第八十四話:『幸せを運ばない青い鳥』
『布団に包まりながら食べるお菓子には、何かしらの付加価値があると思います。そうは思いませんか』
「ぽろぽろ溢れているので、確かに付加はされていますね」
『そういう付加ではありません。あとで洗濯をお願いします』
「了解です。でも布団に包まるのは心地が良いですよね。俺も最近荷重布団にハマっていまして」
※5~10kgはある布団。全身を包むような安定感がありますが、適正重量はきちんと調べましょう。
『私は柔らかい羽毛の方が好きですかね。ちなみに何キロくらいの布団ですか?』
「二千キロくらいですかね」
『それ瓦礫か何かに埋まっているだけですよね』
「先日俺の部屋を抜き打ちで見に来た女神様に、部屋を壊されまして」
『この部屋の隣に祭壇を建て、謎の儀式を行って盛り上がっているからです』
「女神様を讃える祀りだったのに……」
『私は邪神ではないので、もう少し神聖な感じでお願いします』
「部屋の中央に神々しく光る女神様の像をこしらえるとかですかね」
『私を照明代わりにしているように感じるので不敬罪にします』
「確かに照明を見続けると目を悪くしそうですよね」
『神々しさで視力を悪くするというのも、皮肉な話ですがね』
「そんなわけでここ数日は瓦礫から這い出す日々です」
『埃っぽくなるので早く片付けておくように』
「あれはあれで落ち着くんですけどね」
『二千キロの残骸に埋もれて落ち着く要素が、どこにあるというのか』
「女神様の超重力お仕置きとかに近いからですかね」
『私にありましたか。お仕置きなのだから、落ち着かないように』
「では片付けてきます」
『そうしてください』
「女神様、女神様。片付けていたら転生先の紙が発掘されましたよ」
『片付けの最中に懐かしい漫画を見つけたノリで転生先を持ってこないでください。どうして瓦礫の下にあるのですか』
「儀式の時に転生先を確認しようと用意していました」
『ソシャゲのガチャをする前にやる儀式のノリですね。それで転生先は?』
「ふぅさんより、『幸せを運ばない青い鳥』ですね」
『ただの青い鳥ですね。』
「URですよ、UR。儀式の効果ありましたよ」
『そもそも儀式前に用意していたのだから、効果があったと言えるのでしょうか』
「ありますよ。転生先は引くまで内容が決定していませんから」
『シュレディンガーの転生先……シュレディンガーに菓子折り案件ですね』
「青い鳥かぁ……最近いなくなりましたよね」
※某呟きSNSのアイコン。
『そっちの認識ですか。転生先のお題としてはメーテルリンクの青い鳥の方だと思いますが』
※童話。幸せは身近にあるよ、近すぎて気づかない幸せもあるよ的なお話。
「女神様の身近にある幸せ。ある意味では俺らしい異世界転生とも言えますね」
『その自称幸せの青い鳥が異世界転生で去っていくわけなのですが』
「幸せは置いていきます。冷蔵庫に作り置きたっぷり用意済みです」
『ならもう用はありませんね。さっさと転生してきなさい』
「もうちょっと哀愁を感じたかった」
◇
『既にある幸せは有限。全てを失えば虚無となる。故に人は幸せを求め続けるのでしょうね』
「ただいま戻りました。出前のチラシを見ながらぶつぶつとどうしたんです?」
『フライドチキンでもデリバリーしようかなと』
「それでしたらちょうど――」
『貴方の亡骸は結構ですよ?』
「ああいえ、ここに帰ってくる前に寄ってきたんですよ。ゴッドネスフライドチキン」
『なんだか調理しちゃ行けない鳥使ってませんか、そこ』
「神様が経営しているだけで、普通の鶏ですよ」
『なら問題はないですね』
「金の卵は生むそうですけどね」
『鶏は鶏でも、だいぶ贅沢。まあ食べますけど』
「鳥の話をするわけですから、やっぱりフライドチキンとか食べたくなりますよね」
『自身が鳥だったという自覚は果たしてあるのか。幸せを運ばない青い鳥でしたか』
「はい。その世界では、動物でも高い知能を持つ者は、人間と同じ様に仕事とかができる世界でして」
『なるほど。ちょっとメルヘンチックな世界ですね』
