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第八十五話:『魔王様の秘密の私物、ネコのお人形「にゃんたそ」』


「うーん、うーん」

『わざとらしく相談に乗ってほしそうに悩んでいますね』

「おや、女神様。偶然ですね」

『私の前に現れておきながら偶然だというのならば、世界に必然は存在しなくなりますね。暇ですから一応話くらいは聞いてあげますよ』

「今度皆でお化け屋敷をやることになりまして」

『高校生みたいなことをしていますね』

「田中さんのところの神様が、幼い子供たちの魂をまとめて引率転生することになったそうで、準備が整うまでのレクリエーションとして転生慣れした大人達でなにかやろうって感じですかね」

『いい話風に語っていますが、転生慣れしたというフレーズは転生を案内する神としては中々に複雑なものだったりするのですがね』

「そこで俺もお化けの仮装をしようと思ったのですが、何に仮装してもいまいち仮装している感じがしなくてですね」

『人生百鬼夜行ですからね、貴方』

「何に仮装しても日常感があり過ぎて、ハロウィンとかに私服で参加している気分なんですよね」

『人外になり続けた弊害ですね。いっそ人の姿のまま参加した方が仮装感ありそうですね』

「紅鮭師匠も人の姿でいる時の方が違和感ありますからね」

『ちなみに他の者はどのような仮装を?』

「紅鮭師匠は紅鮭ゾンビらしいです」

『お化け屋敷なのに日本感はないのですね。あとそれはただの腐った紅鮭では』

「ファンタジー世界の子供達が多いので日本感はない方が良いみたいなんですよね。田中さんは田中ゾンビです」

『それただのゾンビの田中なだけですよね』

「あとは俺なんですが、どうしたものかと」

『全員ゾンビなのですからゾンビで良いのでは。お化け屋敷というよりかは別のアトラクションな気もしますが』

「皆名前付きゾンビですし、俺もなんとかゾンビって感じが良いなぁ」

『全員名前付きのフリをしたありのままゾンビですよ』

「なんでしたら女神様も仮装しますか?」

『そもそも私の場合転生の女神が仮装のようなものですからね』

「身近な人で本来の姿のままでいるのって田中さんくらいですかね」

『そう考えると世知辛い世界ですね』

「普段と違った仮装を楽しむと思えば、悪くないと思いますけどね」

『妙に哲学チック』

「といったわけで仮装内容をくじ引きしてみましょー」

『それ転生用くじ』

「似たようなものですよ。本質は変わりません」

『人生のやり直しを仮装というのも複雑ではありますが』

「じょこじょこじょん。長靴を脱いだ猫さんより、『魔王様の秘密の私物、ネコのお人形「にゃんたそ」』」

『猫ですか』

「きぐるみと思えば仮装ですかね」

『中の人が存在しないきぐるみですが』

「ぬいぐるみではなくお人形ということは、二足歩行はありですかね」

『ぬいぐるみだとしても二足歩行だったでしょうに』

「一応猫にも転生したことはありますので、四足歩行にも対応可能ですよ。ほらほら」

『生粋の四足歩行の生物並に滑らかに移動できていますね。骨格も少し変化している気がしなくもないですが』

「からの二足歩行」

『ダーウィンの進化論を思い出しますね』

「からの六足歩行」

『急に人間であることを忘れて足を増やさないように』

「仮装の方向、ありかもしれないな。頑張ればあと十本は行けそうだし」

『仮装じゃなくて化性なのですよ、それは』



『なんとなく包帯でも巻いてミイラの仮装をしていたら、お菓子を持ってきた他所の女神に「あの根絶の女神に手傷を負わせられる存在が……」と無駄に神世界に激震が奔る結果になってしまったのですが……まあ良いでしょう』

