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PART3 その男、王子につき

「転校生を紹介します~!」


 合法ロリ先生の言葉に、教室がざわめいた。

 既に新学期が始まって一定時間が経っており、ある程度はグループも定まっている。

 休み時間になると集団を作る生徒たち。声がデカい集団とそうでもない集団。あるいは集団になれていないぼっち。色々ある。

 だが全て関係ねえ。何故なら、クラスカーストの頂点に、単独でわたくしが居座っているからな!


「この時期に転校生って、珍しいですね」

「平民入学したアンタには負けるわよ」


 この、当然のような顔で両隣に座っている女共、邪魔。

 わたくしという存在は孤高にして頂点。友人など不要なのだ。


「どうして二人ともそこに座っていますの? 魔法で床パカッてしますわよ」

「絶対魔法じゃないわよねそれ。明らかに仕込んであったでしょ」

「こんなこともあろうかと夜なべして作業しておりました」

「努力の方向音痴すぎる」

「え? ていうか冗談だと思ってたんですけど、本当にやったんですか?」

「モチロンですわよ」


 ポケットからスイッチを取り出して押した。

 パカッとわたくしの席の床が開いた。


「おおおおんん!!」


 椅子が落下していき、わたくしは床面に両手でしがみつく。

 押すボタンミスった! 徹夜作業はやっぱり精度が下がるからダメだな……


「馬鹿オブザ馬鹿」

「本当に何をやってるんですか……?」


 両隣に引っ張り上げられた。なんか捕獲された宇宙人みたいにされたな。

 床を元に戻したが、椅子が落ちてしまったので仕方なく空気椅子に座って足を組む。滅茶苦茶キツイ。だが令嬢とは足を組んで優雅に座っているもの! 全身がプルプル震えていても、我慢だ! 両サイドからビシバシ冷たい視線が突き刺さっているが、我慢だ!

 そうこうしている間に、もう転校生は入ってきて教壇に上がっていた。


「俺はユート! 名無しのユートと呼んでくれ!」


 特徴的な外見と元気のいい名乗り。印象に残りやすいだろう。

 生徒たちは驚いたように目を見開き、隣と何事か小声で話したりしている。……単純な驚愕ではない様子だった。


「……名無しだなんて言ってるけど、れっきとした王子だったはずよあの男。私たちの国と直接戦争したことはないけど、経済面ではライバルね」


 リンディの言葉に、ユイさんがそうだったのかと驚愕する。

 教室の生徒たちが狼狽えてる中でのそのリアクション主人公っぽくて好きだよ。


 まあそれにしても、ふむ、なるほどな。

 流石に魔法学園の生徒、要するに貴族の子供なだけある。皆自国だろうと他国だろうと、お偉いさんをある程度頭の中に叩き込んでるわけだ。

 ……わたくしはまあ、人の名前とか覚えるの苦手なので。仕方ないね。


「色々立場はある身だが……この学校に通う限りは忘れてくれ! 俺はこの学校中の生徒と友達(ダチ)になりに来た男だぜ!」


 最後の言葉に、一層ざわめきが強くなる。

 まあ他国の王子なんてモロに戦力偵察って感じだもんなあ。


「以上だ、よろしく頼むぜ!」


 ユートは白い歯を輝かせてそう締めくくると、先生に促され教壇を降りた。

 ちょうどその時だった。

 空いてる席に座りに行こうとしていたユートと、わたくしの視線が重なった。


「おっ、マリアンヌも同じクラスだったのか!」

「ええ。今朝方ぶりですわね」


 どよめきが広がった。

 ああそうか。他国からの転校生だから、わたくしと知り合ってるとなると辻褄が合わないか。


「元気そうで何よりだ! ところで、なんで空気椅子なんだ?」

「今朝、手助けしてくださったその心意気には感謝しますわ。ですがあの程度は自力でどうとでもできました、なれなれしく話しかけないでくださいます?」

「つれないなあ。だが、美人ってのはそういうものだからな、分かるぜ! ところで、なんで空気椅子なんだ?」

「ふっ、不調法者にも華の美しさは分かるようですわね。そう、荒野に凜と咲き誇る一輪の花こそこのわたくし。それさえ理解出来たら、大人しく自分の席に戻りなさい」

「そうだな、だけど俺はお前と友達(ダチ)になるのを諦めねえぜ! ところで、なんで空気椅子なんだ?」


 うるっせえ! スルーしろや!