「転生するにあたり、創造主さんが成長後に就ける仕事もおすすめしてくれて、とても親切でしたよ」
『おや、最初から歓迎されるとは珍しい』
「最初に勧められたのが配達員でしたね」
『遠回しにさっさと死んで欲しいと思われていませんか?』
※主人公はお題通りの生を歩めない場合、『それはもはや◯◯として生きてはいない』と概念死することが多々あります。対策は基本しません。するとその世界で永遠に生き続ける可能性があるので。
「いえいえ、うっかり幸せを運んでしまったら死んでしまいますよと返したら、『幸せって運んでもらえるんだ……』と呆然としていましたよ」
『幸薄そうな創造主であることはわかりました』
「とりあえずは、せっかく空を自由に飛べる青い鳥。自由に色々とやってみたいと伝えましたね」
『異世界転生ですからね。仕事などで縛りを入れる必要もありませんからね』
「創造主さんも『自由……自由ってなんだろう……』と俺の案に感慨深いものを感じてくれていました」
『それ心が摩耗しているだけなのでは。なんと言いますか、創造主のわりにメンタルが弱そうですね』
「こちら創造主さんの写真です」
『女神のようですが……女神というよりは和製映画に出てくる怨霊のような姿ですね』
「過去に二度世界を創って、特に成果もなく滅んでしまったそうで。細心の注意を払いながら今回の世界を見守り続けた結果、このような疲れ切った様子になったようで」
『世界創造の女神になりたてといった感じですか。成果なしのまま連続で世界が滅ぶのは中々に堪えるでしょうね』
※この作品世界観では、世界を創造する神様は生物が神へと進化する過程を観察し、自身の進化を目指すという理由で活動しています。
「今回の世界を創ってから、寝ないで観察を続けていたそうです」
『宇宙から創生していたのなら、億年単位で寝てない計算では』
※宇宙は百三十八億、地球は四十六億年くらいです。
「なかなかに苦労してそうでしたので、何かあったら気軽に依頼とかしてくださいと言いつつ俺は転生ライフを始めました」
『女性には優しいですよね』
「女性だからというか……日本のサラリーマン的な雰囲気からちょっと懐かしさを感じたと言いますか」
『神でもなければ過労死間違いなしのハードワークですからね』
「青い鳥として生まれた俺ですが、生まれた直後から死にかけることになります」
『余裕ありそうだったのに、急ですね』
「生まれた直後の俺は灰色の雛鳥だったのですが……」
『雛と親鳥の羽根の色は大抵違いますからね』
「俺はふと我に返り、思ってしまったのです。これでは青い鳥として生きていないのではと」
『そんな理由で概念死されたら、親鳥も困惑ですよ』
「ですが、冷静に考え、卵の状態でも生きていたのだから、これはまだ転生前の状態なんだと割り切ることで事なきを得ました」
『普通は何も考えていなくても事なきなのですよ』
「でもちょっと体が光って消えかかりましたからね」
『動物の時くらいは概念死しないようにしたらどうですか』
「創造主さんも心配そうに見に来てくれましたよ」
『異世界転生者を招いたと思ったら、突然自分の体を見て消滅しかかれば心配になるでしょうよ』
「ですがふとこの時思ったんです。成長して青い鳥になってしまえば、何かしらの行動によって幸せを運び、死ぬ可能性が出てくる。生を満喫するのであれば、制約のない雛鳥の時にこそはっちゃけるのが良いのではないかと」
『貴方を心配して様子を見に来てくれた創造主の前で、よくそんな愚考を抱けますね』
「こうしちゃいられないと思い立ったが吉日。俺は勢いよく巣から飛び立ちます」
『雛鳥巣立ちRTAを更新しかねない暴挙。まともに羽根も生えていない雛鳥で飛べないでしょうに』
「飛べずとも、華麗に着地はできましたよ」
『まあ貴方ならできたでしょうよ』
「巣立ちして、最初にやるべきこと。そう、まずは生活基盤の確保です」
『今さっき万全の状態のものを投げ捨てやがりましたからね』
