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第四夜 金の髪と青い瞳の少女

※訂正箇所を教えてもらったので直しました!

ここは和菓子処『月見草』。200年続く知る人ぞ知る歴史ある老舗の和菓子屋である。

豊月(ほうづき)神社の傍らで営業しているその和菓子屋にはある秘密がある――。

不思議な神社の力で月が綺麗な晩、異なる世界に散らばる三日月模様が描かれた石の力により週に一度だけこちらの世界と異世界と繋げることができる。


「ありがとうございましたぁ~」


「それじゃあね、サクラちゃん」


ガラガラ………


巫女服を着た少女が商品を買った年配の女性のお客様を入り口で丁寧に見送り、お辞儀する。

和菓子処には少々不釣り合いである後ろに束ねられた金髪が揺れ、ゆっくりと上げた顔には父から譲り承けた空色の瞳が二つ。

これが現当主『月見草』七代目、兎月サクラであった。

アメリカ人である父と神社の一人娘であった母は出会い、恋に落ち娘のサクラが生まれた。周囲から結婚を反対された両親は駆け落ち同然で外国に渡り、仕事をしサクラと共に幸せに暮らしていた。だが、両親が仕事で珍しく出張で出掛けていた帰りのことである。二人は不幸に事故に合い、二度と戻らぬ人になってしまった。

両親を失ったサクラを引きっとったのはサクラにとっての祖父である元六代目『月見草』兎月渋三郎と兎月神社に仕える巫女である、母と似た顔をした祖母だった。家出同然に出ってた娘の子であるのに二人は快く孫のサクラを迎えた。

祖母は亡くなった母親によく似た笑顔で優しく接し、渋三郎は厳格で滅多に笑わない人だったが誰よりも和菓子を愛し、そして人にも人でなき異世界からのお客様であろうと大切にする人情の厚い人だった。

いつも仕事に誇りを持つその後ろ姿とそんな祖父の作る和菓子が大好きで祖父から和菓子作りを学んだ。渋三郎は孫だからと言って決して和菓子作りについては甘やかさず、寧ろ厳しく指導した。

サクラは祖父のような和菓子職人になるため益々和菓子の世界に取り組んでいった。

若くして才能を認められたサクラは今は亡き渋三郎と祖母に『月見草』の七代目と神社を任せられ、今日もまた和菓子を作り続けている。


「あっ……お団子きれちゃったよぉ~!」


団子は『月見草』の店一番の人気商品であり、味は『御手洗』『胡麻』『醤油』『ずんだ』の四種。

中で一番人気なのが王道でもある『御手洗』であった。先程帰ったお婆さんが孫たちが遊びにくると言って二十本ほど買っていったのであった。


「補充しないとぉー!」


なので一番多く作っているのも『御手洗』なのであるが、裏方の方にある調理場に自分で補充しに行かねばならない。

そろそろ夜の営業時間にもなるため、入り口の赤色の暖簾をひっくり返し紺色にする。

これが『月見草』の『合図』でもあるのである。

このお店にはサクラ以外には従業員がいない。和菓子の仕込みから洗い物、お会計と神社の管理。全部一人でやっているので人手が足りず常に忙しい。

幸いと言ってもいいのか、分かりにくい場所にあると昼にここを訪れるのは昔からの常連さんとたまに来る参拝客が立ち寄る程度なので何とかサクラ一人でときりもりしていけている。

人を雇おうにも高校生がそんな簡単にできるものでもなく仕方なしに一人でお店をきりもりしているのであった。


「ふぅ~…!さてとぉ……、今の内に今日の仕込み分の計量だけでも済ませとかなきゃ~」


団子を補充すると同時に今日作る分の和菓子の材料を計量していくサクラ。作る量が多い分、計量にも時間がかかるので、こうして時間がある時に計量を済ませることで後の作業がやり易くなるのである。

ボールに次々と上新粉、砂糖、塩、きな粉、餡子と白餡、葛粉などなど……。手順よく必要な分だけ計っていき、時間は静かに流れる。暫く計量に集中していたその時だった、ガッタンと店の外の方から物音が聞こえた。


「?あれれ~…?お客さんかな」


開店してから直ぐにやって来るお客様は珍しかった。計量する手を止め早速、表に出てお客様をお出迎えをする。


「いらしゃいませ~!……あれぇ?」


店内に誰か入ってきた様子はなく、『??』と思いながら頭を傾げるサクラ。


「おかしいなぁ~?確かに音が聞こえたんだけどなぁ~」


首を傾げながら裏に戻ろうとしたその時。ふっと一瞬、硝子張りである壁の向こうの外から人影が見えた。


「あっ、お外かぁー」


新しいお客様なのならばお店を紹介しなければと思い、サクラが外に出るため障子できたドアを引くとカラリと音を鳴った。


「いらしゃいませぇ~!和菓子処『月見草』へ、ようこそ!」


サクラはいつもの様に持ち前の元気と笑顔でお客様に声をかける。

…が、やって来たお客のなりを見て、瞬時にサクラの顔は笑顔から驚きの表情に変わった。

何故なら目の前に立っているのは2mぐらいありそうな屈強な男の大蜥蜴が身体中を血まみれにしてヒューヒューと虫の息をしつつ、幽霊のようにそこに立っていたのだ。

これを目の当たりして驚くなという方が無理な話しだ。

どこかで誰かと戦っていたのだろうか、着ている服もボロボロに引き裂かれて男の蒼い肌から酷い量の血が流れている。男は意識が定かではないのかサクラと焦点が合わない。


「あわゎゎわ……!ど、どうしようぉ!酷い怪我だよ!!」


血まみれの男など見かけたら逃げるか悲鳴をあげるのが普通だが、サクラはそんなことより男の傷の方が心配だった。


「あ、あのぉ~…!だ、大丈夫ですか…?」


一人で慌てるサクラに対し、もう虫の息であるはずなのに男は大きい目玉でサクラを見つめたまま微動だにしなかった。

黙り続ける男にサクラも流石に困ってしまい恐る恐る男に近づき様子を伺った。


「あ、あの~……」


「てっ………し……」


「へっ…?ふわぁっ!!」


突然視界が真っ暗になり、何も見えなくなる。身体も重苦しく、自由に動かせない。

頭も地面に打ち付けてしまったのかズキズキと痛む。


(いたたたぁ……)


瞼を開けて、横を振り替えると男の顔がすぐ近くにあった。どうやら気絶してしまっているらしく、その証拠に耳元には男の生暖かい吐息がかかる。

身体が突然重苦しくなったのは男がサクラに覆い被さるように倒れ込んで来たのが原因らしい。


「ありゃりゃ……。どうしよう、これ……」



どうしていいか分からず、取り合えずお客さんが来る前に家の中に運ばないときっとマズいよね?とサクラは呑気に考えていた。


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