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PART11 竜殺しは天然

 公園から少し歩いたカフェのテラス席。

 そこにわたくしとロイ、そしてジークフリートさんは座っていた。

 短い金髪の幼馴染と長い赤髪を一つに束ねた近衛騎士は、なんとなく正反対っぽいなと思った。


「先ほどは大変申し訳ございませんでした、ジークフリート殿……!」


 コーヒーが運ばれてきた後、ロイが勢いよく頭を下げた。

 ジークフリートさんに敬語は辞めてくださいと言い、向こうからもこないだ通りタメで話そうと言われたものの、ロイにとってはよっぽど目上の人らしい。


「うちのマリアンヌが突然殴りかかるなど……!」

「身内扱いしないでくださいます? 大体避けられたからノーカンですわよ」

「そういう問題じゃないだろう!?」


 開幕不名誉あだ名カミングアウトをかましてきた向こうが悪いよ向こうが。

 悪びれもせずコーヒーをすするわたくしに対し、ジークフリートさんは苦笑を浮かべる。


「いや。かなり精度の良い不意打ちだったよ……オレも油断していた。後少しでも反応が遅ければ首から上はなかったかもしれない。いい訓練になった」

「そういう問題なんですか!?」


 隣でロイがびっくりしてコーヒーをこぼしかけていた。あぶねえ。今日白いブラウスなんだから気をつけろよ。

 そろそろ太陽が下がってくる昼下がり。行きかう人々は、テラス席にそろった超美形三人に視線をくぎ付けにされていた。顔の良い男二人、優しい王子様系と触れれば切れるヤンキー系の二種類だもんな。まあわたくしが一番美的指数高いんですけどもね!


「それにしても……かの竜殺し殿とマリアンヌが顔見知りだったとは、驚きです」


 驚きですと言いながら、ロイの表情はもうめちゃくちゃ疑っていた。

 疑いが一周して不安そうになってるもん。ウケる。うらぶれた野良犬みたいな目でジークフリートさん見てんじゃん。

 ただまあ、ここのつながりの詳細が割れると不利益をこうむるのはわたくしだ。つまり──追放チャンスじゃねえかコレ!


「ロイ、それは──」

「──合縁奇縁、というやつだ」


 近衛騎士が見事なインターセプトを決めた。

 数瞬だけ、『分かってる。うまく誤魔化すから任せてくれ』みたいなアイコンタクトが飛んでくる。

 強めにどついたろかテメェ。


「……教えるつもりはない、と」

「勘違いさせたのなら申し訳ない。何か君が不安に思うようなことがあったわけではないよ。彼女にオレが助けられただけだ」


 見事に真実しか言わない、器用な躱し方だった。

 不服そうに唇を尖らせるロイに向かって、ジークフリートさんは苦笑を浮かべる。


「それを言うならこちらも驚きだよ。ドラマリア嬢と、ミリオンアーク家の御嫡男が知り合いだったとはね」

「名残が残っていてよ!? 次はパンチ当てますわよ!?」

「おっと、これは失礼した……すまない、一度あの名前で覚えてしまったものでな」


 顔から火が出そうだ。自分でも真っ赤なのが分かる。完全にあの時のわたくしは史上最高のイキリ数値をたたき出していた。

 ジークフリートさんは本気で申し訳なさそうにしょぼんとしている。クソッ、なんだよからかってきてた方がまだやりやすいな……! 素かよ……!


