第八十三話:『学園物で長い間放置された主人公の置き傘』
「さて、暇なので一人将棋実況ごっこでもやりますか」
『そんな珍妙な遊びを私の真横でされるくらいなら、一緒に遊んであげても良いのですよ?』
「わぁい。では女神様は解説の方を」
『その遊びを一緒にやるという意味ではない』
「そうですか……」
『残念そうな顔で将棋盤を片付けようとしない』
「では将棋崩しでもやりますか」
※積まれた将棋の駒を指一本で、音を立てずに崩していくゲーム。
『普通に対局でも良いのですが。まあ良いでしょう。では私から……む、いきなり崩れましたね』
「だめですよ、ビー玉の近くの駒なんですから、もっと慎重にいかないと」
『将棋崩しにビー玉を混ぜないでください』
「リスポン。説明が遅れましたがこれは『カオス将棋崩し』。将棋の駒以外にも様々なものが内包されています」
『普通の将棋崩しで良いでしょうに。では再度私から……む、崩れましたか』
「その駒、磁石内蔵ですからね。下手に取ると中の金属製駒が一緒に引っ張られちゃうんですよね」
『将棋の駒くらい普通のものを使いなさい』
「リスポン。様々な要素を考慮しながら、手に入れていく駒を厳選していくという戦略性が売りなんですよ」
『なるほど。ちなみに駒によって点数があるかと思いますが、ビー玉とかは何点ですか?』
※だいたい王将十点、歩一点くらいでばらついています。
「最終的な持ち点を倍ですね。磁石内蔵式は金属製駒一枚につき三点を得ます」
『インフレしそうなカードゲームみたいな感じになっていますね』
「とりあえずここに点数表を張っておきますね」
『将棋盤より大きな点数表が出てきましたね。エビフライとか入っているのですか』
「食品サンプルですけどね。ハンバーグやライスとかを揃えるとお子様ランチとか、ミックスグリルセットとしてカウントできますよ」
『将棋崩しなのに将棋の駒の方が少ないですよね、これ』
「大丈夫です。将棋の駒も五セットくらい入れてあります」
『どうりで山が大きいと思った。ではこの二十点のフォークドゥレクラを模したぬいぐるみを……』
「あ、崩れましたね。それ本物です」
『ペットを将棋崩しの駒に混ぜない』
「リスポン。新しく覚えさせたぬいぐるみの真似を披露させたく……」
『私が触れた瞬間に暴れ出されると、色々思うところがあります』
「確かに。ほら、フォークドゥレクラ、ごめんなさい」
『リスの土下座は見たくないですね。では次はこれを……よし、チェスのキングは……十点ですね。もうツッコミ入れません』
「じゃあ次は俺ですね……よいしょ。これは転生先か。得点はプライスレス」
『人生はプライスレスですが、遊びにプライスレスを混ぜないでください』
「えーと、此処あさんより『学園物で長い間放置された主人公の置き傘』ですね」
『プライスつけられる範疇ですね』
「学生の傘ともなれば良くて千円前後ですかね」
『ビニール傘ならもう少し安くなるかと』
「オプションで質の良い傘にしておこう。装飾とかどうしようかな。宝石でも散りばめるか」
『長い間放置される宝石の散りばめられた傘は完全にいわくつきなので、まともな外見の傘にしておきなさい』
◇
『一人カオス将棋崩し……やり込みすぎて、今では積まれている山の形から内部の様子まで透けて見えるほどになってしまいましたね』
「ただ今戻りました。あ、カオス将棋崩しだ」
『おかえりなさい。すっかり極めてしまいましたよ』
「では拡張パッチを追加しましょうか。内容量三倍増しのデラックス版ですよ」
『山が人の背丈くらいになりましたね。得点表もレジャーシート並に』
「じゃあ早速やりましょうか」
『いえ、やる気が削がれたので報告から聞きましょう。学園物で長い間放置された主人公の置き傘でしたか』
「了解です。まずは俺の持ち主だった主人公の話からですかね」
『学園ものということは学生ですかね』