「ただいま戻りました。おや、ミイラの仮装ですか」

『いつもの格好に包帯を巻いているだけで、よく仮装だと判断できましたね。怪我とは思わないのですか』

「血の匂いが漂っていたら気づきますよ」

『ちょっと理由が気持ち悪い。そこは私なら怪我などしないとか言ってほしいところですね』

「他者から傷つけることは難しくても、女神様自身の力ならワンチャンありません?」

『それは確かに。転生先は魔王様の秘密の私物、ネコのお人形「にゃんたそ」でしたか』

「女神様の口からにゃんたそって聞くと、なんか癒やされますね」

『どうせろくでもないにゃんたそでしょうに』

「今回お邪魔したのはこちらの強面系美人魔王のファンニーノさんのお宅」

『中々貫禄を感じる魔王ですね。あと定期的に報告を聞いている立場ではありますが、これみよがしに番組風に紹介されるとちょっと複雑な気持ちになります』

「その圧倒的な実力から、人間だけではなく配下達にも恐れられる大魔王なファンニーノではありましたが、驚くことに可愛いもの好きという裏面があるのです」

『転生内容の時点で驚くことでも何でもないですがね。ですがそういったギャップがある事自体は悪くはないですね』

「こちら魔王室」

『玉座と言いなさい、玉座と。ですが厳格で威圧感のある魔王らしい部屋ですね』

「こちら私室兼寝室」

『幼児の部屋かと見間違うレベルにファンシーグッズで溢れている』

「ついでに寝間着の猫の着ぐるみパジャマ姿」

『満喫している姿でファンシーグッズと戯れていますね』

「ファンニーノは大の可愛いもの好き。自分のコレクションが増える都度に誰かとその可愛いらしさを共有したいと思うような乙女でもあります」

『コレクションを自慢したいタイプの魔王ですか』

「ですが彼女の配下はいずれも魔王に対するイメージがストイック。そのおかげで言い出せず仕舞いで秘密にせざるをえないといった感じです」

『基本魔王は恐怖の象徴ですからね』

「そんな時、新たなコレクションとして仕入れられたのがこの俺こと1/1サイズのネコのお人形にゃんたそ」

『元ネタがあるのですか』

「にゃんたそは人間界で大人気のゆるふわ人形劇『にゃんたその大冒険』の主人公キャラクターでしたね」

『ゆるふわアニメの人気キャラ的な感じですかね』

「はい。もちろんファンニーノも大ファンでにゃんたその大冒険グッズもたくさん集めています」

『こういったものはどこから仕入れているのでしょうか』

「人間界のお土産屋さんですね。時折お忍びで人間界に偵察に行っては、コレクションを買い足していまして」

『偵察よりもコレクションの購入の方がメインになってそうですね』

「新たなコレクションとして迎え入れられ、夜のお供など大切に扱われる俺」

『人形としての役得を満喫してやがりますね』

「にゃんたそセーフ」

『いったんセーフにしておきましょう』

「至福の時の中俺は誓ったのです。この人形生はファンニーノの為に費やそうと」

『抱きしめられた程度なのに涙ながらに語られると、蔑む気力も湧かない』

「俺も女神様コレクションを持つ者として、自らのコレクションの良さを共感できない寂しさは重々承知でしたしね」

『そっちの方を先に言っておけば、私的にも多少の共感は得られたでしょうに』

「さて、ファンニーノの願いとは自らの可愛いコレクションの良さを共感することです。本当は俺がその役割を果たせたら良かったのですが、それは叶いません」

『喋る機能でも忘れましたか。貴方なら筆談することもできるでしょうに』

「いえ、俺はファンニーノにとって最も可愛い、サイカワネコの人形にゃんたそ。その俺が他の有象無象を可愛いと言っても、それは嫌味にしかなりません』

『新入りの分際で上から目線』

「そしてファンニーノ自身は魔王としての立場も大事にしていたため、自身の口からは他者への共感を求めることもできません」

『ギャップがあるのも悪くはないでしょうが、カリスマ性は失われそうですからね』

「なので俺は魔王城にいた者をファンニーノの私室へと偶然を装って誘導し、コレクションを発見させることにしました」

『秘密の暴露にはなりますが、手段の一つではありますか。ですが共感を得られる相手はいたのやら』

「そこは問題なく、ファンニーノの部下達を隅々まで調査し、可能性のありそうな部下をピックアップしました」

『入念な準備ですね』

「座右の銘、趣味趣向、魔王軍内での交友関係から三親等までの家族構成までバッチリですよ」

『入念が過ぎますかね』

「最初に俺が選んだのは殺戮獅子王ガルルサンジュース」

『二つ名がだいぶミスチョイス』

「座右の銘『命を大事に』」

『二つ名そのものがミスチョイス』

「趣味猫カフェ巡り」

『可能性は高そう』

「俺は偶然を装い、マタタビ粉を撒きながらガルルサンジュースをファンニーノの私室へと誘導を試みますが上手くいきません」

『偶然要素どこですか』

「マタタビが偶然懸賞で当たりまして」

『懸賞にマタタビが含まれていることってあるのですか。そもそも猫科だからとマタタビが効果的というわけではないでしょうに』

「初めは反応していたガルルサンジュース曰く、『マタタビは好きだが、床に落ちているのはちょっと』と」

『効果的ではありましたが、道徳倫理観がちゃんと人でしたか』

「面倒になった俺はマタタビに意識が向いているガルルサンジュースを背後から襲って気絶させ、私室へと連れて行きました」

『こっちは道徳倫理観なしと』

「にゃんたそセーフ」

『アウトです。偶然要素皆無ですし』

「偶然目についた壷で殴り倒したので要素はありますよ」

『経緯に偶然性を求めなさい』

「目を覚ましたガルルサンジュースは部屋の中を見渡し、動揺します」

『目覚めたらファンシーな世界にいるわけですからね』

「彼は『妹私室系コンカフェにでも迷い込んだか?』と」

※コンセプトカフェ。独自の世界観を楽しむ場所。

『異世界にコンカフェあるのですか』

「そりゃまあ猫カフェとかもありますし」

『そういえばお土産屋ににゃんたそとかも売っていましたね』

「ガルルサンジュースは部屋を出てすぐにそこが魔王城にあるファンニーノの私室であることを悟ります」

『見知った廊下に出れば気づきますか。それで、反応はどうでしょう』

「号泣していましたね」

『魔王のギャップの差にですか』

「いえ、『そうか、この子供部屋はきっとファンニーノ様のご息女の……姿を一度も見たことがないということはきっと人間達に……だからこそあそこまで厳しい魔王であられたのか……。まるで今でも利用されているかのように奇麗に保たれたまま……あのお方は常に亡きご息女のことを想い続けて……っ』と」

