第七十二話:『勇者のライバルの靴』
「久々の素足。見てください女神様、この脚線美を」
『キャタピラが視界に入るのが煩わしかったので消し飛ばしただけですがね。そして生アシを見せてこない』
「女神様が露出しない分、俺が脱げばバランスもとれるでしょう」
『私の真逆をいけばバランスを取れる理論ですか。貴方が何かをした程度で私の影響力に変化が出るとでも?』
「俺が転生すると、もれなく女神様の評価が動くそうですよ」
『変化出てましたね。確かに貴方のせいで私を見る周囲の視線が一部イロモノを見るものに変わりつつあります』
「普段はどんな風に見られているんですか?」
『基本腫れ物ですよ。気に食わない相手は神でも消しますから』
「改善する気はないのですか」
『他者にとって都合の良い存在になることを改善とは考えません。ですが興味を持った相手にはお茶に誘ったりしてはいるのですがね』
「件の巨乳の女神様でしたっけ。怯えられていたそうですが、それ以降の関係はどんな感じです?」
『私のおすすめホラー映画鑑賞会に招待しましたね』
「チョイスが悪意を感じる」
『恐怖の対象を逸らせれば、私への恐怖も緩和するかなと』
「怪我した場所以外を刺せば痛みが和らぐ理論ですね。失敗が想像に容易い」
『最初は映画を怖がっていましたが、そのうち慣れてきましたよ。私に対するリアクションも静かなものになりましたし』
「おや、意外と効果あり?」
『耐久視聴三日目くらいでしたかね』
「それは慣れではなく憔悴しきっているのでは」
『数日徹夜程度で女神の体力は堪えたりしませんよ』
「精神は堪えませんかね」
『そもそも人間の創り出したホラーに怯えることが不自然なのですよ』
「それはそう」
『たとえ本物が現れても、余裕で殲滅できる存在ですよ』
「生理的に嫌悪するものとかもあるじゃないですか。ハエ男とかの怪人系とか」
『それこそ嫌な顔をして焼き払うだけじゃないですか』
「容赦ない。でも映画とかそういったものは、主人公に感情移入して楽しむものじゃないですか。人間として対峙した時の恐怖を感じるという意味では、巨乳の女神様の方が正しい楽しみ方をしているのでは?」
『人間に感情移入なんてできませんよ。あと巨乳の女神と呼ぶのは止めなさい。相対的に腹が立ちます』
「では灰燼の女神で」
『急に格好良さがマシましたね』
「ちなみに女神様は呼称とかあるんです?」
『本名も呼称もとんと呼ばれた記憶がありませんね。陰口一つ叩けばすぐに聞きつけてやるのですが』
「恐ろしい。だから呼ばれないのでは」
『遥か昔なら、根絶の女神と呼ばれた事があったようなないような』
「根絶やしにしたんですね」
『悪口とみなして絶やしておきましたからね』
「容赦のなさについては、この体がよく熟知しています。次はもっとこう、女性が喜びそうな感じで誘ってあげてくださいよ」
『難しい話ですね』
「難しいですか」
『私個人としては喜ぶと思っての企画でしたし』
「あー」
『そんな感じの人いるよねー的な相槌はやめなさい』
「まあ刺激を求めなければ良いと思いますよ。地味な企画でも楽しめる人は楽しめますので」
『そういうものですかね。さてそろそろ転生の時間ですね、一応アドバイスは受け取っておきます』
「はいさ。ガサゴソ……よし、お前が俺の新しい姿だ」
『無駄に格好良さを出そうとしない』
「ええと、金平糖さんより、『勇者のライバルの靴』ですね」
『勇者のライバルですか。基本的には物語における噛ませ犬ですね』
「でも敵の主力と相打ちになるとか、見せ場は多いですよ」
『最終決戦に使いづらいから、申し訳程度のつもりで見せ場を用意しただけなのに、主人公よりも人気が出たりしますよね』
「ライバルポジションに恨みでもあるんです?」
『ゲームとかをやっていると、ライバルって序盤で生意気な性格多いじゃないですか。あとから良い奴ムーブをしても、私は煽られたことは忘れない主義なんです』
「感情移入できてるじゃないですか」
◇
『ふぅ、今回は上手くいきましたね』
「ただいま戻りました。おや、少しご機嫌ですね」
『ええ、地味なものということで件の女神をドミノ企画に招待しましたが、思った以上に楽しんでもらえましたよ』
「それはなにより」
『崩れるまで三ヶ月掛かりましたからね』
