PART18 ベルは鳴り響く
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【騎士さん】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【ゆるして】
『800,000 柱が視聴中』
【配信中です。】
〇みろっく やったああああああああああ
〇火星 やりやがった
〇ミート便器 お前のような聖女がいるか
〇適切な蟻地獄 その低脳さで聖女は無理でしょ
〇無敵 聖 女 騙 り
〇雷おじさん ヒエ~ッw
〇鷲アンチ あーもうめちゃくちゃだよ
〇外から来ました きょ、狂人……
〇木の根 何をどうしたらこの選択に行き着くんだよ
〇太郎 馬鹿が考えた対抗策過ぎる
〇外から来ました 一生人狼すんな
〇日本代表 あ~こうするのかこの子は
〇無敵 いちゃもんでルート開拓しようとするのやめろ
〇日本代表 多分いちゃもんってわけでもない
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『…………ッ!?』
コロシアムは騒然としていた。
皆一様に困惑し、隣に確認を取っている。
マリアンヌ・ピースラウンドは何を言ったのか。聞き間違いでなければ、聖女をまがい物と断じた。要するには──教会に、喧嘩を売ったのだ。
「父上、御前試合の中断を」
即座に反応したのは第二王子だった。
玉座に腰掛ける国王に対し、彼は片膝立ちの姿勢で進言する。
「教会、それも聖女を見出した教皇様に対する明らかな不敬です。裁判にかけなければ──」
「ふむ」
あごひげをさすりながら、国王は他の王子に目を配った。
「……私はどうでも良いです。中断でも、再開でも、どちらでもよいかと」
興味なさそうな第一王子。
「随分と迷いなく断言しています。流石に虚言でここまで言い切ることはできないとも思うのですが……」
悩ましげに眉根を寄せる第三王子。
今日揃っていたのはこの三人だった。国王は数秒考え込むと、玉座から立ち上がった。
「マリアンヌ・ピースラウンド」
「はい」
「今の言葉、それを言い放つに至った根拠を申してみよ」
「はい」
発言を認められた。観客席がシンと静まりかえる。
「端的に申し上げます。──先日、わたくしがジークフリート殿に強化魔法をかけた際、聖女の祝福を効果量で上回り、打ち消しました」
「……!」
その言葉に、ジークフリートはマリアンヌの隣でハッとした。
突然証人として指名され、視線が自分に集中するのを感じる。だがそれも気にならない。
「騎士ジークフリート。マリアンヌ・ピースラウンドの言葉は真か?」
「ハッ──恐れ多くも、事実で御座います」
即座に平伏の姿勢を取りながら、騎士は頷く。
祝福とは、教皇あるいは聖女が騎士に授ける、騎士を守護の盾たらしめる最大の要因だ。
その祝福を無理矢理に剥がし、更なる強化を与えたとなれば──
〇TSに一家言 ん? それ普通に異端審問案件じゃないか?
【いえ、恐らくそうはなりませんわ。まあもしそうなったとしても追放でわたくしの勝ちなんですけれどね】
〇無敵 審問の結果処刑になったら追放エンドとは別枠だから失敗扱いだぞ
【…………………………】
〇無敵 おっと大ポカ発見伝
【キーーーーーーーーーー!! うるせ~~!!
