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PART27 その令嬢、流星の如く(後編)

〇脚本家 和、だと……?

〇日本代表 ああ、まだ習ってないかな?

〇脚本家 お前、馬鹿にしてるだろ!?

〇日本代表 うん。馬鹿にしてる



 気づくとコメント欄でレスバが始まっていた。

 何やってんだこいつらとドン引きしつつも、それを横目に、静かに呼吸を整える。


「準備はできたな?」

「ああ」


 ユートが鎧を蠢動させ、ぐつぐつと煮えたぎらせる。

 ジークフリートさんが大剣の剣先を後ろに下げ、剣道で言うところの脇構えの姿勢を取った。


「ええ……決着をつけましょう!」


 そしてわたくしの声を合図に。

 三人同時に、爆発的な加速でルシファーめがけて飛び出した。



〇日本代表 だって知らなかっただろお前

〇日本代表 だから、しょうがないから教えてやる

〇日本代表 こういう時には、こう言うんだよ

〇日本代表 ────和を以て貴しとなす、ってな!



〇脚本家 いや、ルシファーに対抗できる理由の説明になってないんだけど?

〇日本代表 っせーな死ねよ

〇第三の性別 こいつ途中で気持ち良くなってたな

〇日本代表 死ね、お前も死ね

〇日本代表 全員死ね

〇無敵 可哀想

〇日本代表 しね



 ルシファーが両手をかざす。

 不可視の衝撃波と、轟音を響かせる雷撃が迸った。


「しゃらくせぇっ!」


 先頭を走るユートがそれらを弾き飛ばす。

 続けざま、攻撃する暇を与えることなく次の一手。

 ユートの背中を踏み台にして飛び込み、ジークフリートさんが真正面から剣を振るった。


「オオオオオオオオオオオオッ!!」

「無意味だ」


 ルシファーは余裕の表情で右手をかざす。

 不可視の衝撃が放たれる。だが、ジークフリートさんは先程それを受けている。

 同じ攻撃が2度通用するほど、竜殺しは甘くない。


「来ると思ったさ!」


 騎士の身体が跳ねた。

 空中で姿勢制御し、放たれた衝撃波を足場に変えて、ルシファーの真上に移ったのだ。


「何ッ──だが、ただの人間如きに!」


 今度は左手を伸ばす。

 硬質な音こそ響いたが、大剣はあっさりと受け止められた。ルシファーが唇をつり上げる。

 だがそれに対し、紅髪の騎士は無感情に告げる。


「そうだな、オレはただの人間だ──お前はただの人間に両手を使わされたんだ、底は知れたな」

「……ッ!?」


 もう遅い。

 反対側。ユートの横を駆け抜け、懐に潜り込んだわたくしと、視線が重なる。


 ユートが防ぎ。

 ジークフリートさんがこじ開け。

 わたくしが撃ち抜く。

 三人がかりで数秒間を積み上げ、勝ち取った一瞬。


「ダメだな。不足しているぞ、『流星』使い」


 ルシファーの翼が閃いた。

 左の翼が、わたくしの肩を深く切り裂き。

 右の翼が、身体を守るべく覆い被さっている。


 最後の最後で、わざと残しておいた余力を使った形。

 諦めの悪い野郎だ。

 しかし──


「お忘れですか? わたくしは格闘家ではなく──『流星(メテオ)』使いでしてよ?」

「……は?」


 最終局面の、最後の一手。

 それは右の拳ではなかった。

 差し伸べているのは左手。銃口のように人差し指を突き付けて。

 わたくしは唇をつり上げて、バチンとウィンクした。


「BANG!」


 至近距離、四節版『流星』が炸裂する。十三節詠唱と並行して行える中での最大火力。

 発生した威力が、漆黒の翼を根こそぎ吹き飛ばした。

 身体正面はがら空き。既に右の拳は握り込み、眩いほどの輝きを放っている。

 勝利への道が明瞭に可視化された。ルシファーが慄き、口を開く。


「馬鹿な────『流星』相手に!? 最弱の禁呪相手に、この大悪魔ルシファーの権能が、破れるはずが……!」




【は??????????】




〇外から来ました あっ

〇みろっく あっ

〇脚本家 あっ

〇無敵 あ~あ



 ブチンと、血管の切れる音が、頭の奥で聞こえた。

 真っ直ぐ打ち込むはずだった拳を、アッパー気味に顎へ叩きつける。


「この期に及んでまだそんな世迷い言を────!!」

「あばーーーーーーーーっ!?」


 思いっきり打ち上がったルシファー。ダメだ、お前は星座にはしてやらねえ!

