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第八十一話:『紅鮭を食べる熊』

必要のない備考

「」主人公

『』女神

[]紅鮭師匠

[失礼す――入るなりとてつもない熱風が吹き荒れている……]

「あ、紅鮭師匠だ」

[全身汗だくじゃないか]

「お仕置き期間中なんだ」

[お仕置き?]

※前話参照。

『おや、紅鮭ですか』

[こっちは平然としているな]

『この程度の熱風、そよ風みたいなものですよ』

[お土産で持ってきた冷凍紅鮭がこんがりと焼けているのだが]

『むむ、これ以上続けると折角のお土産が焦げてしまいますね。一時中断です』

[普通の空間に戻ったな]

「慣れてしまったせいか、逆に寒い……」

『一度で二度美味しいお仕置きですね。ふむ、良い火加減です』

[火加減というよりは蒸し焼きに近いだろうが……下味を付けてきたのは正解だったな。それで、さっきまでは何をしていたのだ?]

「かくかくしかじか」

[ああ、以前話題になっていた発作というやつか]

『女神のプライベートな問題を話題にしないでください』

[それもそうだ、申し訳ない。以前メールで来るなと言われた際、その異様さについ聞いてしまったのは私だ。彼に非はない]

『……心の内にしまっておくのであれば、許しましょう』

[承知した。他に知っているのは田中くらいか。私の担当の神は相当に危険な状態であるということくらいしか認知していなかったか]

『発作中の異変を危険状態と認知されていましたか。どうりで発作中に他の神が連絡してこないわけです』

[しかしなんというか……女神の与える罰としては……]

『手緩いと?』

[コメディチックというか]

『それはこの人のせいです。私のせいではありません』

「ぷはー。冷えた牛乳が美味しい」

『このようにアトラクション扱いですからね』

[確かに]

「でも二回ほどリスポンしましたよ」

[したのか……]

『したんですよね』

「自分がどれくらいで死ぬのか、気合でどれだけ保たせられるのか、色々勉強になりました」

『このように人外化も進むだけという』

[こうして実力差が開いていくというわけか……]

「紅鮭師匠も参加してみる?」

『軽いセミナーに誘うノリで罰を共有しようとしない。それで紅鮭は何の用件でここに?』

[いや、新年の挨拶にだな]

『貴方地球出身じゃないですよね?』

[ああ、元々魔王だったからな。だが一年の始まりを行事とする考えは気に入っている。一年を振り返るための目標作りなど、生きる上でのメリハリを付けられるからな]

『年寄りじみた発想ですね』

[外見は若いが、生きた年数で言えば年寄りではあるな]

『その話は止めておきましょう。そこの問題児のカテゴライズに支障が出ます』

[――そうだな。それはそうと、新年度の転生も一緒にしないかと誘いにきたのだが]

「あ、いくいく。ちょっと支度してくるー」

『異世界転生を初詣感覚でいこうとしない。向こうで何度新年を迎えると思っているのですか』

[私達は異世界とこの待機世界の時間軸は別に認識するようにしている。そうでないと時差がな……]

『数多の転生を繰り返す者達ならではのトークですね』

「準備できたー。それじゃあ早速今回の転生先を引こうっと。ガサゴソっと……佐藤五十六さんより、『紅鮭を食べる熊』」

『もう結果が見えているじゃないですか』

[これは……新年早々中々の試練だな]

『人生そのものが試練というのも悲惨ですね。別の転生先を引かせましょうか?』

[……いや、これでいい。仲良く転生するのも良いだろうが、時にはこうして明確に敵対することも悪くないのかもしれない]

『ほぼ毎回倒されていませんでしたっけ』

「そこはほら、自然の摂理的な感じですので」

[うむ]

『うむて』

「よおっし、それじゃあ紅鮭師匠、正々堂々勝負といこう」

[ああ、胸を借りさせてもらうぞ]

『食物連鎖のヒエラルキーを考えると、正々堂々もあったものじゃないのですがね』



『うむむ。彼へのお仕置きばかりで新年の準備を疎かにしていましたからね……女神通販のおせちも悪くはないのですが』

「ただいま戻りましたー」

『おや、今回は時間軸のズレが大きかったようですね』

※翌日に戻ったり、数年越しに戻ったりと転生先の時間軸は世界によりけりです。

[失礼、こちらの杵と臼はどこに運べば良いだろうか]

『紅鮭も連れてこられましたか。向こうの神との新年の付き合いは良いのですか?』

[問題ない。今は別の神のところに顔を出しているらしい]