いやうるせえとか言ってる場合じゃないですわ。ちょっと軌道修正しないと……】
「ですのでわたくしは思い立ったのです。聖女とは、即ち聖なる存在であるはず。ですが現状は、そうではないのだと。もしそうなら、わたくしの強化魔法を弾いて当然のはずですわ」
「……!」
あの時の感覚を思い出して、ジークフリートの首筋が微かに粟立つ。事実だった。聖女からの祝福を授かったはずの身体が、明らかに平時を超えた膂力を発揮した。
今まで自分を支えてきた祝福が、児戯だとすら感じたのだ。
「騎士ジークフリートよ」
「ハッ」
国王が再度、騎士の名を呼んだ。
「お前もまた、マリアンヌ・ピースラウンドが聖女の祝福を打ち消したことを認めるか? 無論これは、どちらかに与せよという意味ではないが……」
数瞬、ジークフリートは悩んだ。
自身のスタンスを定めるタイミングがやって来たのだと思った。聖女に対して悪感情を抱いているわけではないのだ。
「私は、聖女様より祝福を授かって、騎士として任命されております」
「うむ」
「故に聖女を聖女たらしめる要因が、もしもその祝福にだけ話を限ってしまうのであれば……確かに、現在の聖女様も、そしてマリアンヌ・ピースラウンド嬢も、どちらも聖女の資格を有するでしょう。それが、私の愚考するところであります」
シンと会場が静まりかえった。
教会側の、そして何よりも、今日の主役であったはずのジークフリートが、まさに今マリアンヌの言葉に対して証人となったのだ。
それを聞いて国王は顔を伏せた。肩が震えていた。怒りを買ったのか、とジークフリートはおののいた。
顔を上げたとき、国王は──口をつり上げ、満面の笑みを浮かべていた。
「──ハハハハハッ!! ぐわっはっはっはっはっはっ!! 愉快痛快とはこのことよ! 面白い、実に面白いぞピースラウンドの娘よ!」
「…………はい?」
哄笑を上げる国王を目の当たりにし。
マリアンヌを含む会場中の人間が口をぽかんと開け、三人の王子が頭を抱えた。
「ふふん。ミリオンアーク。いるだろうミリオンアーク!」
「は────こちらに」
貴賓席にて、ロイの隣に座っていた紳士が素早く膝をついた。
国王はニマニマと笑いながら、彼に声をかける。
「随分なじゃじゃ馬を持ち上げようとしたのう、ええ? 結果がこのザマか」
「…………」
「わしの知らぬところで色々動いていたこと、全部知っておるわい。今日の御前試合、ハッキリ言ってつまらぬ催しと思っておったが……蓋を開けてみればなんと。ミリオンアーク。どんな気分だ? 揃えたカードが勝手に動いておるぞ? クイーンがキングに楯突きおったわ! こんなに面白いことがあるか!」
ミリオンアーク家当主の伏せた顔が、屈辱に歪んでいることなど、誰もが想像できた。
言葉を切り、国王がマリアンヌに視線を向ける。
そこでジークフリートはふと気づいた。
このマリアンヌとかいう女、国王と視線が合っても腕を組んだまま不敵な笑みを浮かべている。
通常この振る舞いは、不敬罪で処刑である。
「申し訳ありません国王陛下ッ!」
「へぶあッ」
ジークフリートは彼女の後頭部を掴むと、地面に叩きつけるようにして平伏させた。
【イダダダダダダダ! 痛い痛い痛い痛い!】
〇外からやって来ました イタイイタイなのだった
〇TSに一家言 残念ながら当然
【女の子相手になんて乱暴な……!】
〇みろっく おwんwなwのwこw
【はあ!?どこからどう見ても女の子──】
〇雷おじさん あ゛?
〇ミート便器 なんだァ?テメェ…
〇無敵 IPぶっこ抜いた
〇芹沢 男勝り系女子相手なら悪口を言うことで信頼度を表現できるなどという小学生のような考え方は捨てろ
〇鷲アンチ だからなんでラーメンハゲがいるんだよ
【え……何この人たち、怖い…】
〇火星 いいからもう顔上げろ。聖女とご対面だぞ
「あらあら」
足音が響いた。誰かが貴賓席を歩いているのだ。
「あらあらあらあら」
ジークフリートに平伏するよう押さえつけられもがもが足掻いていたわたくしだが、騎士の腕力が緩んだ隙にガバリと面を上げた。
「可哀想な少女。運命に囚われ、宿命を定められた、可哀想な少女」
それわたくしのことか?
見ればそこに、聖女がいた。
教会のシスター服。首に提げたロザリオを両手で握り、その女は貴賓席から少女と騎士を見下ろしている。
「──私は聖女リイン。神託を授かり、教皇様に見出され、そして聖なる者としての天啓を得た者です」
「思ってたよりババア顔でババア声のババアですわね(小声)」
「君本当に処刑されても知らないからな(小声)」
クソが! おっぱい大きいって話だったじゃん! あんなん垂れる寸前だろーが! 話が違う!
