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PART20 その王子たち、暗躍し

 ハインツァラトス王国領の闘技場外部。

 わたくしはよろよろと立ち上がる二人の王子を眺めながら、優雅なティータイムを楽しんでいた。


「今に見ていろ……! さっきは後れを取ったが、次はないぞ!」

「お、弟よ、俺まだ脚がガクガク言ってるんだ、今だけは喧嘩売らないでくれ。というかちょっと俺たち方向性を見直すべきでは? 本当になんでこんな計画立ててるんだ?」


 ん? 思わず眉根を寄せた。

 兄王子がやたら弱気になっている。

 一発もらって戦意を失うやつの顔は見飽きているが、それとはなんか違う。


「何言ってるんだよ兄上! これが正しいって巫女も言ってたじゃないか!」

「いやそうなんだが……あれ? 正しい、はずだよな? 正しかった。確かに。だけど……ん? やっぱこれちょっとおかしいだろ……?」

「そうするって決めたじゃないか! 相手がなんであれ、巫女が言ったんだから!」


 揉め始めているが、こう、何かが違う。戦意を単純に失っただけじゃない。

 殴られただけでこんなに意見を切り替えることがあるだろうか?



〇TSに一家言 いやまあ、お星様になりかけたから怖がるのは分かるんだけど

〇適切な蟻地獄 ん~……? こんな会話あったっけ?

〇red moon ていうか王子二人、なんか原作とキャラ違うよな



 コメント欄もちょっと戸惑っている。

 わたくしもこう、なんというか、言いようのない違和感を覚え始めた。

 さっき八節詠唱パンチを叩き込んだ兄王子。さすがに頭吹き飛ばないよう調整したつもりだったが、顔が全然腫れてない。それはおかしい。歯が砕ける程度には指向性を持たせたはずだ。

 眉根を寄せ、自分の中に芽生えた違和感をよく分析していた、その時。



「やれやれ。試合よりこちらの方が、余程面白い光景になっていますね」



 聞き覚えのある声がした。

 ガバリと顔を上げると、そこにいた。アリーナの外廊下に佇み、こちらを見下ろす二人分の影。


「少々優雅さには欠けていますが、これはこれでよし。いい見世物です」


 ニッコニコ笑顔なのは、我が国の第三王子たしか

 そして隣で明らかにキレ散らかしてる表情の第二王子おそらく

 二人の王子が、わたくしたちを見下ろしていた。


「……い、いつからそこに?」

「ちょうど舌戦が始まったところからです。とはいえお互いにすぐ沸騰していましたが……」

「は? 負けてないですが?」

「言ってる傍からこれなので驚きですよ」


 第三王子が肩をすくめる。こっちはハッキリ覚えてる。禁呪大決戦でわたくしを庇ってくれたからな。

 一方。


「……まったく、特級選抜試合は両国の平和の象徴だというのに、けしからん!」


 うわっ第二王子激おこじゃん。

 肩を震わせ、彼は怒髪天を衝くといった様子だった。この人わたくしを裁判にかけようとしたから苦手なんだよな。


「とはいえ兄上も手を出すつもりはないようだ」


 メガネをくいと指で押し上げつつ、もう一人の王子様が苦笑した。

 え、そうなん?


「フン、当たり前だ。獅子に野良犬が噛み付くのを、勇んで止める理由はない。だがピースラウンド! 状況が状況であるが故に看過するだけだ。本来なら他国の王子を殴り飛ばすなど、追放刑でもおかしくないぞ!」


 何……だと……?



〇みろっく まさかお嬢、これを狙って……!?

〇ミート便器 ないない

〇鷲アンチ 気に入らない相手をぶん殴っただけだろ



 実際狙ってたわけではないですけども。

 だがしかし、追放というワードには反応せざるを得ない。

 そういやこいつら王子だったな。喧嘩売っちゃいけない相手に喧嘩売って追放とか、悪役令嬢の誉れじゃん!


