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PART24 流星の少女

 聖女と戦い国王とあれこれ話してから、しばらくたった。



 くあ、と欠伸が出そうになるのを必死に留める。

 ガチで止めた。危ない。



〇みろっく 欠伸したらなんか影響あるの?

〇火星 カリスマ度が下がる



 そうそうそういうのが困るんだよね、と内心で頷く。イメージを崩すのはよろしくない。

 ここは魔法学園講堂。全校生徒がずらっと並んだ空間であり、そしてわたくしは今、講堂ステージにて表彰されていた。


「マリアンヌ・ピースラウンドを、御前試合にて行われた国王暗殺未遂事件の解決に尽力したとして、ここに表彰する」


 目の前に差し出されたのは銀色のバッジだった。

 銀十字章。国家運営に大きな利益をもたらした者に贈られる勲章。当然、一般的には戦時中多大な功績を挙げた者に贈られる軍事功労賞である。


「貴族がこれを受賞することはほとんどない。素晴らしいことだぞ」


 先生の言葉に、満面の笑みを浮かべて頷く。

 それから促され、背後へ振り向く。並んだ生徒たちの顔を眺めて、微笑みを浮かべた。


「それではピースラウンドさんに、拍手を」


 ぱちぱちーと安っぽい拍手が響き渡る。

 まあいいさ。

 権力を笠に着てふんぞり返るのも悪役令嬢の嗜みだ。


「では、一言……」

「はい」


 魔法で声量を拡張され、わたくしは背筋を正した。

 見渡せば、見知った顔が微妙な表情でこちらを見ていた。ユイさん、ロイ、リンディ。

 思わず素の笑いが出そうになる。なんか心配そうにしてんじゃねえよ。


 まあ気持ちは分かる。要するにこれは、首輪なのだ。

 箝口令は即座に敷かれた。わたくしが禁呪保有者であること、聖女が悪魔に乗っ取られていたこと、その他諸々……ほとんどの事実は非公開とされた。


 外へ伝えられた事実は、『御前試合会場にて国王が暗殺されそうになったこと』『教会内の人間が暗殺者を手引きしたこと』『聖女が混乱の中で負傷したこと』『わたくしが国王の暗殺を防ぐに多大な功績を挙げたこと』──大体この辺だ。


 要するにはほとんど嘘で塗り固められた虚偽の事実だ。

 教会の権威を失墜させつつ、聖女に悪魔が取り憑いていた事実は伏せた。教会の勢力を削ぎつつ、祝福システムを存続させたかったんだろうとユイさんは言っていた。


 そのユイさんもまた、予定通り学校に通い、卒業後にまた改めて聖女となるかどうかを打診されることになったという。


 そしてマリアンヌ・ピースラウンド。つまりわたくし。

 わたくしは国王直轄の憲兵団に数分程度の事情聴取を受け──悪の組織とか言ってごめんなさい。バリバリの事務系の方々相手だったので、とても気楽だった──憲兵団と騎士団上層部の合同で保護観察することになった。

 何かあれば騎士と憲兵がすっ飛んできてわたくしを両断するらしい。上等だかかってこいよオラァ!


 まあとにかく。


 つまりは。

 あるべき場所へと全てが収まったのだ。


「──非常に名誉ある勲章をいだだきましたこと、真に感謝致します」


 手を身体の前で重ね、令嬢としての佇まいを意識する。

 足を内股にするのも忘れない。もうこの辺は男だった頃の感覚が薄いぐらいだ。


「現在他国との情勢は比較的安定しておりますが、そんな中で、国内でこのような事件が起きましたこと、大変に心を痛めております」


 はー疲れるんだよな令嬢モード(これ)

 今日って晩飯なんだっけ。寮出るときに献立確認するの忘れてたな。ハンバーガーとかがいいな……


「ですが国王陛下、並びに王立騎士団の皆様は、教会の建て直しと一刻も早い国内の不安の払拭を約束してくださいました。わたくしたち誇り高き魔法使いも、市民が安らかに暮らせるよう国内の治安改善に尽力する必要があります」


 ていうかそろそろゲーム欲が高まってきた。

 向こうだと新ハードとか出てんだろうなあ。もうプレステ8とかになってんじゃないの? アーマードコアの新作はちゃんと出た?