「ドミノで耐久したんですか」
『崩れた時の表情はなかなか見ものでしたね』
「女神様は愉しめたようで。でも三ヶ月もドミノを並べ続けられるのは流石女神って感じですね」
『そちらの方は楽しめましたか?勇者のライバルの靴でしたか』
「はい。ウキナという名の女の子の靴だったのですが、彼女の説明をするにはまず勇者ヤタナについて話しましょうか」
『勇者のライバルですからね。引き立て役として勇者のスペックが気にはなります』
「ヤタナは優しく、真っ直ぐな少年でした。特段優れた能力を持っていたわけではありませんが、一度やると決めたことは諦めることなくやりとげる頑固さを持っていました」
『物静かな熱血系でしょうか。性格的な成長度合いは低そうですが、安定感はありそうですね』
「ヤタナは普段から森に狩りにでかけ、食料の確保や魔物退治などをして生活をしていました。村では有数の狩人として高い評価を受けていましたね」
『ふむ。ならば貴方の転生先となった靴の履き主は狩人としてのライバルでしょうか』
「はい。ウキナも村で一位二位を争う狩人です。狩りの腕だけならばヤタナ以上ですが、剣を握っての戦闘とかはやはりヤタナの方が上でしたかね」
『相手は勇者ですからね。素質的にも差はあったのでしょうかね』
「ちなみに俺はそんなウキナの狩った獣の毛皮で作られたお手製の靴でした」
『その世界観でスニーカーとかじゃないだけ、ほっとしますね』
「惜しむべきはウキナのスカートの中がスパッツだったことでしょうか」
『色欲が満たされなかったことにも、ほっとしますね』
「まあスパッツはスパッツで見応えありましたけどね」
『色欲が強い上に上級者でしたね』
「ウキナは自分の腕に自信があり、負けず嫌いな性格でした。ですがある時、狩りの腕を競う勝負でヤタナに敗れてしまいます。そこからはヤタナのことをライバル視し、事ある毎に勝負を挑むようになっていた感じです」
『勇者とそのライバルの関係は概ね把握できました。しかし勇者というからには、やがては冒険の旅に出ることになるのですよね?』
「はい。二人が狩りの勝負に出ている時、村が魔王の軍勢の襲撃を受けてしまったのです」
『おや、復讐劇的な導入ですか』
「いえ、村人達は運良く逃げ出していたのですが、魔王の軍勢が勇者の血を引くヤタナを狙ったのだと知ると、ヤタナに魔王を倒すように命じたのです」
『どちらかといえば追放系でしたか』
「ヤタナは自分のせいで村の皆が危険に晒されるくらいならと、あっさりと了承して旅に出ましたね」
『サッパリしていますね。それで、ライバルの子もそれに便乗して旅に同伴する形ですか』
「まあ負けっぱなしが我慢できなかったウキナはそのつもりだったのですが、俺がグッとウキナの足を止めて制止させます」
『突然靴が足の動きを止めてきたらビックリしたでしょうね』
「顔面からいきましたね」
『痛そう。しかし今まで大人しかったのに、どうしてまた急に』
「俺はウキナに言ったのです。『このまま旅を一緒にしても、どうせ勝敗はなあなあのままだし、なんなら新しく増えるだろう個性豊かな仲間達に飲み込まれて影が薄くなるだけだぞ』と」
『わりとありそうなヒロイン事情ですね』
「まあヒロインとしての活躍を促そうとしても、当人にはその気がないので。ただ仲間としても、同郷の狩人仲間じゃちょっと個性弱いじゃないですか」
『それはそう』
「なので突如として現れ、勇者の窮地を救って去っていく謎の覆面レンジャーという形でデビューさせようと思いました」
『個性的ではあるけども。そういうのって生き別れの兄とか、父親とかがやるべきであって、ヒロインがする立場ではないのでは』
「ウキナの目的が、ヤタナに一目置かれたいって感じでしたからね。やはり格の違いを見せるなら、相手の窮地を難なく救ってこそだと説得したわけです」
『分かりやすいといえば分かりやすいですがね。説得には応じたのですか?』
「はい。ちょろいヤツでしたね」
『言い方言い方。靴がいきなり喋ったのに、よく応じましたね』
「はい。ちょろいヤツでしたから」
『言い方がほとんど改善されてないけど、仕方なさを感じる』
「とはいえウキナの戦闘能力や狩人の腕を考えると、勇者として成長していくヤタナを助けるのは至難の業でしたからね。ヤタナが普通の冒険をしている裏で、みっちりと特訓してもらいましたよ」