「俺は文明レベルの高そうな人の住む場所に向かうことにしました。そのことを何故か両手を伸ばして転んでいた創造主さんへと伝え、俺は旅立ちます」
『巣から飛び出した貴方を受け止めようと、飛びついていたのだと思います』
「人の住む街を目指すには山を越える必要があったため、俺は『月光降り注ぐ、君臨せし星竜の眠る山』へと足を踏み入れます」
『ネーミングセンスにちょっと癖がありますね』
「俺は格好良いと思いましたよ」
『本当ですか?』
「ええ、ちょこちょこ様子を見に来ていた創造主さんにも良い名前ですねと、何度も褒めたりしていましたし」
『ちょこちょこいたのですね』
「顔を赤らめながら喜んでいましたよ」
『羞恥心混じっていますね。まあ若い創造主ほど、地名とかそれっぽい感じで名付けたがりますからね』
「その山には世界創造の初期から存在する神話の怪物、翠星煌竜メテラルトゥインカールドドラゴンというドラゴンがいたのですが」
『そりゃあちょこちょこいたくもなるでしょうよ。ちなみに今後、似たような地名や名前の魔物とか出てきます?』
「それはもう沢山。格好良い名前ばかりでしたよ。もちろん全部覚えています」
『慈悲ということで、そのへんは種類だけでお願いします』
「?了解です」
『察しが悪いというよりは、純粋に評価しているのでしょうね』
「大きなドラゴンでして、こちらサイズ比の写真です」
『ドヤ顔の雛鳥しか写っていませんね』
「背景に写っているのがドラゴンの足の爪の部分ですね」
『グリーンバックの背景かと思いましたよ。それで、そのドラゴンとなにかあったのでしょうか』
「進行方向で寝ていたので、邪魔だと逆鱗にツッコミを入れたらですね」
『ドラゴンの逆鱗にツッコミを入れる理由が前代未聞ですね』
「なんと怒って襲ってきまして」
『触れられるだけで激怒する逆鱗を、邪魔だとツッコミを入れられたらそら怒りますよ』
「こっちは可愛い雛鳥なのに」
『雛鳥風情ですよ』
「まあ倒したわけなんですが」
『そこは予想できました』
「良い勝負でしたね」
『雛鳥に敗れた時点で良い勝負もなにもあったものじゃないでしょうに』
「創造主さんも驚くくらいには良い勝負だったんですけどね」
『自分の世界の神話級のドラゴンが雛鳥に敗れれば、驚く以外にないでしょうよ』
「窮地の時に助けてくれようとしてましたし」
『そういえばちょこちょこいたのでしたね』
「はい。結構危うい戦いでしたからね」
『本当に良い勝負だったのですね。ハイライトだけでも聞きましょうか』
「そうしてくれると、他の敵では苦戦もしなかったので」
『開幕がクライマックスでしたか。では聞きましょう』
「最初の窮地はドラゴンの山をも消し飛ばすブレスを、挑発していたせいで避けそこなった時のこと」
『最初のハイライトが決着の瞬間にしか思えない。しかも挑発して避けそこなうのは慢心としか言えませんね。そもそもなぜ生きているのか』
「間一髪両腕でのガードが間に合いましたからね」
『雛鳥風情の両腕に、どれほどの防御力があるのかと』
「鳥の羽根は撥水性が高く、水などをよく弾くんですよ」
『水を弾く要領でブレスが弾けるとは思えないのですが』
「普通ならばそうですね。ですが俺は体内から自在にオリーブオイルを滲ませられるタイプの鳥です。油分の質が違うんですよ」
『他に同種がいるみたいなノリで語るのは止めなさい』
※羽根が脂でコーティングされていることはわりとあります。オリーブオイルではありません。
「油分でコーティングされた俺の羽根は水を弾くだけではなく、羽根の表面に付着するゴミすら綺麗に弾くことができるのです。つまりブレスも弾けるのですよ」
『ブレスの価値が水からゴミに格下げになっただけじゃないですか。論理的な説明になっていませんよ』
「じゃあなんか油圧とか働いて、凄い力で弾けたということで」
『さては当人もあまり原理を理解してない。まあ貴方が扱うオリーブオイル辺りの性能は大概ですから、納得するしかないですね』
「次の窮地は、音よりも早い噛みつき攻撃を、オリーブまみれの体のせいで避けそこなった時ですかね」