「帰っても玄関の鍵が開かない状況らしいので、誘ったんですよ」

『玄関て。まあ良いですけどね。おせちの準備と報告、お願いしましょうか。紅鮭を食べる熊でしたか』

「はい。俺が転生した世界では紅鮭が世界を支配していました」

『私が思ったのとだいぶ違う導入ですね』

「俺が転生する少し前に、紅鮭王と名乗る存在が現れ、世界の食物連鎖のヒエラルキーを変えてしまったのです」

『紅鮭王』

[私だ]

『貴方でしたか。先の時間軸に転生したのですか』

[いや、単純に紅鮭の方が早く生まれ、早く成熟するからな]

『なるほど』

※水の温度によりけりですが、紅鮭は二ヶ月くらいで卵から孵ります。

[体格差などを考えても不利なのは明白だったからな。先に生まれた有利を最大限に活かさせてもらった]

『貴方個人の強さはさておき、紅鮭が世界を支配って可能だったのですか』

[私はこれまで紅鮭の無限の可能性を追い求め続けていた。その可能性の一つを形にしたに過ぎない]

『なるほど?』

「こちら、人類に代わり発展した紅鮭の世界となります」

『普通に人間社会のような……紅鮭が歩いていますね。二足歩行で』

[尾ひれで地上を歩けるように進化させてもらった。地上を歩けなくては支配も難しいからな。可能性の一つというやつだ]

『あ、さてはこれ、私のツッコミペース倍になるやつですね?』

「紅鮭が人間に成り代わり、世界を支配した光景は中々圧巻でしたね」

『人間はどうなったのでしょうか』

「……さぁ?」

『さぁて』

[元より人間はいなかったな。進化の過程だったのか、既に滅んでいたのか、どの生物にも世界を支配する権利が平等にある世界だったな]

『人類がいなければというifの世界だったのかもしれませんね。しかし少し早く生まれた程度で、ここまでの大規模な文明を創り上げるのは無理があるのでは?』

[一応百年位の時間はあったが]

『そこの熊は何をしてたのですか』

「冬眠してました。ただちょっと寝過ごしてしまって。いやぁ、冬眠する動物ってあんなに睡眠が快適なんですね」

『熊の寿命何回分寝過ごしているのですか。死んでいますよね』

「俺は紅鮭を食べる熊として転生しましたから。逆に言うと紅鮭を食べるまでは死ねない熊でもあったのです」

『逆説的に不死身にならないでください』

[それを言うと、百年以上生きた私も大概ではあったのだが]

『そういえばそうでした。紅鮭が百年も生きないでください』

[可能性の一つというやつだ]

『可能性も困惑していますよ』

「それでは今度は俺の話に入りましょう。俺は物心がついた時には成獣でした」

『百年も冬眠していればそうでしょうよ』

「寝る子は育つって言いますしね」

『三年寝太郎もビックリですよ』

「更には俺一匹だけでしたね」

『百年も冬眠していればそうでしょうよ』

「いえ、それだけではなく、紅鮭による熊狩りが行われており、熊は絶滅寸前だったのです」

『熊に転生してくるのは分かっていましたからね』

[その世界から種族を一つ失わせるのは気が引けたが、その甘さが命取りになると思ったのでな]

『それでも逃したと』

[百年も冬眠で寝過ごしていたとは思わなんだ]

『でしょうね』

「お腹が空いていた俺はとりあえず目についた紅鮭を食べました。すると周囲の紅鮭達が阿鼻叫喚の大騒ぎ」

『普通の食物連鎖の光景のようで、何か違和感を覚えますね』

[紅鮭の知性が人間並になっているからな。突如化け物が現れ、人間を捕食し始めたようなものだ]

『それは阿鼻叫喚。というか紅鮭に人間並の知性があるのですか』

[可能性の一つというやつだ]

『可能性が過ぎる。しかしそうなると、治安維持機構とかもありそうですね』

「はい。すぐに銃火器を持った紅鮭が現れたので、慌てて逃げましたね」

『警察か自衛隊のような役割の紅鮭でしょうか。銃火器を持った紅鮭というのものシュールですね。しかし銃火器相手に逃げるというのも珍しい』

「流石にロケットランチャーの雨あられは逃げますよ」

『想像以上に過激だった』

[紅鮭を襲う熊については、徹底的に交戦するように指示していたからな]