「もしかしてイジメか……!? 誰だよマリアンヌの椅子を持っていった奴は! 許せねえ!」

「本人です」

「こいつをいじめられるやつクラスにいないわよ」

「マリアンヌがマリアンヌをいじめているのか……?」


 ユートは混乱して目を白黒させていた。


「まあ、イジメじゃねえってなら別にいいぜ。よろしくな」


 手を差し出された。握手か。

 鼻で笑い、わたくしは顔を背ける。


「ちょ、ちょっと相手は王子よ? 流石に……」

「いやあ、気にするな。マリアンヌがそういう手強いやつだって言うのは分かってるさ」


 リンディに小突かれるも、ユート自身があっさりと手を引っ込めた。


「だけどなマリアンヌ。まずお前だぜ。お前をこの学園での友達(ダチ)第一号にする! 悪いが俺は、かーなーり諦めが悪いぜ!」


 胸張って言うことかよ……


「……マリアンヌさん、どうします? この間合いならやれます」

「何がです? 何をするつもりです?」


 ユイさんが完全に据わった目でそう言ってきた。

 怖い怖い怖い。



〇木の根 乙女ゲーっぽくて草

〇ミート便器 矢印がズレてんだよなあ

〇第三の性別 隣で猟犬みたいに目をぎらつかせてる人工聖女、本来の第一号はお前だよお前



「そういやマリアンヌを朝、学校まで連れてきたときには会えなかったんだが……俺の護衛がいるらしくてな」

「まあ、立場が立場ですし当然でしょうね」


 ユートは周囲をキョロキョロ見渡す。


「なんでも呼べば来るとか言ってたんだが、相当に強そうな人だったぜ。学園での友達(ダチ)第一号はマリアンヌだが、こっちの王国で最初に友達(ダチ)になってくれた人だ! えーと確か……」

「──ユート、オレならここだよ」


 低い声が聞こえると同時。

 教室の片隅に、いままで意図的に消されていた存在感がぶわっと噴き上がる。

 そこにいたのは紅髪長身、屋内戦闘用に軽装備を着込んだ騎士だった。


「ジークフリートさん……!?」

「やあ」



〇外から来ました やあじゃないが

〇鷲アンチ お前本当はここが初登場だろうが!



「オレが彼、ユートの護衛として任命されてね。護衛対象にタメ口を要求されるのは初めてで驚いたよ。それと、今回はミレニル中隊の部下も来ている。今度紹介しよう」


 ちょっと久しぶりの再会だった。

 思わずわたくしはテンションが上がって、とてとてと彼の元へ駆け寄ってしまう。


「あらあら、いいですわね。特上の茶葉を用意してもてなして差し上げましょう」

「お手柔らかに頼むよ。オレもそうだが、お茶の味が分かるやつはいないものでね」

「そんなの特に期待してませんわよ、お馬鹿さん」

「手厳しいな」


 薄々気づいてはいたが、この騎士、わたくしとかなり波長が合う。

 こうして会話をしているだけでも楽しいのがその証拠だ。


「紹介って……騎士に、マリアンヌを紹介するんですか」


 その時、ロイがやたら低い声を出した。

 なんか変なこと言ったか?


「……? ああ、そのつもりだ。オレにとっては貴重な友人だからな」

「──!」

「まあそうですわね。ジークフリートさんならば、ギリ友人として認めて差し上げましょう」

「ふっ。君から認められるとは、光栄だな」


 ユートがちょっと羨ましそうにジークフリートさんを見ている。

 ふふん、付き合いの差ってやつだよ。


「ちょっとちょっと、いいのあれ。お互いの立場忘れてんじゃないのあれ。確かに教会の抜本的な改革は既に始まってるらしいけど」

「滅茶苦茶ムカつくね」

「そうですね。トップの教皇様こそ据え置きですけど、その……次は私って、ほとんど決まってますし。私も、ちゃんとやるつもりですし。改革派の若い聖職者さんたちが、構造を一新し始めてますよ。報告がよく来ます」

「それでも対立はそう簡単にはなくならないわ。貴族院と教会、魔法使いと騎士は、まだ相対する宿命から逃れられたわけじゃない」

「滅茶苦茶ムカつくね」

「でも……世界を変える。いいや、世界の頂点に君臨すると叫ぶためには……あれぐらいできなきゃ、だめなんですよ。きっと」

「…………かも、しれないわね」

「滅茶苦茶ムカつくね」


 三人組がわたくしとジークフリートさんを見てなんか難しいこと言ってた。

 まあ、関係ないか。

 とりあえず騎士たちとお茶して加護のブチ抜き方考察しておこっと。毒が効くかどうかはかなりデカいからな。


「あっそうだ、ピースラウンドさん~」

「? はい」


 とりあえず時間が取れそうなのはいつかとジークフリートと話しているとき。

 合法ロリ先生がわたくしのすぐ傍に来て、非常にイイ笑顔を浮かべた。


「教室の無断改造について話がありますので~、放課後職員室に来てください~」

「はい……」



〇TSに一家言 残念でもないし当然

〇幼馴染スキー RTAなのに時間を無駄にしまくるプレイヤーの屑



 ぐうの音も出ねえ。

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