『全身オリーブオイルまみれだと、けっこう鈍重になりそうですね』
「滑って移動する分にはそれなりに早いんですけどね」
『サイズ的に噛まれるというより、一口で食べられる規模ですよね』
「ええ。あえて口の奥へと飛び込むことで牙から逃れることができましたよ」
『食べられていますよね、それ』
「高濃度レモン汁を大量に放出し、無理やり口を開かせて脱出しましたね」
『味覚的にも地味に辛そう。オリーブオイルでも良さそうですが、レモン汁を使った理由とかはあるのですか?』
「ブレス吐いた後のドラゴンの口内って、物凄く熱くて。アヒージョの具材みたいになるのは嫌だなぁと」
『レモン汁も似たようなものでは』
「塩レモンラーメンとアヒージョだと、塩レモンラーメンの気分でしたね」
『結局は気分でしたか』
「あとこのドラゴン。耐性能力が非常に高く、同じ技を受け付けないタイプでして」
『それはなかなかに面倒。普通に強者だったのですね』
「次の窮地は、一振りで大地震すら起こす巨大な前足の一撃を、よそ見していて避けそこなった時ですね」
『そんな強者相手によそ見をするなと』
「創造主さんのレモン汁まみれの姿につい」
『ドラゴンの口を無理やり開かせるために、大量放出されてましたね』
「さらに言えば俺を助けに口元まで近寄ってましたしね」
『優しさが仇になるのは悲しい話です。結局いつものオリーブオイルとレモン汁での対応なわけですし、次は洗剤あたりでしょうか』
「いえ、それはその次の次ですね」
『……むむむ。ミュルポッヘチョクチョン?』
※なんか凄いバフ掛かるやつ。
「それはその次の窮地で使いました」
『他に何か……はっ、変わり身の術ですね』
「それは次の次の次の窮地で使いましたね」
『窮地多くないですか』
「良い勝負だったって言ったじゃないですか」
『ちなみに答えは』
「合気道の技で受け流しました」
『正攻法はずるくないですか』
「正攻法で戦ってずるいと言われましても」
『それはそうなのですが』
「続いての窮地はあらゆる呪いを付与する闇魔法を、合気道の技が綺麗に決まったことでドヤ顔していて見過ごしていた時ですね」
『大抵自分のせいで窮地に追いやられていますね』
「まあデバフ攻撃なんて、ミュルポッヘチョクチョン一粒で余裕ですけどね」
『そうですね……粒?』
「田中さんと山田とで共同開発してミュルポッヘチョクチョン味のグミを作ったんですよ。これ一粒食べるだけでミュルポッヘチョクチョン一回分のミュルポッヘチョクチョンになります」
※山田、ノリで性格やることが変わる人。あまり活躍していないので転生者向けアイテムでお小遣いを稼いでいる。
『なるほど、良くわかりませんが、美味しそうなのであとでください』
「戦いは苛烈を極め、ドラゴンの猛攻も激しくなっていきます」
『開幕に山を消し飛ばすブレス吐いてましたよね』
「更に窮地は続きます。肉体への攻撃が難しいと判断するや、恐ろしいことにドラゴンは精神干渉を行う魔法で俺の精神を攻撃してきたのです」
『洗剤で対処という答えを知ってしまっているせいで、恐ろしさが非常に薄れていますね』
「ではクイズ形式で。俺はドラゴンの精神干渉を、洗剤を使ってどのように凌いだと思いますか?」
『ふむ……洗剤でバリアを張って弾いたとかでしょうか』
「洗剤なんかで魔法を弾けるわけないじゃないですか」
『オリーブオイルでブレスを弾いた存在が言ってよい正論じゃないですからね』
「解答権、もう一度どうぞ」
『そうですね……。貴方のパターンを考えると、そもそも洗剤を使って防いだという思考が落とし穴。そう、洗剤による攻撃で精神干渉の魔法そのものを中断させたとかでしょうか』
「正解は洗剤でシャボン玉を作る遊びに夢中だったので、精神干渉を受けなかったです」
『戦いの最中に遊ばないでください』
「リスポン。これには理由がありまして」
『一応聞いてあげましょう』
「女神様の推察通り、俺はオリーブオイル、レモン汁と使っていたので洗剤でどうにかできないかと考えていました」