「ああ、もう。そんなに強く印象に残るほどの名前じゃないでしょうに」

「そんなことはない。人生の中でも五指に入るほどインパクトの強い名前だった。こんなに衝撃を受けたのはマザーファッカータロウ・ハナコ兄妹に出会った時以来だ」

「なんて??」

「む。違ったかもな。マザーファッカークラウド・ティファのコンビだったかもしれん」

「余計な飛び火がついたせいで最悪ポイント加算されましたわね」


 リメイクで再燃してるところだからマジでやめてほしかった。


「……随分と仲が良いんだな」


 その時、ロイがコーヒーをずぞぞと啜りながら拗ねたような声を上げた。


「仲良く見えまして? 完全な錯覚ですわ。この人の天然にわたくしが振り回されているだけです」

「言われてみればそうだな。そして意外でもある、あの日の印象はどうも君が胡乱な発言をしてばかりだったからな」

「どちらかと言えばわたくし、つっこむ側ですからね」

「本気で言っているのか? 君はかなりつっこまれる側だったと思うが……」


 ジークフリートさんは眉間にしわを寄せてそう問うた。

 失礼な騎士だ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 突っ込む側と突っ込まれる側……!? な、なんてことを言っているんだ!」


 突然隣でロイがわなわなと肩を震わせ始めた。

 なんだこいつ。中学生かな?

