第七夜 本日の晩御飯①
ブックマークを押してくれた読者さま、ありがとうございます。読者さまのためにも少しずつ、頑張っていきます(笑)
見てくれている方がいるとわかるとやる気が増しますね!
「じゃあ、夕御飯にしよ~!」
御手洗団子の皿を下げ、早々に夕御飯の準備に取り掛かる。
店の営業時間は
こっちの世界の昼の営業時間は14時~16時まで
異世界の夜の営業時間は16時~21時まで
これらが『月見草』の二つの営業時間なのだが、異世界に繋げている時は神社全体に張られている特別な結界のおかげで、時間はなんと元いた世界では一時間ぐらいしか経過してないのである。
しかも、繋がっていない時の時間の流れは同時平行に戻る。
なので、現在の時刻は17時。夕御飯を作り始めるのには丁度いい時刻であった。
(早くアク君の傷が治るように一杯作らなきゃ!それにきっと男の子は沢山食べるもんね)
本当は就職記念日に美味しい和食を作って食べさせてあげたいけどそれまた違う日にして、今日はなるべく胃の消化にいいものを作ってあげよう。
割烹着を着たサクラは頭の中で大まかな料理が決め、冷蔵庫から材料を取り出す。
トントントントンッ……。
ジュワァ~……ッ!コトコト……。
それから物凄い速さで野菜や肉を包丁の切り分ける音がリズムよく調理場から鳴る。
慣れた手つきで切った食材を鍋で煮たり焼いたり揚げていく。
ちゃぶ台にも箸や取り皿を用意して(アク君の大きな手だときっと箸は使いずらいから、アク君専用のフォークやスプーンの用意する気遣いも忘れずに)次々と出来上がった料理もならべていく。
アクアはというと異世界の食器や料理を前にして興味深そうに大きな眼がそのまま零れてしまうのではないかと心配になるぐらいに瞬きせず凝視している。
「さぁ、出来たよぉ~」
本日中の晩ごはん
ひじきとほうれん草の白和え
和風おからハンバーグ
若鶏のトロトロやわらかおじや
薬草の天ぷら
胡瓜のさっぱり胡麻和え
はっと汁
以上
「それじゃ、頂きます」
前の料理に合掌をするサクラ。
そのサクラの行動をじっと見て手を指を指すアクア。
「それはどういう意味なんですか?」
「ん?これはねぇ、私たちの国の食事をする時にする挨拶みたいなものだよ。たっくさんのね、牛さんや豚さんや鶏さん……それから野菜さんたちからも命を頂いて私たちはお腹一杯食べられる…。だから、ありがとう~って感謝の気持ちを込めるの」
「……!イタダキマス……」
一緒に合掌をしたところで、ようやくご飯を食べ始める。
アクアが一番最初に手をつけたのは和風おからハンバーグであった。フォークで軽く割ってみると、湯気と共に中から肉汁が溢れ出す。早速、肉の塊を口の中へと運ぶ。
「!」
まるで肉を細かく何回も濾したかのような口当たりに軟らかくほろっと簡単にほどける肉汁。
だが、肉だけの味ではなくほのかな豆の味もする。けれど、全然気にならず、寧ろ豆の香ばしさが肉汁と相成り、更に食欲を誘う。
そして、あっさりとしたくどくないよく煮詰めたソース。特に肉の上に乗ったこの白くて雪のような野菜がいい。細かくすり卸したのかピリッとくる辛みが肉の脂身とよく合う。
「うまい……!」
思わず言葉が漏れる。あっという間におからハンバーグをたいらげると、次は若鶏のおじやとやらを食べることにした。フォークからスプーンに持ち変え、おじやを掬う。
(なんだ!?物凄いやわらかいぞ……これ!)
とろとろに煮込まれた米と若鶏。鶏の旨味が米に溶けでていて、塩味がそれを引き立てる。これならするすると食べられる味だった。
一番アクアが驚いたのは異常な程の肉のやわかさだった。
まるで何時間も煮込んだかのような鶏肉。
「これって凄いやわらいですね。一体何時間煮込んだんですか?」
「んー?圧力鍋で10分ぐらい煮込んだだけだから、別に何時間も煮込んでないよ」
「えっ、そうなんですか」
圧力鍋とやらを使うと、食材に圧力をかけ、短時間でもまるで何時間も煮込んだのような柔らかさになるらしい。
(恐るべし、アツリョクナベ)
おじやも空になり、次は白和えを口にする。
「これは……」
すった胡麻の優しい風味と砂糖の甘み。白いこれは特に豆の風味が強く、胡麻によく合う。
混ぜ込まれた緑の葉物は色も綺麗に彩り、しゃきしゃきして歯ごたえがある。この黒くてひょろひょろしているものと嘆きの根っ子(人参のこと)を甘く煮詰めてあり旨かった。
アクアがあまりに不思議そうにひじきを見つめるので教えてあげる。
「それはひじきって言って、うちの海の近くで取れた海産物なんだよー」
「ヒジキ……」
(アク君、ひじき気に入ったのかな?)
アクアは黙って物を観察するクセがあるので感情が伝わりにくいところがある。
だが、その分美味しいものに当たった時の顔は子供のように目が輝くので仏頂面ずらぽっい部分もサクラは可愛いらしく思えた。
次にアクアが選んだのは薬草の天ぷらだった。葉に何かを付け揚げたようだったが、サクラに「これつけると美味しいよ」とジル(塩のこと)を渡された。真っ白な純度の高いジルなのはみただけで分かった。言われる間々、ジルを葉につけ口へと運ぶ。
サクリッ……。
「ん、これは……エーテルの葉?」
よくポーションの材料として使われている代表的な薬草であった。
「あ、常連さんの中で山菜や薬草をもらう代わりに和菓子と交換している人がいてね。すごく香りも質もいいんだよ~」
体力が減っているアクアの体を合せ、回復効果があるエーテルの葉をサクラはさっと天ぷらに揚げたのであった。
(エーテルの葉の特有の苦みをまったく感じず、あっさりとジルの味とサクサクとした食感。うまい)
次に食べたのは、胡瓜のさっぱり胡麻和え。
薄緑色の生野菜を細かく切り、茶色のソースと和えてあるらしい。
「んー……!美味しい」
シャキシャキした生野菜と胡麻の風味が効いたソースがうまい。
生野菜などアクアは食べたことがなかったが、サクラが作った物ならまた食べてみたいと思った。
最後に残ったのは、はっと汁。
綺麗に切り分けられた肉と野菜が汁の中で浮かんでいる。よく見ると白い餅のようなものも入っている。
「あったかい……」
(肉と野菜のうまみが汁に染み込んである……!そして、この白いヤツは米ではなく麦の味がするな。だが、モチモチしていてこれもうまい)
多めに作っておいた晩御飯もアクアが何回かおかわりした結果、米粒一つ残すことなく綺麗になくなった。
「「ごちそうさまでした」」
(こんなに食べてくれるなら作りがいがあるなぁ~)
作り手側からしたらアクアの食べっぷりは実に気持ち良かった。
お皿を片付けた後はアクアにまた薬を飲ませ、空きの部屋改めアクアの部屋となった部屋にアクアが戻るのを確認するとさっそく明日の和菓子の仕込みに入るサクラであった。
(これから色々とアク君の日用品も揃えなきゃ!明日の学校の帰りにでも寄ってみようかな?)