第八十ニ話:『ヒロインに絡んできて、主人公に倒される不良が拾った雨の日に段ボール箱で捨てられていた子猫』
「ご飯ですよー。おや、女神様。また死にゲーで遊んでいるんですか」
※第五十六話参照。
『新作が出ていましたので。過去作で腕を磨いた私なら……むぅ』
「新要素とか追加されますし、仕様が変わると色々勝手が違いますよね」
『ちなみに貴方は遊んでみましたか?』
「はい。全ボス討伐とか、レアアイテム回収でちょっと時間かかりましたけど」
『やり込んでいますね。周回プレイとかはしないのですか?』
「やろうと思ったんですけど、一周目でガッツリ遊ぶと二周目のモチベがすぐには出ないんですよね。そのうちやると思いますけど」
※周回プレイに入る時って、妙に気合いりますよね。
『転生には慣れても、同じ世界の繰り返しは苦手ですか』
「その世界で会った人達との関係をやり直すのは、抵抗ありますね」
『やり直しを求めるのは失敗をしたり、もっと上手くできたと反省したりしている人ですからね』
「つまり俺は成功者と」
『傲慢が過ぎますね。やらかしや被害ともっと向き合いなさい』
「やってみます。じぃ……」
『どうして運んできた昼食を見ているのですか』
「実は俺の方のオムライス、ちょっと熱しすぎてふわふわ感足りないんですよ」
『もう少し大きなやらかしと向き合ってください』
「大きな……あったかなぁ……」
『鏡でも見てなさい』
「じぃ……。お前は誰――」
『それは止めなさい』
※ゲシュタルト崩壊。良い子は真似をしちゃダメだよ。
「大丈夫ですよ。この顔でいる時間よりも、他の姿でいる時間の方が長いですから」
『それはそうでしょうけど』
「おかげで鏡を見た時、自分の顔に違和感覚えるくらいですし」
『既に崩壊しているじゃないですか』
「リスポンした時に元の姿に戻っているので大丈夫大丈夫」
『それはそうですね。魂の形をここまで明確に維持できるのは一種の才能ですし』
「記憶力は良いんですよね」
『神々に消されても思い出すくらいですからね。記憶力で思ったのですが、貴方は地球の文明知識をあまり有効活用しませんよね』
「勇者に資格試験の勉強をさせたことはありますよ」
※第十四話参照。
『発破技士とか一級建築士、トレーナーの知識でしたね。どちらかといえば科学分野の話です』
「郷に入っては郷に従えって言うじゃないですか」
『郷に入っては欲に従っていると思いますけど』
「その世界だけの理とかありますからね。そういうのを楽しまないと、転生を満喫できませんし」
『強者の余裕ですね。次があるかもわからない者達は、皆持てる物全てを注ぎ込もうとするものなのですが』
「じゃあ全部注ぎ込んでみますか」
『あー……貴方はダメですね。他の世界の理とかも平然と持ち込めるわけですし』
「まあ基本的には初期の状態で転生していますよ。経験だけでも十分強みありますし」
『それはそうですね。もう並大抵の戦士よりも場数踏んでいそうですし』
「チートオプションとかなくても、その世界の理とかを学べば同じ水準にいけますからね」
『普通は無理なのですがね。それではぼちぼち転生のお時間です』
「それではドロー……っ」
『急にカードバトル風にお題を引かない』
「獄歌さんより『ヒロインに絡んできて、主人公に倒される不良が拾った雨の日に段ボール箱で捨てられていた子猫』」
『割と最近も猫になっていませんでしたっけ』
※第七十四話参照。
「あの時は不吉なと呟かれてしまう黒猫でしたね」
『そう、死因ワンワンの』
「まあ今回は子猫縛りのようなので、差別化はできるかなと」
『子猫であることを縛りというのは止めなさい』
「でも子猫でなくなると概念死しますし、時間制限は立派な縛りかなと」
『概念死する前提で生き物に転生を考えない』
「お題主の意図を汲むと、仕方なくも」
『成長縛りで子猫と書いてないと思いますよ、お題主は』
◇
『ふう、やはりやり込み要素のあるゲームの方が私向けですね。年単位で遊べますし』
「にゃにゃいにゃにゃにゃいにゃいにゃー」
『言葉猫のままですよ』
