PART22 その終末、降りそそぐ
何事!? 何事だ!?
ゴジラぐらいでかい闘技場がぶっ壊れたんだけど!?
「……ッ、マリアンヌ!?」
吹き上がる粉塵を切り裂いて、いの一番にわたくしの元に来たのはロイだった。
「何があったのですか!?」
「それはこっちの台詞だ! どういう状況────」
そこでロイは、わたくしが第二王子に首根っこを掴まれているのを見た。
結構体格差があるせいで、ぷらーんと浮いている。息しにくいんだよ下ろせ。
「……どういう状況?」
「ああ、ミリオンアークか。こいつは任せた」
据わった目で問うロイに対して、第二王子は乱雑にわたくしを放る。
「ちょおおおっ!?」
「うおおおおっ!?」
金髪貴公子に抱き留められ、わたくしはロイにしがみついたまま第二王子に怒鳴った。
「なんてことしますの! 淑女を投げ捨てるなんて!」
「そ、そ、それどころじゃないってマリアンヌ! あわわわわわ吐息が甘い香りが……ッ!」
動揺してる場合か! もうちょい女慣れしろボケ!
わたくしはロイから飛び降りると、吹き荒れる煙を『流星』で薙ぎ払う。
「
「……ッ、
ロイも共に短縮詠唱で一帯の爆炎を切り裂いた。
そうして視界が晴れると、そこには呆然としているユイさんと。
こちら側に吹き飛ばされ、地面に倒れ伏すユートの姿があった。
「……ッ? 勝敗が付いたのですか? 随分と派手にやりましたわね……」
「違うぞマリアンヌ嬢、何か妙だ」
声のした方を見れば、ジークフリートさんとリンディが、破壊された闘技場から飛び降りて来ていた。
第二王子と第三王子がいるのを見て、ジークフリートさんは慌てて、彼らの前に壁として陣取る。おつとめご苦労様です。
「リンディ、妙とは?」
「ユートの動きよ。突然動かなくなっちゃったの、何かがあったのよ!」
幸いにも破壊された闘技場側の客席に、観客はいなかったらしい。
警備の騎士たちが慌ててやってくる中で。
「ぎゃっはははははははっ! 効いたか!? 効いたよなあ! あの水を飲んじまったよなあ、ユートォオォォ……!!」
哄笑を上げる男が一人。
兄王子が呆然と尻餅をついているのを一顧だにせず。
弟王子がユートの元に駆けよって、その身体を靴底で踏みつけた。
「……お、おい。お前、何を言って?」
「兄上も一緒に仕込んだでしょうゥ……!? アレはお前を仮死状態にする毒が入ってたんだよ! なんで怪しまねえかなあ、馬鹿な木偶の坊!」
倒れ伏す弟を足蹴にして。
彼は王子にあるまじき凶相で、犬歯をむき出しにして吠える。
「なあ兄上、手はず通りにいっただろう? こいつを仮死状態にすれば、禁呪は次の保有者を捜し求める!」
「────!?」
弟王子が、パカリと三日月の唇を開ける。
「こいつは何かの間違いで、俺たちより高い適性を持っていた。だがな、いったん死んじまえば、こっちのもんだ! 俺と兄上が二人で一人の禁呪保有者になる! お前はもう用済みなんだよッ!!」
がごん、と蹴り飛ばされ、ユートの身体が転がされた。
意識のない彼が抵抗できるはずもなく、力なく倒れたまま。
瞳を閉じた、泥にまみれたその顔を見て。
────────ブチリと、頭の奥で嫌な音がした。
「……見下げ果てたぞ。貴様、誇りはおろか、人の心すら捨てたか」
第二王子の声色は恐ろしいほど低く、ついに彼は抜剣した。
だがわたくしは、彼の前に進み出て、腕を伸ばし制止する。
「何のつもりだ、ピースラウンド。俺はあれを斬らねばならない」
「心中お察し致しますわ、王子殿下。ですが────」
ああ、畜生。
怒りに歯が砕けそうだ。心臓がうるさい。頭に血がのぼってふらつきそうになる。
「あの男は、わたくしの友の心を弄び、侮辱し、いいように利用しました……!」