「そしてハインツァラトスの王子たちよ。ピースラウンドは我が国の次代を担う希望だ。それを拐かそうなど言語道断! 我が国への狼藉だ!」

「い、いやちょっと待ってくれ。俺今状況があんまり分かってないんだ」


 兄王子が狼狽している横で、弟王子が拳を振り上げる。


「うるせえ! 機械化の進んでない、時代後れの分際で! お前らの国に上から指図される筋合いはねえな!」

「貴様、この期に及んで──!」


 第二王子が、腰に下げた剣の柄に手を伸ばした。

 両者共に、一触即発。兄王子はオロオロしてるだけだし、第三王子はヘラヘラ笑って見ているだけ。

 フン。完璧に理解した。

 追放の花道、見えたぜ!



【ここで紅茶をひとつまみ……っとw】



 わたくしは弟王子に近づくと、持っていたティーカップを頭に叩きつけた。


「そぉい!!」

「ぶぼっっ!?」


 バッシャーと紅茶をひっかぶって、弟王子はもんどり打ってその場にひっくり返った。



〇外から来ました ひとつまみの量じゃない

〇日本代表 かけ声に野蛮さがにじみ出てるんだよ



 RTA、完! これが一番はやいと思います(迫真)

 アチチチチチ! と悲鳴を上げて弟王子が地面を転がる。いい光景だ。

 一仕事終えた心地よさにうんと伸びをして、わたくしは二人の王子を見上げる。どっちもぽかんとしていた。

 へいへい、かかってこいよ。これは言い逃れできない追放刑だろ。


「……ふ、ふふっ」

「く、くはははははははっ!!」


 二人の王子は揃って爆笑し始めた。

 は?


「ひー、ひーっこれはこれは、ははっ、ひっはははははっ!」

「良いな! ピースラウンド、お前なかなかやるじゃないか! ははは、はっはっはっは! 豪毅な女だ、気に入ったぞ!」


 は???



〇第三の性別 やることなすこと全てが裏目に出る女

〇鷲アンチ 王子をしばいて王子の好感度を稼ぐ女

〇外から来ました 今日のラッキーアイテムは、紅茶~!そぉい!!



 なんかツボを刺激してしまったらしく、第二王子と第三王子は涙が出るほどに笑っていた。

 クソが……! なんか追放の方がわたくしを避けているような感じさえあるぞこれ!


「──というか、待ってください。今お二人がここにいるということは、第一王子しか残ってないことになりますわ。流石にまずいのでは?」

「何を言うか。そいつらでさえ幻影を置けたんだ、俺たちにできないはずがないだろう。随分と低レベルな幻体だったからな、何か怪しい動きをしているに違いないと踏んで探しに来たんだ」

「それと、兄上なら最初から来ていませんよ? 王城からあの幻体を動かしているんです」

「はぁ!? サボりじゃないですか! 王城で何をしているというのです?」

「いや、まあ、それは……」

「……部屋で寝てるんだよ、あの人……」

「えぇ…………」


 第一王子、マジでこう……アレな人なんだな……



〇無敵 第一王子、屈指の泣き√やぞ



 マジ?

 なんかこう表面しか知らない人に関してガンガン情報だけお出しされるの違和感凄いな。現実でもこのシステムあったら立ち回りメッチャ楽そう。


「クソがッ! 余裕ぶりやがって!」


 考えにふけっている間に、どうやら回復したらしい。

 弟王子が髪から滴る紅茶を袖で拭いつつ、わたくしを睨む。


「お似合いですわ。水も滴るイイ男、というやつでしょう?」

「ふざけるな! その余裕も今のうちだぞ!」


 そういやさっきも次はないとか言ってたな。

 単純な捨て台詞じゃないのか。こいつらなんか、もう一枚ぐらい伏せ札持ってるな?

 上等だ。


「ええ、ええ。でしたら楽しみにしておきましょう。ここからどう逆転するのか、お手並み拝見といこうじゃありませんか」


 わたくしがそう告げると同時。

 第二王子と第三王子が、ひらりと飛び降りてきた。

 すぐ隣に着地した直後、第二王子がわたくしの首根っこを掴んで勢いよく飛び退く。


「ぐべっ」

「すまん! だが許せ! そこは危険だ!」


 ほとんど猫のようにひっつかまれているわたくしのすぐ目の前で。

 闘技場──その側面が、勢いよく爆発四散した。

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