第七十四話:『目の前を横切る度に「不吉な……」と呟かれてしまう黒猫』
『ふぅ、良い感じに育成できましたね。次はどのキャラを育てましょうか』
「女神様、最近のソシャゲにハマってますね」
『人間の創り出す暇潰しは、神でもそれなりに楽しめますからね。不完全な存在が神の真似をして創り出すもの。神にとってはそれだけで興味の対象としては十分です』
「上から目線もしっかりと忘れない。まあ俺もそのゲームはやってますからね」
『美少女育成ゲームですから、触ってそうだなとは思いましたけどね。転生を控える立場でやるなとは言いませんが、課金は程々にしておくように』
「課金するほどどっしり遊ぶ時間はないですからね。でもまぁ、俺も異世界人生を満喫していますから」
『その言葉がちょっと眩しい。育成で思い出しましたが、貴方は結構異世界の人々を育てる立場が多いですよね』
「その気になれば赤子の段階でも自給自足のサバイバルとかできますからね。育ててもらう必要性がほとんどないですし」
『それはそれでちょっと見たさがありますね。それで、そういった経験を通して、何かコツのようなものとかは身に付けているのですか?』
「うーん、特にはないかなぁ。その子の才能を見極めた上で、適当に限界を超えさせれば形になりますし」
『適当で限界を超えさせないでください。見るだけで才覚を見極められるのは十分優れた技術だとは思いますが』
「転移先の世界の理とか把握するのに比べれば、一個人の肉体の成長性を見るくらい簡単ですよ」
『観察眼のスキルとか凄いことになってそうですね。ふと疑問に思ったのですが、それだけ見ることができるのであれば、貴方の眼には私はどのように映っているのでしょうか?』
「いつもの愛しい女神様です」
『そうじゃない』
「今日はちょっと寝癖が残っててキュート」
『そうでもない。あ、本当だ』
「能力を得る人の才能を物が入る器で例えるなら、女神様は何でも無尽蔵に入る宇宙ですからね。漠然とし過ぎてなんとも言えませんよ」
『なるほど、そのように見えるのですね』
「ただ満たすのは大変そうだなぁと、時たま思いますよ」
『別に人と違って終わりがないのですから。満たされる必要はないのですよ』
「でもほら、スペースが無駄にあると何か置きたくなるじゃないですか」
『それはちょっと分かる。ですが神の余地は無駄なものではありません』
「いつか俺で満たしてみたいところです」
『宇宙空間に無数に漂う貴方を想像すると、相当シュールですね』
「では宇宙を埋め尽くすサイズに巨大化した俺で」
『邪魔くさい。視界に入る程度で隅にいなさい』
「反復横跳びは」
『止めなさい。もしも貴方が人として生きていたら、どのような生き方をしていたのでしょうね』
「将来の夢は素敵な女性の旦那さんでしたね」
『乙女か。仕事の希望は無かったのですか』
「女子校の教師とかですかね」
『欲求に素直過ぎる。貴方のような人ではなれないでしょうに』
「教員免許は取れましたよ」
『うっそ』
「転生待ちって結構暇ですからね。通信講座で取ってみました」
『死後に取ってどうするんですか。むしろよく取れましたね』
※そもそも通信講座で取るものではありません。
「お、そろそろ転生の時間ですね」
『そうですね。ほら、さっさと引く』
「なんか冷たい。うんとこしょ、どっこいしょ。橘玲音さんより『目の前を横切る度に「不吉な……」と呟かれてしまう黒猫』」
『なんでそんなに引っ張りにくそうに引いているんですか』
「黒猫って不吉でしたっけ?」
『不吉な存在と捉えるのは海外の風習ですかね。まあ不吉の権化らしい転生先ですね』
※日本の歴史では幸運の象徴だったりします。幸運が横切る(逃げる)から不吉的な説も。
「俺ってそんなに不吉そうですかね」
『貴方の話題を聞くと、もれなく貴方が転生してくるという噂話はありますよ』
「怪談になっていた。でも黒猫って点だけを見れば当たりの部類ですよね」
『そうですね。聞く感じだと嫌われる運命そうですが』
「そこはほら、持ち前の明るさでカバーできると思いますよ」
『目の前を横切ることに明るさの要素は必要なのでしょうかね』
◇
『ふぅ、それなりには楽しめましたが、やはり確率からくる楽しさは有限の時を生きる人間ならではですね。まぁ色々参考にはなったので、よしとしましょう』
「ただいま戻りました。あれ、まだやってる」