「はい。ミヤミという女子高生が俺の持ち主でした。彼女が中学生時代に学校に置き忘れた置き傘が俺です」
『忘れ去られた上に進学もされましたか』
「はい。俺は忘れ去られた恨みから付喪神化し、復讐を誓った傘という感じです」
『恨みで付喪神化していたのですか。女性相手だと寛容気味な貴方にしては珍しい』
「話せば長くなるのですが、なんとあれはミヤミがまだ女子中学生の頃です」
『普通にその頃ですよね』
「ミヤミには片思いのタツヤという男の子がいました。今後登場はしないので詳細の紹介は省きます」
『片思いで終わったのですね』
「雨が降っていた日、ミヤミは置き傘がなくなったという嘘を吐き、タツヤと相合い傘で帰ったのです」
『初々しい嘘ですね』
「その時の興奮でミヤミは俺のことを完全に忘れさり、忘れたまま卒業してしまったのです。以上が経緯です」
『たいして長くもないですね。他の男にうつつを抜かし、貴方を忘れたことで恨んでいると』
「有り体に言えばそうですね。だから俺は復讐を誓ったのです。必ずやミヤミとタツヤの仲を引き裂いてやると」
『今後登場しないという事前説明で結果が分かってしまっていますね』
「ちなみに写真はこちらのように」
『唐傘お化け風ですが、傘は一般的なものですね』
「はい、定価三千円の良い傘です。転生オプション様々ですよ」
『転生オプションもその程度で喜ばれると、逆に悲しくなると思いますよ』
「復讐を誓ったのは良かったのですが、俺は復讐に燃える付喪神。そのような存在は夜にしか活動ができません」
『おばけの活動時間は夜と決まっていますからね』
「ですが夜にミヤミの家に突撃しようものなら近所迷惑となりかねない。ご近所さんに罪はないのですから、そこは自重せざるをえなかったのです」
『復讐に燃える付喪神のくせに常識を弁えすぎでは』
「なので俺はミヤミの進学した高校の窓ガラスを叩き割って侵入し、そこの傘だてに新たな居住を構えます」
『弁えてなかった』
「そして俺は機会を窺います。ミヤミが何かしらの理由で、夜の学校に居残るような、そんな機会を」
『普通はなさそうですが……部活動などで可能性はあるのでしょうか』
「ミヤミは帰宅部で、生徒会とかにも属していなかったので普段はすぐに帰宅していましたね。手出しのできない俺は指を咥えて見送ることしかできませんでした」
『手が出ないのに指は咥えられるのですね』
「ちなみに腕は出ます」
『知ってた』
「いつも『タツヤ君の帰宅が早すぎる……っ』と悔しそうにしていたのは少しだけ胸がスッとしてましたが、もどかしかったですよ」
『引き裂くもなにも、上手くすら行っていない様子』
「まあ相手は『神速の帰宅王タツヤ』ですからね」
『詳細を知りたくなってきた』
「ですがついにチャンスがやってきました。ある夏の夜のこと、ミヤミが学校に忍び込んできたのです」
『おや、不法侵入ですか』
「ええ。宿題をやろうとした時、宿題のプリントを教室に忘れていたことに気づき、叱られたくないからと取りにやってきたという感じです」
『宿題ができないことよりも、不法侵入する方が叱られそうですが』
「歴史の先生は『膝砕きのゴリ永』とまで呼ばれた男ですからね」
『地味に怖そう。ですが施錠などはしっかりとされているのでは?』
「一階はしっかりと施錠を確認されるのですが、ミヤミは二階の空き教室の窓の鍵が壊れていることを知っていたのです。なのでそこによじ登って侵入した形です」
『侵入できることを知っていたからこそ、魔が差したと言った感じですね』
「その様子を見ていた俺は『スパッツか』と舌打ちをしつつも、千載一遇のチャンスだとガッツポーズをします」
『丁寧な報告なのは認めますが、よこしまな部分は隠しても良いのですよ』
「その様子を見ていた俺は『スパッツか』とガッツポーズをします」
『そうじゃないし、意味合いも変わってきてますね。確かに舌打ちと復讐を狙う気持ちはよこしまですけども』