楽しかったのだ。
ユートと過ごした日常。走り抜けるような日々だった。悪い奴じゃないって。本当は良い奴なんだって、いやでも分かっていた。
「許すことは、できません。このマリアンヌ・ピースラウンドの友を……わたくしの日常を構成していた男をッ! 何よりも弟を何と思っているのですかッ! 恥を知りなさい!!」
自分でも恐ろしいほどに、声は怒りに震えていた。
臓腑の底から、灼熱が絶えず吐き出されている。全身を怒りが循環していた。
「ハッ────ハハハハハハハハハッ! お友達になってくれたのかよ、ありがとうなぁ!」
「その口を閉じなさい、下郎……! 貴方のようなクズ、一発では済ませません!」
右の拳を握り、一歩前に踏み出した。
詠唱しつつ接近してあの顔面に拳を叩き込む。思考がその行動だけに染め上げられていた。
だから気づくのが遅れた。
「…………ぁ?」
弟王子が、空を見上げた。
つられて一同も視線を上げる。馬鹿、
「…………なん、だ、あれは」
だが。
すぐ隣のロイが、呆然とした声を上げ、わたくしは注意自体は弟王子に向けたまま、顔を上げた。
オーロラがあった。
空を緑色のオーロラが埋め尽くしていた。
「……は?」
待て。おかしい。こんなになかった。
上空に敷き詰められた緑の極光。背筋を悪寒が舐める。首に死神の鎌が触れたような気がした。
オーロラが、拉いでいく。軋み、歪み、折り曲がって重なっていく。
違う。あれは違う、あれは、わたくしの知っているオーロラではない。
オーロラが重なっていく。
オーロラが形を成していく。
オーロラが腕と足を象り、身体を、背中から伸びる翼を形成していく。
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【王子で】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【遊ぶドン!】
『6,666,666 柱が視聴中』
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〇鷲アンチ あ~あ
〇外からきました 悪 魔 豪 臨
〇宇宙の起源 やっぱオーロラ出たらリセだわ
〇苦行むり 乱数に嫌われすぎだろ
〇みろっく このタイトルは詳しくない、何が起きるの?
〇適切な蟻地獄 端的に言うと常に無敵バフ張ったヤバい悪魔が出てくる
〇太郎 誰が出るかな~?
〇red moon ベルゼバブ?アスモデウス?アモン?ベルフェゴール?
〇脚本家 いや、ルシファーが出てくるよ
〇TSに一家言 本当にルシファー出てきたらリセどころの騒ぎじゃねえな
〇日本代表 おいそいつ誰だ
〇第三の性別 確かに初めて見た名前だな
〇日本代表 違う!そいつのIPが
〇適切な蟻地獄 えっ
〇無敵 …………え?
〇脚本家 あは☆
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白い身体を、黒い呪紋が駆け巡り。
白い髪が風になびき。
鋭い両眼の下に、血涙の如き深紅のラインが引かれた。
ばさりと、翼が広がる。
それは世界の裏側と呼ばれる異界──『地獄』を統べる存在。
「人間よ」
声は衝撃波すら伴っていた。
ビリビリと鼓膜が痺れ、思わず膝をつきそうになる。魂魄を砕くような畏怖があった。
「聞け。そして己が末路を受け入れよ」
リンディが力なく座り込んだ。ロイの手が震えているのが見えた。ジークフリートさんが王子たちに退避を叫んだ。
わたくしさえも、立っているので精一杯だった。
「ここに顕れたは、大悪魔ルシファーが権能────貴様らは、ここで絶滅する」
終わりの使者が、空から、流星のように降ってきた。