「にゃ、んん、オホン。これでにゃしと」
『もうちょいですにゃ』
「あーあー。日本語を話さないでいると、つい転生先の言語に縛られがちになりますよね」
『共感させようとしないでください。ヒロインに絡んできて、主人公に倒される不良が拾った雨の日に段ボール箱で捨てられていた子猫でしたか』
「はい。今回は現代風の世界に転生しましたね。こちら俺の飼い主だった不良のソウセキです」
『貴方の一人称、吾輩とかじゃなかったですか?』
「いえ、ずっとにゃーにゃー喋っていましたよ?」
『そうですか。どこか文豪感ありますね』
「こちらソウセキの写真です」
『ちょっと古風なリーゼント、改造された学ランの典型的不良ですね』
「そのリーゼントの上にいるのが俺ですね」
『おや、可愛い三毛猫ですね』
「名をワガハイ」
『猫はワガハイでしたか』
「ソウセキは札付きの不良高校生で、日々喧嘩に明け暮れていました。自校は勿論、他校の不良生徒相手にもすぐ喧嘩を吹っかけるほどでした」
『よく退学になりませんね』
「国語と英語の成績はトップレベルで、他校にも誇れるほどでしたからね」
『ますます文豪感ありますね』
「俺とソウセキの出会いは、そう降水量百ミリにも及ぶ雨の日のことです」
『豪雨どころじゃないですね』
※降水量二十~三十でも強い雨と呼ばれます。
「捨て猫だった俺がダンボールの中で両手を広げ、雨を受け入れていると、ボロボロになったソウセキが現れました」
『なにをショーシャンクの空にごっこをしているのですか』
※ポスターが有名な映画。
「ソウセキは俺を見ると『へっ、俺よりも水が滴ってやがるぜ。だが、風邪引いちまうぞ』と俺を抱えて持ち帰っていきます」
『優しい不良のようですが、確かヒロインに絡んで主人公に倒された不良でしたよね』
「はい。この世界、この時間軸ですと主人公と言われるのはシキという高校生です」
『正岡……いえ、もう触れないでおきましょう』
「ちなみにヒロインの名はジェニー」
『ヒロインに変化球がきましたか。帰国子女とかそんな感じでしょうか』
「まあそうですね。シキはジェニーに一目惚れをし、ジェニーもシキに対し好感を持っているような関係です」
『わりとイージーな恋愛関係ですね』
「しかしそれをよく思わなかったソウセキは、ジェニーに対し『シキの近くに寄るんじゃねぇ』と絡んだのです」
『想定とちょっと違う。でも嫌いじゃないので問題ありませんね。続けなさい』
「しかしその現場を目撃したシキと口論、そのまま殴り合いの喧嘩となってソウセキは敗北したのです」
『主人公強いですね』
「武術家一族の血筋ですからね」
『急に物騒になった』
「話は戻して、お風呂に入ってさっぱりした俺はソウセキの愚痴を聞かされることとなります」
『人には言えなくても、子猫相手なら口は滑りそうですね』
「『ジェニー、アイツはやべぇ。アイツは人間じゃねぇ……。このままじゃシキが……』と」
『想定とだいぶ違ってきた。何者なのですか、そのヒロイン』
「宇宙人です」
『宇宙人ですか。ジャンルが変わって……いえ、宇宙人とのラブロマンスも昨今ではありよりのありではありますね』
「ちなみにこちら、ソウセキが目撃したジェニーの本来の姿の写真です」
『地球の人類を守る戦いとかに出てくる侵略型のエイリアンですね』
「主食は人間です」
『完全に敵ですね』
「ジェニーは食べた相手の強さを取得することができる宇宙人。シキに近寄っていたのも、彼の武術家としての才能が狙いだったのです」
『バトル系の流れで良さそう。しかしそのヒロイン、主人公をすぐには襲わないのですか?』
「本来の姿で一度襲っていたそうですが、返り討ちにあったそうです」
『武術家の血筋強いですね』
「そこでジェニーは作戦を変更。人間の異性になりすまし、親密な仲になってから油断させて殺そうと計画したのです」
『そのようなハニートラップで、食人エイリアンすら撃退する武術家が油断するでしょうか』
「傍目でも分かるレベルで揺さぶられていましたよ」
『ダメそう』