「ですが喜んでばかりもいられません。ミヤミを狙うのは俺だけではなかったのです」
『他に何かいるのですか』
「例えば、高校に巣食う凶悪な怨霊も彼女の命を狙っていました」
『これホラー系世界でしたか』
「怨霊の名はラツコ。かつてこの高校に通っていたのですが、不慮の事故により学校で命を落とし、その無念さから怨霊となり、夜間に学校に残る生徒を呪い殺そうと襲いかかる恐ろしいJKです」
『JK呼びのせいで恐怖感半減ですね』
「ちなみに女子高校生のJKです」
『わかりますよ、それくらい』
「突如浮き上がり、自身へと迫りくる机や椅子に驚くミヤミ」
『呪い殺すと言う割に物理的』
「ですがミヤミは咄嗟に側にあった傘、即ち俺を掴みそれで防御します」
『側にいたんですね』
「背後からだーれだってやりたくて……」
『夜の学校では効果ありそう。ですが机や椅子を傘で防御できるのですか?』
「ミヤミは帰宅部でしたが父親が剣術家。幼少期から剣術を叩き込まれていたのです」
『ジャンルが変わり始めましたね』
「速度二百キロでせまりくる椅子や机を叩き落としながら、『この程度、視界に映ったタツヤ君を逃さないようにするほうがよっぽど難しいわ』とミヤミはドヤ顔で決めポーズをします」
『飛びかかる椅子や机の速度も大概ですが、それらよりも速く動くその男の詳細が知りたくなりますね』
「ですがミヤミは自身の手を見て叫びをあげます。傘を握っていた手がオリーブオイルまみれでギトギトだったのです」
『いつもの。叫びたくもなりますね』
「俺は恨みの想いを込めて言います。『久しぶりだなミヤミン、俺のことを忘れたとは言わせないぞ……っ』」
『あだ名呼びのせいで恨みの想いが伝わらない』
「ミヤミはあまりの恐怖に俺を見ながら無言で首を傾げていましたね」
『普通に忘れ去られているだけですよね』
「気まずい空間でしたね」
『でしょうよ』
「俺は自身がミヤミに忘れ去られた置き傘であることを告げます。ですが彼女は言いました『どの傘だろう……』と」
『傘忘れ常習犯でしたか。まあ恋愛脳で他のことが目に入ってなさそうな感じではありましたし』
「そう、俺はミヤミに捨てられた数多くの男の一人に過ぎなかったのです」
『言い方言い方』
「しかし忘れ去られた恨みは本物。俺は恨みをはらそうとしますがミヤミはこうも言いました。『とりあえず復讐したいのはいいけど、今を切り抜けられないと復讐どころじゃないよ。協力してくれない?』と」
『ていよく利用される展開ですね』
「俺は言います。『俺は都合のいい時だけに利用される男なんかになりたくないね』と」
『言い方言い方』
「ですがミヤミも返します。『雨の日にしか使えない男よりマシじゃない?』と」
『傘ですからね』
「俺は言います『……確かに』と」
『ちょろいですね』
「そんなわけで俺はミヤミが無事ノートを手に入れるまでの間、協力することとなりました。雨の日以外にも使える男ですよ」
『日傘かなにかですかね』
「ラツコの怒涛の攻撃も、ミヤミの剣術と俺の防水機能の前には次々と無力化されていきます」
『机や椅子が飛んでくる攻撃に、防水機能って効果ありましたっけ』
「ほら、弾丸の雨とか言うじゃないですか。ラツコの攻撃はまさにソレ。机や椅子の雨あられというやつです。つまり傘の防水機能で弾けるんですよ」
『弾けないと思いますよ』
「でも弾けてましたよ?」
『不思議ですよね』
「学園七不思議ってやつですかね」
『そうですね。あと六つ出てこないことを祈ります』
「念力による攻撃を防がれたラツコ。続いて呪いをかける呪殺攻撃を行うも、それも俺の傘によって阻まれます」
『言ったそばから。傘で呪いを阻むなと』
「でも傘って魔除けの効果もあるって田中さんから聞きましたよ?」
『それは蛇の目の和傘ですよ。市販の傘にそんな効果はありませんよ』
※蛇の目の和傘は魔除けとしての縁起物でもあります。