『過去の人外となった者達がチラつきますね』
「今回はそこそこ自重しましたよ。俺が強くしてしまっても、ウキナは喜ばなかったでしょうからね。なので彼女には自力で特訓してもらい、俺は効率化を促すアドバイスを投げる感じですね」
『それくらいでは安心はできませんね』
「そこはもっとグッとやれとか、ふわふわとしたものばかりでしたから、大丈夫ですよ」
『それはふわふわですが、それで効率化を促せるのか』
「レベルの上昇速度はヤタナの二倍くらいでしたね」
『それで効率が上がるのが解せない。元々そのライバルがストイックに取り組んでいただけでは?』
「それもありますね。でもほら、魔物とかと戦う時とか、手に負えない時とかは俺もちょっとばかり手伝ってましたし」
『ああ、強力な魔物を倒してのレベリング貢献ですか。それならば効果的でしょうね』
「こう、背後からザシュっと」
『靴がバックアタックしないでください』
「分身の術もデフォルトで使えるし、忍者っぽいかなと」
『二つで一足ですからね。そういえば自我的にはどのような形だったのですか』
「面白い感覚ですよ。体半分が別々に分かれていて、それぞれが独立した感覚を持っていましたからね。同時に自身を二人分操作しているような感じです」
『人の精神では負荷が大きそうですね』
「雪になった時に比べればそうでもないですかね」
『そういえば世界各地で降り注いでいましたね』
※第二十九話参照。
「まあよほどのことがない限りは、俺は手伝いませんでしたけどね」
『貴方が戦闘に加わるとバランス崩壊も良いところですからね』
「いえ、俺が勝手に動くと、ウキナが裸足になりますので」
『それはそう。戦闘に靴が勝手に脱げるのはよろしくないですね』
「ええ、おかげでウキナの足の裏は思った以上に硬くなっていましたね」
『裸足で戦っていたらそうなるでしょうよ』
「結構気にしていましたね」
『意外に乙女』
「なので角質取りのやすりとか仕込んであげたりもしました」
『靴底にそんなものを仕込まれたら、歩くだけで惨事でしょうに』
「普通に取り外されて使われましたね」
『それはそう。私も毒されていますね』
「あと俺が動くとき、必ず転倒しますし」
『靴が突然飛び出したらそうなるでしょうね』
「高頻度で後頭部を押さえて転がってましたね」
『痛そう』
「勝手に動くなとよく叱られましたよ」
『でしょうね。ですが手に負えない敵が相手なら仕方ないのでは』
「その時は怒られなかったんですがね」
『他の時も勝手に動いていたと』
「綺麗な蝶々とかいたので」
『犬か猫ですか貴方は。靴が足を引っ張ってどうするのですか』
「へへ、同じこと言われましたよ。ウキナにも」
『そりゃ言うでしょうよ』
「でもウキナの方が声に熱が入っていましたね。後頭部を抑えながらでしたし」
『そりゃ入るでしょうよ』
「そんなこんなでヤタナよりも強い状態になったウキナですが、ヤタナの旅先に先回りしつつ、窮地に陥ったヤタナを覆面レンジャーとして助けていきます」
『覆面レンジャーって、知らない相手ならまだしも、知人では普通にバレませんかね?』
「そういう展開って、変装が雑だとか声でバレたりする感じじゃないですか。そんなヘマはしませんよ」
『安直なヘマはしない気はしますね』
「はい。ウキナには自己流忍法、声変わりの術を教えておきましたからね。かなり色っぽい声になっていましたよ」
『たまにガチな忍術使いますよね』
「本当ハコンナ感ジデ、匿名性ヲ出シタカッタンデスガネ」
『警察に二十四時間密着していそうな番組に出てくる犯人役みたいな声ですね。素でその声を出されたら人とすら思われませんよ』
「あとヤタナはウキナのことを知っていましたので、ウキナが絶対着ないような露出度の高い服を見繕っておきました」
『それはただの貴方の好みでしょう』
「半々ですかね。俺の好みも含んではいます」
『正直でよろしい。まあ声から格好まで違えば、怪しまれても知人だとは思われないでしょうね』
「ええ、それどころかヤタナは覆面レンジャーに一目惚れしていましたよ」
『勇者にも下心が芽生えてませんかね』
「半々ですかね。彼の好みも含んではいましたし」
『両方合わせても男の好みでしかないじゃないですか』