まあ気を取り直して、わたくしは咳払いすると聖女を見つめた。
「ようやく顔を合わせられましたわね、聖女リイン」
「ええ。初めまして、マリアンヌ・ピースラウンドさん」
どちらが真の聖女か……白黒付けてやるよ。もちろんこっちが黒で頼む。
なるべく手痛い敗北をしたいから、めっちゃイキっておこう。
「アナタのような贋作を、わたくしは認めませんわ」
「贋作とは、なんて恐れ多いことを。私聖女リインは、神からの啓示を授かったのです」
ハッ。神?
そいつら、今この配信を見てんだよ。
〇ミート便器 聖女つったら金髪デカパイのチャンネーじゃねえのかよ畜生ォォオオオオオオ!!
〇適切な蟻地獄 ダマしたな!俺たちの清純な気持ちをもてあそんだな!!
〇red moon ババアがよお!すっこんでろよ!テメェに教えを音読されるいわれはねえ!
〇日本代表 香水くせえんだよクソババア!画面に入るな!お前は天国出禁じゃい!
〇無敵 一応この世界における神はワイたちとは別の概念なんだけどな……
阿鼻叫喚じゃねえか……
「神の啓示ですか。大層な言葉を使いますわね──果たして本当に?」
「なんと、神に疑いを抱くのですか」
「神ではありません。アナタが疑わしいと言っているのですよ、聖女リイン。悪魔の声を聞き間違えたのでは?」
挑発行為にしても限度がある。聖女は悪魔の声という言葉を聞いただけで顔を真っ青にしていた。
教会関係者が立ち上がって、わたくしを指さした。
「黙れッ! 背教者め、聖女様になんという辱めを……!」
モブっぽい発言だな。お前みたいなモブはどうでもいいんだわ。
そろそろ聖女が本物の聖女パワーをぶわーっとやってわたくしを成敗してもいい頃合いだ。
「本当にアナタの祝福が、神に選ばれし者に許された特権だというのなら! わたくしとどちらが強いか勝負させてもらいましょう!」
言い放ち。
わたくしはジークフリートさんの肩を掴む。
「ん、なんだ?」
「アナタの祝福にわたくしの力をぶつけて、どちらが上かを証明しますわ!」
「……帰ってもいいか?」
にへら、と笑うジークフリートさん。
「当然ダメですわ」
「ああ、そうだよな」
魔力を彼の身体に流しこむ。前回は雑に強化するだけだったが、今はもう、あの時と比べてかなり魔法のレベルが上がったからな。色々できちゃうぞ~。
ジークフリートさんの身体を精査しながら、聖女を見れば、顔を真っ青にして汗ダラダラだった。
「これでもし、祝福が剥がされてしまったら、オレは騎士でなくなるのか」
「そんな馬鹿な話がありますか。祝福があろうとなかろうと、アナタはわたくしの知る限りで最高の騎士ですわ」
「…………そう、か」
「……? 反応の鈍化と心拍数の増加を検知しましたが」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ。本当に気にしないでくれ」
「そうですか。ん~~」
気づけば会場が息を呑んで、わたくしの行為を見守っていた。
照れる。ロイとかリンディとかが凄い祈ってるし、王様はニヤニヤしてる。
なんだよ、何静かになってんだよ。オイ聖女、そろそろかっこ良く『お前如きに祝福は扱えない!』とか言ってこいよ。
「……あれ? 祝福? んん……? あ、肩こりをほぐしておきますわね」
「ああ、ありがとう」
「ん~~~~おっと血行促進もしておきますわ」
「助かるよ」
「ツボの刺激ってこの辺でしたっけ?」
「そろそろ仕事に戻らないか?」
いや仕事はしてるんだよ?
確かにジークフリートさんの身体を覆い、守護する魔法を感知した。
感知できた。できたんだけど。
「ん~…………?」
「その、どうしたんだ? 随分と唸っているが」
「いやこれ祝福っていうか、
わたくしがそれを言った刹那。
「…………鼻の利く人間がいたものだ。命取りだがな」
「え?」
「
魔力の奔流を察知した。その時にはもう遅かった。
横合いから、破壊そのものに殴りつけられた。わたくしとジークフリートさんは同時に吹き飛ばされ、身体が宙を舞い。
衝突音と同時、視界が真っ暗になった。