『今回は貴方の帰りが早かっただけですよ』
「時間軸のズレってやつですか」
『そうですね。ざっと十五年くらいでしょうか』
「ほとんどずれてない。ソシャゲだけで十五年戦えるのはある意味才能ですね」
『神に才能なんてありません。全能なのですから』
「つまり神様が創ったゲームなら大ヒット間違いなし?」
『地球も神の創ったゲームのようなものでしょうに』
「規模が大きい話だった」
『ただ神は何でもかんでもスケールを大きくしがちなので、人間の作るゲームのように狭い範囲を楽しむものを作るのは苦手だったりしますがね』
「そういうものですか」
『貴方だってミジンコだけが楽しめる娯楽施設を作れと言われたら困るでしょう。そんな感じです』
「いけるとは思いますが、大変そうですね。まずはミジンコに転生してミジンコの気持ちになることからですかね」
『形から入り過ぎです。それでは報告を聞きましょうか。目の前を横切る度に「不吉な……」と呟かれてしまう黒猫でしたか。黒猫なら可愛らしいとは思うのですがね』
「はい。こちら転生した黒猫の時の写真です」
『この黒猫、不吉を感じるのを通り越して、妙なオーラを放っていませんかね』
「不吉だと言われるには、それなりに不吉なオーラを出しておくことも重要かなと思いまして。以前謎の物体になった経験が生きましたよ」
※第六十八話参照。オ……オォ……。
『既にやらかしの気配がしますね』
「大丈夫ですよ。今回は加減をしっかりと学んでからの転生ですからね。他人への精神的影響は極力抑えていますよ」
『極力抑えているということは、少なからず存在するという意味ですよね』
「不吉さを感じさせるということは、精神的影響に入りますからね」
『ああ、そういう』
「ただ皆が皆『不吉な……』と呟くように調整するのが意外と難しくて」
『黒猫が横切った時のリアクションは千差万別ですからね』
「ですがそれ以外の反応をされては、概念死してしまいますからね。横切る前に相手の情報をしっかりと分析してから勝負に挑みましたよ」
『黒猫なのに概念死するのですか』
※概念死=お題の条件を満たせなくなった時点でその転生体とはみなされなくなり、消滅すること。by女神様の造語集。
「でも実際の話、必ず『不吉な……』って言われる黒猫って、もう存在が概念じゃないです?」
『貴方から正論言われると、納得の前に腹が立ちますね。ちなみに幼少期とかはどうしたのですか』
「猫の家庭って割とシンプルでして。餌を自分で取れるようになったらすぐに育児終了でしたね」
『生まれて即自給自足のサバイバルできる黒猫なら、親猫も手間が省けたでしょうね』
「そんなわけで成長してからは、人の前を横切って『不吉な……』と呟かれる仕事をする日々でしたね」
『別に仕事じゃないと思いますが』
「でも成功報酬ありましたよ」
『あったんですか』
「『不吉な……』と呟かれるとレベルが上がる仕様でした」
『創造主の悪ノリを感じる』
「レベルが上がると不吉さをアピールするスキルを入手できましたよ」
『不要スキルの掃き溜めみたいな転生先ですね』
「でも失敗したら死亡ですからね。加減が苦手な俺としては、今回のスキルシステムには結構助けられました」
『加減が得意な人でも、毎回「不吉な……」と呟かれるように立ち回るのは難しいと思いますよ』
「そんなわけで、当面はレベルを上げることを優先することにしましたね」
『そのレベリング段階でも、ワンミスで死ぬわけですからね。なかなかハードな猫生』
「住処に選んだのは、何でもかんでも不吉な予兆と捉えるオミノス爺さんの家の物置でした」
『えらく好都合。でも漫画とかアニメとかに結構いるイメージありますよね。特に主要キャラでもないのに、不吉アピールする老人』
「オミノス爺さんですが、それはもう日常的に不吉がっていましたね」
『日常的に不吉がるってなかなか聞かないですよね』
「まず朝起きた時に、『体が重い、不吉な……』と呟きますね」
『それただの体調不良』
「そして窓の外でさえずる小鳥達を見て、『あの鳥……鳴き声が半音低い、不吉な……』と」
『それただの個体差。絶対音感持ちですか』
「そしてベッドから出る時も、スリッパの上ではなく床の上に足をつけ『冷たっ。不吉な……』と」
『それただの不注意。ちゃんと見ながら足を下ろしなさい』