「ちなみにウキナはヤタナが旅に出て、張り合いのある相手がいないからと、修行の旅に出ている感じです。なのでちょくちょくヤタナの旅先の酒場などで出会うことがありました」
『そこまで腐れ縁を演出してくるのなら、いっそ誘ってあげればいいのに』
「最初のうちは何度か誘ってたんですけど、ウキナが断りましたからね。まあヤタナもそんな関係に慣れてしまったようで」
『ヒロインフラグ折っていきますね』
「ちなみに話の内容は覆面レンジャーのことばかり」
『目の前に本人がいるのに』
「まあ共通の話題が狩人トークなので、ヤタナからすれば自分達よりも凄腕の狩人がいることは良い話のネタですからね」
『それもそうですね』
「ヤタナは覆面レンジャーのことを腕も確かで、いつも助けてくれるとべた褒めでした。ウキナはそんな話を酒のせいだと言いつつも顔を紅くしながら満更でもない様子で聞いていましたね」
『ライバルから延々と褒められるのは恥ずかしさもあるのでしょうね』
「おまけに格好がエロいと大絶賛でした。そのへん重点的でしたね」
『恥ずかしさしかなさそう』
「顔を紅くしながら満更でもない様子で聞いていましたね」
『たまに思うのですが、貴方と一緒にいると、変態になるのではという説が湧きますね』
「その説が正しいとなると女神様が一番影響を受けているのでは?」
『ないですね。ただのめぐり合わせでしょう』
「ただ褒められて気を良くしたウキナが、うっかり正体を明かそうとした時は焦りましたね。慌てて口を抑えにいきましたよ」
『凄い姿勢になっていませんかね、それ』
「盛大にひっくり返っていましたね」
『足に履かれた靴が、突然口元までくるわけですからね』
「足に履かれた靴ってなかなか聞かないですよね」
『主語が靴という例が希少過ぎますからね』
「順調ではありましたが、ここで少しばかり問題が。ヤタナに認められていく内に、ウキナはヤタナのことを変に意識し始めたのです」
『散々格好がエロいとか言われ続けて、女であることを意識し始めましたかね』
「それもありますし、ヤタナが旅の仲間として女性を加えたことも関係ありますかね」
『ハーレム系ルートでもいきそうなノリですね』
「メンバーとしては元傭兵のおっさんに、元暗殺者のおっさん、元魔王軍のおっさんに、酒場で意気投合した宿屋のおっさん」
『おっさん率が異様に高い。しかも訳ありおっさんが多い上に、どうでもいいおっさんまで』
「さらに元おっさん」
『今は何なのですか』
「なんか魔王軍幹部の呪いで竜になったので、乗り物枠として活躍しています」
『おっさん率がこれだけ高ければ、ライバルのヒロインルート争いはそう難しくはなさそうですね』
「あとはかつて魔王を倒そうとするも、堕天した仲間の裏切りにあって封印されていた天界の巫女ですかね」
『紅一点がライバルよりもヒロインとしての個性が強い』
「ヤタナが巫女と仲良くする様子を見て、わけも分からず胸を痛めるウキナ」
『さっさとデレていれば良かったものを、意固地になるから』
「でもヤタナとおっさん達との絡みを見て、わけも分からず胸が高まるウキナ」
『若干気持ちが分かるから、何も言えない』
「俺は教えてあげました。それが恋なのだと」
『タイミング的に勇者とおっさん達の絡みで湧いた気持ちの方に誤解しそう』
「そこはちゃんと誤解を解いておきました」
『誤解はしたんですね』
「俺は言いました。今その恋心を伝えても、個性が弱い以上は不利なままだ。やはりここは勇者にとってこれ以上にない窮地から救い出し、そのあとに正体を明かし恋心を伝えるべきだと」
『吊り橋効果というか、劇場型というか、まあ演出に拘ることは悪くないですね』
「しかし魔王が既に倒されている今となっては、ヤタナ達はそう簡単に窮地には陥りません」
『いつ倒された魔王』
「ウキナの修行中の際、偉そうな顔で近くの崖の上でヤタナ達を見ていたのが目についたので」
『バックアタックしたんですね』
「いい声で落下していきましたよ」
『勇者を見に行った先で崖から突き落とされたのですから、変な声も出たでしょうね』
「おかげでウキナのレベルが一気に上がりましたね」
『当人突然強くなってビックリしたでしょうね』
「そんなわけで俺が一肌脱いで、ヤタナ達を追い込もうと思ったのですが、ウキナに八百長はダメだと諭されまして」
