第三夜 最強の元・暗殺者
※訂正箇所を教えてもらったので直しました!
僕は誰だ――?
そういつも心の奥底に疑問を押し殺しながら目の前に立ちはだかる次々に敵を斬り捨てる。
考えるな。ただ敵を殺せ、と男の本能が鳴り響き、奮い立たせるのである。
体は度重なる戦のせいでボロボロに傷つき、服は裂け鮮血が滲み出ていた。
僕はなんでこんなことをしているんだ――?
戦場に立ち、幾つもの積み重なった屍の山と赤錆色の血の海が男にとっての日常だった。だから、男の体には思わず噎せかえってしまう血生臭い、死臭の匂いが染み付いていた。
僕は――僕はどうして―――…
自分の両手を見ると男の蒼い肌に対して真っ赤な血が染め上げ、滴り落ちる。
人とは違い、硬く冷たい鱗に覆われた皮膚に蛇に似た大きくて不気味な黄金の瞳。強靭な肉体はそこらの人間なんなより一回り大きく、鞭のようにしなる長い尾は何度も敵を絞め殺すための武器として使ってきた。
醜く凶暴とも言える自分の鋭い爪は今まで何も考えず斬り捨ててきた様々な種族の血で滴り、まるでそれは呪いのように身体を蝕む。
男は傷付いた体を引摺り、宛もなく暗闇を歩き続ける。
僕はどうして――
生きてるんだろう…?
心身ともにもう男は疲れきっていた。
徐々に体が重くなり、血を流し過ぎたのか寒さで震えが止まらなくなっていた。
(随分と呆気ない死に片だな……)
他人のように己の死を覚悟した時、ふっと目の前に光が溢れだした。
「なんだ…?これは……」
急に現れた不思議な赤い門。不思議な門は一つだけではなく、奥にも同じような門がずらっと続いている。
突如として現れた不思議な空間に何故か恐怖という感情は沸かなかった。それどころか男にとっては暖かく、非常に心地よい場所だった。
無意識に男は足を進めると、見たことのない文字が書かれている建物が建っていた。
建物の大半は木だけで出来ているようで嗅いだことのない樹木の香りが漂う。とても上品な香りをしており、嗅いでるだけで気分が落ち着いた。
「ここは……一体」
木材を見る限り、かなりの年数を重ねっている建物のようだが、痛んだ様子も古びた様子もなく逆に昔から建てられているからこそでる色と味が木目から滲み出てており代々大切に受け継がれてきたであろう歴史と貫禄を感じた。
今まで様々な任務で各国を巡ってきたつもりだったが、木材だけで組み合わせて、ここまで立派な建物を木材だけで精工に造れる技術とそれを仕上げられる職人を持つ国は聞いたこともなかった。
職人たちが集う町として有名な『バージス』にもここまでの腕のいい建築士は中々ないだろう。例え雇えたとしてもかなりの莫大な契約金もかかる。
建設技術もかなり高いと思われるが使っている素材も凄かった。
建物を覆う入り口の部分は贅沢にとても純度の高く品質がよいと思われる硝子細工を使っているのかよく店内が見える作りになっている。こんなに質のよい硝子を大量にどこで手に入れたのか。王都に住む貴族や王族でさえ金をいくら積もうとも用意するのは難しいだろう。
「なんなんだ…!?ここはっ…!」
どんな人物が住んでいるのか想像もつかなかった。店内を見てみると誰の姿も見えず、ただ見たこともない食べ物が綺麗に陳列していた。
(うっ……!)
驚くことが多すぎて忘れていたが、体がもう限界であった。
意識が朧気になり、気が遠くなると同時に店の中から誰かが出てきたようだ。
「…!!」
目の前に現れたのは予想外にも若く可憐な少女だった。
妖精族が持つような太陽のように輝く美しい光を放つ金髪にそして柔らかな白い肌。小さくて華奢な体をしており、森でよく見かけた小動物などを連想させた。
きっと自分何かが触れたりしたら簡単に壊れてしまうのだろう。
そして、何より男が心を奪われたのは少女の瞳だった。
天から零れ落ちてきたかのような穢れを知らない澄みきった空色のつぶらな瞳。
(天使だ……)
天使が迎えに来たのかと思った。こんな幾つもの命を殺めた奴だ。迎えにくるのは死神か悪魔のどちらかで必ず地獄に堕ちるのであろうと思っていた。
「……!~…!!」
少女は何か喋っているようだが、朦朧とする意識の中ではうまく聞き取れなかった。
「うぅッ……!」
遂に男は自分の体を支えられず、その場にた倒れ込む。地面との衝突は避けられそうになく男は目を瞑り衝撃を覚悟した。
だが、いつまで経っても衝撃はやってこず、代わりにやって来たのは地面にしては柔らかく気持ちのよい暖かなぬくもりだった。
男の意識はそこでプツリと途切れた。