 ジークフリートさんと顔を見合わせる。彼は首を横に振った。


「勘弁してやってほしい。男子にはこういう時期がある」

「存じ上げております。女性の服装全てを春画に出てきそうかどうかで判断してしまう時期ですわね」

「そこまで解像度の高い理解をされていると困惑するぞ、君時々本当に男みたいなことを言うな」


 痛い指摘だった。

 わたくしは話題をそらすべく、とりあえずロイを生温かい目で見ておく。


「それにしてもロイ、そんな発想をしたんですわね。まあ年頃の男子ですし仕方ありませんけれど」

「やめてくれマリアンヌ。そういう母親みたいな反応が一番傷つくんだ、分かっててやってるだろう君。ちゃんと、もっとこう、頬を赤くしてサイテーと言ったりしてくれ」


 願望混ぜてきたなこいつ。


「ミリオンアークくん。年上としてのアドバイスだが……えっちなのは駄目だぞ」

「チェンジチェンジチェンジ! なんでそれをマリアンヌが言ってくれないんだよ畜生ッ!」


 王子様みたいな外見で世迷いごとをのたまい、ロイは割と強めにテーブルをぶっ叩いた。

 えぇ……性欲が肥大化しすぎて行動がバグってるじゃん……

 わたくしたちはヒートアップした空気を冷ますべく(てか、金髪王子が勝手にあったまっただけだが)、しばらく通りを眺めたり空を見たりして意識をリセットした。


「それはそうと……最初に言うべきでしたが。ジークフリート殿、中隊長候補者への推挙、おめでとうございます」

「おや、知っていたとはね」


 二人がいかにもな世間話を始めた。

 中隊長? 偉そうだな。ムカついてきた。


「昇進が決まったわけじゃないさ。監査のために何度か教会へ向かわなければならないのは手間だが、今回は聖女様からの指名ということだからな。無下にもできない」

「成程。同僚の方々から、出世欲のない人だという噂は聞いておりましたが……本当のようですね」

「面白味のない男と言ってくれて構わないさ」


 ……なんとなく、空気が変わったと思った。いや会話のことではなく、ジークフリートさんの身に纏う空気感だ。少し軽くなったというか、ラフになったというか。

 あの日共闘した時は、もっと堅物堅物していた。邪龍の死骸をジークフリートさんの斬撃で殺害したよう偽装している間あたりから違和感はあった。

 良い意味で変わったのだとは思う。


「聖女様、ですか。教皇様が見出したという噂ですが、お目にかかったことは流石にありませんね」

「貴族が教会に立ち入ることはめったにないからな。案外歓迎してもらえるかもしれないぞ」

「熱烈な歓迎でしょうね。矢が何本飛んでくるやら。その時は、ジークフリートさんも鎧を着こんで出迎えてくれますか?」

「ロイ、アナタそういうブラックジョークをノーモーションで打つの本当にやめた方がいいですわよ。ジークフリートさんもさすがに引きますわ」

「……? いや、こう見えて礼服は持っているぞ。一張羅だが、正式な面会なら失礼のないようこちらも気を配ろう」

「全然引いてないですわね。無敵ですか?」


 素の善意に見事なカウンターをもらい、ロイはバツが悪そうにそっぽを向く。天然が腹黒を撃退する場面に遭遇してしまったな。


「というかさっきから話が全然分からないのですが、教会? の……聖女? ってどなたです?」

「マリアンヌ。君が政治に興味を持ってないのは知っているつもりだったが、いくら何でも興味を持たなさすぎだろう」


 深く嘆息してから、ロイはシュガーポットを手元に引き寄せ角砂糖をつまみ上げると、コーヒーカップに1つだけ沈めた。


「一つの勢力は、実際に勢力の表舞台に立つ者と、それを支える者があって成立する。コーヒーを僕たち魔法使いとするならば、このカップ……貴族院の貴族たちが後ろ盾をしてくれているから、飲み物として成立する」

「騎士の場合は、飲み物が騎士、そして入れ物は教会だな。名目上の指導者は教皇様であるものの、実務の大半は聖女様が取り仕切っていると聞くよ」


 へ~。むずかち~。


「聖女様とは、祝福を授かった際に一度だけ顔を合わせたことがある……とても、とても大きかったな」

「僕だって馬鹿じゃない、もう引っかかりませんよ。器の話でしょう?」

「いや、胸の話だ」

「畜生! 緩急についていけない! これが竜殺しの実力……!」

「ジークフリートさん、その話詳しくお聞かせ願えますか」

「なんで君が鼻息荒く食いついてるんだ!? 完全に勝負師の目になっているじゃないか……!?」


 おっぱいの話にむしゃぶりつかなくて何にむしゃぶりつくんだよ。

 騎士の顔をガン見したが、彼は首を横に振った。


「あの光景は、オレの胸の中に、大切に留めておきたい」

「なるほど。確かに立派な大胸筋ですものね」

「僕より君たちの方がよっぽどひどい会話をしているからね」


 半眼になっているロイはさておき。


「で、その聖女様から直々に指名をいただいたということは、実際中隊長への道が約束されたようなものではないのですか?」


 気になったのはそこだ。そんなに偉い人相手ならもう昇進は確定じゃないの?

 だがジークフリートさんは腕を組み、難しそうな表情をする。


「オレが積極的にアピールすれば、九割でオレになるだろう。だが……」

「モチベーションがない、と」


 無言で頷かれ、わたくしは数秒考えこんだ。


「では、先ほどの公園で勝負していただけます?」

「……え?」


 おっ、この呆気に取られてる感じの顔は可愛いな。


「喧嘩ですわ。迷いを晴らすためには、そして自分の存在をこれ以上なく叫ぶためには、やはり喧嘩ですわ! 喧嘩は全てを解決する……!」

「…………」

「あ、彼女はこの言い分で入学式を滅茶苦茶にした実績があるので、多分本気ですよ」


 困ったような顔で見つめられたというのに、ロイの回答はあっさりしていて。

 助けを失ったジークフリートさんは、最後にはあきらめたように承諾してくれたのだった。








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【突然の】TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA【対騎士戦】

『233,189 柱が待機中』


【次の配信は二分後を予定しています。】



〇鷲アンチ   こ無ゾ

〇苦行むり   終わりだよ終わり

〇第三の性別  (祝福ぶち抜けない可能性が)濃いすか?

〇火星     今のうちに祝福相手に試しておくのは英断では

〇適切な蟻地獄 ていうか聖女?

〇雷おじさん  やべえなやらかしたかもしれん

〇red moon  このタイミングで聖女いたっけ?

〇木の根    祝福って教皇がやるんじゃなかった?

〇日本代表   担当者ちょっと後で事務所来てもらえますか

〇雷おじさん  はい…………

〇適切な蟻地獄 ガチじゃん

〇TSに一家言  ガチの案件っぽくて草

〇無敵     これは教育やろなあ


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