『貴方は脱がれる方でしょうに。ですが安易な策に走らないようでなにより』
「ならば本気で敵になれば良いのではと、ウキナを魔王にしました」
『この人、魔王軍を乗っ取りやがりましたね。しかもあっさりと』
「魔王の亡骸を手土産にすれば簡単でしたよ」
『回収していましたか。それ以上にライバルの気持ちとかは大丈夫だったのですか』
「魔王になったら個性でも負けないぞと言ったら、あっさりと」
『ちょろいヤツですね、本当に』
「そして覆面レンジャー魔王となったウキナは、魔王城へと現れたヤタナ達を迎え撃ちます」
『覆面レンジャーは継続だったのですね』
「今まで助けてくれた人が実は魔王だった、となれば盛り上がるかなと」
『魔王に襲撃を受けて旅立った勇者と同じタイミングで旅立った狩人ライバルが魔王になるって、設定としては盛り過ぎなレベルですね』
「今の立場に混乱していて、やけくそ気味のウキナはヤタナ達を追い詰めていきます」
『当人も混乱しているじゃないですか』
「しかしふとウキナは言いました。『これ、どうやって窮地から救えば良いんだろうと』」
『当人が追い込んじゃっていますからね』
「これには流石の俺も一本取られたと、目から鱗でしたね」
『やらかしの安定さでは流石ですね』
「しかしここで元魔王軍のおっさんが、ウキナが本当の魔王ではないと気づいたのです」
『気づくのが遅すぎませんかね』
「多分ウキナの格好がエロかったせいですかね」
『色っぽさ路線の覆面レンジャーの魔王衣装ですか。貴方の趣味を考えればかなり露出度高そう』
「腕によりをかけて、こしらえましたからね」
『足の装備品風情が腕のことわざを使わない』
「他の面々も薄々と気づいてはいたのです。巫女はヤタナの勇者の力が効果を発揮してないことを不思議に思っていましたし」
『元同郷の幼馴染ですからね』
「元暗殺者のおっさんも、魔王軍の異様な士気の低さを不思議に思っていましたし」
『ついこの前まで魔王だった者が倒されて、ぽっと出の人間が魔王になっちゃいましたからね』
「元傭兵のおっさんも、『以前近所の肉屋に熊肉を卸にきたウキナちゃんだしなぁ』と不思議に思っていましたし」
『正体まで完全にバレているじゃないですか。声と格好を変えていたのではないのですか』
「元傭兵のおっさんは、一度見た女の体を忘れない特技を持っていまして」
『すごくしょうもない特技でありながら、ピンポイントで役立っているのに、なぜそれを早く言わないのか』
「なんでも、『あの堅物のウキナちゃんが、あんな格好をするほどだし、野暮なことは言わない方が良いだろうな』と黙っていたそうで」
『無駄に紳士的ですね』
「そんなこんなで偽の魔王であることがバレ、ウキナが動揺している隙に、酒場で意気投合した宿屋のおっさんの瞬風閃光烈火斬がウキナの覆面を剥ぎ取ります」
『無駄に素性が気になるような技を、酒場で意気投合した宿屋のおっさんが使うなと』
「これには全員ビックリでした」
『でしょうよ』
「ついに正体がバレてしまったウキナに対し、ヤタナは『何故こんなことを』と問いかけます」
『本当ですよ』
「ウキナは『私にもよくわからない』と」
『でしょうよ』
「すると酒場で意気投合した宿屋のおっさんが言います。『君のことを想ってのことさ、ヤタナ』と」
『正解だとは思いますが、ここで個性を出してくるんじゃない』
「あとついでに『やり過ぎた理由はそこの足癖の悪い靴の坊やの仕業さ』と俺の正体までバラされました」
『本当に何者でしょうか。貴方の正体に気づくということは異世界転生者なのでしょうが、紅鮭でもなければ田中でもないようですし……』
「俺は思わず言いました。『そのニヒルさ……まさか、ロバの父さん……』と」
『発作中だったので記憶が曖昧でしたが、わりと最近にいましたね』
※第七十話参照。
「顔がロバ面だったので、妙な懐かしさはあったんですよね」
『今度はロバ縛りの転生者……いえ、ロバ面なだけではまだ断言はできませんか』
「彼は言いました『親子の絆は前世で堪能しただろう?今の俺はただのロバ面をした一人の男だ』と」
『ロバ縛りっぽい』
「『今後はロバートと呼んでくれ』と」
『ロバ縛り……うーん』
