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第二夜 女神の笑顔とイチゴダイフク



「すいませんー」


「はいー!」


声をかけると先程の少女がやってきた。


「『イチゴダイフク』というの下さい。後、先に言っておきますが私に毒は効きませんからね」


上手い話には裏があるとも言う。商人になってからというものペルドは何回も苦い思いをしたことがある。相手は人間、一応警告しておくことにした。ハイエナ民族は死肉を喰らう習慣があったため状態異常である毒は一切無効という特殊スキルを所持しているのである。


「??かしこまりましたぁ~。少々お待ち下さい」



気にする様子もなく娘はその間注文をとるとまた奥と消える。


(これで変なマネはしまい)



商売と同じ、相手の話をあまり信用し過ぎないこと。常に己の目で見て手で触り口で食べて信用する。それで相手に本当に自信を持って良いものを勧める。

そんな商人としてプライドがあるペルドの言葉だからこそ、力を持ち人々を惹きつけ商品を買っていって貰えるのであった。



「お待たせしました。緑茶と『苺大福』です」


(おっ、随分と早いなぁ)


「ほぉ……!これはこれは」


黒皿に真ん丸とした柔らかな白い生地。中に包まれたうっすらと黒いものが見える。

一見白色だけとシンプルに見えるかもしれないが中々サイズもあり迫力もある。

触れてみると白い生地のぷにゅとした不思議な感触が面白く、おぉ!とペルドから感嘆の声が漏れる。

そして、仄かに豆と果実の香りが鼻を通り抜けると堪らず、かぶりと口の中へと入れる。


「う、うんまぁ~~い!!」


甘く煮た豆は滑らかになるまで濾されており、口一杯に優しい甘さが広がる。そして、この紅い果実!!天使の果実に見た目は似ているが断然こっちの方が大きく、酸味も甘みも強い。噛むごとに紅い果実の果汁が弾ける。それにこの甘く煮た豆に紅い果実の酸味がよく合う。

このほんのりと甘い白い柔らかな生地も甘過ぎないからこそ、上手くこの甘く煮た豆と紅い果実と調和している。

そして、このリョクチャという植物の葉を煎った苦味のある飲み物を飲むことにより『イチゴダイフク』の味がより一層楽しめる。


「て、店主よ!!お、お願いがあります!!」


思わず皿を運んできた魔族の手を握る。


「今、お金はあるのですがこのお金は自分一人の判断では使うことができぬのです!」


「え、あの……」


「必ずや……!いや、絶対に集落にいる仲間たちを説得してみせるので私に!この『イチゴダイフク』とやらを是非、土産として10個ほど持ち帰らせては貰えないだろうかッ!!」


「だから、あの!」


「勿論、お金も次来るまでに必ず払う!だから頼むーッ!」


「僕はここの店の主ではないじゃないですから!」


「……へっ?」


今、なんと……?


「僕はここの店主ではありません」


「で、では……!店主は一体どこに!?」


「アク君、どうしたのー?凄い大きい声が聞こえたけど」



ひょこりと先程からちょこちょこ姿を見せては消える人間の娘が顔出してきた。


(……ん?アククン??)



「はぁー……。ご紹介します、あの方こそがここ和菓子処『月見草』7代目当主、卯月サクラさんです。そして、僕はここで雇って貰っている只の従業員のアクアと申します」


このふわふわとした小動物みたいな人間の子が店主……?