「まあ、そんな感じで口癖のように『不吉な……』と呟いてくれていたので、同じ場所に住む上では非常に頼りになる存在でした」
『口癖のようにというか、口癖なのでは』
「ただ結構勘も良くて、俺が物置に住み着いたこともすぐに気づいたようで。入居日にはもう『黒猫とは……不吉な……。……腹は減っているか?』と餌をくれたんですよね」
『猫好きで良かったですね』
「ただ優しくされてしまっていたので、つい横切る時に元気よくにゃーと挨拶してしまった時もありましたね」
『可愛らしいアクションをしてしまいましたか。北風と太陽を彷彿とさせるような展開の危機ですね』
「ですがオミノス爺さんは『ハッハッハ、不吉な不吉な』と笑顔で挨拶仕返してくれました」
『やっぱ口癖じゃないですか』
「ただ準備もなく人前を横切るのは命取りでしたからね。他の人の前をうっかり横切らないように移動するのは、結構大変でしたよ」
『誰もが同じ口癖だったら良かったのでしょうが、それはそれでそんな世界は嫌ですからね』
「オミノス爺さんのくれる餌だけじゃ足りなかったので、普段は人の眼に映らない速度で移動して餌を取っていましたね」
『黒猫じゃなくてかまいたちじゃないですかね』
※つむじ風に乗って人の足を切る妖怪。
「ただイケると思った相手の前は横切りましたね。先程の写真のようなオーラとかを出しつつ」
『その判断の境目が気になるところ』
「相手の実力、精神力、体調、そういったものを加味しつつ、スキルや行動を組み合わせて『不吉な……』と言わせるボーダーを見極めていく感じです」
※なんかこんなゲームありそう。
『想像以上にハイレベルだった。いえ、ハイレベルなのですが』
「スキルで足りないと判断した時は、横切る前に相手の靴紐を切断するなど工夫も忘れません」
『やっぱりかまいたちじゃないですかね。ちなみにどのように切っていましたか』
「まずは視界を奪うために転倒させ、その後に靴紐を切断する感じです。うっかり傷つけてしまった場合は、オミノス爺さんの家から拝借していた薬を塗っておきましたね」
『一人三役のかまいたちですね』
※妖怪かまいたちは三匹で行動する説があります。一匹目が転ばせ、二匹目が切り、三匹目が薬を塗るそうです。その薬ちょっと欲しい。
「基本的にはコンボをいかに繋げるかでしたね」
『コンボて』
「夜に口笛を吹いて蛇や蜘蛛を召喚したり、その人が使うマグカップが壊れるようにヒビを入れたり、烏に鳴いてもらったりと、不吉な予兆を重ねるコンボですね」
『言わんとすることはわかりますが、しれっと蛇や蜘蛛、烏などを使役してませんかね』
「黒猫人生で忍者の時の経験が役に立つとは、やっぱり何事も経験ですね」
『貴方巻物の紐だったでしょ』
※第十一話参照。
「一応玄関に魚の頭を置いておけば不吉感出るかなと思い、ちょうど一緒に転生していた紅鮭師匠にも協力をお願いしたのですが、そちらはダメでしたね」
『それはそう。「貴方の頭を人の玄関先に置きたい」と言って、協力してくれる人が何人いるのやら』
「やはり黒猫の本能には逆らえずに」
『食べちゃいましたか』
「美味しかったです。お頭までしっかりと完食でした」
『猫に転生した貴方に出会ったのが運の尽きでしたね。関わっている時点で底を突いていそうですが』
「オミノス爺さんも『不吉な不吉な』と喜んで食べてましたよ」
『もうそういう鳴き声の動物か何かじゃないですかね』
「でも色々と工夫して不吉がられるのも楽しかったですよ」
『スキル等で補佐ができるのであれば、一種のゲームにも近い感じでしょうからね』
「そんな俺の平穏な猫生。このままゆったりと過ごしたいという願いも虚しく、人間達の社会事情に飲み込まれ、俺の猫生にも波乱はやってきます」
『貴方も散々人間社会に影響与えていそうではありましたがね』
「そう、異世界ファンタジー世界の定番。街に迫りくる魔王軍の侵攻です」
『あ、これ異世界ファンタジーだったんですね』
「普通の世界の黒猫が概念死するわけないじゃないですか」
『異世界ファンタジーの黒猫だって概念死しないはずなんですよ』
「ただ魔王軍と言っても、既に魔王が勇者に倒された後の時代でしたからね。敗残兵の無駄な足掻きというやつです」
『黒猫の不吉テクニックの話しか聞かされてないせいか、世界設定の新情報にあまり興味を抱けない。まあ役職すら語られない紅鮭がそのへんにいたわけですから、平和な世界だとは思っていましたが』
