PART4 その王子、授業はそつなく
ユートを転校生として迎えた最初の授業。
屋外グラウンドにて、マリアンヌたちは火属性魔法の実践講義を受けていた。
「まずは転校生。君の実力を測っておきたい」
担当講師が彼を前に呼び出す。
彼はユートの爪先から頭頂部をスッと見ると、目を細めた。
「ほう……まさしく火属性を得手とする魔法使いだな。祖国で相当に訓練を受けたと見える」
「見ただけでも分かるのか! 先生、あんたやるな!」
「言葉遣いには気をつけたまえ」
釘を刺しながらも、教師は少し開けた場所を指さした。
「二節でできる限りの規模を撃ってみなさい」
「あいよぉ! ……って、二節かあ」
詠唱を重ねれば重ねるほどに魔法の威力は増し、また複雑さも増す。
これは詠唱によって形成された、結果として発生する事象を事細かに設定できるからだ。
故に、安全地帯で詠唱できる時間があればあるほど魔法使いは有利となる。
「これはあくまで実践講義だ。そして、一年次の頃から、
視界の隅でマリアンヌが凄い勢いで頷いていた。
彼女もまた詠唱改変に関して一家言ある身だが、火属性担当講師はこの辺りが実に彼女と意見が合う。
機会があればお茶でもしながら大詠唱の切り詰めに関して討論したいとお互い思っていた。
悪役令嬢になる日はとても遠い。
「ん~~~~」
魔力を練り上げながら、ユートは目をつぶって唸り。
「ふむ。こうかい? ──
顕現するは巨大な炎の龍。
グラウンドに現れたそれは、蛇のような胴体を巻きながらも、頭部が校舎屋上に並ぶほどの巨躯を誇っていた。
全身から立ち上る熱量に、じりじりと空気が焦される。
「たった二節詠唱で『炎龍』を!?」
「五節分ぐらいの魔力を感じるぞ……!?」
数秒、クラスメイトたちが目を見開いた。
二節詠唱とは思えない威力。通常、詠唱を切り詰めれば切り詰めるほどに威力は弱まる。単純に用いる魔力量が減るのは無論、発動する魔法に不具合が生じないよう、ある程度は魔法の規模・構成そのものを削らなければならないからだ。
故に魔法使いの優劣を決める要因として、詠唱改変の技巧は大きなファクターとなる。
優秀な魔法使いは、威力の変動を最小限にしつつ詠唱を切り詰める。
しかし。
数秒目を見開いた後、クラスメイトたちは「へーすごーい」と、普通の驚き方に移行した。
(……ッ、おいおい。結構自信あったんだがな、こいつを普通に流すかい?)
その様子を観察していたユートの方が逆に面食らってしまう。
(これでも驚かないってなるとなあ。よっぽど平均レベルが高いのか、あるいは……もっと凄いのを見慣れてるかだな)
意識のレベルを見極める上では重要な材料だ。
静かに生徒たちの様子を観察していた、その時だった。
「──
横合いから飛来した流星に、炎龍は身体の半分以上を消し飛ばされた。
「……ッ!?」
ユートは思わず目を見開いた。
不定形であるはずの炎を穿ち、破壊するという理不尽。
炎龍が解けるようにかき消える中、ガバリと流星の飛来元へ顔を向けた。
「……暑苦しい上に見苦しい魔法。わたくしのいる場には相応しくありませんわね」
ぞわりと。
屈指の魔法使いであるはずのユートの背筋を、悪寒が走った。
──マリアンヌ・ピースラウンドが、冷え切った眼差しでこちらを見ていた。
「人にお見せできるような出来だと思いますの? ほら、花が焦げてしまいますわ」
「あ……」
炎龍がいた場所に歩み寄り、マリアンヌは花弁の半分が黒く焼け焦げた花を見下ろした。
白く細い指で、それを丁寧に摘み取り。
「美しさで終わるはずのものが、醜くなってしまうなんて……なんて哀しい」
ぐしゃりと手の中に握り潰す。
その横顔は、妖しくも美しいとユートには感じられた。
わたくしは激怒していた。
授業中にすごい魔法を使ってみんなを驚かせたの、普通に死ねよと思った。
こっちが『流星』ブッパしても全然リアクションなかったもん! またかよ……みたいな顔してたもんこいつら!
【わたくしより目立つなんて許せませんわ。やはり嫌がらせを敢行しようと思います】
〇適切な蟻地獄 堂々と言うことか?
〇red moon もうちょいやることある
【まずは服装ですわね。短ランをわたくしも着込んで、あの男の個性を潰してやりますわ!】
〇みろっく ファンの人みたいになるね……
〇火星 完全に『族』が完成するな
【ならば逆! あれを没収して無個性にするというのはどうでしょう!】
〇外から来ました 秩序維持側なんだよなあ
〇ミート便器 風紀委員悪役令嬢かな?
【ぐぬぬ……な、ならもう……決闘でブチ殺すしか……】
〇日本代表 それやれっつってんだよ!
〇無敵 最後の最後に当てずっぽうで正解選ぶカスのクイズ番組やめろ
そういうことになった。