「心が日本人なので、和傘なのかもしれないですね」
『もうそういうことにしておきましょう』
「自らの攻撃を全て防がれたラツコは『ナンテデタラメ、許セナイ……っ』と怒りをあらわにします」
『理不尽に怒るタイプの悪霊ですね』
「それに対し、俺は『悪霊なんていうデタラメの権化が、よく言うな』と返します」
『貴方にだけには言われたくなかったでしょうね』
「ミヤミも重ねて言います。『タツヤ君との未来のために、私はこんなところで死んでいられないのよ』と」
『序盤の説明のせいで悲しさが増してきますね』
「そのミヤミの熱い想いに、ラツコも『アレ、アノ人……確カ……ガンバッテ……』と襲うのを諦めました」
『悪霊にすら存在を知られている男の詳細とは。ですがこれで無事に助かりましたね』
「いえ、言ったじゃないですか。『例えば』と」
『他にも主人公を狙う存在がいたのですか』
「はい。高校の地下に封印されていた伝説の大妖怪が復活し、生贄を求め高校に現れたのです」
『インフレが早い。ただの怨霊の恐怖が処分市じゃないですか』
「妖怪の名はどろりひょん。かつて日本を恐怖の底に陥れたとされ、高校の地下にある大洞窟に封印されていた恐ろしいJKです」
『JKなのですか』
「はい邪悪な怪異です」
『一つの話に同じ単語で異なる意味合いの略称を使わないように』
「ちなみに俺もJKでしたね。三千円もする上質な傘です」
『常識のない傘の間違いでは。ちなみに他の勢力とかいたりします?』
「あとはまあ、適当にちらほら」
『主人公にとっては命を狙ってくる相手なのですから、適当に脅威の説明をしないでください』
「身分を偽り、夜間の見回り警備員をしている殺人衝動に駆られていた殺人鬼とかですかね」
『それトップバッターでしょうに。悪霊の前とかに出てくるのが良かったでしょうに』
「あとは連続指名手配されている逃走中の殺人鬼とか、学校でデスゲームを企画しようとしていた殺人鬼とか」
『殺人鬼多すぎませんか。殺人鬼の最強決定戦でも行われる世界線ですか?』
「まあJK要素もないので省きますが」
『貴方含め、最初の怨霊以外JK要素ないですよ』
「でも俺、現役JKの持ち物ですよ?」
『ギリギリありましたね』
「どろりひょんは始めに目撃した人間、即ちミヤミを見つけるや、捕獲しようと数多の配下魑魅魍魎をけしかけてきます」
『宿題のプリントが原因でここまでの騒動に巻き込まれるのもなかなかの不幸体質ですよね』
「しかし凶悪な悪霊、ラツコの猛攻を凌いだミヤミと俺にとって、魑魅魍魎など烏合の衆でしかありません。ミヤミは俺を手に、バッタバタとなぎ倒していきます」
『時速二百キロの机や椅子を弾き、呪いすら防げる傘ですからね。十分強いと思いますよ』
「それだけではありません。遠距離攻撃もお手のもの」
『オリーブオイルですか』
「ええ。今回は傘ということでバサっと広げた勢いで、オリーブオイルの弾を雨あられと」
『煩わしさはありますが、魑魅魍魎を倒すにはちょっと弱すぎませんかね』
「そこは大丈夫です。清めの塩を混ぜておきました」
『溶かして使うものじゃないのですよ、それは。そもそも清めの塩ってどこにあったのですか』
「家庭科室から」
『それ清めの塩じゃなくてただの食塩ですよね』
※ちゃんと別です。
「でも効きましたよ?」
『なんで効いているんですか』
「学園七不思議ですかね」
『学園七不思議って七回まで許される不条理の免罪符ってわけじゃないのですよ』
「あと酢とコショウ、粉チーズも少々混ぜておきました」
『もうドレッシングをかけたサラダじゃないですか』
「皿の上に盛り付けられた魑魅魍魎達の成れの果てを見て、どろりひょんは『ほう、やるな』と不敵に笑います」
『盛り付けまでやっちゃいましたか。お皿よく足りましたね』
「足りない分はボールの方に入れておきました」
『居酒屋とかでよくあるやり方だ』
