<< 前へ次へ >>  更新
62/240

INTERMISSION5 負けず嫌いの落とし前

 さてさて、ジャケットは完全に駄目になってしまった。

 脱ぎ捨てて、霊山の傾いた標高記載看板にかけておく。シャツも焦げているので脱ぐ。タンクトップしか残ってねえ。

 我ながら随分と刺激的な服装になってしまったな。


「それで……少しは落ち着きましたか?」

「おまえが な」


 横を見れば、身体が半壊したリザードが恨めしげな眼差しでこちらを見ていた。

 なんでも存在の中核であるコアは、少し違う位相の世界に安置しているらしい。神聖生命体にとってはむしろそっちの方が住処なんだとか。

 現実世界、即ちわたくしたち人類の住む世界に顕現するときは、身体を魔力やら何やら(例えば人の悪意など)で構築して降臨するんだとか。


「何しに来てましたの?」

「るしふぁー あらわれた だから きた」

「ふーん……」


 えっこいつルシファーの友達だったの?

 悪の幹部と突発エンカウントして撃滅したって考えればRTAっぽいな。



【これ加点になりませんか?】



〇101日目のワニ そりゃ加点だけどさあ!

〇ミート便器 普段からやれや



 いいことをしたのに怒られた。悲しい。

 うなだれていると、リザードが光の粒子に還元されながらも口を開く。


「おまえの りゅうせい おかしい」

「はあ? まだ言いがかりをつけますの! 何もおかしくありませんわ! これこそが闇を暴き、光を齎す至高の力! わたくしの『流星』こそが──」

「ちがう いままでの りゅうせいと つかいかた ちがう」


 言葉を止めた。

 それは、わたくしが聞きたかったことだ。


「具体的に、どう違いますの。勝者として聞く権利があると思いますが」

「……りゅうせい ほしをまとい そらをこがし だいちにみちるもの」

「それは……詠唱の引用、でしょうか」

「まほう えいしょう こんげんに とどく きんじゅ ちがう」


 は? と眉根を寄せた。

 魔法とは、この世界のあらゆる現象を『根源』にアクセスし再現するものだ。

 禁呪は違うのか? もしそうなら、既存の魔法とは文字通りに分類すら異なる代物ということになる。


「りゅうせい しきんせき そのあとのためのもの やくわり なかった」

「試金石……確かに初期型と言っていましたわね」

「だけど まりあんぬ ちがう」

「……ッ?」

「みつけられた よかった るしふぁーは もうひとりじゃない」


 安らかな声だった。

 リザードは、わたくしに負けたというのに安堵していた。


「ぼく るしふぁーのともだち なれなかった よわすぎた まりあんぬ ちがう なれる」

「…………アナタは」


 巨体の九割がもう粒子に還っている。

 鎌首を静かに地面に下ろして、リザードはわたくしを見た。


「せかい おわったあと るしふぁー さみしくない よかった」

「──! いいえ、いいえっ! 世界は終わりませんわ、このわたくしがいる限り!」


 やっぱりこいつ敵キャラじゃねえか。

 断固とした意志を叫ぶも、リザードはこちらを一瞥もせずに言う。


「りゅうせい せかい おわらせる ちから でしょ」

「は………………?」


 それきりだった。

 頭の根元から浸食していた分解が、舌の先まで達するまで。

 リザードは静かに空を見上げたままだった。






【……ん? こいつ今、結局先代方の使い方言わずに帰りませんでしたか?】



〇TSに一家言 そうわよ

〇日本代表 お前に話術スキルはない



【あああああああああああああああああああああああああああああああ!!】








「良かった無事だったんだねマリアンヌ! 『流星』が見えたときは何事かおおおおおおおおおおおわあああああああああああ何その格好!?」

「心配かけさせんなよったく! 俺もロイも関所無理矢理突破して来ちまっうおおおわあああああああああなんだその格好!?」


 一人で山頂から徒歩で下山していると、迎えに来てくれたらしい童貞二名と鉢合わせた。

 良かった。一定間隔で魔力放出してビーコン代わりにしたのが功を奏したか。


「ちょっと……すみません、ふらふらというか……」

「あわわわわ、じゃ、ジャケット、これ」


 ロイがわたくしの肩にジャケットをかけてくれた。

 そのまま足から力が抜け、わたくしは彼の胸に倒れ込む。


「────────────ぉふ」

「ロイ。お前今、ひっでえ顔してんぞ……」


 結局ロイにおぶってもらって下山することになった。

 自分でも全然力が入らないので、胸を思いっきり押しつけてしまっている。ロイの野郎耳まで真っ赤だ。そういう反応されると……こう、ここまでいくと、楽しい通り越してこっちも恥ずかしい……!


「お前それ、何持ってんだ?」

「え?」


 横を歩いていたユートが、ふとわたくしの右手を指さした。


「ああ、リザードの牙ですわね」

「ぶほっ」


 ユートがむせ、ロイが絶句した。

 しげしげと眺めてみるが、特に魔力反応はない。

 何かに使えたりするんだろうか。


「そんなに良いものですの?」

「こっ、国宝クラスの逸品じゃないか! ていうかリザード? え? まさか山頂でリザードと戦ったのかい!?」

「勝ちましたわ」

「あーこれ……もしかして……」


 ロイが呆然として、ユートは顔を引きつらせる。

 その時だった。


「動くな! 国境警備団だ!」


 がしゃがしゃがしゃ! と鎧の動く音。

 気づけば騎士たちに包囲されていた。


「山頂への不法侵入が確認された──おい嘘だろ、待ってくれ。何持ってるんだ君」

「へ? リザード? の牙ですけど」

「何した?」

「左腕を口に突っ込んで全開出力で内側から破壊しましたわ」


 数秒の沈黙。



「──逮捕だあああああああああっ!!」



 おっ。RTA成功かな?

<< 前へ次へ >>目次  更新