「あの子が……?」


「はい。正真正銘の『月見草』の、僕の自慢の店長です」


「ど、奴隷ではなく?」


「「…………」」



ペルドは自分がとんでもない勘違いをしていたことをここで気づく。勝手に見た目で決めつけて、色々と彼女に失礼なことを言ってしまった。


「た、大変失礼致しましたッ!!」


ペルドは綺麗な土下座を床に決めた。


「先程は毒を入れるなど、ましては奴隷などとっ!!サクラ殿、数々の今までのご無礼をお許しくださいませ!!」


「えっ……?……あぁ~!さっきのそういう意味だったんですか~」


どうやらサクラは全く気づいていなかったようだが、ペルドは今そんなことは気にしている余裕はなかった。


「ですが、是非サクラ殿が作るこの『イチゴダイフク』というワガシを!集落の皆に食べさせてやりたいのです!!お願いします!」


ペルドはどうしてもこのうまさを集落の皆にも分け与えてやりたかった。外の世界はこんな美味しい物もあるんだぞと子供たちにも教えたかった。

そこだけはどうしても譲れなかったペルドは恥じをしのいで必死に頭を床に擦り付ける。サクラはすっとしゃがみ込み、ペルドの肩に手をかける。



「ペルドさん、私の苺大福をそんなに美味しく食べてくれてありがとうございます。でも、その格好だとお洋服が汚れちゃいますよぉ?それに」



ぐぅぅ~~……!



「苺大福のおかわり、まだ食べるでしょ?」



ペルドが顔を上げるとニッコリとそう優しく頬笑むサクラがいた。



(め、女神様……!女神様がここにいらした!!)



いつも人間の町に行くと多少の差別と偏見な視線を向けられたというのに…!この方は違う!!

怯えることなくなんの得もしないのに自分にこんな美味しい菓子を分けてくれた。

純粋にワガシという菓子を愛する女神さまだったんだぁーー……!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふぅ~……」



今日、ペルドは一日の出来事と『イチゴダイフク』を見てずっとニヤニヤしていた。仲間たちが喜ぶ姿も楽しみだが、次の一週間後の商売に楽しみができてしまった。

あれから結局、イチゴダイフクを5個も平らげ、土産としてのイチゴダイフクもきっちり受け取った。



『じぁ、また同じ場所、月がよく見える一週間後の今日に』


『一週間に一度しかやってないんですか?』


『はい。異世界に繋がる扉みたいなのが一週間に一度しか通じなくて』


『分かりました!必ず、お金は次の週にお持ちしますね!あ、合計の代金は……』


『えっと……今日食べた分はサービスなので抜きにして、苺大福一個、銀貨二枚なので合計で銀貨二十枚です』


『えっ!?あの味で一個たったの銀貨二枚ですか!』


ペルドたちの収入は革製の売り上げにもよるのだが月に金貨七枚。でも、あの味なら一つ銀貨十枚で売っていてもおかしくはない味だったのである。


『こ、この味ならもっと高く売れるのでは……?』


『いえ、私はお金儲けとかじゃなくてですねぇ?只、色んなお客さんが和菓子を食べて好きになってくれればそれでいいんですよ』


最後まで彼女はそう笑顔で言い切ったのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


色々今日は驚くことがあったが、今はやるべきことがある。

集落の皆にこの魅惑の菓子を食べてより一層狩りに力を入れて貰い、長にはこの『イチゴダイフク』を買うための予算をなんとか考えて貰わなくては!!

そして、後日集落に戻ったペルドはあんなに食べたがっていた肉などにも目もくれず、『イチゴダイフク』を皆に食べさせた。

『イチゴダイフク』は思った通り爆発的にヒットした。「ウメェエエエ!!」「こんなの初めてー!」と称賛の声が上がった。

一番最初に食べた長は滅多に流さない涙をこぼし、「よくやった」とひと言だけ漏らしペルドを褒め称えた。無論、『イチゴダイフク』の予算はおりた。『イチゴダイフク』は女神の笑顔(イチゴダイフク)と新に言葉も生まれ、若い者たちは女神の笑顔(イチゴダイフク)を腹一杯に食べたいがために若頭と次期長になるべく商売術をペルドのところに学びにきた。

その後、ペルドは獣人族の歴史に名を刻むことなる。世界的有名な『ハイエナ商会』作った獣人初の伝説の商人になった話はまた別の話で。





ペルドが帰った後、店内はまた二人きりに戻る。


「アク君」


「なんですか、店長……?………!?」


サクラはアクアの頬っぺたをつねった。


「……てんひょー?」


何故今自分が頬っぺたをつねられてるのか分からないアクア。


「アク君、顔が怖いよぉ?」


「すびぃばぜぇん……」


「後、もうお客さんを睨んじゃダメだよぉ?」


「ばぃ……」


何故魔族と人間、相容れない種族であるはずこの二人がこうして共に働いているのかというと、それは……。

また次のお話で……!


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