「そして横で応援するラツコ」
『本当に応援してた』
「ちゃんと律儀にチアガールに着替えてくれてましたね」
『律儀が過ぎる』
「その横には殺人鬼達の応援団も」
『しれっと応援に回ってた。主人公を除けば人外バトルですから仕方ないのかもしれませんね』
「そしていよいよミヤミとどろりひょんとの激しい戦いが始まります」
『あなたを装備した凄腕の剣術使いなら、大妖怪相手でも勝てそうですね』
「ええ。単純な戦闘能力だけならばいい勝負でした。しかしどろりひょんは大妖怪。通常の戦闘力もさることながら、精神面への攻撃をも得意としていました」
『ラスボスの精神攻撃はよくある話』
「どろりひょんは俺に『雨の日のあと、乾かしてもらえずカビが生えてしまう幻覚』を見せてきます」
『傘的には乾かして欲しかったでしょうね』
「ええ、あれ程の恐怖体験はなかなかになかったですよ」
『あなたの半生を振り返ったらそれ以上がザラにあると思うのですがね』
「そうでもないですよ。勇者が勇者として戦ったのに、勇者扱いされず世界の汚点として嫌悪されていくような話ですからね」
『それと同等扱いにするのもどうかとは思いますが、傘目線だとそうなのかもしれない』
「おかげで俺のオリーブオイルの質がエクストラバージンオリーブオイルから、ランパンテバージンオリーブオイルくらいになりましたよ」
※オリーブオイルのグレード。
『精製しないと食用にすらなれないレベルですか。結構効いていますね』
「続いてどろりひょんはミヤミに対し『貴様はタツヤとかいう男と添い遂げたいのだったな。ならばその未来が叶わぬ幻覚を見せてやろう』と精神攻撃を仕掛けます」
『地味に嫌なところを突いてきますね、その大妖怪』
「ですがミヤミには精神攻撃が通じず、ミヤミは隙だらけになったどろりひょんに会心の一撃をお見舞いして倒します」
『おや、空想には惑わされない強い精神の持ち主だったのでしょうか』
「いいえ。どろりひょんの幻覚とは現実にあるべき事象を非現実に捻じ曲げて再現するものでした。もともとタツヤと添い遂げられる可能性が微塵もなかったミヤミにとって、どろりひょんの見せようとした非現実とは現実でしかなかったのです。なので不発に終わったんですよ」
『不幸中の幸いにしても、哀れが過ぎる。ってちょっと待ってください。あなたへの幻覚は普通に事象として現実的にある展開なのでは』
「オリーブオイルで全身コーティングしているんですよ?雨なんかに濡れるわけないじゃないですか」
『傘としてあまりにも非現実的だった』
「その後の展開ですが、倒されたどろりひょんは膝砕きのゴリ永によって膝を砕かれ地下へと再封印されます」
『歴史の先生湧いてきた。ただの教員じゃないですよね』
「ゴリ永は学校の地下の封印を守る霊能力者の血筋でもありました」
『そういう立場の人間は……いそうといえばいそう。でも膝を砕いて封印て』
「あと殺人鬼達も膝を砕かれ、警察に連行されていきました」
『それ人間達ですよね』
「ゴリ永は言っていました『膝を砕いておけば大体の連中は大人しくなる』と」
『その発想がある意味一番のホラーでは』
「ラツコは人を応援する楽しさに目覚め怨霊ではなくなり、今後頑張る生徒を応援する学校の守護霊となりました」
『チアガール気に入ったのですね』
「こうして邪魔者がいなくなり後日。俺は『さあ、決着をつけようか』と放課後に居残って反省文を書かされているミヤミに言います」
『歴史の先生に見つかって叱られましたか。膝は大丈夫ですか』
「膝はギリギリ砕かれませんでした。湿布は貼っていましたが」
『ギリギリだったんですね』
「あと横でラツコが応援しています」
『チアガールに応援されながら反省文は書きたくないですね』
「ミヤミは言います『助けてくれた恩義はあるけれど、タツヤ君との未来を邪魔するのなら、相手になるわ……っ』と書きかけの反省文を投げ捨てて身近にあった箒を手に構えます」
