ飛びで移動されては、ジークフリートとて対応できない。


「しかしな……」

「──お待たせしましたわ」


 バン、と勢いよく扉が開けられ。

 外からマリアンヌが部屋に入ってきた。

 一同慌てて彼女の元に駆けつける──が、先に口火を切ったのはマリアンヌの方だった。


「ロイ。あれ、どうでしたの?」

「えっ? あれ、って?」

「滝に打たれながらの修行です。効果は実感できまして?」


 異端審問会帰りとは思えない世間話を振られ、流石のロイも面食らった。


「ま、まあ……体内を循環する魔力を、よく細かく感知できるようになった気は、したかな……」

「なるほど。でしたらむしろ、今のわたくしにうってつけかもしれませんわね」

「そうじゃなくって! 審問はどうなったのよ!」


 まるで普段と変わらぬ様子に、リンディがくってかかる。

 だがそれに答えたのはマリアンヌではなかった。


「端的に言えば教育的指導を行うことになりました」


 マリアンヌの後から部屋に入ってきた、黒いシャツを着こなしメガネをかけた美青年。

 慌てて一同(馬鹿とユート除く)が平伏の姿勢を取る。


「だっ、第三王子殿下……! 失礼致しました」

「面を上げてください、皆さん。私は王子というより、審問官としてここに来ています……ですがピースラウンドさん。一応言っておくと今のは社交辞令であって平伏するのは礼儀です。胸を張っている今の姿勢は大変不適切ですね」


 両サイドからジークフリートとロイが同時にマリアンヌの頭をつかみ地面に叩きつけた。

 ぶぼあ! と珍妙な鳴き声を上げてマリアンヌが平伏の姿勢を取らされるのを確認し、グレン王子は満足げに頷く。


「よろしい。では端的に──マリアンヌ・ピースラウンドに対して何らかの刑罰を科すことはありません」


 ユイたちの地面に向けた表情が、ほっと緩む。

 直後。


「代わりに再発防止プログラムとして社会奉仕活動を命じます」

「ええ、承りましたわ」


 数秒の沈黙があった。

 誰もが顔を上げて、フレーメン反応を起こした猫みたいな表情をしていた。


「すみません、聞き間違えたかと……」

「マリアンヌ・ピースラウンドに社会奉仕活動を命じます。まずは、清掃活動からですね」

『絶ッ対無理ですよ!?』


 異口同音に全員絶叫した。







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【悪役令嬢】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【ご奉仕します】

『786,994 柱が待機中』


【次の配信は一時間後を予定しています。】


〇鷲アンチ    まあ無理だわな

〇苦行むり    流星で町ごと掃除しそう

〇101日目のワニ  レーベルバイト家とかあったっけ

〇適切な蟻地獄  覚えてねえ

〇火星      騎士団に装備卸してる工房のドンだな

〇適切な蟻地獄  サブクエに出てきただけ

〇みろっく    じゃあこれってサブクエなの?

〇red moon     う~ん、多分

〇日本代表    第三王子が依頼主なのはそうなんだけど…

〇宇宙の起源   ざっくり言うと世直しだよね

〇外から来ました 荒れてる三男をぶん殴るっていうやつだよな

〇ミート便器   ほぼGTAのミッションじゃねえか

〇無敵      マリアンヌにはぴったりだな

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