「そうですね。紅鮭師匠は次の魔王に就任する前に倒れたわけですし、実質無職でしたからね」
『黒猫風情が、未然に世界を救いおってからに』
「酷い罵倒」
『その魔王軍、次の魔王が倒れたことで復讐しに来たのではないですかね』
「あー」
『察しが悪い』
「でも魔王軍からは俺のせいだとか、そんな話は聞かなかったんですよね」
『次に魔王な者が街を訪れたら、黒猫に襲われて食われたなんて誰も信じないでしょうよ』
「この街は俺の縄張り。いかなる理由があろうとも、好き勝手にさせるわけにはいきません」
『好き勝手に次の魔王を食い尽くした黒猫が何か言ってますね』
「当然蹴散らそうとは思いましたが、相手は何しろ大軍です。俺は悩みました」
『大軍相手でも無双しそうな気はしますが』
「それはできたのですが」
『できたんですか』
「ただまともなスキルもない、か弱い黒猫の体でしたからね。そんな状態で大軍の前に出て暴れては『不吉な……』と呟かれないのは必然」
『概念死のハードルがありましたね』
「はい。言葉を話さない魔物なら大丈夫なのですが、言語を話せる相手だと縛りがありましたからね」
『「不吉な……」と呟かれるとあって、人とはありませんでしたね。セーフの可能性もありますが』
「創造主さんに確認したところ、アウト判定でした」
『じゃあアウトですね』
「なので街の手前の森で待ち伏せして、姿を見られないよう、見られても口を開かれる前に各個撃破していくことにしました」
『黒猫がゲリラ戦をしないでください』
「こちらその時の写真」
『全身に迷彩ペイントを施した黒猫が、魔物を背後から仕留めていますね。しかもなんかバンダナ巻いていますし』
「形から入るのは大事ですからね」
『黒猫が迷彩ペイントしたら逆に目立ちませんかね』
「……形から入るのは大事ですからね」
『目立ったんですね』
「これまでに手に入れたスキルですが、直接的な戦闘には役立ちませんでしたが、相手の精神を動揺させる効果は高かったので、良い感じに魔王軍の侵攻を防ぐことができていました」
『唐突に不吉さを感じれば、確かに精神的動揺は与えられそうですね』
「しかし各個撃破しかできないことが裏目に出て、倒しきれなかった魔王軍の一部は街へと雪崩込みます」
『黒猫単騎に敗れる魔王軍でなくて良かった』
「あと二割だったんですがね」
『八割も殲滅させてからに』
「そのまま街は戦火に包まれます。一般市民達は事前に避難していましたが、俺はふとオミノス爺さんのことを思い出します」
『避難できない老人とかの立場だったのでしょうか』
「はい。オミノス爺さんはスリッパを履かないと、床の上を歩けないほどに冷え性だったのです」
『ちょっとくらい根性見せたらどうですかね。いえ、そもそもスリッパを履けば良いのでは』
「それがですね、俺がゲリラ戦をする際に、装備として借りていまして」
『本当だ。この迷彩ペイントの黒猫、スリッパ履いてますね。……でかくないですか、貴方』
「レベルカンストまで成長してましたからね。最後は虎くらいの大きさにはなってましたよ」
『背後から襲ってた魔物、ゴブリンじゃなくてオークだったんですね』
「俺は急いでオミノス爺さんの家へと向かいました。しかし既に魔物達は家の中にいるオミノス爺さんの存在に気づいていたようで、扉は破壊され内部に侵入された痕跡がありました。俺は息を呑み、寝室へと向かいます。すると……」
『……続けなさい』
「無残にも朽ち果てた、無数の魔物の死体の上を歩くオミノス爺さんの姿がそこにはありました」
『えぇ……』
「オミノス爺さんは剣を握りしめながら、魔物を見下ろし『この程度では不吉とは言えんな……』と呟いていました」
『無駄な強キャラ感』
「流石は元勇者といったところです」
『勇者だった』
「その後、俺が暖めておいたスリッパを履いたオミノス爺さんは、俺と一緒に魔物をバッタバタと薙ぎ倒し、戦いは人間の勝利となりました」
『勝手に拝借してただけでしょうに。しかしその老人が勇者となると、色々と見方も変わってくるような……』
「実は冷え性じゃなかった……?」
『冷え性は冷え性でしょうよ』
「オミノス爺さんはその活躍を褒め称えられ、多くの褒賞を与えられました。おかげで俺も下手に人前に出ずに餌にありつけるようになったのです」
