PART1 主人公はデレデレ☆
魔法学園の入学式会場は、地獄に成り果てていた。
「
降り注ぐ流星。
「
滞空する業火。
「
そして、眩い輝きが一面を守護していた。
それはパフォーマンス。
誰も傷つかない、見世物に過ぎない輝き。
だが、未来の栄光を夢見て魔法学園に入学した才能ある若人たちは、一様に理解した。理解させられた。
────頂点が、もうここにいるのだと。
「喧嘩をしましょう」
腹の底に響くような声だった。
それを聞いて、黒髪セミロングの少女、本来は主人公と呼ばれていた庶民出の少女は、これが貴族なのだということを魂に焼き付けられていた。
「わたくしと、それ以外。ええ、皆さん全員まとめて、わたくしがお相手します。わたくしこそが最強であることを、ここに証明します。そのために、この学園は存在するのですから」
地面に届かんとする優美な黒髪に、学園支給のワインレッドを基調とした制服を着こなし。
先の魔法大戦において最も多くの敵兵を殺傷した、実戦的戦術魔法の第一線を張る、ピースラウンド一族の長女。
「さあ剣を取りなさい。魔力を充填なさい。あらゆる敵を踏み潰し、乗り越え、その先にこそ勝利の栄光は与えられます!」
同学年の新入生とは思えぬ威圧感。
定期的に行われる御前試合においては二百戦無敗。
圧倒的な戦績と、相手の心を圧し折ってしまうその内容からつけられた異名。
「一族の誇りにかけて、断言しましょう! 勝利の栄光は、もうわたくしの手の中にあると!」
正しくその名にふさわしい、神の威光を携えて。
彼女は頂点から雄々しく叫ぶ。
「真の令嬢とはただ一人! それはほかでもない──このわたくし、マリアンヌ・ピースラウンドですわッ!!」
──悪役とは、理論的に、理性的に演じなければならない。
理論を詰めた。
理性を用いた。
単純な帰結が訪れた。
全員敵に回せば即追放でしょ。
そう一か月前の俺は、いやわたくしは思っていた。気を抜くとすぐ俺って言いそうになるな。
瞬殺されては悪役ではない。きちんと戦って、全員と対等な戦いを演じて、最後に敗れてこその悪役令嬢だ。
だが。
だが!
同学年全員を敵に回して、普通に勝ってしまった!
「…………」
寮の一室。
わたくしに割り当てられた個人用の独房に近い私室。
こんこん、とノック音が響く。
「どうぞ」
「失礼します、ピースラウンドさん」
部屋に入ってきたのは黒髪セミロング、過剰な華やかさのない、いわゆるナチュラル系の美少女だった。
見れば分かる。これはわたくしの敵だ。悪役令嬢が苛める、物語の主人公だ。
その名もユイ・タガハラ。
極東の血筋を引くという、庶民出の一般入学少女だ。
「あら、タガハラさん。如何な御用でして? もっとも、貴女が部屋にいるだけで空気が汚くなるのですが──」
「あ、えっとこれ、学年代表にって生徒会の人から渡された書類です」
どさどさと机に置かれる羊皮紙。
それを見てわたくしは完全な真顔になった。
入学式の大立ち回りを受けて。
学年の生徒たちは、わたくしを学年代表に推挙した。いわゆる生徒会とつながりを持ち、事務仕事のいくばくかを割り当てられる──将来的な生徒会への入会を約束されるポジション。
馬鹿じゃねえのか。
追放しろ! 追放しろ! 追放しろよ!
「……どうしてそれを、タガハラさんが?」
ぴくぴくとこめかみが震えるのを指でごまかしつつ、わたくしはタガハラさんに問う。
「えっ? 生徒会の人と、廊下ですれ違って。同じクラスだったよねって聞かれたから……」
「あのねえ、タガハラさん! そういったものを押し付けられて、なぜ素直に運んでくるのです! きっぱりと断りなさい!」
「えへへ。部屋に行く理由ができるなって思って……」
照れくさそうに頬を朱に染められ、うっと言葉に詰まる。
何を隠そう、わたくしは美少女に弱い。
「ならば書類を置いて、とっとと立ち去りなさい。貴女が部屋にいるだけで空気が臭くなる──」
「それでその、今日も魔法を教えてください!」
タガハラさんはガバリと頭を下げて、そんなことをのたまった。
「……わたくしの訓練を見ているだけなら、構いませんわ」
「! あ、ありがとうございます!」
顔を上げて、彼女はぱあっと笑顔を浮かべる。
「物好きですわね。貴女の魔法適性は最低ランク……わたくしを見るよりも、他の人を見た方が学びにはなると思いますが」
これは半分本当で半分嘘だ。
わたくしがただ普通に魔法を打つだけでは、何の勉強にもならない。けれどそこはうまく、彼女にも魔法を発動する工程が理解できるよう、見てわかるぐらいには遅く、分かりやすく行使している。
まあね。理由があるのよ。現状わたくしが追放されるためには、何かしらの失態を演じなければならない。ただそれらがうまくいかなかった時……単純な話にもう一度戻ればいい。
ユイ・タガハラに決闘で負ければいい。
彼女が強くなることをサブプランとして構えつつ。
日々を悪役令嬢として、あらゆる生徒に喧嘩を吹っ掛け、権力を笠に着てトラブルを巻き起こす。
「……だって私、ピースラウンドさんみたいな令嬢になりたいし……」
「? 何かおっしゃいましたか?」
いえ、とタガハラさんは頬を赤くしたまま、指と指を突き合わせる。
さすがは主人公、あざといしぐさがサマになってやがる。……訂正。おサマになっていらしてよ。
まあいい。
RTAは出だしこそ大失敗したが──
「……ここからですわ」
「?」
静かに拳を握るわたくしを見て、タガハラさんは首をこてんとかしげた。
入学式で追放されるチャートは完全失敗した。
だが、ここからだ。
力と金と女と血筋と名誉と地位と権力に満ちたサードライフをまだ諦めてはいない。
マリアンヌ・ピースラウンドはここからが強い。
追放されるためなら何でもやります!
自分、靴舐めます!
もう舐めしゃぶってテカテカにします!
だから、頼むから、追放してくんねえかなあ……
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【さてさて】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【どうなる】
『568,449 柱が待機中』
【次の配信は一時間後を予定しています。】
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〇無粋教神祖 どうにもならなかったンゴねえ
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〇日本代表 再走しろ
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〇外から来ました もはや広義の再走なんじゃねえかな
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