「ですがジェニーはジェニーで人間に対する理解度が足りなかった模様。緊張しているシキを見て『常に全身に力を入れ、臨戦態勢になっている』と警戒」
『これもしかしてちょっとコメディ系入ってます?』
「ちなみにジェニーが食事のために元の姿に戻り、人を襲っているのをソウセキが目撃した形となります」
『こっちはホラー系』
「ソウセキは悩んでいました。ジェニーがシキを狙っているのは明白。だけどジェニーが宇宙人であることを伝えようにも、不良の自分の言葉を信じてくれるものなんてそうはいない。シキに至ってはジェニーに一目惚れをしており、話にすらならないと」
『力ずくで止めようにも相手は武術家ですからね』
「まだジェニーを倒した方が早そうだと絡んでみても、シキに守られていましたからね」
『まだ食人宇宙人の方が倒しやすいって、相当ですね主人公。しかしその不良はなぜ主人公を助けようと?』
「小学校時代からの幼馴染です。ソウセキが不良になっても、時折一緒にご飯を食べていた仲でした」
『おや素敵ですね。しかしその友情よりも恋は強しと』
「今回俺は猫語しか喋れませんでしたからね。言葉で助言することはできませんでした」
『にゃーにゃー言いながら帰ってきてましたからね』
「なので今回はプラカードに文字を書いて助言することにしました」
『声に出さなきゃセーフってわけじゃないのですよ』
「ソウセキは俺の掲げたプラカードの文字を見て驚きました」
『そら驚くでしょうよ』
「『古典文法だと……』と」
『そら驚くでしょうよ。どうして古典文法で書いたのですか』
「暇な時に勉強していて、使ってみたくなりまして」
『転生を繰り返す人って、余暇を利用して多趣味になりやすいですからね。ちなみにプラカードにはなんと書いたのですか。翻訳済みでお願いします』
「はい。『貴様がシキを倒せる次元に到達すれば容易いことよ』と」
『子猫からあるまじき口調が』
「シキを守るためにシキが邪魔なら、シキを倒せば良いわけですからね」
『本末転倒感。まあ命を救えると考えればそうでもないですが』
「ソウセキは言いました。『それはそうだがな……でもよ、俺とアイツじゃ実力に差があり過ぎるんだ……』と」
『ただの不良と武術家の血筋ですからね』
「俺は『この臆病者め』と書いたプラカードの角でソウセキを叩きました」
『気持ちは分からないでもないですが、角は止めてあげなさい』
「俺は続けて『友を救わんが為に友を超える。その程度の漢らしさを示せずして何が不良か』と書いたプラカードで往復ビンタを食らわします」
『文字を読ませる気がない。古典文法なのですから、落ち着いて読める環境にしてあげなさい』
「ソウセキは『確かにな……。ダチを超えることを日和ってるようじゃ、だせぇツッパリもいいトコだ……』と壁から這い出ながら納得します」
『読めていましたか。しかも壁に埋め込むレベルで殴ってたのですか』
「シキが最強枠なだけで、ソウセキはソウセキで結構スペック高いんですよ。他の不良に木刀で殴られても、木刀の方が折れたりしていましたし」
『わりとローファンタジーな世界ですね』
「そんなわけでソウセキはシキを超えるために特訓を開始します。しかし俺はふと思いました」
『ふむ?』
「今回俺は子猫に転生した立場。俺の持つ戦闘技術を与えてソウセキが強くなったとして、それは子猫として転生した立場をあまりに逸脱してはいないかと」
『今更が過ぎすぎて今更を見失っているレベルですよ』
「そこで今回は彼が間接的に強くなれるよう立ち回ることにしました」
『間接的にですか。手始めにどのようなことをしたのでしょうか』
「まずは近隣の不良を闇討ちしました」
『子猫として転生した立場どこいった』
「そして倒した不良の顔に油性マジックで『ソウセキ参上』と」
『濡れ衣でヘイトを稼ぎ、場数を増やす狙いですか』
「はい。おかげでソウセキを襲う不良が激増しましたね。でも元々日頃から喧嘩をして回っているソウセキです。野良の不良程度で鍛えるには些かたりません」
『野良の不良て。貴方野良の子猫だったでしょうに』
