PART7 その速度、誰も並ばず(前編)
──────────────────────────────
【わたくし自身が】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER2【バイクになることですわ】
『12,642 柱が視聴中』
【配信中です。】
〇第三の性別 マジでバイク奪い取る気なのか…
〇TSに一家言 ていうか世界観的にバイクでいいのか?
〇苦行むり 隣国は機械化に力入れてるからな
〇鷲アンチ 過渡期あるあるの技術差よ
〇日本代表 細かいことは気にするな
〇適切な蟻地獄 レーサーエンドあるのほんと頭おかしい
〇みろっく えっ、なにそれは…(困惑)
〇無敵 このゲームEDが三桁あるからな
〇みろっく 草、コンプにどんだけかかるんだよ
〇火星 三桁あるEDの中でも五指に入る隠れエンドを共通ルート中に未発見フラグ建てた令嬢がいるらしいな
〇外から来ました 希望√の先駆者全員発狂してそう
〇日本代表 まあレギュが狂ってるから、多少はね
〇無敵 強くなるほどに選択肢が増えるゲームだからレベルアップが狂ってればそらそうなるよ
〇ミート便器 雷おじさんの功罪は大きい
──────────────────────────────
校舎から遠く離れた、馬用のグラウンド。
そこでわたくしは、ユイさん、ロイと共に一台の巨大な機械絡繰を眺めていた。
「こいつが、ウチの国の先進技術部が造り上げた最新鋭の
赤を基調とした二輪車。装甲が流線型に本体を覆っており、かなりイケている。
全長だけなら正直、人間が4人ぐらい乗り込めるだろう。だが大半は機械構造や外装に占められ、大型のコックピットシートは1人分しかなかった。
へえ、とロイが腕を組んで『マシンランナー』を検分し始める。
「これは凄い……いや、本当に凄いと思う。そっちの技術者は優秀だね」
どうやらロイの男子としての心にも強く訴えかけるモノがあったらしい。
パッと見た感じ、現代的を通り越して完全に未来に行っちゃってるデザインだ。
「どうだマリアンヌ、イイだろう?」
「最高ですわね」
「断言されると照れるな」
ああ、これが今からわたくしのものになると考えただけで身震いするぜ。
「そっちの準備はどうだ?」
「問題ありませんわ」
「
幼い頃より共に草原を駆け抜けた駿馬。
その名もヴァリアント──そして鎧を纏いし状態の名は、『
「……今朝も思ったけど、でっけえなこの馬」
「当然でしょう。偉大なる存在とは、必然にして大きさを伴うもの。小さい、軽いは存在の矮小さを示す言葉に他なりません」
「そうかい? 今朝のマリアンヌは随分軽かったが……」
ユートが腕を組んで唸る。
その時、ガッとロイが彼の肩を組んだ。
「軽かった?? 何の話だい??」
「えっ、あっ、いや……ちょ、急に話しかけられるとビビるって……」
「マリアンヌの重さをどうして君が知っているんだい?」
「近い近い近い! マリアンヌ助けてくれ!」
王子様スマイルがこんなに恐ろしいと思ったのは初めてだ。
嘆息して、わたくしは手を叩き意識をこちらに向ける。
「ロイ。ユートさんはわたくしを善意で手助けしてくれたのです。スカート越しに太ももに触ったとはいえ責める道理はありませんわ」
「なんで手助けのフリして地獄に突き落とした!?」
「
「ほらあバチバチ言い始めてる! あばばばばばば」
まあ軽い電気マッサージみたいなもんでしょ。
ユイさんが「やばいですって! 外交問題一歩手前ですって!」と叫びながらロイを引き剥がす。
そうだよなあ外交問題ワンチャンあるからなあ。このバイクもらうときもどうにかうまいことやんないとなあ。
閑話休題。
『マシンランナー』と『流星号』が並び、機械絡繰には魔力が充填され、わたくしの愛馬はスタートを今か今かと待っている。
「んじゃあやっていくかぁっ!」
「ええ、よろしくてよ」
わたくしは魔力障壁を階段状に立てて『流星号』にまたがる。
同時にユートも『マシンランナー』へと乗り込み、その凶悪な駆動音を響かせて。
「ッシャ……
!?
〇ミート便器 そういやこんなキャラだったな
〇red moon レジェンド・オブ・ダークネスさん!?
「
「え……誰ですか……?」
ユイさんが完全に怯えきった様子で、ロイの後ろに隠れた。
へえ……バイク乗るとキャラ変わる感じなんだこいつ。
おもしれー男。
「
完全に顔の作画が変わっていた。
ケンカの話の時間とか始めそう。
暑苦しさが別方向へと加速して、わたくしは思わず嘆息する。
「やれやれ……
「いや感染ってる感染ってる感染ってる!」
ロイが絶叫した。
「そんな超スピードで相手に合わせることがあるのかい!? 令嬢から一番遠いところに行ってるけど!?」
「
驚愕の声を上げるロイに対して怒鳴り。
わたくしは『流星号』の上で天を指さし、見得を切る。
「
ああそうだ。
横を走る奴がそういう方向で走るなら、同じ土俵で相手を叩き潰す。
それこそが令嬢の嗜み!
「なかなか
「ええ、夜露死来出酸破ぁ!」
「なんて!?」
混乱するロイとユイさんを置き去りに。
わたくしとユートは、同時に加速をかけた。
先んじるのはやはり『マシンランナー』。車輪が地面と噛み合い、爆発的に車体を押し出す。
だが『流星号』とて負けていない。蹄が大地を砕き、粉塵をまき散らしながら爆走を開始した。
〇火星 スピードにはもう慣れたのか?
〇苦行むり いやあ昨日の今日どころか今日の今日でそれは……
甘く見ないで欲しい。
わたくしは『流星号』の上で上体を倒すと、猛然と加速をかける。
「さあ
立ち上がりこそ遅れたが、わたくしは前方を走る赤いバイクの背後にピタリとついた。
〇第三の性別 こいつ、適応してる……!?
〇ミート便器 超スピードに対する適性まで持ってんのか……!
それだけじゃない!
「ハハッ、流石だなマリアンヌ! だがまだ
「まさか──
草原を真っ直ぐに疾走する中、段々と両者の距離が縮んでいく。
「何……ッ!?
背後に振り向いたユートとわたくしの視線が結ばれる。
不敵な笑みを浮かべれば、彼は額に汗を滲ませた。
予想通り、彼の走り抜けたルートはその車体によって空気が押しのけられており、空気抵抗が低下している。
「
「
たまには現代知識で無双しねえと神様転生の意味ねえからなあ!
〇平成の善逸 見たか!?スリップストリームだ!その一点に賭けろ!
〇二律背反 遊星!スリップストリームで私についてこい!
〇木の根 どっから出てきたんだこいつら
ただ背後につくだけでなく。
効率の良い加速は、転じて最高速へのシームレスな加速になる。
勢いのままに横へずれ、わたくしと『流星号』は、一気に『マシンランナー』の隣へ並んだ。
さあ、レースはこっからだ!