 大地を蹴り、わたくしは彼と同高度まで一気に跳び上がった。


「最弱の禁呪!? 最弱!? 最も弱いィィッ!? あったまきました!! 『流星』こそ最強だと何度言えば分かるのですか!?」

「ちょ、まっ……いや普通に事実……!」

「事実ですってぇ!? ソースは!? 根拠を出しなさい根拠を!」

「知らないのか!? 七種の禁呪とは、根本を構築したのは大悪魔ルシファーなんだぞ!? そのルシファーの知識が、『流星』が最弱だと断じているのだ!」

「は!? それは…………」


 は? ちょっと待って。え?

 あ~…………えっと…………

 ダメだ。反論思いつかん。



【こいつ、レスバにエビデンス持ち込んできやがりましたわ!! 許せねえですわ!!】



〇red moon なんだこの負け犬!?

〇苦行むり キャンキャン吠えて可愛いよな



 いいや、諦めない。

 諦めてたまるか。レスバは……レスバだけは、絶対に負けたくねえ!

 わたくしはルシファーの上を取ると、首を手で掴み同高度から一気に加速をかける。奴の身体を下敷きに、地面へ一直線に落下する。


「貴様、我を地面にぶつけるつもりか……!?」

「『流星』が最弱と言いましたわね!?」

「は!? あ、ああ、そうだ。初期型(プロトタイプ)故に、他の禁呪と比べ尖ったものがなく、また万能性も特にない。誰がどう考えても最弱の禁呪だ──」

「ですが! それに負けたアナタは最弱以下ですわ! よって『流星』は最弱ではなくなります!!」

「は? 何言ってるんだ貴様。いや本当に何言ってるんだ?」

「よってアナタの発言に矛盾が発生し、偽と証明されました! 一方わたくしの発言に特に反論はありませんわね? わたくしの勝ちということでいいでしょうか? はい勝ちー!! 証明終了(Q.E.D)ですわーーーーーーーーーー!!!」

「ええええええええええ意味分からん」


 身体内部で無数の『流星』がオーバーロード。

 猛スピードで落下するわたくしの身体が、空に残光を残す。

 ジェットコースターとは比べものにならないスリル。アドレナリンがドッバドバ出てくるのを感じる。


「待て! 落ち着け『流星』使い! この速度はどう考えても貴様も巻き込まれる! 自滅するつもりか!?」

「ご心配なく! 死ぬのはテメーだけですわ!」

「て……テメー!?」



 やっべお嬢様言葉崩れた。

 絶対に生かして帰せなくなったわ。ここで口封じのために死ね!




「──必殺・熱血悪役令嬢パァアアアアアアアアアアアンンチッッ!!」




 首を掴んだまま、わたくしはルシファーを下敷きにして、地面へ思いっきり突撃した。









 それはまさしく、一筋の流星が、夜空を切り裂くが如く。

 高高度から一直線に落下した光が、大地に突き刺さった。

 爆音と共に、一帯が大きく揺れる。


 粉塵吹き荒れる中で咄嗟に目を庇った後。

 ユートとジークフリートが、恐る恐る、落下地点を見やった。



「────大悪魔、ここに敗れたりですわ!」



 勝ち鬨と共に。

 砂煙を吹き飛ばして、少女が姿を現す。

 足下に物言わぬ大悪魔の骸を転がし、右手で天を指さして。

 マリアンヌは黒髪をなびかせて叫ぶ。



「『流星(メテオ)』こそが最強の禁呪! それ即ち、『流星』を操るわたくしが最強という証明に他なりません! これこそが天下無敵の拳、誰よりも先を行く不敗の拳ッ!! それを持つ絶対的勝者とは、ほかでもない──このわたくし、マリアンヌ・ピースラウンドですわッ!!」








「今のは……拳では、ねえだろ……」


 ユートのうめきを、マリアンヌは聞かなかったことにした。

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