「なので彼らには潜在能力を大幅に解放することができるようになるお注射を投与しておきました」
『子猫として転生した立場どこいった』
「心配せずとも、この世界で取れる合『理』的な薬物から作っていますよ」
『合法的と同じニュアンスで言っていますけど、合理的ってそういう意味で使いませんからね』
「突如強化された不良達に苦戦を強いられるも、追い込まれることでソウセキの潜在能力は飛躍的に向上していきます」
『強敵との戦いはシステムありなしに関係なく、経験値が溜まりますからね』
「強くなっていくソウセキですが、顔色は険しいものでした」
『おや』
「突如不良達の戦闘能力が向上、しかも半狂乱で襲いかかってくる姿に、作為的なものを感じ取ったのです」
『半狂乱になっていたのですか』
「ソウセキは気づきます。『そうか、これは正体を知った俺を、ジェニーが消そうしているのか』と」
『仕方のない勘違いではありますけども』
「俺も『多分そうかもしれぬな』とプラカードを掲げて頷きます」
『多分と書くあたり、多少の罪悪感が見えていますね。否定しないあたり、相当な外道感はありますが』
「しかしここで国語の成績が良いソウセキ、『多分とはどういう意味だ?』と尋ねてきます」
『察しが良い。いや、よく文章を読んでいると言うべきか』
「俺は『確証もなしに、責任の所在を決めつけるのは人としてあるまじき行為』だと説き伏せました」
『それ以上に人としてあるまじき行為をしていますがね、そこの子猫』
「人ではないですし」
『ダブルミーニングでひとでなしですね』
「ですがこれは好都合。俺がソウセキを苦難の道に叩き込んでも、大半はジェニーのせいにできましたので、お互いの関係が良好のまま特訓が続きました」
『人のことをどうとも思わない貴方と、不良との関係に意味はあるのでしょうか』
「餌のグレードが一定水準を超えた状態のままですからね」
『ご飯の質は大事』
「ただ不良相手だけでは、多くの技を磨いているシキに通用するとは思わなかったソウセキ。今度は各地の武術道場に道場破りの旅にも出ます」
『どっちが主人公かわからないムーブですね』
「でも大変な旅でしたよ」
『それはそうでしょうけど、貴方が言うと相当な問題があったように聞こえますね』
「ソウセキが行きそうな道場に先回りして、お注射を投与して回る必要がありましたから」
『なんてことを』
「ソウセキが方向音痴だったり、気分で向かう先を変えたりで、必要以上に駆け回るハメになりましたからね」
『必要以上の犠牲を出してからに』
「磨き上げられた技を使う武術家達を相手に、ソウセキは故郷に残してきたシキのことを思い出します。『こんなところにまで奴の手が……早く強くならなくちゃな……。あの化物にシキが食われるのが先か、俺がシキを倒すのが先か……』と」
『主人公どちらにせよ酷い目に遭いますね』
「俺もウンウンと薬研で薬草をすり潰しながら頷いていました」
※薬研:ちょっと昔の薬師とかが薬をゴリゴリしてるアレ。
『百歩譲って貴方の悪行は否定しませんが、少しは隠そうとする素振りを見せなさい』
「毎度傷だらけのソウセキに渡す塗り薬を作っていたので、怪しまれることはなかったですね」
『その不良、節穴なのでは。いえ……注射薬を薬研で作るはずもないと考えるのが普通なのでしょうかね』
「ソウセキは十分に強くなりました。ですがまだ、序盤の噛ませモブから物語に登場する強キャラになれた程度。シキを倒すには何かが足りないといった状況でした」
『その不良、序盤の噛ませモブ扱いスタートだったのですね』
「ですが俺の手元にあるのはコミュニケーション用のプラカード、そして潜在能力を解放するお薬だけ」
『わりと十分では』
「しかし俺はふと思い出したのです。田中さんの言葉、『一見問題解決に役に立たない物でも、組み合わせ次第で役立つ道具になる。たなか』を」
『ポエム風に語るなと。つまりプラカードと注射針を組み合わせて新たな道具として……いや、無理では』
「俺は潜在能力を解放するお薬を市場に流し、財源を確保することにしました」
