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PART25 その令嬢、凶暴につき

 再び宿った『灼焔(イグニス)』を起動させたユート。

 彼は雄叫びを上げ、背中のマグマを炸裂させ一気に加速。


 ユートが踏み込む。ルシファーが迎え撃つ。

 神話の如き戦いだった。


 その舞台から少し外れたところにいて。


 マリアンヌ・ピースラウンドは。








 ────星を纏い(rain fall)天を焦がし(sky burn)地に満ちよ(glory glow)……



 視界が明滅する中、頭に叩き込んだ詠唱を口ずさむ。

 ああくそ唇が切れてて詠唱しにくいな。



 ────射貫け(shooting)暴け(exposing)照らせ(shining)光来せよ(coming)正義(justice)(white)断罪(execution)聖母(Panagia)



 駆け寄ってきたユイさんが必死にわたくしの名前を呼んでいる。

 あ、これ、意識朦朧としながら詠唱してるから、ヤバイ奴だと思われてんのか。



 ────悪行は砕けた(sin break)塵へと(down)……秩序はある(judgement)べき姿へ、と(goes down)



 魔力循環が絶えてないのが幸いか。

 なんか地面から凄え魔力を吸える。ユートが禁呪を使った直後だからだろう、幸運が味方してくれている。



 ────極光よ、この(vengeance)心臓を、満たせ(is mine)……ッ!



 詠唱改変が正確に作動。

 このパターンは初めてでぶっつけ本番だが、やるしかねえんなら、やってやるよ……!




完全解号(ホールドオープン)──虚弓軍勢(マグナライズ)流星(メテオ)……ッ!!」




 無理矢理に身体を起こす。

 意識が一気にクリアになった。一か八かの賭けに勝った。

 ユイさんが口をパクパクさせて、驚愕に目を見開く。他にわたくしを見ている者はいない。


「ま、マリアンヌさん、なんでそんな元気に……?」

「『祝福』は打てますか」

「……ッ。ごめんなさい、さっき無理をしすぎて、もう……」

「そうですか。ならばゆっくり休んでいなさい」


 舞台から明らかに外されたという実感があった。

 ユートもルシファーも、至近距離で殴り合い、攻撃を潰し合い、お互いしか見えてない。

 ふつふつと、胸の奥から怒りがわき上がってくるのを実感した。



〇脚本家 へえ、まだ立てるんだ。じゃあさっさと逃げた方が良いよ?



【うっさいですわね、キッズは黙ってなさい! 門限守らないとママに怒られますわよ?】



〇脚本家 き、キッズ……!? お前、馬鹿にしてんのか!



 ああそうだ、馬鹿にしてんだよ。何せ散々馬鹿にしてくれたからなあ!

 ムカついた。超絶ムカついた。久々にムカつき数値のマックスが更新された。

 絶対に許さねえ。タダでは帰さねえ。



〇101日目のワニ 勝算あるんか?

〇宇宙の起源 てか復帰直後にブチギレてるけど、どうしたんだ……



 どうしたんだ、だと?

 これが怒らずにいられるかよ!



【だってあいつ、わたくしの『流星(メテオ)』を馬鹿にしやがりましたわ!!!!!】



〇red moon あー……

〇脚本家 えっ、そこ? そこが理由?



【挙げ句の果てにユートはなんかベタ褒めだし!! ハア~~~~~!? わたくしの『流星(メテオ)』の方が強くてかっこいいのですが!? 絶対に分からせてやりますわ!!】



〇適切な蟻地獄 逆ギレっつーか斜め上ギレ過ぎる

〇無敵 お前の沸点は高い低いじゃなくてz軸がズレてるんだよ



 完全に沸騰した。

 わたくしは深く息を吸う。眼前でルシファーとユートが攻防を繰り広げている。攻防が成立している時点で異常だ。明らかにルシファーの出力は、わたくしたちの理を凌駕していたのだから。


 ならば。

 わたくしとユートの差を分けたのは、一体どういう要因だったのか。

 IQ5億の頭脳がギュインギュインギュインと稼働する。

 そして────



Downloaded(完全に理解した)



 腰を落とす。

 全身が沸騰したように熱い。光を身に纏い、湯気すら出ている。それもそうだ。今、わたくしの温度は急激に上昇しているのだから。

 長くは保たないだろう。だがそれでいい。

 あいつをぶっ飛ばすためには、デメリットを換算している余裕はない。


 今ここに──新たなる力が完成する。




「マリアンヌ・ピースラウンド────ツッパリフォームッッ!!」




〇脚本家 なんて??