『無理やりシリアス設定に持ち込まれましたね』

「後日ガルルサンジュースは私室に入った事実を明かし、より一層深い忠誠を誓います」

『トータル的に見ればプラスなのですかね』

「子持ちの母親設定が違和感ないと思われたファンニーノの心は多少傷ついていましたかね」

『乙女心的には複雑そうですね』

「続いての標的は狂恋妖艶姫ネルリリリアン。サキュバスクイーンです」

『可愛いもの好きの方向性がだいぶ違いそう』

「座右の銘、『恋愛一途』」

『サキュバスクイーンらしからぬ乙女なタイプそう』

「趣味傷心旅行」

『趣味になるほどに移ろいやすかった』

「ガルルサンジュースの一件で俺は反省していました。確かにファンニーノの私室は子供部屋みたいで、彼女の子供の部屋と勘違いされてもしかたないなと」

『反省は結構ですが、他の者に見せたところで結果は同じでは?』

「しかし今度は衣装ダンスの中にある彼女の衣類を見せればいいと思いついたのです。そうすればあの部屋はファンニーノの私室であると誤解されずに済むと」

『まあ着ぐるみなどファンシーなものはあれど、サイズはどれも大人のものですから一理はありますね』

「ええ。私服は可愛いものばかりでしたが、その奥は立派に大人なものばかり――」

『乙女の箪笥の奥を物色するんじゃありません』

「リスポン。俺が開けたわけじゃないですよ。抱きしめられたまま着替えられたりしたので、目撃してしまったというか」

『人形としての役得を満喫してやがりますね』

「にゃんたそセーフ」

『いったんセーフにしておきましょう』

「俺は偶然を装い、婚活情報誌のページを撒きながらネルリリリアンをファンニーノの私室へと誘導を試みますが上手くいきません」

『偶然要素どこですか』

「偶然ネルリリリアンが振られたばかりでした」

『ちょっと物悲しい。婚活情報誌には興味ありそうでも、ページごとに撒かれていたら怪しいでしょうに』

「初めは飛びついていたネルリリリアン曰く、『これもう読んだやつだ』と」

『既読でしたか』

「一日前に発売した最新刊だったんですがね」

『情報通ですね。飛びつくあたり効果的ではありましたが、ちゃんと冷静でしたか』

「面倒になった俺は元カレインキュバスの名前を偽って手紙でネルリリリアンを呼び出し、背後から襲って気絶させ、私室へと連れて行きました」

『こっちはちゃんと外道と』

「にゃんたそセーフ」

『アウトです。偶然要素皆無ですし』

「このあと偶然その元カレインキュバスとよりを戻すことになります」

『そこは必然であってあげましょうよ』

「目を覚ましたネルリリリアンはすぐさま箪笥の中を見渡します」

『拉致されて目を覚ましたばかりなのにノータイムで箪笥の中を物色するのですか』

「制限時間以内に外さないと爆破する爆弾を体に縛り付け、『鍵のヒントは箪笥にある』って書置きを残しておきましたからね」

『脱出ホラーやデスゲームでたまに見るやつ。確かにその方法なら箪笥を開けるかもしれませんが、生死がかかっている状況下で服のサイズに気付くのでしょうか』

「『サイズが違うものを探せ』と書置きを入れておきました」

『片っ端から確認されそう。ですが違うサイズはあるのですか?』

「はい。一度ファンニーノが衝動買いでサイズを確認せずに購入した着ぐるみがありまして」

『ついでにうっかりも暴露されてしまいましたか』

「該当の着ぐるみの中に隠されていた鍵で爆弾を取り外したネルリリリアンは冷静になってここがファンニーノの私室であることを悟ります」

『一応鍵はちゃんと用意してあったのですね。ちなみに気づいた理由は?』

「奥にあったものをみつつ、『このサイズ、ファンニーノ様以外にあり得ない……』と」

『スタイルも魔王でしたか』

「そして俺の計画通り、ネルリリリアンは大量にあった着ぐるみなどがファンニーノの私物であることに気づきます」

『空想上の娘のものでないことは判明したわけですね』

「そしてネルリリリアンは戦慄します」

『受け入れられなかったパターンでしょうか』

「曰く、『この爆弾……爆発していたら魔王城ごと木っ端みじんになるレベル……私を襲った愉快犯はファンニーノ様ごと私を殺す気だった……。魔王軍にそんな不敬な輩がいるはずがない……まさか人間軍がここまで入り込んでいる……?』と」