「命からがら逃げ延びた俺は、正面から紅鮭を食べていては命がもたないと思いました」

『食べない選択肢は』

「紅鮭しか食べられない体でして」

『無駄な縛りですね』

「そんなわけで俺は紅鮭社会に溶け込み、情報収集を行うことにしました」

『どうすれば熊が紅鮭社会に溶け込めるのか』

「人間社会の真似事をしていましたからね。巨大な紅鮭の着包みを着て歩いていればバレませんでしたよ」

『サイズ的にバレバレなのでは』

[鮭を食べる熊は地球の日本ではエゾヒグマ。その全長は2m前後だ。対する鮭の全長は60cm程度だが、巨大な者には1mを超える個体もある。人間的に言うならば身長2mの人間が大きいと考えると、4mの人型の着包みがいる認識だな]

『普通に大き過ぎる』

「鹿児島のローカルヒーローに登場する西郷隆盛モチーフのキャラクターの着包みは3.2mくらいありますから。ちょっと目立つくらいですよ」

※薩摩剣士隼人に登場、ダイサイゴーより。実際大きかったです。

『そんな巨大な紅鮭の着包みが街を闊歩していて、何の報告もなかったのですか』

[世界を支配した慢心というやつだな。彼等は巨大な紅鮭の着包みの中にまさか熊が入っているとは想像だにしなかったのだ]

『その世界の紅鮭の知性が人間並なのであれば、そう考えてしまうのも無理はないでしょうかね』

[ああ、可能性の一つというやつだ]

『そのフレーズ気に入ったのですか?』

「そんなこんなで俺は忍びながら紅鮭を次々と食べていきます。テレビでは行方不明続出のニュースが日夜流れていましたね」

『そこに怪しい巨大紅鮭の着包みがいたでしょうに』

[当時人気だったアニメヒーロー、ベニシャケマンの着包みだったからな……。彼等はまさか愛想よく振る舞うあの着包みの中に紅鮭を襲う熊が入り込んでいるとは想像だにしなかったのだ]

『そこは貴方が気づけば良かったのでは』

[一度目撃はしたのだがな。だが、あのベニシャケマンの動きは熟練の着包み師の動きだった。まさか熊が入っているとは想像だにしなかったのだ]

「変装するにあたって、ベニシャケマンのアニメは三周しましたからね」

『人食い熊がアニメを履修して着包みに変装しているようなものですか。自分で言っていて謎ですね』

「冬眠で空かせていたお腹を満たした俺は、いよいよ本格的に反撃に出ます」

『初回の逃走以外は常に攻撃していた気もしますが』

「俺は紅鮭の世界のことを調べ、全ての元凶が紅鮭王であることに気づき、邪智暴虐の紅鮭王を倒すことでこの世界が救われるのだなと考えます」

『邪智暴虐要素ありましたっけ』

[懸念材料だからとその世界から熊を絶滅させてはいるな]

『そう考えるとわりと邪智暴虐』

「しかし今回は紅鮭師匠も転生しているという情報があり、俺はどの紅鮭に紅鮭師匠が転生しているのか、警戒する必要もありました」

『あからさまに紅鮭王が怪しいとは思わなかったのですか』

「田中さんや他の転生者の可能性もありましたし」

『言われてみればそれもそう。ですがそうだとすると、そこの紅鮭を差し置いて紅鮭王を名乗ったことになりますよね』

[他にも転生者がいたような気がしないでもなかったが、紅鮭としては負けられなかったのでな]

『いたにはいたのですね』

[紅鮭の紅鮭による紅鮭のための世界を創り上げるまで、それなりの物語はあったからな。必要があれば私もレポートを提出するが]

『興味はありますが、そのうちで良いですよ』

「俺は紅鮭王がいるクリムゾンハウスへと向かいます」

『ホワイトハウスを紅鮭風にしようとした感はありますね。紅鮭のセンスですか』

[いや、自然とその名がついたのだ。人間でも紅鮭でも似たような文明を築けば似たような建築物ができるのだなと、良い発見だった]

『紅鮭が人間並なのか、人間が紅鮭並なのか、神からすればどっちでも良いのですが』

「最初は正面から入ろうとしましたが、『待て、ベニシャケマンのショーは来週だぞ』と止められてしまいまして。仕方無く忍び込むことに」

『来週になったら侵入できる情報をゲットしているじゃないですか。そもそもどこでショーをするつもりだったのですか』

[国民的大ヒットヒーローだったので、国民栄誉賞を与える流れだったのだ]