「故にわたくしたちも証明する必要があります、わたくしたちが魔法を学ぶのは、決して机上で羽根ペンを遊ばせるためだけではないのだと。積み上げた教養が、築き上げた魔法体系が、人々の暮らしをより良くしていくのだと」


 なんかこっちで人生終えるまではゲーム絶対にできないって考えると泣きそうになってきたな。

 サードライフはセガとソニーと任天堂のある世界線がいいな。

 今度雑談枠の配信で視聴してる連中におねだりしとくか。


「そのためにこそ、わたくしたちは日々の学びを、一つ一つ丁寧に磨き上げていきましょう。この勲章はそうした未来を証明する、一つの切っ掛けになると信じておりますわ」


 最後に頭を下げる。

 講堂が割れんばかりの拍手に包まれた。万雷の喝采だった。

 顔を上げる。微笑みを浮かべて、立ち上がってまで拍手してくれる生徒らを見渡す。

 そうして最後にもう一度だけ、深々とお辞儀して。



 ────計画通り、と、伏せた表情を醜く歪めた。



 馬鹿共が。

 最後の最後にわたくしが裏切るなんて考えもせずに、愚かな雑魚たち。

 信頼を築き、カリスマを高めるほどに、それらは反転する材料となる。

 悪役としての姿を現したわたくしを打倒し、追放する動機となる。


 そう!

 王国の脅威を取り除き!

 最後の最後に強大な敵となって立ち塞がり!

 (恐らく)ユイさん率いる主人公パーティに敗北する!

 完璧だ。完璧すぎる。国王相手に直接最終決戦の予約を取り付けるとか神プレイ過ぎないか? こんなに自分の頭脳が恐ろしいと思ったのは初めてだ。


 TS神様転生して。

 悪のカリスマである悪役令嬢となり。

 平和を思う善人として役割を果たし追放される。

 その様子を配信する。


 勝った。

 神との約束全てを果たす目処が立った。

 わたくしのサードライフ、成功は確約されたッ!!



〇恒心教神祖 悪役令嬢っていうかラスボスの思考じゃん

〇無敵 RTAは?




 あっ…………




 ま、まあそれは適宜プレイングの妙ってやつで回収していくんだよ。任せとけって。ガハハ!

 そうしてお辞儀を終えて顔を上げたとき。


 なんか目の前に、配信画面とは別の画面が表示されていた。





 SYSTEM MESSAGE ▼

 条件を満たしました ▼ 

【王国の希望/調和を齎す者】ルートが ▼

 解放されました ▼ 





 なにこれ?




〇鷲アンチ ファッ!?

〇木の根 草

〇red moon 草

〇TSに一家言 草

〇外から来ました あーもうめちゃめちゃくちゃくちゃだよ

〇ミート便器 希望√ってこんな段階でフラグあんの!?

〇適切な蟻地獄 …………明らかに世界線がおかしいのはあるんだけど、でもこれ未発見フラグでは?




 え? 何?




〇みろっく えっと……これ、王国グッドエンドルートだよね?

〇火星 合ってる。王国をまとめ上げて大陸を統一するシナリオなんだけどとにかく要求値が高い。戦闘力はもちろん、カリスマ度と実際の学内支持率をほぼ上限に近い数値で維持して、政府・騎士団とも友好関係を結ばないと到達できない、所謂隠しエンドの1つだな

〇第三の性別 こんな序盤チャプターで解放されるのは初耳なので……レギュが狂ってるのを考えなければ新記録になるね




 は?

 え? え? はい?




〇無敵 要するに目指す先とは逆方向にRTAしとんねん

〇スーパー弁護士 お前、もうアウトってわけ






 …………はああああああああああああああああああああああ!?





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