『なんてことを』
「これでソウセキをサポートするためのアイテムを購入できるようになりました」
『田中の言葉どこにいったのですか』
「プラカードで宣伝しながらお薬を売ったので、組み合わせていますよ?」
『そう考えると普通に組み合わせていますね』
「そりゃあガッキーンって合体させたところで使い道あるわけでもなし」
『思考がそちらよりになった時に、正常に戻るのを止めてもらえますかね』
「ちなみに潜在能力を解放するお薬が出回ったことで、ソウセキは『これは俺を狙うだけじゃない……。ジェニーの奴、いよいよ本格的に人類を支配しようと……っ。急がねぇと、不味いな……っ』とより一層本腰を入れてくれました」
『宇宙人の冤罪が増えつつありますね』
「俺も『手遅れになる前に、力を付けるのだ』と頷きます」
『手遅れにしているのは貴方ですし、手遅れなのも貴方ですよ』
「資金面に余裕の出た俺は、諜報員を雇いシキの戦闘能力を分析。そのデータを元に彼の武術を模倣する戦闘ロボを作ります」
『発想が悪の組織』
「数段階のレベルに調整し、段階的に戦闘ロボにソウセキを襲わせました。ソウセキは『ダチの技を模倣しやがって……。アイツを喰らおうとするだけじゃなく、アイツが培ってきた努力まで奪いやがって』と憤慨しながら戦ってくれました」
『憤慨すべき対象は貴方のリーゼントの上に乗っかっているのですがね』
「そしてついにソウセキの実力はシキに追いつくことができました」
『敵を用意し続けることで、間接的には強くなっていますね。これを間接的と言い切るにはちょっと怪しさがありますが』
「そして俺は伝えます。『敵からの悪意によくぞ耐えきった。お前の強さは友に並んだ。後はお前が友を救おうとする意思の強さで超えてみせよ』と」
『師匠目線ですが、悪意ある敵は貴方ですよね』
「ソウセキは意を決してシキに挑みにいきます」
『しかしデータを元に鍛えるというのは、ちょっと不安ですね。主人公とはいつもデータを覆すものでは』
「大丈夫です。主人公は大抵、本気で対策を練ってきた相手には一敗するものですから」
『それはありそう』
「それにシキはこれまでの間、ジェニーとの関係を良くしようとしていただけなので、データ通りの強さのままです」
『色恋沙汰に浮かれていましたか。少しは進展したのでしょうか』
「放課後一緒に帰れる程度には」
『結構ピュア』
「ソウセキは再びシキを説得しようとし、やはり言葉では届かないと殴り合いの喧嘩へとなります。捻くれた自分を認めてくれた、友の命を守りたいと思うソウセキ。片思いの女性と帰りにクレープを食べに行く約束を守りたいと思うシキ。互いの気持ちがぶつかり合い、戦いは激しいものとなりました」
『気持ちの温度差が酷い』
「そしてかろうじて、ソウセキの気持ちが上回ったのです」
『その温度差でかろうじてというのも酷い』
「シキは自らを倒したソウセキの強さに驚き、そこに至るまでの果てしない努力と想いに気づき、ついにはソウセキの言葉に耳を傾けました」
『ラブコメしている間に、壮絶バトルものの展開でしたからね。しかもホラー寄りの』
「シキはソウセキと共に、ジェニーに真実を問い詰めることとなります。そしてジェニーは自らが宇宙人であることを認めます」
『おや、意外とすんなり』
「本来の目的も全て打ち明けたジェニー。しかし、彼女は続けて言いました。『けれど私はシキと共に過ごす中で、本当に彼のことが好きになってしまった。今はもう、純粋に彼の傍にいたいだけだ』と」
『おっとこれはやや複雑な展開』
「しかし散々命を狙われたソウセキはその言葉を信じず、これまでに向けられた悪意は何だったのかと問い詰めようとします」
『頭の上にいる巨悪の真実が明るみに出そうですね。もっと問い詰めなさい』
「ところがその時突然、街中で爆発がおきます」
『本当に突然ですか、それ』
「突然ですよ。いやぁ、おかげで助かりました」
『内心少し焦っていたのですね。ちなみになぜ爆発が』
「それはジェニーの同郷の宇宙人達が地球に侵攻しにきたのです」
