PART22 処刑は嫌です
「────というわけで、本来聖女として選ばれるはずだったのがユイさんなので、彼女に祝福を重ねがけしていただいたのです」
「びっくりしました。一時的とはいえ多重に祝福をかけるなんて……普通の人は二重にかけただけで内側から弾け飛んじゃうのに」
「ユイさん? それ初耳ですわよ? え? え?」
なんかとんでもないことをサラッと言われてわたくしはフリーズした。
隣ではロイたちが事情を理解して唸っている。
「成程。本来の聖女を出し抜いて、悪魔が聖女に居座っていたワケか」
「なんというか……タネが割れたら、理解出来るわね。道理で禁呪を連発できたわけだわ」
「あのー……ユイさん、わたくし大丈夫なんですわよね? 効果切れたら内側からバーンってなりませんわよね?」
「大丈夫ですよ! 多分!」
「生殺与奪の権を返してください!」
どうする? 泣きながら靴とか舐めて一生祝福かけっぱにしてもらうか?
そう真剣に悩んでいるときだった。
「──事情は分かった。だが、聞きたいことはまだ別にある」
重い声だった。
思わず背筋が伸びた。背筋が伸びた? このわたくしが姿勢を正した?
「……ッ!?」
顔を上げる。
玉座に腰掛け、こちらの様子を見守っていた国王。
彼が冷たい目で、わたくしたちを睥睨していた。
「……国王、一体何を?」
「国王アーサー様の御言葉であるぞ! 口を謹んで傾聴せい!」
「いや、いい。跳ねっ返りのある方が、見ていて心地よい」
側近を手で制して、国王は口を開く。
「事情は分かった。詳しい聴取は、騎士団でなく王城の憲兵が行う」
「……憲兵?」
「魔法使いや騎士団とは独立した、何でもありの武装集団さ。部外者には存在すら知らされていない……実態も不明。国王を守るためなら何でもするって噂だよ」
ロイの小声の補足を聞いて成程と手を打つ。
「悪の組織ですわね」
「ああ。君に比べたらマシだけどね」
「言うようになりましたわね……」
それから国王アーサーは眉間を揉み、腹の底から重々しいため息をついた。
視線の先にはわたくしがいた。
とりあえず胸を張っておく。
「君さあ……禁呪、使ってたよね」
「はい」
「はいじゃないが」
「……はえ~」
「思考停止しないで。禁呪ってどういう文字か分かる? 禁じられた呪いなんだわ」
「そうですわね」
国王はわたくしを指さして告げる。
「そなた、処刑なんだけど」
「ンンンンンンンンン」
完全に忘れてた。
全員『そういやそうだったな……』と前提を思い出し、わたくしをガン見してくる。
あれ、バレたら異端審問で処刑じゃん。
「どうする? 処す? 処す?」
クッソ適当な口調で国王が周囲に意見を求める。
「い、いや確かに、許可なく禁呪を行使するのは極刑と定められていますが……」
「正直ここまで使いこなしている人材を見るのは希です。安易に処刑としてしまうのは、余りにも惜しい」
第二王子と第三王子の言葉。
狼狽えてるのが第二、わたくしに興味津々でじっとり見つめてきてるのが第三のはず。確か。第一は完全に興味なさげに黙って空を見上げていた。
こいつらの格上ムーブ、正直ムカつくな。『流星』降らしたろか。
「………………」
「やめておけ。もう騎士団本体が到着する。流石の君も、王立騎士団の大隊長クラス相手では分が悪いぞ。聖女でなく教皇から直々の祝福を授かり、それを育ててきた騎士たちだ。真っ向勝負では『
並列詠唱で禁呪の準備をするか、と悩んだ瞬間、ジークフリートさんに釘を刺された。
「それにオレとて、君が国に歯向かう存在となった場合は、全力を持って処断する」
「……できますか?」
「命に代えてでも殺す。何度も手札を見せてもらったからな、意地でもやるさ」
「流石。わたくしの知る中で最も騎士らしい騎士なだけありますわね」
「君を殺す、という言葉にそう返す君も流石だよ」
剣呑な会話だと思ったのか、ロイとリンディがそっとわたくしの両隣を固めた。
ロイなんて露骨にジークフリートとの間に割って入ったしな。なんだこいつら、盾にもならねえって分かってるくせに何やってんだ。足震えてるぞ。
──その時だった。
風だ。
風が吹いている。
わたくしの耳に、コロシアムを吹き渡る風の清らかな音が滑り込んでいた。
「……何ですの、この風」
「風?」
隣でロイが首を傾げた。
聞こえていないのか。いいやそれだけじゃない。明らかにこの風は魔力を帯びている。
「──
直後。
バツン、と嫌な音を立てて、それきり他の音が聞こえなくなった。
「な、ァッ……!?」
太陽が落ちた。
気づけばわたくしは底知れない闇の中にいた。
「これ、は──」
空間が断たれた。すぐ隣にいたロイとリンディの声も聞こえない。自分の立っている地点だけが明るく、それ以外が真っ暗になっていた。
魔法が作用しているのだ、ということだけは分かる。だが原理が分からない! どれだけ高度な操作を……そうじゃねえ! こんなレベルの大魔法、誰がやったんだ!?
「心配する必要はない。超高密度の風を配置して、空間の位相をずらしただけだわい」
声が聞こえ、恐る恐る顔を前に向けた。
そこに玉座があった。
そして玉座に、変わらず尊大な姿勢で腰掛ける、白い顎髭を蓄えた壮年の男がいた。
「いやさすがに、さっきの『
「……ッ!?」
禁呪を根元から削った、だと?
そんな芸当が国王に可能なのか──いいや、根本的にいかなる魔法でも禁呪に対抗できるはずがない!
〇火星 え? え??? は?? そういうことなの????
〇無敵 いやそれはほんとうにしらない
〇日本代表 オイ出てこい責任者ァ!どうなってんだこの世界線!?
コメント欄も同じ考えに至ったらしい。
そう、答えは一つしか有り得なかった。
「わしもそなたと同じだ──『
「その年齢で『だぞい』は少し聞き苦しくてよ……」
「お前ほんまに処刑したろか」
国王アーサーは青筋を浮かべていた。
やっべすぐキレんのかよ。更年期かな?