 大地を爆砕して疾走。脚部から放出される光がアフターバーナーのように身体を押し出す。

 ユートが一歩引いた間隙に割り込む。ルシファーからすれば、突然わたくしが現れたように見えただろう。


「な────」

「ブッ飛ばして差し上げますわ!」


 腰の捻りから爆発的にパワーを乗算させ、拳に乗せて解き放つ。

 ルシファーの頬にわたくしの拳がめり込み、余波に大地が裂ける。


「ごッ、ぱ……!?」


 有効打、一発目!

 振り抜いた拳の残光が宙に尾を残す。

 ルシファーが吹き飛び、瓦礫に突っ込んだ。


「……は?」


 後ろでユートが呆然とした声を上げた。


「ここからはわたくしもダンスに混ぜてもらいますわ。円舞曲は得意でしてよ」

「い、いやそうじゃなくて……!」

「何か文句でも? もう十分、アナタの見せ場は作ったでしょう。ルシファーにも褒められてましたし。良かったですわね~~~~」


 腕をブンブン振り回しながら笑顔で告げる。

 うん、身体は問題なく動く。死にかけとは思えない。

 回復なんざミリもできてねえ。実際、わたくしの身体は、死亡寸前のままだ。

 だが動く。動ける。

 体内を極最小の流星が(・・・・・・・・・・)無数に駆け巡り(・・・・・・・)、わたくしの身体を動かしてくれている!


「剣は避けず、『流星(メテオ)』は避けた。わたくしにはダメージが通り、ユートは『灼焔』で立ち向かえている。ここから導き出せるのは、禁呪保有者ではなく、禁呪そのものならばアナタに対抗できるということッ!」


 そして幸いにも。

 禁呪を身体の一部に、あるいは身体そのものとして組み込む見本例は。

 まさに今、すぐ傍にあった。


「馬鹿な。動けるはずがない……何をした、『流星』使い……!」

「ハッ、ならば教えてあげましょう。わたくしの『流星(メテオ)』は、即ち勝利の栄光! 絶対無敵にして世界最高の、絶望を切り裂く一筋の光ッ!!」


 身体を起こし、呆然とこちらを見やるルシファーに対して。

 わたくしは右手で天をビシィと指さし、名乗りを上げる。



「それを自在に操るわたくしこそ、世界で最も選ばれし存在! わたくしの名はマリアンヌ・ピースラウンド! 最強にして、最速の令嬢ッ!! 開幕(ここから)はツッパらせてもらうので……夜露死苦出酸破ぁ!」



 さあ、レースを始めようぜ!








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【熱血令嬢マリアンヌ】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【始まります】

『7,777,777 柱が視聴中』


【配信中です。】


〇適切な蟻地獄  なにこれ?

〇TSに一家言   えーっと、流星の応用かな(意味不明) 

〇無敵      隠しボスをチャプター2で殴り倒す女、マジで何?

〇脚本家     待って待って待って待って何それ

〇火星      もしかしてこいつ……自分の身体を宇宙だと仮定して、そこで流星を顕現させてるのか……?

〇みろっく    えぇ……(ドン引き)

〇苦行むり    反動で死ぬゥ!

〇鷲アンチ    死ぬ前に殺せば良いんだよ

〇red moon     ウッキウキで顕現したルシファー君、訳の分からない女に殴り飛ばされた模様

〇太郎      初狩り狩りお姉さん

〇脚本家     そんなの聞いてない!!頭おかしいんじゃないかこの女!?

〇外から来ました 今更過ぎる

〇ミート便器   おいおい初見か?

〇日本代表    これが俺たちのお嬢なんだよ!!……残念なことにな

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