『侵略戦争始まっちゃいましたか』
「はい。元々優れた能力を得て、その成果を元に『地球は侵略する価値のある星だ』というのを証明するのがジェニーの目的の一つだったのです。しかし『あのジェニーが手こずるのであれば、地球は十分価値があるだろう』とやる気ある上司宇宙人の判断で侵攻が決定してしまったのです」
『侵略戦争を引き起こす理由が無駄にポジティブ』
「手始めにジェニー救出を兼ねて日本を占拠しようと、多くの宇宙船が飛来し、各地に宇宙人達が現れて人々を襲い始めます」
『仲間思いではあるんですね。しかし中々規模の大きい話になってきましたね』
「まあ瞬く間に制圧されましたけどね、宇宙人達」
『絶望感もへったくれもないですね』
「各地では潜在能力を解放した不良や武術家を始めとする多くの人々、果ては単身でジェニーすら圧倒するシキの戦闘能力を完全コピーしたロボが迎撃にあたっていたのです」
『そういえば各地を転々と回りながら、薬もばら撒いていましたね。ロボまで各地に配備していたのですか』
「目先のことばかり考えていて、後始末を忘れていましたね」
『無責任にも程がある』
「ソウセキは悟ります。『不良達や武術家達を強化したり、最強のシキを模倣したロボを作っていたりしてたのは、この侵攻を食い止めるための準備だったのか。ジェニーはシキの傍にいたいが為に、仲間達を裏切ってまで……っ』と」
『都合の良いようにしか解釈できないのですか、この不良』
「俺も『違――いや、その通りだ。彼女もまた愛を貫き通していたのだ』と頷きます」
『自分の手柄にし直そうとしたものの、都合の良さだけで譲りましたね』
「こうしてソウセキとジェニーは和解します。互いに同じ男を想った同士として」
『いい話に終わろうとしていますが、元々そのヒロイン食人宇宙人ですよね。本来の姿とか大丈夫なのですか』
「はい。ジェニーはシキに本来の姿を見せましたが、シキは『それはそれで可愛い』と受け入れてくれました」
『寛容過ぎませんかね』
「元々シキはジェニーの人柄に惚れ込んでいたので、外見については些細なことだったのでしょう」
『元々は自分を食おうと近づいていた食人宇宙人だったのですがね』
「ソウセキ達の成長を見届けた俺は、満足しながらその場を離れ、光となって消えていきました」
『子猫が光となって消えないでくださいよ』
「彼らの成長を感じるのと同時に、『ああ、今回は間接的に人を導くことに成功した。俺も成長したものだ』と自身の成長も感じてしまい、子猫ではいられなくなって概念死することになったのです」
『子猫と大人猫の違いって精神面だったのですか』
「後日談ですが、ジェニーはその後俺の作った薬の治療薬を開発。日本を救いつつシキと仲良くしているそうです」
『そう聞くと、努力した不良が少し報われていないような気も』
「そうでもないですよ。シキとは自身の為に限界を超えてくれた存在として、一番の親友と認め、これまで以上に仲の良い関係になれましたし。ソウセキ自身も数多くの試練を経て、人間的に成長しましたからね。今では不良を止め、プロの格闘家としてデビューしたそうです。こちら写真」
『ベルトを巻いた元ヤン的な格闘家の写真ですね。清々しい笑顔なこと。おや、頭の上に乗っている猫は……ぬいぐるみですか』
「気合を入れる時には、頭に猫のぬいぐるみを置くのが彼のルーチンになったそうです」
『感謝されてはいたようですね。真実は闇に葬られていますが』
「お土産はこちら、ジェニーの星の宇宙船に積んであった脱出ポッドです」
『また随分と場所を取りつつも、使い道のないものを』
「でも出てくる時、雰囲気ありますよ。ちょっと入ってみますね」
『雰囲気て。童心が過ぎるのも困ったもので……おお』
お久しぶりです。
最近執筆業でのタスクが増えつつ、なろうでの更新頻度が遅れており、皆さんをお待たせしてしまっております。
それでもなんとかかんとか時間を捻出しつつ、ポツポツ更新していきますので、思い出した頃に顔を覗かせに来てくださいな。