『世界の王から称賛されるレベルだったのですか』

[うむ。ベニシャケマンは俺がイメージした戦う紅鮭そのものだったからな。紅鮭達の心を掴むのも頷ける]

『冷静に考えるとベニシャケマンって人間男ってニュアンスですよね』

「俺は着包みを脱ぎ、本来の熊の姿へと戻ると、そのまま裏にあるゲートへ。そこにはアンチマテリアルライフルで武装したガード紅鮭が警備をしていました」

『装備が一々厳重』

「対する俺の装備は竹槍一本」

『ホームセンターに行けばもう少し良いものを用意できたでしょうに。……違った、熊が竹槍て』

[その初心を忘れないことは大事だな]

「まあ特に問題なく突破しましたけど」

『どうやってですか』

「適当な方向に竹槍を投げ、意識がそっちに向いた瞬間にこう、縮地法で音もなく距離を詰めて、背後からガブリと」

『熊が縮地法で背後に回り込んで食らいついてくるのは中々のホラーですね』

「その後無線機から定時連絡がきましたが、そこは忍法で声を変えて誤魔化しましたね」

『もういつもの忍者ムーブじゃないですか。もうちょっと熊要素はないのですか』

「オリーブオイルの代わりに蜂蜜を出してましたかね」

『ちょっと苦しい』

「そして少しずつ警備を無力化していき、紅鮭王のいる一室の前へと辿り着きます」

『監視カメラとかはなかったのですか?』

「ありましたよ。なので通信回線をハッキングして、劇場版ベニシャケマンの映像を流している間に制圧しました」

『監視カメラの映像から劇場版アニメが流れたら問題でしょうに』

[国民的ヒーローであるベニシャケマン。その年に公開された劇場版アニメは興行収入歴代一位ともなる大ヒット作だった。しかしクリムゾンハウスの警備員達は日夜警備の仕事に追われ、映画館に行くことが許される立場ではなかったのだ。そんな彼等の前に件の映像が流れてしまえば、目が釘付けになってしまうのも仕方のないことだ。少なくとも私には彼等を責めることはできなかった……]

『いや、責めましょうよ』

「あとは紅鮭王を倒すだけ。俺は無力化したガード紅鮭から奪った無線機百五十台を放り捨て、部屋へと突入します」

『多い多い。潜入じゃなくてただの殲滅じゃないですか』

「紅鮭王を見て俺は直感します。この脂の乗った紅鮭は間違いない。紅鮭王は紅鮭師匠だと」

『脂の乗り方で判断て』

[私も直感したな。このノックしてから入ってきた二足歩行の熊は彼だと]

『無駄に礼儀正しい。でも直感はしたでしょうね』

「お互いのことに気づいた以上、余計な言葉はいらない。俺達は名刺交換をした後に即座に戦闘に入りました」

『名刺交換は言葉以上に余計なんですよ。なんで紅鮭は悠長に名刺交換に応じているのですか』

[王として外交をしていたので、社交辞令がすっかりと身についていたというか。可能性の一つというやつだ]

『可能性は免罪符ではないのですよ』

「戦いは互角。いえ、どちらかと言えば紅鮭王の方が優勢でした」

『おや、いつもは気づいたら退場しているというのに』

「体格では俺の方に分がありましたが、紅鮭王は転生先の世界で俺よりも百年以上鍛錬を積んでおり、世界に馴染んでいましたからね」

[明確に敵対することが決まっていた世界だったからな。私にできることは可能な限りおこなっていた。少なくとも転生先の世界では創造主とも互角に渡り合える程度には強くなっていたはずだ]

『紅鮭もその領域まできていましたか』

「煉獄剛炎雷鳴冥界蹴のキレもこれまでになく鋭かったですからね」

※第二話参照。紅鮭師匠の必殺技。

[強き技として頼るのではなく、自らも限界まで強めて放った煉獄剛炎雷鳴冥界蹴だったからな。自らが想像した以上の威力が放てた。あれはもはや煉獄剛炎雷鳴冥界蹴であって煉獄剛炎雷鳴冥界蹴ではない。真煉獄剛炎雷鳴冥界蹴と呼ぶべきだろう]

『もうちょっと略せないのですか?』

[……]