『完全にヒモですが、実際のところは貴方の活躍でもあったわけですからね』
「それ以降は平穏な日常を過ごし、俺はオミノス爺さんの最期を看取ることができました。オミノス爺さんは俺に言いました。『わしは魔王を倒したあの日から、何も感じない虚無のような日々を過ごしていた。どのような脅威も、わしの心を揺らがさなかった』と」
『強者故の虚しさというやつですかね』
「『もっとも朝起きた時の床の冷たさは、魔王と斬りあった時に負けないほどに張り詰めておったがの。ハッハッハ』とも」
『結構高頻度で刺激的な日々を送れていたじゃないですか、この冷え性老人。ところで普通に語りかけられていますが、大丈夫だったのですか?』
「横切ってないときは何を言われてもセーフですからね」
『判定があやふやですね』
「オミノス爺さんは続けます『てっきり、わしの命を狙う魔王軍の刺客かと思ったんだがの。だが、良い不吉っぷりだった。お前さんが現れてから、わしの体の中に久方ぶりに勇者として困難に立ち向かった、あの頃を思い出せるような血の滾りを感じたよ。ありがとな』と」
『勇者として、貴方の異質さを本能的に感じ取っていたのですね。質は本物だったということですか』
「猫としてスローライフを送る上で、オミノス爺さんには世話になりましたね。それでもう猫の人生は十分満喫したかなと思いつつ、全てのスキルを解除して街中を歩くことにしました」
『新たな飼い主でも探せば良かったのでは』
「口癖のように『不吉な……』なんて言ってくれる酔狂な人はそうそういませんよ」
『それもそうですね』
「今回のお土産ですが、なんか街の名物になっていたかまいたち饅頭です」
『その誤認識は解けなかったのですね。……おや、そちらの器は?』
「ああ、これはオミノス爺さんが俺に餌をくれるときに使っていた皿です。記念に持って帰ってきました。フォークドゥレクラの餌入れにでもしようかなと」
※四十四話のお土産。不死身の肉食リス。今は目安箱の中で生活中。
『それで貴方は最期になんと呟かれて消えることになったのですか?』
「当ててみます?ちなみに呟いたのは小さな女の子でした」
『そうですね……月並みだと可愛いだとかですかね。いえ、冷静に考えると人間のスリッパを履けるほどに大きな黒猫でしたね。ならば大きいなとか怖いとかでしょうか』
「正解は『あ、ワンワンだ』でした」
『ズルい答えですが、ちょっとだけ納得。ワンワンだと言われて死んだのは貴方くらいのものでしょうね』
別作品をシリアスのまま駆け抜けたいので久方ぶりの更新。
久々に書くと転移前トークや転生中トークの割合の調整が意外に大変だったりもしますね。
さて、今回で一巻分ラストとなるキャラデザラフの紹介です。
今回は1巻に収録されている勇者のカレー皿より勇者リアンと魔王クミン。
病弱ながらも十歳の時に素手で紅鮭師匠の転生先(ダルカンモ将軍)を倒す、作中の勇者の中では上位勢の勇者リアン。
クール系だけど、事あるごとにリアンに血祭りに上げられている魔王クミン。
どちらもいい味出てます。
余談ですがそれぞれの視点では以下のような好感度となっております。
リアン:主人公(大好き)、紅鮭師匠ことダルカンモ将軍(初めて一撃をもらった好敵)、クミン(ライバル店の敵、でもお得意様)
クミン:主人公(変な奴だけど、リアンの良いパートナーだと認める)、紅鮭師匠ことダルカンモ将軍(独特の雰囲気に仄かに想いを寄せていた)、リアン(放っておけない子。だけどダルカンモ将軍の死体は返して)
そして勇者の袋の勇者ナモシンです。
単純な戦闘能力は最弱の部類だけれども、何度殺されても復活し、仏メンタルで説き伏せに掛かる姿はある意味作中勇者最強の一角。復活阻止しようとしても瞬時に状況を把握して自害魔法で自害できるヤバイ奴。
一巻の中には他にも名前のある勇者や魔王、キャラクターは存在します。ですがこの三人は特に人気のあった話に登場するとのことで、専用の挿絵を用意することとなり、めばるさんにデザインしていただいた形です。
そんなめばるさんの素敵な挿絵と共に語られる異世界の者達の目線、主人公への想いを綴るアフターストーリー、興味ありましたら是非お手にとってみてください。
次回はもう一人のイラストレーター、コーポさんのイラストを紹介していく予定です。
ただあの方のイラストはラフがないからどこまで許可が降りるのやら……。