『貴方に対する理解が多少なりともあっていて何より』
「瞬きよりも短い刹那。脳内を巡る洗剤の用途」
『死地で脳裏を巡る情報がおかしいんですよ』
「そして浮かび上がったのは、幼稚園の頃、洗剤を使ってシャボン玉を作るお遊戯の記憶」
『それただの走馬灯』
「気づいた時にはドラゴンの存在すら忘れ、シャボン玉を飛ばして楽しんでいました。完璧な対処でしたよ」
『それただの現実逃避』
「我に返った時には、ドラゴンも創造主さんも唖然としていましたね」
『突然戦いを忘れてシャボン玉で遊び始める相手を見て、唖然としない方が難しいですよ』
「その隙をついて放った後ろ回し蹴りが、ドラゴンの喉へと突き刺さります」
『シャボン玉で遊んでいる雛鳥が唐突に後ろ回し蹴りを繰り出してきたら、確かに突き刺さりそうですね』
「強烈な一撃を受け、命の危機を感じとったドラゴン。死力を尽くし、大技を繰り出してきます」
『雛鳥の後ろ回し蹴りで命の危機を感じたのはさぞかし屈辱だったでしょうよ』
「神話時代の神々すら焼き払った、レーザーブレスが俺へと放たれます」
『ドラゴンなのにレーザーですか』
「普通のブレスは開幕使っちゃいましたからね」
『創造された世界での神々とはいえ、それらを焼き払ったレーザーブレスともなれば、中々の威力はありそうですね』
「ええ、迫りくるレーザーを前に鳥肌が立ちまくりましたね」
『常時鳥肌でしょうに。それに変わり身の術で凌いだこともわかっているので、盛り上がり的にも……ちょっとまってください。もしかして創造主を変わり身に利用したわけじゃないですよね』
「いやいやまさか。男ならまだしも」
『男ならやってたって顔ですね。しかしそうなると周囲には別の登場人物はいないようですが』
「ええ。なので俺自身で変わり身の術をしました」
『ちょっと言っていることがわからない。変わり身の術って、自分以外の対象を身代わりにするものですよね?』
「俺は激しい戦いを経て、大鳥へと成長を遂げられる状態にあったのです。なのでレーザーブレスが直撃する瞬間に全身脱皮し、その抜け殻を変わり身の術としたのです」
『脱皮というか、換羽ですよね』
※古い羽が抜け落ち、新たな羽根に生え変わること。
「勝利を確信したドラゴンの頭上に現れる、青い鳥へと進化した俺」
『進化というか成長ですね』
「決め台詞『お前には幸せよりもコイツがお似合いだ』とトドメの一撃を放ちます」
『幸せを運ばない要素を無理やりねじ込んできた』
「翼から放たれる煉獄剛炎雷鳴冥界蹴をめくらましにした抜き手がドラゴンの喉を貫きます」
※紅鮭師匠直伝。もはや足から放たれることはない。
『連続の喉狙いが無駄に生々しい。紅鮭の技で倒せば良かったでしょうに』
「戦う前から直感していたんですよ。『あ、このドラゴン、紅鮭師匠倒してる』って」
『倒されていましたか。それで使われていた奥義は通じないと』
「破れる技を繰り出せば、相手は勝利を確信し油断しますからね」
『無駄に心理戦要素。しかし直感とはいえ、良く気が付きましたね』
「ええ。山を登る途中、神話の時代の建物の名残を見つけ、そこに壊れた紅鮭のオブジェがあったので、それが閃きの要素かなと」
『それほぼ答えでは。まあ、それでもその事実を考慮して心理戦を仕掛けられた辺りは見事なのでしょうが。ですがそもそも抜き手が通用する相手なのですか』
「そこはほら、ドラゴンは抜き手を受けたことがなかったようですから」
『普通は地獄突きも抜き手も受けることはないでしょうよ』
「かくして俺はドラゴンを倒しました。いやぁ、異世界でドラゴンを倒すことは良くありますけど、かなり強敵でしたね」
『紅鮭師匠が倒されている時点でそれなりの強さはあったでしょうね』
「グラッシヴォクテートと良い勝負でしたね」
『あなたその時も逆鱗で起こしてましたよね。同じドラゴンなのに扱いが真逆ですね』
※第二十三話。同じく神々を滅ぼしたドラゴン。その時は逆鱗の苔に転生していました。
「彼に比べれば会話も成り立たず、凶暴性だらけのドラゴンだったので、倒すしかなかったんですよ」