『なに想定以上に物騒な代物でデスゲームをやっているのですか』

「ちょっと興が乗りまして」

『もし爆発したらどうするつもりだったのですか』

「大丈夫ですよ、遠隔で操作できるリモコンも用意していましたので」

『ネコの人形のくせに器用な真似をしてからに』

「ネルリリリアンの報告により魔王城に刺客が忍び込んだ噂が広がり、魔王軍の空気がより張りつめていきました」

『まさか魔王の人形が制作したとは思わないでしょうからね。折角気づかせたのにより深刻な事実で上書きされちゃいましたね』

「一方違うサイズの着ぐるみを衝動買いした事実がバレた可能性に気付いたファンニーノは一人ベッドで悶えていました」

『魔王は余裕の態度ですね。自室がデスゲームの舞台にされたというのに』

「まあ俺がやったことは逐次バレていましたので」

『バレていたのですか』

「魔王ですからね。自分の部屋で何が起きたのかくらい、映像魔法でチャチャっと分析できますよ」

『普通に優秀ですね。ですがそうなると貴方が意思を持って動いている事実が明るみになったのでは』

「にゃんたそが動いたということで喜んでいましたね」

『心が幼児ですかね、その魔王』

「でも流石に『にゃんたそ、あんまり過激な真似しちゃダメだぞ』とメッってされましたよ」

『可愛いものに甘すぎる』

「にゃんたそセーフ」

『確かにセーフではありますがちょっと苛立ちますね』

「とりあえず魔王城を吹き飛ばすような過激な真似は自重しようと反省しつつ、新たなターゲットを見つけ出します」

『反省はしたのですね』

「ええ、信用できるチョイスですよ。次なる標的は裏切りの暗黒謀反騎士ダークルナイント」

『信用度の低すぎる二つ名。ああでも人間界から裏切った感じなのですかね』

「座右の銘は『隙あらば下剋上』」

『ただの謀反人ですね』

「趣味はにゃんたその大冒険の台本執筆」

『まさかの人形劇の原作者』

「裏切りや謀反ばかりの殺伐としていた対人関係に疲れた際、息抜きとしてゆるふわ人形劇の台本を書いていたようですね」

『たまにありますよね。シリアスに疲れた者がコメディやほのぼのを求める現象』

※あるよね。

「面倒なことが面倒だったので俺は偶然を装いダークルナイントを背後から襲って気絶させ、私室へと連れて行きました」

『それはもうただ襲っているだけなのですよ。一応聞きますが偶然要素どこですか』

「気まぐれに襲いましたね」

『それはもう何も装っていないのですよ』

「目を覚ましたダークルナイントはすぐさま動揺します」

『突然背後から襲われただけですからね』

「『にゃんたそに襲われた……いやあれは人形……誰かが操って……わざわざにゃんたそでこの俺を襲うなんて……まさか俺がにゃんたその原作者であることが……?』と」

『なんなら目撃されているじゃないですか』

「にゃんたそセーフ」

『三振超えて退場レベルのアウトなのですよ』

「周囲には無数のファンシーグッズ。その中にはにゃんたその大冒険グッズもあり、ダークルナイントの動揺はさらに大きくなっていきます」

『理解が追いつくのが大変そう』

「そして他の人形に紛れ、音もなく背後に忍び寄るにゃんたそ人形」

『ゆるふわな光景をホラーにしようとしていますよね』

「しかし流石は裏切りの暗黒謀反騎士ダークルナイント。同じ手は二度も通じません。俺の背後からの接近を察知し、即座に伝説の魔剣グシャルダリグドリオンを抜き放ちます」

『意外と優秀。裏切りや謀反要素は関係ないですが』

