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PART1 その令嬢、頭が悪く

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【心機一転】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA CHAPTER2【鎧袖一触】

『11,379 柱が待機中』


次回の配信は未定です。


〇日本代表    そういうわけで、やることは変わりません

〇日本代表    適切なルートを選択し

〇日本代表    迅速に目的を達成してください

〇日本代表    もちろん、善人追放RTAとしてのスコアは

〇日本代表    高いほど次の人生に影響を与えます

〇日本代表    ……本来のあるべき世界ではないのですが

〇日本代表    あなたにとっては関係ないでしょう?

〇red moon   初見RTA配信だからな

〇太郎      これから先にはどんな異常世界が待ってるんだろうな

〇みろっく    ワクワクしかしねぇー!

〇外から来ました 誰も知らない禁呪が出てくるのか…

〇木の根     結局解析もできないままだったもんな

〇無敵      生まれ変わったような気分でいってほしい

〇日本代表    ちなみに責任者にはケジメつけてもらいました

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 カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされ。

 目もとを拭いながら、わたくしはうんと伸びをした。

 立ち上げられているコメント欄には、視聴者兼運営者の中でも結構偉そうな人たちが励ましの言葉を書き込んでいる。

 話し合いに参加していたらしきアカウントは、普段と異なる口調のコメントを残していた。



〇火星 既存の追放ルートを走るなら正直キャラビルドも現状獲得した称号も役に立たないのだが、これはこれで趣があるというモノだ

〇鷲アンチ 雷おじさんのガバがあったのはしゃーない、切り替えていけ



【いや……あの……】



〇無敵 君の視点では、私たちがこうしてレギュレーションを再設定し、もう一度走り出せるよう手を回しているのは、道理が通らないように見えるかもしれない。だが忘れないでほしい。我々運営者、君たちの言う神は……全柱が運営者であり、同時にエンターテイメントを享受するカスタマーだ。変わらず全力で応援しよう



【そうじゃなくってえ……】



〇ミート便器 どうかした?

〇木の根 何か心配事でも?




【いやどうかしたじゃね~~~~~~~~んですわよ!!!! オメーーらの仲間のガバのしわ寄せなのに何ヘラヘラ励ましてきてるんですかバッカじゃねえんですの!? ロクに仕事もできねえカス共ッ……!】




〇第三の性別 最後のだけもっとお嬢様っぽく言ってくれ



【無駄労働お疲れ様ですわ、仕事を増やして周囲に恨まれることしかできない無能さん】



〇第三の性別 助かる



 なんだこいつ(ドン引き)



 こうしてRTAのレギュレーションが再設定される中。

 実は少しだけ、わたくしの生活に変化が起きていた。








 授業を終えた放課後。

 わたくしは寮内の喫茶室でテーブルに羊皮紙を並べ、羽根ペンを優雅に走らせていた。

 ああでもないこうでもないという試行錯誤の結果、実に十枚程度の羊皮紙がもうゴミになっていた。


 唸りながら頭をかきむしる。

 その時、ティーカップを片手に、何者かが対面に座ってきた。顔を上げる暇も惜しく、魔力を照射して反射角度で身体座標を割り出した。このちみっこい貧乳は……リンディか。


「何かご用ですか?」

「……さっきから何してんの?」

「見て分かりませんの? 学生の本分とは学業。あなたたちのような下々の人間には分からないでしょうが、高貴たる者は努力を努力と厭わないのです」

「いやこれ勉強じゃなくて落書きよね。目を血走らせて机にかじりついてたわよアンタ。マジで怖かったからね」

「…………優雅に勉強していただけですわ」


 視線を逸らし、羊皮紙を鞄に詰め込もうとする。

 だが真横から白い手が伸びて、わたくしが描き上げていたそれをつまみ上げた。


「あっ、ちょぉっ」

「珍しいね、マリアンヌ。君がそんなに慌てるなんて」


 爽やかな笑みを浮かべて現れるのは、周囲の女子たちから視線を一身に浴びる貴公子。

 白いコートを制服の上に羽織った金髪イケメン、ロイだった。


「これは……何かしらのスケッチ、でしょうか」


 ロイの隣には、先日晴れて聖女候補者として指名され、校内で羨望と嫉妬を向けられている黒髪セミロングの少女、ユイさんがいた。

 三人はしげしげとわたくしのスケッチに魅入っている。


「見たところこれは……なんだ?」

「ふん。アナタたちなんかに教える義理はなくってよ」


 冷たく突き放し、髪をなびかせながら立ち上がる。

 しかしわたくしの挙動をすっかり無視して、三人はスケッチを覗き込み真剣に唸り声を上げていた。


「これは……これは、何だ……?」

「私はアリの葬式に見えるわね」

「どうしましょう、ありえないフレーズなのに否定しにくいです」

「全身全霊で否定しなさいな!?」


 流石に聞き流すことのできないイチャモンだった。

 わたくしはロイの手から羊皮紙をひったくると、バッと突き付けた。


「見れば分かるでしょう! 機械絡繰ですわ!! 全体を鉄製のボディで構成! この矢印は前後ろの明示で、本体内部に『魔力タンク』を設置! そして魔力により強化した車輪を装着して完成ですわ!」

「……何の話か分かるかい?」

「ぜーんぜん分かんないわね」


 ロイとリンディが首を横に振る。

 だが一人だけ、ユイさんはハッとした様子で口元を押さえていた。


「もしかして、工房へのオーダーメイドをするつもりなんじゃ……!」


 その言葉を聞いて、ロイたちも目を見開く。

 フフンと自慢げに笑みを浮かべ、わたくしは制服の胸元で輝く銀十字を見せつけた。


「アナタたちとわたくしでは存在のレヴェルが違うのですわ」


 完璧なうっぜー発音をかました後、わたくしはオーッホッホッホ! と高らかに笑う。

 そう。国王との契約関係を結んだわたくしは、王国の機密戦闘エージェントとして一定の権限が与えられていた。その権限の中には、なんと王立騎士団に装備を作っている工房へのアクセス権が含まれていたのだ。


「つまりこの権限によって、わたくし専用の装備をオーダーメイドできるということになりましたわ!」

「それは、まあ、そうなるね。うん……とはいってもなあ」

「あんたにこれ以上何か装備が必要だとは思えないわよ」


 リンディの声色はガチだった。

 ふん。考え方が浅い。浅すぎんだよ三流。真の一流はあらゆる可能性を精査するモンだ。


「黙らっしゃい。これ以上なく欠けているパーツがありましてよ」


 断言すると、三人は少なからずの驚きに目を見開いた。

 そう。忘れてはいけない。

 打倒すべき禁呪保有者がどこにいるのか分からない以上、RTAするなら移動時間の短縮は急務だ。

 徒歩? 論外。メテオでなんとか移動? 服が燃えてすっぽんぽんでエントリーする羽目になる。


「このマリアンヌ・ピースラウンドが操るに相応しいは、鋼鉄を身に纏う漆黒の猟犬。鞭捌き(ハンドリング)首紐(ブレーキ)を自在に調整し際限なく加速し続ける、わたくしだけに許された唯一無二の加速機構!」


 左手に羊皮紙、即ち設計図の原案を抱え、右手で天井を指さす。

 わたくしが導き出した回答は単純。

 造ればいいのである。



「────バイクを造りますわよ!」

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