『反省文書き直しになりそうですね』
「最後の戦いが始まろうという緊迫した空気の中、ラツコは言います。『ソノタツヤッテ人、コノ前彼女サント一緒ニ帰ッテタ人ダヨネ?』と」
『そんな予感はありました』
「膝から崩れ落ちるミヤミ。その鮮やかな崩れ落ちっぷりは膝砕きのゴリ永に膝を砕かれた殺人鬼達を彷彿とさせました」
『嫌な彷彿ですね』
「そう、俺は最初から復讐を果たしていたのです」
『果たしていたというか、そもそも復讐する内容が存在しなかっただけでは』
「うなだれるミヤミを見て、俺は思います。確かに俺はこのミヤミの姿を見たかった。恋にうつつを抜かし、人様を忘れ去るような奴の末路に相応しいと。だけど同時に思い出してしまったのです。俺がミヤミの傘として過ごした日々を。数回程度ではあったけれど、一緒に雨の中を歩いた思い出を。そして復讐の達成に虚無感を覚えました」
『何もせずに終わっていたのですから、虚無感しかないでしょうよ』
「俺は復讐を忘れることにしました。それはそれとして、うなだれるミヤミの姿は見ていてどこか興奮しましたね」
『そんな下心、復讐心と共に忘れなさい』
「最終的に俺はミヤミの傘に戻ることになります。ただ放置された傘が元の場所に戻り、復讐心も消えたということで俺の魂は成仏することになりまして」
『チアガールの元怨霊よりかも怨霊的な最後ですね』
「散り際のセリフは『また忘れたら何度でも復活してやるからな』と」
『セリフは見事に散り際ですけど、成仏を散り際と言わない』
「一応念の為、忘れられた時ようにリスポン待ちはしていたのですが」
『していたのですか』
「ミヤミは俺との一件以来、恋にうつつを抜かすようなこともなく、落ち着いた女の子になっていました」
『忘れ物をしたら、オリーブオイルまみれの付喪神として蘇ってくるという事実が、落ち着きを持たせたようですね』
「これで過去に散っていった仲間たちも浮かばれるというものです」
『あなた以外にその人物の傘として転生した者はいな……いとも言い切れないですが、多分全部が全部ではないかと』
「ちなみにそんな落ち着いたクールっぷりに、元々の腕っぷしですからね。良い感じにモテていましたよ」
『怪我の功名と言いますか、不幸中の幸いと言いますか』
「結局俺の体は長い年月を扱われ、ミヤミの娘あたりが持ち主になった頃に壊れましたね」
『傘としては中々長く使ってもらえたようで』
「そのままお焚き上げされてしまったので、傘ゾンビとして復活して第二の物語を始める計画が頓挫してしまいましたよ」
『頓挫して良かったですね』
「そしてお土産ですが、こちら同じ世界で別の主人公の物語を創造主が録画していたものです。タイトルは『神速の帰宅王タツヤ』」
『ちょうど見たかった』
どうもお久しぶりです。
最近季節の変わり目で体調を崩したり、なろう更新以外でも執筆業が忙しく、わたわたしている作者です。
元々肋骨はシリアス疲れの反動でコメディを書きたくなった時に更新する作品だったのですが、最近の新作がシリアスとコメディ両方駆け抜けているので中々こちらを書くモチベや暇がなく……と言った状況でした。
でもまあせっかくの朗報があったので宣伝がてらということで、更新頑張りました。
その宣伝ですが、現在なろうで週1前後で更新している『最低賃金魔王』という作品が『マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ 第一回WEB小説大賞』にて期間中受賞に入賞となり、コミカライズ化することとなりました。
シリアスもあり、コメディ要素も多めに入っているので是非お試しください。
とりあえず肋骨の方は報告や告知とかのついでに更新していければなと思います。
もうちょっとホラー系のシナリオとか書いてモチベ上げていきたいですね。素のメンタルで書く肋骨はカロリーが高い……っ。