「あまりの切れ味に差し出そうとしたサイン色紙が真っ二つでしたね」

『サインを貰うのに音を消して背後から忍び寄るんじゃありません』

「追撃を放つダークルナイント。ですがにゃんたその体に魔剣程度が通じるはずもなく、俺の体に触れた瞬間伝説の魔剣グシャルダリグドリオンは砕け散ります」

『展開が絶望的すぎる』

「身体硬化は異世界転生の嗜みですからね」

『人形風情が伝説の魔剣に嗜みで打ち勝つなと』

「ダークルナイントは取り乱し、俺に向かって非難の声を浴びせます」

『そらそうでしょうよ』

「曰く、『にゃんたそは柔軟性が強みなんだぞ、魔剣を砕く硬さなんてありえないだろうが』と」

『原作者からのダメだしでしたか』

「これには俺も確かにそうだと頷きます」

『納得はするのですね』

「俺もにゃんたそになるにあたって、原作履修はしておきましたからね」

『原作履修していたのなら、もう少し行動に反映させなさい』

「ひとしきり喚いていたダークルナイントでしたが、ふと冷静にみるとこの部屋がファンシーグッズに囲まれたほのぼのとした空間であることに気づきます」

『異常なのは目の前にいるにゃんたそだけですからね』

「ここで伝説の魔剣の発動騒ぎを察知したファンニーノが乱入してきます」

『部屋で伝説の魔剣が振り回されて砕かれていますからね』

「ダークルナイントはファンニーノが両腕に抱えていたものを見て、『それは今日販売の限定にゃんたそなりきりセット……』と口にします」

『グッズ買いに人間界に行っていましたか。幅広く商売していますねにゃんたそシリーズ』

「この瞬間、二人ともお互いがコアなにゃんたそファンなのだと悟りました」

『片方原作者ですけどね』

「はい。ですがダークルナイントは原作者であることがバレたくないためファンのふりをせざるをえなくなったのです」

『人間界で娯楽制作をしてストレス発散していることが魔王にバレるのは不味いでしょうからね』

「こうしてファンニーノは自らのコレクションの良さを共感する同胞を手に入れることができたのです」

『原作者ですけどね。他のファンシーグッズの方はどうなのでしょう』

「ダークルナイントもにゃんたその大冒険シリーズを執筆する際に、人間界でいろいろと勉強していたので彼女に負けないくらいの知識はありましたね」

『暗黒騎士の方は秘密を隠し続けられそうですね』

「ええ、にゃんたそセーフです」

『気に入りましたか、そのフレーズ。とはいえ秘密を抱えたまま生きるというのも大変そうではありますがね』

「それでも魔界にも癒しを理解してくれる存在がいるということで、裏切りや謀反、下剋上のこととかは考えなくなったそうですけどね」

『トータル的にはプラスですかね』

「そして俺はファンニーノだけの秘密ではなくなってしまったので概念死というやつです」

『恒例化していますね』

「まあここから先はなんだかちょっと甘くなりそうな感じでしたし、ちょうどいい塩梅かなと」

『にゃんたそが動かなくなったことで、魔王は悲しんだのでは?』

「それなりには。ですが自慢のコレクションを語れる友を見つけるまでの奇跡だったのだと割り切ってくれていましたよ。そうそう、お土産ですがこちら映像化したにゃんたその大冒険ブルーレイディスクです」

『ちょうど見たかった』


年一くらいは更新しときたいなと思いつつ、二ヵ月オーバーである。

にゃんたそセーフということで。はい、アウトですよね。


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