「思いの内をバラされたウキナは、やけくそ気味で自分の想いをヤタナへとぶつけます」
『話戻してきた』
「その様子を、息を呑みながら見守る仲間達」
『野次馬ともいう。ロバがいますが』
「俺もロバートを血祭りにあげながら見守っていました」
『突然の暴力沙汰にちょっとだけ驚いた私』
「ああいえ、自己紹介のあとに『やり過ぎは良くねぇな。ちょっとばかり仕置きしてやろう』と喧嘩を売られまして。見守りながら買いました」
『ながらで喧嘩を買わない』
「ただのおっさん程度に転生した相手に負ける気はなかったので、つい」
『ただのおっさんは勇者の仲間になったり、魔王の覆面を剥ぎ取って正体を暴いたりしませんがね。……いえ、この場合は靴程度が何を言ってやがるのか、ですかね』
「自らの腕を競い合うライバルとして見ていたつもりが、どんな窮地に陥っても諦めることなく前に進み続ける姿に目が離せなくなった。その気持ちがなんなのかよくわからない。そんな感じのことをウキナは言っていました」
『良いことを言っていただろうに、ながらで喧嘩しているから覚えきれていないじゃないですか』
「いえ、一言一句覚えていますけど、ウキナが言葉を噛みまくっていましたから、ざっくりまとめました」
『おっさんを血祭りにあげながら、一言一句聞き漏らさないのもどうかと思いますね』
「そんな理不尽な。その後言葉に詰まっていたウキナを、ヤタナは優しく笑って抱きしめます。『その想いがどのようなものなのか、君の中で答えが出ていなくても構わないさ。なんであれ僕の答えは変わらない。とても嬉しい、だよ』と」
『ハッピーエンドなようでなにより』
「そのあと『君の体が扇情的なのも変わらないしね』と続けて、顔を真っ赤にしたウキナに殴られていましたけどね」
『そういえばそんな勇者だった。しかしあっさりと結ばれましたけど、紅一点の巫女はどうだったのでしょうか?』
「元おっさんの竜と仲良く結ばれましたよ。人の姿をしていましたけど、元は竜だったようで」
『元おっさんはそれで良かったのか』
「ケモナーだったので、大丈夫だったそうです」
『良かったのか』
「そんなこんなで世界も平和になりましたし、俺もすっかり履き潰されて寿命を迎えることになりました。獣の革で作られた靴じゃ、そこまで長生きは難しいですからね」
『ここぞとばかりに普通の靴アピールをしない』
「ちなみにお土産ですが、不要になった――」
『魔王の衣装とか口にしたら貴方に着せますよ』
「その手があったか。でも女神様じゃサイズが――」
『ではなんでしょうか』
「リスポン。ウキナの変装用に買っておいたルージュです。覆面があるからいらないと言われまして」
『他の女に贈ろうとした口紅をお土産にするとは』
「元々女神様に似合いそうだなーとか考えてチョイスしていたので、良いかなーと」
『それはそれでどうなのでしょうかね』
せっかくなので書籍宣伝ついでのキャラデザの公開をしたいなと思いまして、許可等を取っていたら1月更新を逃した作者です。
書籍が発売してから、ちょくちょくとご購入の連絡をいただいており、ありがたいことです。
別枠での転生話や人気のカレー皿や袋のアフターストーリーなども書籍特典ではありますが、それ以上にやはりイラストレーターの方のイラストですね。
今回はイラストレーター、めばるさんがデザインした主人公と女神様を紹介させていただきます。
まずは主人公。お調子者で爽やか、人懐っこい犬をイメージしたデザインとなっております。
背中の犬のしっぽを模したアクセサリーとか、個人的にツボだったりするのですが、こいつの背中が描かれるシーンがない……っ。
次があったら強引にねじ込もうと思います。
お次は女神様。モブ系の主人公とは逆に、勇者の肋骨の看板ともなるイラストの華。
感情の起伏に乏しく、どこか幼さを残しつつも女神としてのカリスマは健在。主人公が一目惚れするのも納得。
もう一人のイラストレーター、コーポさんの描く女神様もいい味を出してくださっております。(詳しくはコーポさんのTwitterメディア欄にて)
髪が伸びたり伸びなかったり、そんな設定話とかも相談しつつのデザインでしたが、そんな設定が活きる回がコメディ作品にくるのか。
次回の更新の時は紅鮭師匠辺りを紹介しようと思います。まあ紅鮭なんで、紅鮭の画像なんですがね。