『片や逆鱗を刺されても冷静に状況理解するドラゴンでしたからね』
「しかし残念なことに、たったの一度の戦闘で俺は成長した青い鳥になってしまいました」
『雛鳥の成長条件が戦闘によるレベルアップというのもアレですが。別に残念ではないのでは』
「いえ、俺はやることなすことが誰かに幸せを運びかねない男。人間達のいるところに行ってしまえば、きっと無意識のうちに幸せを運んでしまって概念死してしまいます」
『災厄を運ぶことの方が多い分際で、よくもそこまで自分を評価できますね』
「ですがふとこの時思ったんです。この世界のモンスターは非常に歯応えがあったなと。このままモンスターを狩り続けるのも良いのではと」
『バトルジャンキーな青い鳥はちょっと嫌ですね』
※最近はバトルジャンキーな魔王(候補)が主人公の作品を連載しております。ややギャグ多め。
「なので俺は人の住むところにはいかず、各地を転々として強者として存在するモンスターを倒して回ることにしました」
『幸せどころか死を運び回ってますね』
「それなりには楽しめましたが、結局最初のドラゴン以上に強いモンスターはいませんでしたね」
『神話の神々を倒したドラゴン以上がそうそういたら困るでしょうに』
「そして最期の時ですが、モンスターを倒している姿を人に見られてしまいまして」
『世界中を転々と回って、強いモンスターを狩り続けていたら、そんなこともあるでしょうね』
「そのモンスターが周辺の国々に害を成す存在だったらしく、『あれは幸せを運ぶ青い鳥だ』と噂されてしまって概念死してしまいました」
『結局概念死してしまいましたか』
「あと少しで四桁の大台だったんですけどね」
『世界に用意した強大な魔物を四桁近く狩られたら、創造主もいい迷惑……ふむ?』
「どうかしました?」
『いえ、むしろ良く頑張ったと言えますかね』
「?良くわからないけど、褒められた。わーい」
『幸せを与えられたのが一度でも、益鳥には違いありませんからね』
「ちなみにお土産ですが、倒したモンスター達のレアドロップ品がわんさか」
『邪魔になるので一つに絞りなさい』
◇
『はい。そうですか。そうですよね。今後は程々にしていくと良いですよ。それでは』
「女神様、どなたかと電話していました?」
『ええ。貴方が青い鳥として転生した世界の創造主ですね』
「不健康そうだった創造主さんですか。元気にしていました?」
『ええ。世界の維持が最高記録を更新し続け、今もなお安定しているそうです。そのおかげで睡眠を取る時間も確保できるようになったと』
「それはなによりです。でもどうしてまた」
『初期設定の段階で詰め込み過ぎて、現代にも神話級のモンスターが入り乱れるような、後続に誕生する人類にとってハード過ぎる世界でしたからね。貴方が大幅に間引いてくれたおかげで、適度な難易度の世界になったのですよ』
「なるほど?」
『物語のインフレは悪いことじゃないのですが、最初から全開だと長続きしないものですからね。ちなみに貴方向けに平和な世界を背景に、創造主の写真が送られてきました』
「どれどれ……おお。美人でスタイルの良い女神様が写っていますね。こんなにも綺麗だったのかー」
『……前と比べれば雲泥の差ではありますね』
「ちょこちょこ一緒にいてくれたし、もうちょっと仲良くしとくべきだったなぁ……。そうだ、もう一度あの世界に転生すれば――」
『貴方には感謝しているそうですが、生態系を乱しかねないので今後は出禁だそうです』
「そんな」
ギリギリ1年未満。セーフ(多分アウト)
お久しぶりです。
なろうで別作品の更新もさることながら、最近は漫画原作者としての週間連載もあり、余暇を肋骨の更新に回せない作者です。
完結済みの異世界でも無難と同じく、肋骨も何かしら告知できる機会でもあれば更新しようかなのノリでいたら危うく一年放置になるところでしたね。
とはいえ、この作品はたまに自分で読み返しても笑える作品。ちょこちょこ続けて行きたくはありますので気長にお待ち下さい。