『無理なら良いですよ』

「俺も煉獄剛炎雷鳴冥界蹴で相殺していたのですが、威力負けしていましたからね」

『直撃したら原子レベルで分解される技ですよね』

「はい。おかげで足の毛がすっかりと短く整えられてしまいましたよ」

『整えられる程度には上手く相殺していたのですね』

「このままではいずれ押し切られるし、全身の毛が短く夏に適した姿にされ、夏の視線を独占してしまうことになる。そう思った俺は一か八かの賭けに出ました」

『ポジティブシンキングが過ぎる』

「紅鮭王が次の真煉獄剛炎雷鳴冥界蹴を放った時、俺はその足へと噛み付いたのです」

『普通に無謀では』

「いえ、俺は賭けに勝ちました。俺は紅鮭を食らう熊として転生しました。紅鮭王の技ごと食らうことで、世界の因果を味方につけ、真煉獄剛炎雷鳴冥界蹴ごと紅鮭王の足を食い千切ることに成功したのです」

『これ概念バトル系だったんですか』

「足がなくなれば真煉獄剛炎雷鳴冥界蹴も煉獄剛炎雷鳴冥界蹴も放てない。俺は姿勢の崩れた紅鮭王に対し、右手で渾身の煉獄剛炎雷鳴冥界蹴を放ちます」

『自分の発言を即座に否定しないでください』

[熊の場合前足とも言うからな]

『そこ、貴方の必殺技で好き勝手にされているのですよ』

[いや、あれは私の完敗だった。私は真煉獄剛炎雷鳴冥界蹴に絶対の自信を持っていた。彼であってもこの技を正面から打ち破ることはできないだろうという慢心を抱いてしまっていた。それなのに彼は正面から食い破って見せたのだ。概念を利用するという発想もそうだが、強大な技を前にして、自ら食いつこうという勇気には負けを認めざるを得ない]

『貴方がそれで良いなら別に良いですけど』

「紅鮭王はそのまま塵となって消えていきました。かつての紅鮭師匠を思い出しましたね」

『当人と言えば当人ですからね』

「こうして紅鮭王は倒され、王を失った紅鮭達はその可能性を失い、元の食物連鎖の位置へと衰退していくこととなります」

『銃火器を取り扱えるまで進化できたのですから、そうそう衰退するとは思えないのですが』

「紅鮭達の異常な進化は、紅鮭王のカリスマあってのものでしたからね」

[私は紅鮭の世界を創ることと、彼を迎え撃つことばかりを考え、紅鮭達に自力で道を切り拓いていく術を正しく教えてやることができなかった。やはり私はまだまだだな……]

『その後も紅鮭の支配する世界だったらと考えると、教えなかった方が良かったと思いますよ』

「それはどうでしょうかね。衰退した紅鮭達は、これまで抑え込んできた他の生物達の標的とされ、瞬く間に絶滅してしまいましたからね」

『人間に成り代わって世界を支配した生物の末路というやつですか』

「ええ。俺が二割を削る間に八割も削り去ったわけですからね。世界の怒りは凄まじいものでした」

『世界を支配するまでに増殖した紅鮭の二割を単身で削りおってからに』

[ここに戻る前に創造主からは事情を聞いたが、少しばかり寂しい気持ちにはなったな。私のせいで紅鮭が絶滅してしまったわけなのだから]

『多分一番の原因はそこの熊ですよ』

「まあ創造主さんも『ほとぼりが冷めたら、また紅鮭を創り出すから気にすんなよ、あんちゃん』と言っていましたしね」

『そして軽い』

「まあそのほとぼりが冷めるのが遅くてですね、俺は餓死してしまったわけです」

『紅鮭しか食べられない縛りでしたね』

[今回は今まで以上に手応えを感じた転生だった。互いに生き残りを賭けた存在として転生するのも悪くないな]

「それじゃあ今日は互いの健闘をたたえて、ベニシャケマンのDVDでも見ながらおせち宴会でもしようか」

『それがお土産ですか』

「はい。ベニシャケマンのDVD、全百二十話の超大作で。勿論劇場版もちゃんとあります」

『ボリューミー過ぎですよ』



「お、紅鮭師匠から女神様にも年賀状が届いてますよ」

『どれどれ……律儀ですね、この前泊めた礼が書かれています。虎柄の紅鮭……もうただの突然変異種なのですよね』

「紅鮭も送られてきたので、鍋で良いですか?」

『はい。私はベニシャケマンを見ていますので』

「もうそれ四周目では?」

『……妙に味があるのですよね。あと食欲も湧いてきますし』


あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

12月は忙しくて投稿が間に合いませんでしたが、ゆったり更新していきたい所存です。

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